漆黒の鋼鉄   作:うづうづ

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( ˘ω˘) 勢いで書いているので誤字がなくならない……いつもありがとうございます。

今回ちょっと短めです


第十四話 夏合宿・その1

 

 

 宝塚記念が終わり、ついに待ちに待った夏休み。そう、夏合宿の季節である。合法的に1日中トレーニング出来る季節……最高かな?

 

 チームスピカの面々は赤点を取ることもなく、全員揃って夏合宿に参加出来た。私はグラス先輩のおかげで英語でも平均点は取れたし、スペ先輩もグラス先輩の集中指導によって全教科40点台*1を取ることが出来た。グラス先輩様様である。お礼におばあちゃんが漬けてくれた漬物を贈ったらとても喜んでくれた。

 ちなみにテイオー先輩は全教科ほぼ満点、マックイーン先輩も同じくらいだったらしい。ゴルシ先輩の答案用紙も見せてもらったが、点数欄に120億点と書かれていた。意味不明である。

 ゴルシ先輩、同じ栗東寮のはずなのに、彼女の部屋を見たことがないんだよな……寮長に聞いてみたが寮長も把握していなかった。中等部なのか高等部なのかもわからないし、謎が多すぎる先輩である。

 

「お前らー、とっとと車に乗れよー」

 合宿所へはトレーナーさんがワゴン車で送ってくれる。10人乗りのちょっと大きめな車だ。今日この日のために新しく買ったらしい。最初私はトレーニングがてら後ろを走ってついていこうとしたのだが、流石に止められてしまった。

 

「はーい、今乗りまーす……?」

 

「……? どうしたのテウスちゃん?」

 車に乗り込もうと助手席の扉を開けると、そこにはスズカ先輩が居た。おかしいな、先ほどまで誰も乗っていなかった気がするのだが……

 

「あ、いえ。ごめんなさい。後ろに乗りますね」

 首を傾げつつ最後列の一人掛けの席に座った。新車特有の匂いがする。なるべく薄くしようとしてくれたみたいだけれど、ウマ娘の嗅覚には無意味である。気分が悪くなるほどではないし、私はこの匂いは嫌いではないので問題ない。

 

 

 

「マックイーン、おやつ食べようぜー? マックイーンの為にいろいろ持ってきたんだZE☆」

 

「まだ走り出して数分ですわよ……もう少し後になさい」

 

「いいや! 『限界』だッ! 食うねッ!」

 出発早々ゴルシ先輩がマックイーン先輩に絡んでいる。何処からともなくスナック菓子やらパンやら缶詰やらを取り出して床に並べている。床に並べる必要とはいったい……?

 

「もー、ゴルシ、そんなところで広げないでよねー」

 

「わあ、ゴールドシップさん、私も貰ってもいいですか?」

 

「お前ら、大人しく座ってろ!」

 きゃあきゃあ騒ぐ先輩たちにトレーナーさんが注意をする。スピカはいつもこんな感じでとても賑やかで、全然退屈しない。スカーレット先輩もウオッカ先輩も楽しそうに笑っている。ここからではスズカ先輩の顔は見えないけれど、きっと彼女も楽しそうにしているだろう。

 

「おすすめはこのニシンの缶詰だぜ!!」

 

「ゴールドシップさん、それ貸してくださる? ……そぉぉぉぉぉい!!!!」

 

「ああああああ!!! ゴルシちゃんのとっておきがお星さまにぃ!!!!」

 

「窓から物を投げるなぁ! 誰かに当たったらどうする!!?」

 

「たとえ当たったとしてもそれは所謂コラテラルダメージというものに過ぎないのですわ! わたくし達が生存する為の致し方ない犠牲なのですわ!」

 ……うん、賑やかである。何だかいろいろ危険を感じるけれど。やっぱり外を走っていた方が安全だったのでは……? 今からでも車内から脱出した方がいいのでは……?

 

「テウス、大丈夫。地獄に落ちるときは皆一緒よ……」

 

「スカーレット先輩、離してください。私まだ死にたくありません」

 

「逃がさん……お前だけは……」

 

「ウオッカ先輩まで!!?」

 私が脱出を検討しているとスカーレット先輩とウオッカ先輩に二人がかりで捕獲される。完全に押さえこまれていて抜け出せそうにない。

 

「ああ……お父さん、お母さん。先立つ不孝をお許しください……」

 

「いや流石にそれは覚悟決めすぎだろ……」

 

「何だよ何だよー、ゴルシちゃんがそんなことするわけないだろ~? ほら、これでも食べてろって」

 私が覚悟を決めているとゴルシ先輩が私の口の中に何かを放り込んでくる。

 

「むぐっ……あ、美味しい……」

 どうやらはちみつ味のラスクらしい。凄く美味しい、手が止まらなくなりそうだ。

 

「だろー? マックイーンも『手が止まりませんわ! パクパクですわ!』って言って10袋くらい一気に食べてたやつだぜ!」

 

「ゴールドシップ!! いつ見てたんですの!!?」

 マックイーン先輩お墨付きのものらしい。はちみつのいい香りがして、サクサクとした食べ応え、そして噛むたびにじゅわり、とはちみつの幸せな甘さが口いっぱいに広がる。ゴルシ先輩に袋ごと貰って、一つずつ味わって食べる。確かにこれは温かい紅茶が合いそうだ。

