漆黒の鋼鉄   作:うづうづ

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( ˘ω˘) 書くために椅子に座ると眠くなってしまう……

今回もネタ回、トレーニングはしていません。夏合宿とはいったい……


第十五話 夏合宿・その2

 

 

 チーム合同でのミーティングを終えて、今日は移動の疲れを癒すという名目でトレーニングは明日からということになった。

 

 先輩たちはリギルやカノープスの先輩たちと談笑している。私はグラス先輩とかフジキセキ先輩くらいしか他チームに交流のある知り合いがいない。会長や副会長は交流があるといっていいのだろうか……

 

 さて、どうしようか。先輩たちを誘って海で遊ぶのもいいけど、折角だし砂浜の走り心地を確かめておきたい気持ちもある。ウマ娘がトレーニングをしたりするということで相当綺麗に整備されているようだが、万一があってはいけないので自分の目で下見はしておきたい。

 

 私は特典のおかげで故障はしない。でも軽い怪我をしたりはする。線引きがどこになるのかよくわからないので何とも言えないのだが、擦り傷切り傷程度なら作ってしまうのだ。

 怪我をしてしまうとトレーナーさんから自主トレ禁止令でも出されかねない。なので下見をして、怪我の可能性を排除しておきたい。

 

 まあ、そのあたりは恐らくトレーナーさんたちがやってくれているとは思うけれど……自分の目で見るべきだろう。見終わったら走ればいい。トレーニングで使う用の場所と遊ぶ用の場所は分かれていると言っていたので、その範囲から出なければお咎めもないだろう。何たって自由時間だし。トレーニングしてはダメだとは言われてない。

 

よし、そうと決まれば早速準備しなきゃ……

 

「……テウスちゃん? 聞こえていますか~? ……えいっ」

 

「ひゃああああああああ!!!?」

 考えをまとめて砂浜に向かおうとしていたところに急に後ろから冷たいものを首筋に当てられた。情けない声を出して飛び上がってしまう。

 

「ふふふ~、考え事ですか~? トレーニングに精を出すのもいいですけど、休む時はちゃんと休まないといけませんよ~」

 

「あ、グラス先輩……えへへ、楽しみすぎてつい……」

 どうやらグラス先輩が話しかけてきていたのに気付いていなかったようだ。多分手に持っている緑茶のペットボトルをピトっとされたんだと思う。

 

「もしお暇ならこちらの集まりに参加してみますか~? タイキ先輩がバーベキューをしようって皆を誘ってるんですよ~」

 

「初日からバーベキュー……ですか? そういうのって合宿終わりがけとかにするものじゃ……」

 

「タイキ先輩は常日頃からバーベキューしてるんですよ~。今日も『合宿と言えばバーベキュー! なので今からしまショー!』って張り切ってました~」

 どうやら相当パワフルな先輩らしい。私はあまり交流はない先輩だが、確かスズカ先輩の話に時々出てくるくらい仲が良かった先輩のはずだ。

 

「折角なのでご相伴させていただきます。私、バーベキューって初めてなんですよね」

 

「ふふ~。タイキ先輩のバーベキューパーティーは満足できると思いますよ~。楽しみにしておいてくださいね~。では、行きましょうか~」

 グラス先輩に先導されてバーベキューの会場へ向かう。途中でどうやら砂浜の方に設営して行うようだ。何か飲み物か食材を持って行った方がいいか不安になったが、どうやらそういった準備も万端らしい。

 

 バーベキューに参加するのはチームリギル、チームスピカ、チームカノープスの主だったメンバーのようだ。スピカの先輩たちはゴルシ先輩に連れられて先に行ってしまったようだ。私はトレーニングしようと抜け出そうとしていたのでまあ仕方のないことである。

 

 カノープスの先輩方とはあまり交流がない。今期ジュニア級のウマ娘も居ないし、完全にマーク外だったためあまり詳しく知らないのが現状だ。

 自分のレースを見返していた時にツインターボの様な逃げ、と言われているのに気付き、ツインターボ先輩のレースは一度だけ映像で見たことがある。ツインカマー……じゃなかった、オールカマーでヘロヘロになりながらも決して諦めずに最後まで逃げ切ったその姿には心が躍った。テイオー先輩が師匠と言っていたのも頷けるものである。

