漆黒の鋼鉄   作:うづうづ

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最近ちょっと忙しくてあまり書けてませんが許してください、何でもしまむら!


第十六話 夏合宿・その3

 

 

 

【トレーナーSide】

 

 

 

 到着初日の休養を明けて今日から本格的なトレーニングに入る。ちなみに昨日はトレーナー同士で集まって軽く飲み会をしていた。ウマ娘たちもウマ娘同士で集まって催し事をしていたようである。

 

 昨日俺はノンアルコールで済ませてある。他のトレーナーも飲みすぎた奴はいなかった。まあ、あまり酒臭いとトレーニングに障るからな……ウマ娘は鼻がいいから、匂いには気を付けないといけない。

 

 歯磨きと着替えを済ませて急いでトレーニング用の砂浜へ向かう。

 

 ちなみに、現在時刻は4時である。

 もう一度言おう。現 在 時 刻 は 4 時 で あ る 。

 勿論午後4時ではなく、午前4時だ。

 

 まだ太陽も昇ってないようなこんな時間に何故急いでいるかというと、ホテルのスタッフからとある連絡を受けたからだ。

 

『黒鹿毛のウマ娘が着替えと思わしき荷物を持って砂浜へ向かった』と。

 

 いつかやるとは思っていたが、まさかトレーニング初日からやらかしてくるとは思わなかった。釘を刺すのを忘れていた俺も悪いが……

 

 なるべく急いで砂浜へ向かう。トライアスロン用にと持ってきておいたスクーターがさっそく活躍する時が来たな……

 

 

 

 暫くスクーターを流して砂浜に辿り着く。さっと見渡すと見慣れた綺麗な長い髪を後ろで一纏めにしているウマ娘が準備体操をしていた。既にトレーニング用の水着に着替えている。

 

「やっと着いた……やっぱり居るし……おーい! テウス!」

 少し大きめの声で呼びかけると耳をピンとさせてこちらに振り向く。そしてパッと明るい表情になってこちらに駆け寄ってきた。

 

「トレーナーさん! おはようございます。様子を見に来てくれたんですか? ありがとうございます」

 本人はいつも通り呑気にしている。何だか焦っていたのがバ鹿らしくなってきたな…怒る気にもなれず、肩から力を抜く。

 

「ああ、おはよう……こんな早くからトレーニングして……ちゃんと寝たのか?」

 

「はい、寝ましたよ? えっと、8時くらいに寝て3時くらいに起きたので……7時間くらいは寝ました!」

 

「随分早く寝て早く起きたな……」

 

「トレーニングするのが楽しみで楽しみで、つい早く起きてしまって……」

 遠足の前眠れない子供かよ。いやこいつ子供だったわ、去年まで小学生だったわこいつ……

 

「ちょっと昨日食べ過ぎてしまいましたし、早めに起きて絞っておこうかなぁって……あ、あんまりお腹見ないでくださいね!」

 言われてお腹を見ると心なしか少しぽっこりしている気はする。スペが太り気味になった時よりはマシだとは思うが……見つめているとさっと手でお腹を隠した。見上げると少し頬が膨れている。見すぎてしまったようだ。

 

「悪い悪い。これ以上見ないから許してくれ。ちゃんと朝食前には戻ってくるんだぞ?」

 

「はい! 行ってきます、トレーナーさん!」

 楽しそうに砂浜を駆けていくテウスを見送る。放っておいてもちゃんと決まった時間には戻ってくる子なのであまり心配はしてない。さて、戻ってもう一度仮眠してくるか……

 

 

 

 

【ブラックプロテウスSide】

 

 

 

 

 朝練を終えて大浴場で軽く汗と砂を流してから一度部屋に戻る。やっぱり沢山身体を動かしてからお風呂に入るととてもさっぱりして気持ちがいい。

 

「あ! テウス、どこ行ってたのよ。探したんだからね?」

 部屋に戻るやいなや、スカーレット先輩に詰め寄られてしまった。

 

「あ、ごめんなさい……書き置きか何かしてから行くべきでしたね」

 今まで同室の人が居なかったからそのあたりの気遣いが出来ていなかった。心配をかけてしまったのはとても申し訳ない。

 

「ま、無事だったんならいいわ。トレーニングしてたの? 楽しかった?」

 

「はい! とっても楽しかったです! 時間が許す限りずーっと走っていたいくらいでした!」

 

「そう、それは良かったわ。自主練しすぎて疲れ果てちゃわないように気を付けなさいよ? さ、朝ごはん食べに行きましょうか。朝食はビュッフェ形式らしいわよ? 楽しみよね~」

 スカーレット先輩の後ろについていく。相当楽しみらしくスカーレット先輩は鼻歌を歌っていた。

 

「私も楽しみです! 美味しいお野菜が沢山あるといいんですけど」

 

「食べ過ぎでそれ以上お腹が出ても……あれ、引っ込んでるわね? 昨日寝る前はあんなにぽっこり出てたのに」

 スカーレット先輩が優しくお腹をさすってくる。私妊婦じゃないんですけど?

