漆黒の鋼鉄   作:うづうづ

11 / 57
( ˘ω˘) 明日コロナ予防接種行ってくるので投稿です


第十一話 プラン決定とグラスワンダーとの交流

 

 

【トレーナーSide】

 

 昨日貰った出走レース希望の用紙を何とか朝までに纏め上げた。中五日空けなければいけないのを昨日説明するのを忘れていたのでそこの部分を省いたり、あとはテウスが納得するくらいのレース量になるように調整したり……まあ、それでも20戦とかになりそうなので、十分異常なんだが……

 流石にジュニア級で20戦なんてしようとしたら色々面倒なことになりそうだ。何とかテウスの調子を下げないようにしつつもうちょい減らせればいいんだが…

 

 頭を悩ませつつ、部室までたどり着く。現在の時刻は5時半だ。部室には明かりがついている。相変わらずテウスは早いな……いつも掃除とかを任せきりで、たまには労いにスイーツでも奢ってやるべきだろうか。マックイーンならこれで喜ぶんだがテウスは喜ぶか? 大抵のウマ娘は甘いものが好きなので大丈夫だと思うが……

 

「テウス、入るぞ? 今大丈夫か?」

 扉をノックして、伺いを立てる。以前マックイーンとスカーレットの着替え中に入っちまった時は酷い目にあったからな……よく生きてたもんだ……

 

「あ……はい、大丈夫です……」

 返ってくる声に元気がない。中に入ってテウスの顔を見ると、少し浮かない顔をしている。テウスにしては珍しい。こいつはいつも明るくて、感情によってころころ表情が変わる子だが、今までこんな顔は見たことがなかった。

 

「どうした。何かあったのか? 何処か痛めたりとか……」

 

「あ、いえ……身体の調子は万全なんですけど……その、昨日はすみませんでした」

 

「いきなりどうした? まあまず座れ。コーヒーでも淹れてやるから」

 いきなり深く頭を下げてくるテウスを制して、椅子に座らせる。テウスはコーヒーはブラックでも甘くしても飲めるので、ひとまずブラックで出しておけばいい。甘くしたかったら自分で甘くするだろう。

 

「ありがとうございます……その、昨日の件、お母さんに話して……あ、私、毎日お母さんに電話して、その日あったことを話すんですけど、レースプランの件を話したらお母さんに怒られて……その、流石に非常識だって……」

 どうやら昨日のことで母親に怒られたらしく、そのことで凹んでいるらしい。

 

「ああ……確かに常識外れではあるなあ。今日改めて話そうと思っていたんだが……」

 

「すみません……昨日も忠告していただいていたのに、私、ちょっと調子に乗っていたみたいです……」

 これは大分絞られたようだな……今までに見たことがないくらいしおらしくなっている。厳しい母親のようだな……

 

「まあ、気にするな。それで、レースプランだが……どうする? 昨日言ったように沢山走ってもいいぞ。そのあたりは何とかしてやる。まあ、全部が全部希望通り、というわけにはいかないだろうが……」

 

「その事なんですけど……やっぱり、中距離だけに絞ろうかなって。お母さんに言われたんです。『100%の力を出し切れないのは構いません。ですが事前に100%の力を出せないとわかっているレースに出るのは、士道不覚悟。レース相手に失礼ですし、何よりこの母が許しません』って……」

 

「それはまたグラスワンダーみたいな母親だな……確かテウスの母親は未出走だったか?」

 

「はい。お母さんはちょっと脚が弱くて、70%くらいの力しか出せなかったみたいなんです。それでも周りよりは速かったそうなんですけど、自分が許せなかったからレースには一切出なかったって……」

 プライドが随分高い人のようだ。やっぱりグラスワンダーと会わせたら意気投合するんじゃないか?

 

「それじゃあ2000mのレースだけにするとして……芙蓉ステークス、紫菊賞、百日草特別、黄菊賞、京都ジュニアステークス、葉牡丹賞、エリカ賞、ホープフルステークス。この8つにするか? それでもちょっと多いと思うが……」

 

「私だと加減がわからないので、トレーナーさんに全てお任せしようかなって……あ、でも、ホープフルステークスだけは絶対に走りたいです」

 

「そうか? そうだな。テウスの調子を見つつ調整していこう。最低でも4戦くらいはしておきたいから、ホープフルステークス含めてそのくらいは走ろうか。10月まで結構期間が空くが、その分調整期間が取れるし、まあ悪いことじゃないだろう」

 

