漆黒の鋼鉄   作:うづうづ

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ワクチンの一回目接種を打って左肩が少し痛みますが動かないほどではないので初投稿です。

( ˘ω˘) オークスと日本ダービーは残念ながら全カットと相成りました。


税金計算ガバガバだけど許して!



第十二話 彼女の逆鱗

 スカーレット先輩はオークスを、ウオッカ先輩はダービーをそれぞれ制した。スカーレット先輩はこれでトリプルティアラにリーチとなり、秋には最後のティアラを懸けた秋華賞でのウオッカ先輩との決戦が待っている。

 それより前にスズカ先輩とウオッカ先輩の宝塚記念がある。はたしてクラシック級のウオッカ先輩がシニア級に、そしてスズカ先輩にどれだけ食らいついていけるのか。雑誌ではテイオー先輩とマックイーン先輩の春の天皇賞以来のスピカ同士の対決として注目されている。

 

 私はというといつもよりマシマシのトレーニングをしている。今日はプールで個人メドレー1000mだ。先輩たち二人がGⅠを勝利してちょっと落ち込んでいたテンションも回復して絶好調だ。ちなみにタキオン先輩がトレーナーさんに話したらしく、一度ギプスは没収されかけたが何とか説得して自主トレの時のみは装着を許してもらえている。『今すぐここで脱げ』と言われた時には流石にちょっと引いてしまったが……

 

 最初のころは連続で坂路3本もやれば疲れ果ててしまうくらいだったのだが、二週間経った今では5本程度は走れるようになった。それでも普段と比べれば本数は少ないので、目標としては装着していてもいつも通りのトレーニング量をこなせるようになることだ。

 本数をこなしたいときは外せばいいし、トレーニングに様々なメリハリを付けられる。

 

 流石にプールではつけていると目立つし、部品が劣化しそうなので外している。トレセン学園のプールは温水なので今の様な少し肌寒いこともある時期でも使えるのがありがたい。冷たい川の水で泳いだり、滝行したりするのは結構辛いものがある。そういえばトレセン学園には滝がないなぁ……ゴールドシップ先輩に相談したら何とかしてくれないだろうか?

 それか理事長に相談して簡易的な滝を作ってもらうのもいいかもしれない。メンタルトレーニング用と言って説得すれば作ってくれるかもしれない。

 最悪レースで何回か勝って、その時の賞金を使って工事してもらえばいいだろう。メイクデビューの賞金もあるがほぼ丸々残っている。

 ウマ娘のレース賞金は中央ではトレセン学園に60%、ウマ娘に30%、そしてトレーナーさんに10%の割合で分配される。トレセン学園の割合が多いのは、それだけウマ娘の育成にお金がかかるからだ。学費だったり、食費だったり、トレーニング用の設備費だったりと上げていけばキリがない。他にもレースの放映権だったり、広告スポンサー費、グッズ販売益などのものからトレセン学園は運営されている。

 

 ウマ娘2000人の食費だけでも相当なものだ。そこに人件費やら何やらなども加わっていくし、トレセン学園は試験に受かりさえすれば学費も入学金もかからない。地方では学費がかかったりするところもあるらしいが、中央に関しては入ってしまえば完全無料だ。まあ、入るのがかなりの難関ではあるのだが。

 

 話を戻すと、メイクデビューに勝った私の賞金は700万円。そこから特別出走手当を含めた額が分配されて、税金が引かれて振り込まれたのが190万円くらいである。

 去年までお年玉で多くて合計3万円くらい貰えれば嬉しかったくらいなのに、63倍くらいの収入である。私の通帳に6桁の金額なんて見たこともなかったのに、飛び越えて7桁が記帳されているのだ。思わず泣きそうになりながら親に電話したのも仕方がないと思う。

 ただ、それが高すぎるとは思わない。何故なら私たちウマ娘は、常に命懸けで走っているからだ。私たちは命を削ってレースに出て、魂を燃やして走る。それに対する対価としては高すぎる金額でないと思っている。

 

 そう考えるとトレーナーさんにもかなりの額入っていると思うのだが、なんであの人はあんなに貧乏なのか……もしかしたら何かに使うために貯金しているのかもしれない。それでも桜花賞、ヴィクトリアマイル、オークス、日本ダービーで今年だけでも税金が引かれても4000万円くらい入っていると思うんだけど……