 私は同じように逃げてもそうそうスタミナを切らさない自信はある。トレーナーさんは駆け引きをされたときにバテたりするかもしれないと言っていたので、今後の課題は駆け引き対策である。

 ただ、私の師匠はスズカ先輩だ。スズカ先輩は自分の世界に入って最初から最後まで走り抜ける、自分が先頭であれば良いというだけの駆け引きも何もない走りである。グラス先輩がそのあたりは得意だとスペ先輩に聞いたことがあるので、今後グラス先輩に併走をお願いしてみるのもありだろうか……トレーナーさんに相談してみよう。

 

 グラス先輩はもうすでにドリームトロフィーリーグに移籍済みだから、勝手に併走するのは難しい。スペ先輩も移籍済みであり、次のサマードリームトロフィー予選レースは8月で、決勝は9月である。

 ウマ娘は暑さに弱い生き物である。特に高温多湿な日本の夏というのは辛いものがあって、そういった理由から7・8・9月にGⅠは無い。

 なのでその期間を埋めるという形でSDTが開催されるのだ。ウマ娘にとっては辛いのだが、ファンに対する一種のサービスという形だろう。トゥインクルシリーズのウマ娘たちをアマチュアとするなら、ドリーム・シリーズのウマ娘はいわばプロ達なので仕方がない。

 

 ちなみにドリーム・シリーズ・スプリントとドリーム・シリーズ・ダートは予選・決勝含めて7月中に行われる。優勝候補はスプリントはニシノフラワー先輩、ダートではスマートファルコン先輩が挙がっている。ニシノフラワー先輩は現在のトゥインクルシリーズでスプリンター最強の名が高いサクラバクシンオー先輩に勝ったこともある桜花賞ウマ娘で、スマートファルコン先輩は砂のハヤブサと呼ばれるほどのダート巧者だ。スマートファルコン先輩は私と同じ逃げウマ娘なので時折レース映像を見て勉強している。勝負服がアイドルっぽい衣装でひらひらとしててとても可愛かった。ただ、私には似合わなさそうなので自分の勝負服はもっと落ち着いたものにしようと思う。

 

 

 

 グラス先輩と雑談をしているうちに砂浜に着く。ゆっくりしすぎたのかどうやら私たちが最後だったようで、皆わいわい騒いで既にお肉やら野菜やらを焼き始めているようだ。

 チームごとに大まかに分かれて焼いているようだが、カノープスの方にテイオー先輩が居たりと結構自由なようだ。

 

 ゴルシ先輩がなぜかマグロを担いでいるのが気になるが、まさかそれを焼くつもりだろうか? 2.5mくらいありそうなのだが……ゴルシ先輩が自ら捌くんだろうか。まさかそのまま焼くわけはないだろうし……

 

 その他にもマックイーン先輩が鉄板の前に居て焼きそばを焼こうとしていたり、鼻の上に白いシャドーロールを付けた先輩……ナリタブライアン先輩が野菜を排除しようとしてエアグルーヴ副会長に怒られていたりしている。

 

「グラスー! やっと来ましたネー! 待ちくたびれましたー!」

 マスクをつけた少し明るめの黒鹿毛のウマ娘、エルコンドルパサー先輩が話しかけてきた。肩にコンドルが留まって……いやあれは鷹だろうか。肩に留まった鷹が生の肉を美味しそうに食べている。

 

「エル、お待たせしました~。後輩を誘ってきていたんです~。折角ですからみんなで楽しみたいと思いまして~」

 

「良いことデスネー! 確かチームスピカの新人さんデシタネー? 私はエルコンドルパサー、よろしくお願いしまーす!」

 

「はい、宜しくお願いします。私はブラックプロテウスです」

 元気いっぱいに自己紹介するエルコンドルパサー先輩に名乗り返してお辞儀する。

 

「エル、あれはやめたんですか? 『アッメリカ生まれの帰国子女デェス!』みたいな」

 

「グラスゥ……その事はもう言わないでクダサーイ……」

 どうやらとても仲良しなようだ。グラス先輩が声真似するのをとても恥ずかしそうにしている。

 