「はい。わかりました……その、ご迷惑をおかけしてすみません……いつもいつも迷惑かけてばかりで……」

 大分調子が下がり気味だな。少しフォローしておいた方がいいか……

 

「大丈夫だって。テウスはもっと甘えてくれてもいいくらいだぞ? ゴルシを見ろ。出会い頭にドロップキックしてくるウマ娘はあいつくらいだぞ」

 

「ゴルシ先輩と比べられるのはちょっと……でも、わかりました。もうちょっと甘えてみるようにします」

 

「おう、そうしてくれ。お前はまだまだ子供なんだから、迷惑を掛けるくらいで丁度いいんだよ」

 優しく頭を撫でてやる。チームスピカのメンバーでは結構しっかりしている方だと思っていたが、やっぱりまだまだ子供だな。まあ、去年までランドセル背負ってたんだよな、こいつは……もう少し心を許してくれるといいんだけどな。

 いや、しっかりしてるか? こないだウオッカをグルグル振り回して吐かせそうになっていたりしたあたり普段の行動も子供っぽい気がしてきたぞ?

 

「ありがとうございます……よしっ、気分を入れ替えてトレーニングしてきます! でも、今日はコース5周くらいの流す程度にしますね」

 

「いやそれは流す程度とは言わないぞ? まあいいか、行ってこい。でも、身体に何か不調を感じたらすぐ戻ってくること!」

 

「はーい!」

 勢いよく部室を飛び出していく。ちょっと動きがいつもより鈍い気がするが……まあ、無茶はしないだろう。

 

 さて、俺も仕事しますかね……マックイーンのリハビリメニューと、テイオーとスズカの調整メニュー。後はスカーレットとウオッカの追い切りと、スペのダイエットメニューか……ゴルシ? あいつは自分の興味があることしかやらないからな……真面目にやるときはやってくれるんだが。

 

 そろそろサブトレーナーでも迎えるべきだろうか。一人では手が回らなくなってきた。テウスはあまり手がかからないと思っていたが、そうでもなさそうだしな……ちゃんと全部相談してくれるあたりマシなんだが、内容が内容なだけに頭や胃が痛くなる。

 

 仕事用のパソコンに向かいつつ頭を悩ませていると、扉がノックされる。

 

「はいはい、入っていいぞー。ん、お前は……」

 開いた扉の先には、目にハイライトのない栗毛のふわふわなショートヘアのウマ娘が居た。

 

「やあ、スピカのトレーナー君。少し話があってね。こんな朝早くから失礼するよ」

そう言って部室の中にズカズカと入ってくるウマ娘、アグネスタキオンと俺は話をすることになるのだった。

 

 

 

 

 

【ブラックプロテウスSide】

 

 

 

 

 

 午後の授業も終わり、放課後。午後から天気が崩れてしまって、今日のトレーニングはお休みである。ジムやプールを使おうと思ったのだが、使用予約が埋まってしまっていて使えなかったので、カフェテラスを使ってお勉強タイムだ。

 

 私はまあまあ勉強ができる方なのだが、一つだけ出来ない科目がある。英語である。

 

 何がわからないのかわからないくらい英語が苦手なのだ。ごくごく簡単な単語程度ならわかるのだが、文章になるともうダメで、赤点ギリギリである。その為英語を集中して勉強しているのだが……

 

「……それで、ここはこうなって、この単語はこういう意味になるんですよ~」

 今日はとある先輩に教えてもらっている。栗毛のウマ娘で、以前私が殺気を浴びせられたウマ娘、グラスワンダー先輩である。グラス先輩はアメリカ生まれの帰国子女で、当然英語もペラペラである。国語に関しても正直スペ先輩よりよっぽど出来るくらいのハイスペックなウマ娘だ。

 テイオー先輩やマックイーン先輩も頭が良いのだが、英語に関してはグラス先輩が一番教え方が上手い。覚えるまでずっと問題を出してくるが、数をこなすのは得意である。

 

「なるほど! つまりはこうなるんですね!」

 

「そうそう、当たりですよ~。随分英語がわかるようになってきましたね。今日はここまでにしましょうか」

 

「グラス先輩のおかげです、ありがとうございます! あ、この間食堂で借りたハンカチ、そういえばまだ返してませんでしたね。明日返しますね」

 食堂でご飯をご一緒したときにハンカチを借りたのを思い出した。出会った当初の殺気は何だったのかと思うくらい優しくしてくれた。本当にあれは何だったんだろう……

 