 

「ふぁぁ……優しい味です……」

 本当に美味しくて顔がとろけてしまう。

 

「本当にテウスさんは幸せそうに物を食べますわね……」

 マックイーン先輩がこちらを微笑ましそうに見てくる。手に持ったラスクを一つつまんで私の口に入れてきた。マックイーン先輩の持っているラスクはチョコ味のようだ。これも噛むとチョコが染みてきてとてもおいしい。口にどんどん詰め込まれていくが、どれだけ詰め込まれても美味しいので苦にならず食べきれてしまう。

 

「あ、この焼きそばパンも美味しいです! 流石はゴールドシップさんが選んだものですね!」

 

「スペ先輩、オレにも下さいよ! うん、確かに美味え!」

 

「へー? じゃあアタシも一つ……って、辛ああああああああ!!!!?」

 

「お? 大当たりだなスカーレット! ゴルシちゃん印のデスソース焼きそばだぜ!」

 

「何てもの入れてるのよぉ!!!?」

 

「スペちゃん、私とトレーナーさんのも一つ貰える? うん、辛くないやつでお願い」

 

「まったく……ほら、そろそろ山道に入ってカーブが多くなるから、シートベルトちゃんと着けてろ」

 

「「「「「「「はーい!」」」」」」」

 車はどんどん進んでいく。だんだんと海に近づいてきたのか、開いた窓からは潮の香りが漂ってくる。山や海でのトレーニング……楽しみ!

 

 

 

 

「よし、お前ら着いたぞー。降りろ降りろー」

 やっと到着したようだ。がやがやしながら車を降りる。ちょっと食べすぎてしまってお腹が苦しい……まあ、トレーニングしているうちに何とかなるだろう。

 

「今年はちゃんとあの旅館に泊まれるのよね?」

 

「そーだよトレーナァー! 前みたいなおんぼろ旅館は嫌だよぉー!」

 

「おんぼろって……いいところだっただろ? まあ、今回はリギルと一緒の旅館だ! 今年は予算たっぷりだからな!」

 トレーナーが自信満々に胸を張ると同時に先輩たちが歓声を上げる。確か前は目の前にある大きな旅館ではなく、傍らにある情緒溢れた旅館に泊まったと聞いている。私はそっちでもよかったんだけどな……

 

「早く荷物を置いてトレーニングに行きましょう! はやくはやく!!」

 もう私の頭の中はトレーニングのことで一杯である。遠泳とか砂浜ダッシュとか、山道でのトレーニングとか、やりたいことはたくさんある。1日24時間では足りないくらいだ。30時間くらい欲しいものである。

 

「テウスちゃん、落ち着いて。トレーニングは逃げないわ。それにこの後はミーティングもあるのよ。ですよね、トレーナーさん?」

 

「ああ、今回はリギルやカノープスとかとの合同トレーニングや模擬レースも予定してる。この2か月間で一気に追い込んで、テウスの芙蓉ステークスとか、スカーレットやウオッカの秋華賞に備えないといけないからな!」

 スズカ先輩に窘められる。今回は他チームも含めたトレーニングなども予定しているので、あまり予定外の行動は慎むべきだろう。うう、でも早く走りたい……

 

「模擬レースってことは、グラスちゃんやエルちゃんと走れるんですね! よーし、けっぱるべー!!」

 

「ネイチャとかも居るのかー。ボクも楽しみだなあ」

 

「わたくしはリハビリを続ければいいのですのよね? 皆さんと模擬レースを出来ないのは残念ですが、今無理するわけにはいきませんものね。早く復帰できるように励みますわ」

 

「ゴルシちゃんは焼きそば売ってくるぜ!」

 

「頼むからゴルシは大人しくしててくれ……まあいいか、チェックインしたら1時間後に講堂に集合! リギルやカノープスを含めた全員でミーティングがあるから、遅れるなよ! あ。ちなみに部屋は二人一組で、決め方はくじ引きだ! 今からこのくじを引いてもらう!」

 トレーナーさんがくじを手に持って渡してくる。皆で一斉にくじを引いた。

 

「えっと……私は2番ですね。ペアの人は……」

 

「アタシね。よろしくね、テウス」

 

「はい、宜しくお願いします、スカーレット先輩」

 どうやらスカーレット先輩が同室のようだ。他はテイオー先輩とスペ先輩、ウオッカ先輩とスズカ先輩、そしてマックイーン先輩とゴルシ先輩がペアになったようだ。いつもの部屋割りとは違う組み合わせで新鮮だし、私はそもそも同室が居ない。スカーレット先輩に迷惑を掛けないようにしないと……

 

 

 

 絶望した表情のマックイーン先輩を凄く嬉しそうに引きずっていくゴルシ先輩を見送りながら、私たちもチェックインを済ませに行くのだった。

 

 

*1
赤点は30点以下である。




ブラックプロテウス
凄く幸せそうに食事をするので一部の先輩方にはまるでハムスターに餌を与えるように詰め込まれている

サイレンススズカ
先頭の景色は譲らない

ゴールドシップ
マックイーンと同室になれてとても嬉しい

メジロマックイーン
ゴールドシップに1日中構い倒されてトレーニングするより疲れることになる



部屋割りはツールを使った一発勝負で公平に決めました。

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