「ほ? へうふひゃん、へふひゃん、ふはふひゃん、はひおははひひへふんへふは?」

 スペ先輩が口いっぱいにお肉を詰め込んでこちらに話しかけてきた。

 

「スペ先輩、ご飯を食べたまま喋るのはお行儀が悪いですよ。ちゃんと飲み込んでからにしてください」

 

「んう……ごめんなさい。美味しかったのでつい。エルちゃんとグラスちゃんと何をお話ししてたんですか?」

 

「自己紹介をしていただけですよ。それよりもスペ先輩……そんなに食べちゃって大丈夫なんですか?」

 既にお腹がぽっこり出ているスペ先輩は8月にドリーム・シリーズを控える身である。流石にあまりの体重増は避けるべきだと思うのだが……

 

「大丈夫です! トレーニングで絞りますから!」

 

「スペちゃん? もし太り気味で情けないレースをしたときは……わかっていますね?」

 グラス先輩が凄むとスペ先輩は小さく悲鳴を上げていた。薙刀を持っているようなイメージが明確に見えるほどのオーラが私にも見える。正直ちょっと怖い。

 

 

 

 スペ先輩がグラス先輩に凄まれている隙にその場を離れる。決して怖かったから逃げ出したわけでは……いや、怖かったから逃げ出した。私は逃げウマ娘だから逃げるのは恥ずかしくないのだ。

 

 リギルの方の集まりに参加するのは怖かったし、スピカの方ではゴルシ先輩がでっかい包丁を持ってマグロを捌いているので近づくのが怖く、カノープスの先輩たちが集まっている方へ向かう。カノープスの先輩たちは皆優しそうだし……多分……

 

「お? 噂のスピカの新人、ブラックプロテウスさんじゃないですかー」

 ちょっと躊躇っていた私を癖っ毛ツインテールのウマ娘が迎え入れてくれた。

 

「あ、お邪魔します……ご迷惑でなければこちらで一緒に食べたいのですが」

 

「そんなに硬くならなくてもいいってー。テイオーの後輩ならアタシにとっても大事な後輩だしね。アタシはナイスネイチャ。まー、気楽によろしくね」

 

「はい、よろしくお願いします。ところで、噂のって?」

 何か噂になっているらしい。特に何か目立つようなことをしているつもりはないのだけれど……メイクデビューの時のことだろうか?

 

「色々ありますよー? 笑顔で坂路を何十本も駆けのぼっているとか、巨大タイヤを坂路で引き回しているとか、他にも……」

 

「あっ、わかりました、わかりましたからその辺で許してください」

 自主トレが話題になっているらしい。確かによくトレーニングを見られるなーとは思っていたが先輩方の耳に入るくらいまで噂されているとは思いもしなかった。

 

「あ、テウスもこっち来たんだ? まースピカやリギルよりは平和だもんねー、はい、お肉焼けてるよ」

 テイオー先輩が渡してきたお皿を受け取る。しっかりこんがり焼けている。丸眼鏡を付けたウマ娘が焼き加減を管理しているようだ。

 

「ありがとうございます。スピカの方に戻ろうとも思ったんですが、ゴルシ先輩が怖かったので……」

 

「まーゴルシはマックイーンに任せておけばいいでしょー。こっちは平和にいこうよ、平和にさー」

 

「そうですね。あ、このお野菜美味しい……」

 丸眼鏡のウマ娘、イクノディクタス先輩が焼けたお野菜を載せてくれる。いい焼き加減でとても美味しい。

 

「あー! テイオー美味しそうなの食べてる! イクノー! ターボにもちょうだい!」

 青髪ツインテールのギザギザ歯のウマ娘、ツインターボ先輩がイクノディクタス先輩に絡んでいる。その横では栗毛のウマ娘、マチカネタンホイザ先輩にツインターボ先輩の振り回した腕が直撃して鼻血を出していた。大丈夫だろうか……

 

「あ! お前はブラックプロテウスだな! いざ尋常に勝負だ!」

 

「えっ!? ちょ、ちょっと待ってくださいツインターボ先輩。いきなり言われても……」

 何故かいきなり指を突き付けられて勝負を申し込まれる。今は普段履き用の靴で全力では走れないんだけど……

 

