【コウシロウ視点】
うちの娘はすごいのかもしれない。
そう感じたのは娘が6歳の頃だ。
ある日階段から娘が落ちた。
家の階段は急なので一人では使わないようにと言っていたのに、
パニックになった私は娘を抱きかかえて医者へ連れて行った。
その時からだ。
娘は人が変わったように強くなった。
最初は本当に人が変わってしまったのではないかと疑ったほどだ。
しかし、記憶はしっかりしていたし言葉遣いが少し乱暴になった程度で性格に変化もなかった。
父に聞いてみたところ、グランドラインではそういう現象も稀にあるらしい。
先祖返りというやつだ。
私の家系で先祖返りというと、かの刀神リューマ様だ。
事実、離れで修行すると言った娘の様子を覗いてみたところ、
木刀で木を真っ二つにしたり岩を砕いたり、まさに超人だった。
昔父に聞いた新世界の超人達のようだった。
私は歓喜した。
娘なら、くいななら、ワノ国に行けるかもしれない。
父の故郷。
侍の国。
父は普段教えてくれないが、酔った時にはワノ国の伝説を教えてくれたものだ。
頂上の見えない山。
偉大な将軍、光月家。
守り神、大口真神。
残念ながら私には才能が無かった。
冒険の夢を諦めた。
しかし、くいななら。
私の夢をかなえてくれるかもしれない。
それから、私はくいなが怪我をしないか双眼鏡で見守った。
修行現場を見られたくないようだし、やる気を失って欲しくなかった。
10歳の誕生日までくいなが怪我せず、飽きずに訓練を続けていたら、
父を説得して効率の良い修行をさせよう。
父が太鼓判を押す実力を身に付けたら世界を旅して欲しい。
私に世界を教えて欲しい。
娘が18歳を超えたら私の夢を伝えよう。
それまでは全力で娘を強くしよう。
私はそう誓ったのだった。
【剣道場に通う少年A視点】
僕の通う剣道場には化け物がいる。
僕の友達にはすごく強いやつがいる。
8歳なのに大人にだって勝っちゃうすごいやつだ。
そんなすごい友達でも、あの化け物には勝てないんだ。
化け物の名前はくいな。
10歳の華奢な女のくせに指2本でりんごを握りつぶすゴリラだ。
今日、友達がくいなに勝負を挑んだ。
必死に習得した二刀流で大人に勝って自信を付けたんだ。
模擬戦で毎回負けてたからやり返したかったんだと思う。
僕だってくいなが負けるところを見たかった。
同じ人間なんだって思いたかった。
でも、試合が始まった瞬間に勝負は決した。
友達が構えた2本の木刀を、くいなは目にも止まらぬ速さで切り裂いた。
木刀で木刀を切り裂いたんだ。
そんなことあり得る?
僕は目の前の現象を理解できずに呆然とした。
友達だってそうだ。
凄く強いのに。
腰が抜けていた。
それで、何もさせずに勝ったくせにこんなことを言うんだ。
「強くなったねゾロ。君はセンスあるよ。
私は世界一の大剣豪に成るから、ゾロなら二番手になれるかもね」
くいなは化け物だ。
僕はもう挑む気にもなれない。
村の大人たちだってそうだ。
寸止めの模擬戦以外ではやりたがらない。
でも友達、ゾロの目から炎が消えてなかった。
むしろ「絶対にくいなに勝つ!」って燃えてた。
こいつ、もしかしてマゾなのかな?
僕はちょっと心配になった。
コウシロウの夢はくいなからワノ国の土産話を聞きたいというだけのものです。
ワノ国が危険な状態ということは知りません。
法を犯さなければ世界政府に狙われることは無いと思ってます。
東の海は平和だからね。仕方ないね。
ちなみに本作のゾロはマゾじゃないです。
ただ負けず嫌いなだけです。