 トレーナーさん、事あるごとにチームの皆にご飯を奢っていたりするからなあ。テイオー先輩お気に入りのはちみー……はちみつドリンク一杯でも1000円する。はちみつレモンドリンクなら1500円、ローヤルゼリーなら10000円だ。ドリンクだけでそれくらいするのに、ウマ娘が満足する量の食事をポンポンと奢っていればそれだけお金も飛んでいくだろう。

 

 かくいう私もメイクデビュー勝利後にはご飯に連れて行ってもらった。恥ずかしい話だが、私は結構食べる。どれくらいかというとスペ先輩と同じくらいは食べる。私はトレーニングとかで結構動くので、沢山食べないと身体が作れないのだ。

 トレーナーさんのお財布を空っぽにするくらい食べてしまって、非常に申し訳なかった。でも、美味しかったから仕方ないよね!

 

 

 

 トレーニングを終えてシャワーを浴びて着替えをして、トレーナーさんのところへ向かう。今日は部室で何やら仕事をしているようなので部室に報告へ向かうと、先客がいた。

 

 男性で、ご年配のベテラントレーナーさんだ。入部前に調べたことがある。確かチームアケルナーのトレーナーさんだと思う。

 ここ数年は未勝利ばかりだが、かつてはGⅠウマ娘を輩出したこともある実績のあるトレーナーさんだったはずだ。

 

 何を話しているのかが気になって、開けっ放しの扉の陰に隠れて聞き耳を立てる。ちょっとだけ離れているのだが、ウマ娘の聴力でなら問題なく聞き取れる。

 

「相変わらずウマ娘を放任して個々に任せきりで……ちゃんと指導もしないでトレーナーとして恥ずかしくないのか?」

 ……この人は何を言っているのだろう? トレーナーさんは確かに私たちの自主性に任せてくれるが、必要ならハードなメニューだって組んでくれる。もしかしたら私たちよりレースに情熱的な人かもしれない。

 上辺だけ見ればトモをいきなり触ってくるような変態なのかもしれないが、私たちの夢を叶えるということを一番に考えてくれる、信頼できるトレーナーさんなのに。

 

「ははは、相変わらず手厳しいですね……でも、俺に出来るのはあいつらを信じてやることくらいですから」

 トレーナーさんは苦笑いして受け流している。よく言われているのだろうか、妙に慣れた感じだ。

 

「ふん。そんなだからウマ娘たちに逃げられるんだ。ウマ娘の才能だけに頼って、きちんと指導しない。既に下地が出来ている名門のウマ娘だけを指導して、美味い汁を吸って……この出戻り野郎が。それにあれだけウマ娘に怪我をさせてまだのうのうとトレーナーをやっていられるのが信じられん。ダイワ家やタニノ家のお嬢様を故障させる前にとっとと辞めたらどうだ?」

 あまりの言いように少しイラっとする。ミシリ、と扉から音がするくらいにちょっと力を込めてしまう。

 

「ははは……なるべく怪我をさせないよう気を遣ってはいるんですけどね」

 

「ふん。気を遣うくらいならさっさと辞めろ。お前のような奴はトレーナーに相応しくない」

 そのセリフを聞いた時、手元からバキン、と音がした。手元を見てみると扉を砕いてしまっていた。力が籠りすぎたようだ。

 

 その音でこちらに気付かれたのか、二人がこちらを見る。完全に気付かれてしまったのでトレーナーさんたちの前に出ていく。

 

「その、すみません。盗み聞きするつもりはなかったんですけど……」

 

「テウス、いつから聞いて……いや、それはいい。今日のトレーニングは終わりか?」

 

「はい、この後は少し柔軟をして、部室の掃除をしてから帰ります」

ひとまずアケルナーのトレーナーさんは置いておいて、今日の報告を済ませる。

 

「ブラックプロテウス、だったか。メイクデビューを見た。随分無茶な走り方をする。あんな走り方じゃいつかサイレンススズカのように大怪我するぞ」

 アケルナーのトレーナーさんが口を挟んでくる。内容自体はまともだと思うけど、ちょっと言い方がきつい。

 

「ありがとうございます。ですがご心配には及びません。私に一番合った走りですし、トレーナーさんにも毎日見ていただいていますから」

 

「そのトレーナーが信頼できない奴だと言っているんだ。チームスピカは怪我が多すぎる。お前も潰されるぞ?」

 

「大丈夫ですから。自分の限界は弁えています」

 大分しつこい。ちょっとイライラしてしまう。何とか笑みは崩さないようにして切り抜けようとする。

 