「同じ大逃げのウマ娘として負けられない! 今から勝負だー! ここからあそこの岩まで往復! よーい……ドン!」

 こちらの話を聞かずにいきなり走り出して行ってしまう。仕方なくテイオー先輩にお皿を預けて追いかけていく。

 

 ツインターボ先輩のトップスピードは目を見張るものがある。恐らく加速も最高速度も、スズカ先輩並み、もしくはそれ以上に速い。ターボエンジン全開、とはよく言ったものだ。

 

 砂浜で、彼女も普通の靴を履いているのに凄まじいスピードである。私も全力で走っているのに追いつくどころか引き離されていく。ええいもう、裸足の方が走りやすい! 靴をその辺に脱ぎ捨てて私も砂を大きく巻き上げて追走する。

 

「ターボは負けないぞぉー!!」

 ツインターボ先輩が岩をタッチして引き返してくる。私も少し遅れて後を追いかけ……あれ、何だか少しずつターボ先輩が遅くなってきたような……?

 

「ターボは……負けないぞぉ……」

 ターボ先輩が急にヘロヘロになってそのままドサリ、と砂浜に倒れてしまった。これが……逆噴射……!!

 

「ええっと……大丈夫ですか、ツインターボ先輩?」

 流石に放っておくわけにもいかないので揺すって様子を窺ってみるが完全にバテてしまっているようで動けそうにないみたいだ。仕方ないので背負ってテイオー先輩たちの方へ戻る。

 

「お前……いいやつだな……何かあったら、ターボに頼るんだぞぉ……」

 背中でターボ先輩が頼もしいことを言ってくれる。ただ、今の状況でなければもっと頼もしかったのだが……

 

 

 

 テイオー先輩たちのところにターボ先輩を送り届けて(ちゃんと靴も回収した)私も食事を再開しようとした。

 

「へいらっしゃい! 金船寿司美味しいよー!」

 ……再開しようとしていたら、なぜか砂浜にお寿司屋さんがオープンしていた。机と椅子が並んでいて、そこに板前さんの恰好をしたゴルシ先輩がいる。無駄に似合っている……

 

 ちなみにすでに席にはマックイーン先輩が座っていて、山のように盛り付けられたマグロ丼を美味しそうに掻き込んでいる。

 

「……(ちょいちょい」 

 ゴルシ先輩がこちらを見てニヤリと笑みを浮かべて手招きしてくる。ああ、これは逃げられないな……

 

「らっしゃい! ご注文は何にしやすか?」

 

「あ、えっと……何があるのかわからないんですけど……?」

 諦めて席に着く。注文を聞かれるが何処にもお品書きはない。多分さっき捌いていたマグロはあるんだろうけど……

 

「じゃーゴルシちゃんのオススメで握ってやるぜ! ……へいお待ち!」

 

「あ、ありがとうございます……これは一体……?」

 寿司下駄の上に数貫お寿司を盛り付けて出してくれた。白身のお魚や黒い魚卵が載った軍艦などが置かれている。

 

「岩魚に鮎、山女魚、後はキャビアだぜ!」

 おかしい、マグロはどこに行ったんだ。まさかマックイーン先輩が全部食べたんだろうか。それにキャビアはともかく、他のものは川魚のはずなんだけど……?

 

「い、頂きます……あ、美味しい……」

 臭みもなく、しっかりとした淡白な肉質が引き出されていてとても美味しい。キャビアはちょっと塩辛かったが、お米の甘さとかにマッチしている。

 

「だろー? ほら、これも食べてみな! 黄金ラーメンだ!」

 どんっとラーメンが机の上に置かれる。お寿司屋さんではなかったんだろうか?

 

 

 

 その後もたこ焼きやピザ、デザートにアイスクリームを出してもらったりして、お腹いっぱいになるまで食事を振舞われた。全てとても美味しかったが、ちょっと今日体重計に乗るのが怖くなってしまったのは内緒である。




ブラックプロテウス
無事太り気味になった

スペシャルウィーク
案の定太り気味になった

メジロマックイーン
やっぱり太り気味になった

ダブルジェット
週一でブラックプロテウスに勝負を挑みに来るようになる

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