「そんなに焦らなくてもいいんですよ~。あ、でも、テウスちゃん栗東寮でしたよね? 少し栗東寮に用事があったので、どうせなら今からご一緒しましょう」

 

「わかりました、一緒に行きましょうか。誰かと寮に帰るのは久しぶりです。同室の娘が居ないからちょっと寂しくって」

 一人で部屋を広々使えて最初は嬉しかったのだが、今は寂しさの方が強い。寮長に話してはいるのだが、一人なのが今は丁度私だけのようで、転入生が入ってくるのを待っている状態だ。

 

「ふふ、私でよければいつでもご一緒しますよ。帰るときは気軽に声を掛けてくださいね」

 

 

 傘を差しながら寮へ歩いていく。寮は道路を挟んで学園の真向かいにあるので、すぐ着くのだが。

 寮に入って自室へ向かう。トレーナーさんは立ち入り禁止だが、ウマ娘に関しては寮が違っても特に制限はない。

 私の部屋は一階なのですぐに着いた。角部屋なのも結構気に入っている。

 

「どうぞ、お上がりください」

 自室のカギを開けてグラス先輩を部屋に招く。

 

「ふふ、お招きいただきありがとうございます。失礼いたします」

 グラス先輩はとても礼儀正しい。本当に大和撫子! って感じで、少し母の様な感じがして落ち着く。

 

「えっと。確かここに畳んで……ありました。ありがとうございました、お返しします」

 きちんと洗ってアイロンまで掛けてある。返却するのには問題ないはずだ。

 

「どういたしまして~。あら、これは……」

 ハンカチを受け取ったグラス先輩が、私が趣味で壁に飾っていた()()()()()に興味を示す。おじいちゃん……元トレーナーじゃない方のおじいちゃんの影響で集め始めたものだ。

 

「ええ、打刀です。おじいちゃんがレース勝利の記念にって、自分の集めているものの中から一振り、譲ってもらったんです」

 そう、私の趣味とは刀を集めることである。おじいちゃんの蔵で見せてもらった刀がとても綺麗で、私も集めたいと親に我が儘を言ったものだ。

 実家にいたときは模造刀しか集めるのを認めてくれなかったけれど、寮住まいなら管理さえ気を付ければ問題ないだろう。ちゃんと登録証の管理もしているし、寮長にも話は通してある。

 

「そうなんですね……その、少し触ってみてもいいですか?」

 

「ええ、いいですよ。あ、刃は特に潰したりしてないので、もし抜くのなら気を付けてください」

 

「随分丁寧に手入れされていますね……」

 

「はい、おじいちゃんとおばあちゃんに刀の扱いは仕込まれたことがあるので!」

 刀の手入れ方法は鍛冶師の父方のおじいちゃんに、刀の振り方は剣術道場を営んでいる母方のおばあちゃんに教えてもらったことがある。が、まだ一部分でしか褒められたことはない。ちなみに父方のおじいちゃんと母方のおばあちゃんは兄妹だ。つまりお父さんとお母さんはいとこ婚ということになる。

 

「ふふ、久しぶりに刀を振るいたくなってきました。薙刀以外にも剣術も一通り学んだことがあるんですよ~」

 グラス先輩はそういった日本の伝統文化が好きだと聞いたことがある。その好きが高じての事だろう。

 

「流石にここでは危ないので、外でなら問題ないと思います。ただ、畳表とかはないので試し切りはできないと思いますが……」

 

「そうですね~。折角ですし少し素振りしてみましょうか~」

 ちなみに私のトレーニングには素振りも含まれていたりする。真剣は結構重たいので筋トレにもなるのだ。ウマ娘には軽いがお腹周りの体幹が鍛えられたり、何よりメンタルトレーニングになる。

 

 

 

 結局その日は門限まで一日、グラス先輩とお互いに型を見せつつ素振りをして過ごした。




ブラックプロテウス
母親に怒られてガチ凹みした。常識的なメニューがわからないのでトレーナーさんにお任せすることに。

沖野トレーナー
ブラックプロテウスもまだまだ子供なんだなあと思い直し、ちゃんと指導していかないとと気を入れなおした。
アグネスタキオンとのお話合いの内容とは……?

グラスワンダー
今後寮の庭などでブラックプロテウスと一緒に薙刀や刀を素振りする姿が目撃されるようになる。

掲示板形式や他者視点とかはあったほうがいいですか?

  • あったほうがいい
  • ないほうがいい
  • どっちでもいい

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。