「ふん。まあこの出戻りトレーナーにはお前の様な無名の寒門の、ぽっと出ウマ娘が相応しいな。こいつに名門のウマ娘を任せると悉く壊しちまうからなあ? サイレンススズカやトウカイテイオー、メジロマックイーンが可哀想だ。まあ、精々お前もこいつや先輩たちのようにポンコツにならないよう気を付けるんだな」

 その言葉を聞いた瞬間、我慢の限界に達した。

 

 

 

 

【沖野トレーナーSide】

 

 

 

 

 アケルナーのトレーナーが捨て台詞を吐いた瞬間、空気が凍り付くのを感じた。

 

 普段穏やかで、ドーピング疑惑事件の時でも全く気にもしていなかったあのテウスが、耳を絞って床を脚でざりざりと掻いている。普段垂れ目で柔らかい雰囲気をするその目つきは、まるで抜身の刀のように鋭く、険しくなっている。

 

 大変よろしくない状態だ。この仕草はウマ娘が共通で行うと言ってもいい、激怒の証である。

 

「そうですか、そうですか。チームアケルナーのトレーナーさん。そういうからには貴方のチームメンバーはエリート揃いで、さぞや研ぎ澄まされた刀のようにキラキラとしているんでしょうね」

 表情は笑っている。笑っているのに、目つきが鋭いせいで全く穏やかな雰囲気ではない。

 

「ああ、そうだとも。俺が今後も指導を続けていけばGⅠ勝利は堅いだろうし、故障もさせない」

 

「……そんなエリートのウマ娘でも、この寒門のウマ娘より下ですよ? だって、今の貴方の担当ウマ娘、一度も勝っていないでしょう?」

 口調もいつも通りだ。だが、その内容は大変厳しい。本気で怒っているのか、いつもの様な穏やかさはなかった。

 

「なっ……ふん、一回まぐれ勝ちした程度のウマ娘が何を。あんな走り、俺が相手にしたらすぐに潰してやるさ」

 

「そうですか。なら試してみましょう。明日、模擬レースしましょうか。私一人と、貴方が担当するウマ娘全員で。距離もバ場もそちらの希望で構いませんよ」

 

「貴様……こちらを侮辱しているのか! いい度胸だ! そこまで言うなら明日、貴様の土俵で戦ってやろうじゃないか! 貴様がメイクデビューで走ったのと同じ芝の2000mで相手してやる! だが、覚悟しておけ。明日、お前を負かした後ただじゃ済まさんぞ!」

 

「勿論、構いません。学園を退学するなり、貴方のチームに移籍するなり、言うことを聞いて差し上げます。万が一、億が一に貴方たちが勝てれば……ですけれど」

 俺抜きでとんでもない話が進んで行ってしまう。流石にこれは止めないとまずい。

 

「待て、待ってくれ! テウス、落ち着け。先輩も本気にしないでやってください。無礼は謝罪しますので」

 

「許してほしいならそこで地に頭をこすりつけろ、無様にな。まあ、それでも許さんが」

 

「その必要はありません、トレーナーさん。貴方のウマ娘はこんな有象無象には負けません。私を信じてください」

 二人とも大分頭に血が上っているのか退こうとしない。それでも何とか制止しようとするが、時間の打ち合わせをしてそのまま別れることになってしまった。

 

 

 

「テウス、何であんなことを言ったんだ……お前らしくもない」

 別れた後テウスを椅子に座らせて、事情を聴くことにした。

 

「……ごめんなさい。でも、先輩たちを、トレーナーさんをポンコツ呼ばわりされて、それがどうしても許せなくて」

 しゅん、と耳を力なく垂れさせて俯いている。

 

「あの人は俺が入った時からああいう人なんだよ。トレーナーたちの間では気にしても仕方ないって避けられてるような人なんだ。トレーナーとしての腕は確かなんだけどな」

 頭を撫でて慰める。この娘は本当に優しい娘だ。怒った理由も自分が寒門だからと貶されたという理由ではなく、スペやスズカたちのために、そして俺のために怒ってくれている。

 

「今からでも遅くない。頭を下げに行こう。今ならあの人も頭が冷えているだろうし、大事にはならないさ」

 

「いえ、それには及びません。大丈夫です、トレーナーさん。明日トレーナーさんは、観客席でふんぞり返っていてください。必ず勝ってきますから」

 テウスがいつもの穏やかな笑みを浮かべる。瞳の奥には今まで見たことのなかった勝利への闘志が見られて、つい頷いてしまった。

 

 テウスには夢がない。明確な目標レースも無くて、絶対に走りたいと言ったレースは精々GⅠのホープフルステークス、後はクラシック級での宝塚記念くらいだ。

 宝塚記念も自分の夢というより、スズカと一緒に走りたいというもので、彼女自身の夢というわけではなかった。

 

 だから今まで沢山走りたい、楽しく走りたいとは言っても、勝ちたいとは言わなかった。胸の奥には勝利への闘志を秘めていたかもしれないが、彼女がそれを言葉にしたのは初めてだった。

 

 だから、初めて目にした彼女の勝利への想いを、俺は無視するようなことはできなかった。

 

 

 

 

 そして翌日、ついに模擬レースの時間を迎えてしまった。一応生徒会と理事長には報告したのだが、不思議と止められることはなかった。

 それどころかスタートの合図とゴール判定はあのシンボリルドルフが行うと言うのだ。決して暇ではないはずなのだが、大丈夫なのだろうか。

 

 レース人数は7人。テウスと、チームアケルナーの6人だ。チームアケルナーのウマ娘たちはジュニア級、クラシック級入り交じっているが全員テウスより年上だ。ゲートはないが、並び順はくじ引きで決めて、テウスは2番になっていた。

 ちなみに今日ギプスは流石に外させてある。

 

「それでは各員、正々堂々としたレースを行うように。では……始め!」

 皇帝によるスタートの合図が切られる。揃ってスタートを切り、並んで走っていく。少し走ると3番のウマ娘が一気に前に出ていく。

 

 そのレースの流れを見て、少し違和感を感じる。テウスは大逃げのウマ娘だ。あの先輩は好位追走の王道の走りを好むはず。自分のウマ娘にテウスについていかせるような走りを何の思惑もなくするはずはないのだが……

 

 何が狙いだ? 訝しんでいると、第一コーナーで右隣のウマ娘が動いた。テウスを弾き飛ばすように、真横から体当たりをかましたのだ。

 

 その瞬間、やられた。と思った。前は全力で前に出た3番のウマ娘がブロックしており逃げ場をふさいだうえでの体当たりだ。今まで彼女にこんな駆け引きを教えたことはない。

 1番のウマ娘はかなり体格が良く、ゴールドシップ以上の背丈がある。この体格差なら弾き飛ばせる、と思ったのだろう。

 体当たりの時の対処はまだテウスに教えたことはない。

 実際見た感じパワーもかなりありそうなウマ娘だ。これだけの体格差があれば、問題なく弾き飛ばせてしまうだろう。

 

 

 

「!! 嘘ぉっ!?」

 だが、そうはならなかった。テウスはその接触にびくともしなかった。自分に体当たりをかましてきたウマ娘を、彼女の驚愕の声とともに逆に弾き飛ばし失速させ、第一コーナーで外に大きくよれてしまった3番のウマ娘の内を悠々と抜けていく。何事もなかったかのように第二コーナーで加速して、あっという間に後続を突き放した。

 

 そこからはもう独壇場と言わんばかりの展開だった。向こう正面でさらに加速し、第三コーナーを既に大差をつけて回ってくる。第四コーナーを過ぎて最終直線に入っても一切手加減することなく、全力でゴールを駆け抜けてきた。

 

 判定の必要もないくらいの、大勝。まさにEclipse first, the rest nowhere.(唯一抜きん出て並ぶ者なし)といったレースだった。

 

「なっ……あんな小さいウマ娘が、どうしてあいつを弾き飛ばせるんだ! タイミングも完璧だったはずだ!」

 隣でアケルナーのトレーナーが吠えている。こいつ、テウスのトレーニングを見たことがないのか?

 

「あいつは坂路で巨大タイヤを引けるくらいパワーがあります。体幹もテイオーのお墨付きです。体当たりの時の対処を教えたことはありませんでしたが、問題ありませんでしたね」

 力比べならそうそうあいつは負けない。体当たりは技術が大きいところがあるので純粋な力比べとは言えないのだが、今回はテウスに軍配が上がったようだ。

 

「くっ……今のは妨害があった! 無効だ! こんな汚いレースで勝ちを拾うなど恥ずかしくないのか!」

 どの口がそれを宣うのか、ふざけたことを言い出す。以前のアケルナーのトレーナーはこんな感じではなかったはずだが、何が彼を歪めてしまったのだろうか。

 

 俺がそれに呆れて何も物を言えなくなっていると、勝ったテウスがこちらに走ってきた。

 

「無効、ですか。いいですよ。万一にも妨害が無いよう、次は私は大外を走りますし、内側には入りません。少し休憩したら、もう一度始めましょう」

 彼のセリフが聞こえていたのか、にこりと笑ってコースに戻っていく。シンボリルドルフと少し話した後、10分ほどのインターバルを入れたのちに再スタートの位置に付く。

 

 多少間隔が短いが、条件はみな同じ。しかも今回テウスは大外、逃げウマ娘としては不利な位置を自ら選択したのだ。次は勝てだのときゃんきゃん吠える自分のトレーナーをアケルナーのウマ娘は困惑したように眺め、スタート位置に付いていく。

 

 シンボリルドルフの合図で二回目のスタートが切られた。だが、レース内容はもはや悲惨とも言えるものだった。

 

 2000mを走った後、10分という短いインターバルでもう一度2000m。当然普通のウマ娘のスタミナが持つわけもなく、向こう正面を迎えたあたりでアケルナーのウマ娘たちは次々と一杯になってしまう。

 

 一方テウスは元気いっぱいで、全く脚に衰えを見せず最初から最後まで影すら踏ませずゴールに帰ってきた。しかもレースでは常に全力を出す彼女にしては珍しく、明らかに手を抜いていた。

 

 おそらく、レースがハイペースになりすぎないように調整したのだろう。自分のペースに後続が釣られすぎないように速度を落としたのだ。

 

 ウマ娘の脚は消耗品だ。一日に2000mのレースを二本も走ってしまえば消耗は著しいだろう。それを気にしてレースがスローペースになるようにしたということだと思う。

 

「何故だ! 何故勝てん! こんな無名のウマ娘に、俺が育てたウマ娘が!」

 隣ではアケルナーのトレーナーが頭を振り乱して発狂している。

 

「失望ッ! まだ気付かないのか、アケルナーのトレーナーよ!」

 放っておいてテウスのところへ向かおうとしていると、後ろから聞きなれた上司の声がして振り返る。いつも通り帽子の上に猫を乗せた理事長がいつの間にか来ていたようだ。

 

「落胆ッ! 過去の栄光に囚われ今育てているウマ娘のことを君は見れていない! それに、まず勝てなかったことを責めるのではなく、彼女たちの頑張りを労ってやるのがトレーナーの仕事ではないのか!」

 外見で侮られやすいし、年齢も見た目相応な理事長だが、それでも誰よりも教育に対しては熱心である。自腹でコース設備を揃えようとしてしまうくらいで、学園で一番ウマ娘のことを考えてくれている人だろう。

 

「辞令! 君には教育センターでの再教育プログラムの受講を命ずる! 今一度、トレーナーとしての心構えを学び直してほしい! たづな、後は頼んだ!」

 意味不明な言葉を喚いて暴れようとするアケルナーのトレーナーをいきなり背後に現れたたづなさんが制圧し、何処かへ連れていく。ウマ娘顔負けのパワーとスピードだ。

 

「トレーナーさん、勝ってきましたよ。あ、理事長さんも見ていてくださったんですね」

 テウスがこちらに駆け寄ってくる。ゴール付近には力尽きたアケルナーのウマ娘たちが倒れて、死屍累々の様相を呈している。

 

「祝福! 見事な勝利だった! これからもその調子で頑張ってほしい!」

 

「ああ、よくやったな、テウス。消耗は大丈夫か?」

 

「ありがとうございます。私は大丈夫ですけど……アケルナーの先輩たちが心配です。トレーナーさん、一緒に様子を見てくれませんか? 消耗度合いは私には判断できないので……」

 ターフに倒れるアケルナーの娘たちを心配そうに見つめている。やはり優しい娘だ。

 

「ああ、勿論だ。行こうか、テウス。それじゃ理事長、失礼します」

 

「うむ! あの娘達のことは任せる! 勿論何かあれば全面的にフォローしよう! あ、その後の面倒を見ろとまでは言わないので安心してほしい!」

 理事長が頼もしいことを言ってくれる。安心しつつ、俺はテウスと一緒に彼女たちを診て、後に響かぬよう応急処置を行っていくのだった。




ブラックプロテウス
大好きな先輩たちやトレーナーを貶されてマジギレ

沖野トレーナー
今後テウスは怒らせないようにしようと心に誓った

アケルナーの年配トレーナー
ここ数年負けが込んでおり、少し心を病んでしまっていた
再教育から帰ってくるとまるで新卒トレーナーのようになっており周りを怖がらせた

秋川理事長
彼女に教育センターでどんな再教育をしたかを聞くと笑顔でごまかされる

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