 

「沢山トレーニングしたので引っ込みました! 少し動けばあれくらい引っ込みます!」

 

「あんまり増減が激しくても身体には負担よ? 気を付けなさいね」

 さすった後ポンポンとお腹を叩いてくる。とてもくすぐったいのでやめてほしい。

 

 

 

 お腹弄りをされながらもレストランへ辿り着く。仕返しにこっちも触り返したりしていたので少し時間がかかってしまった。

 

「ちょっと遅れちゃったわね……って、何よこの惨状!?」

 沢山用意されていたであろう皿や大鍋は殆ど空になっており店員さんが慌ただしく補充に動いている。

 しかし、補充するたびにお腹をパンパンに膨らませたスペ先輩が纏めてかっさらっていく。

 

「ス、スペちゃん? そのあたりにしておいた方が……」

 

「美味しくて止まりませぇん!!!」

 スズカ先輩が止めているが一切止まらずひたすらに食べ続けている……周りの先輩たちも呆然とそれを見ているだけで彼女を止められる者は誰も居なかった。

 

「え、ええっと……どうしましょう、スカーレット先輩。これじゃご飯食べられないですよ?」

 

「スペ先輩が食べる前に自分たちの分を確保するしかないわね……提供される前に少しずつ分けてもらいましょ。スペ先輩は食べ過ぎて動けなくなったら止まるでしょ」

 スカーレット先輩と一緒にキッチンへ向かう。悲鳴を上げる料理人さんに頭を下げつつ自分たちの分の朝食を分けてもらい、席に着いた。

 

「スペ先輩、朝からあんなに食べて大丈夫なんですかね……」

 

「大方食べ放題って聞いて暴走しちゃったんでしょうね……正気に戻った後に後悔すると思うわ。あ、一応トレーナーに伝えておきましょ」

 スカーレット先輩がスマホを取り出してトレーナーさんにメッセージをちょちょいっと送った。トレーナーさん、頭を抱えていないといいんだけど……

 

 辺りを見回すと同じように笑ってみている先輩も居れば青筋を浮かべている先輩もいる。

グラス先輩は鬼を宿したような、そんなオーラを纏っていた。近寄らないでおこう。

 

 ターボ先輩は『スペシャルウィークもターボが倒す!』と張り切ってスペ先輩と食べ物の奪い合いに行っている。誰か止める人はいないのか……

 

「おい、ブラックプロテウス、スカーレット。早くあれを止めてくれ」

 青筋を浮かべていた先輩、エアグルーヴ副会長がこちらに話しかけてくる。何という無茶ぶりをしてくるのか、この先輩は……

 

「止められると思いますか、エアグルーヴ副会長」

 

「そうですよ、エアグルーヴ先輩! 止められたらこんな惨状にはなってないですよね!?」

 スカーレット先輩と揃って無理だと首を振る。正直止めに入ったら食べられてしまいそうな、そんな危険を感じてしまう。

 

「まあ、私も止めようとして全く相手にされなかったからな……スズカの声ですら届かないのならもうどうしようもない。力尽くで引きはがそうにも私と会長、ブライアンのウマ娘三人掛でもびくともしなかったからな……ブラックプロテウス。お前のパワーなら何とかならないか?」

 

「いやいやいや! 先輩方三人と私一人のパワーが釣り合うわけがないじゃないですか! それにシンボリルドルフ会長とナリタブライアン副会長は何処に行ったんですか?」

 辺りを見回しても二人の先輩はいない。何処へ行ってしまったんだろう……まさかスペ先輩が食べて……

 

「会長はホテルの人たちに謝罪に、ブライアンはおハナさんと沖野トレーナーを呼びに行っている。もうしばらくすれば戻ってくるだろう」

 さ、流石にそんなことはないか……ちょっと恥ずかしい。

 

「……ひとまず引きはがしを試してみますけれど……手伝ってくださいよ?」

 このまま放っておいたら昼食や夕食の分まで食べられかねない。トレーナーさんたちが来るまでに止めておかないと……

 

「スペ先輩! そのあたりにしてください!」

 エアグルーヴ副会長とスカーレット先輩、そしてスズカ先輩と私の四人でスペ先輩を力尽くで止めようとする。ちなみにターボ先輩はお腹をパンパンにしてそのあたりに転がっている。大食い対決でスペ先輩に挑むのはやはり無謀なようだ。

 

モット……モットタベル……

 四人で止めようとしても全く止まらない。完全にリミッターが外れてしまっている……

 いったい何が彼女を突き動かしているのか、というか何故正気を失っているんだろうか……

 

「お? スペの奴食べてんなー。あの薬すげー効力だなー」

 入口から手を頭の後ろで組んでかなりリラックスしたような状態でゴルシ先輩が入ってくる。

 

「……ゴールドシップ? 今聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がするのだが……」

 エアグルーヴ副会長がギギギとゆっくりゴルシ先輩の方を振り向き、にっこりと笑顔を浮かべる。今から起こるであろうことを予想し、私はスカーレット先輩と一緒に距離を取った。

 

「ああ、昨日マックイーンと一緒に体重計で悲鳴上げてたからなー。アグネスタキオンから貰った『食べれば食べるほどカロリーを消費するようになる薬』を朝一で飲ませてやったんだぜ! マックちゃんには逃げられたけどな!」

 食べれば食べるほど……? それは一種の永久機関なのでは?

 

「そうか……この騒ぎはお前のせいか……」

 

「あっやべっ」

 

ゴォォォォォルドシップゥゥゥゥゥ!!!!!!

 逃げ出すゴルシ先輩をエアグルーヴ先輩が般若の様な顔を浮かべて追いかけていく。つまり薬が切れるまではスペ先輩は止められない……?

 

 その後は止めるのはあきらめて、料理人さんたちにひたすら頭を下げに行った。

 

 

 

 

 

 朝食を終えてから一時間後、スピカ全員で砂浜に集合した。ちなみにスペ先輩はトレーナーさんが来たあたりで正気に戻って平謝りしていた。パンパンに膨れていたお腹はすぐに元通りになっていたので薬のあまりの効力に恐れ戦いたものである。

 

「朝からいろいろ事件はあったが……まあいい、気合を入れなおしてトレーニングだ! 今日は午前は砂浜で、午後からはコースでの予定だ。今日は初日だし、流すくらいの軽いものにしておけ。メニューはさっき渡した通りだ。じゃあ、始め!」

 トレーナーさんの合図で皆散らばっていく。私のメニューは砂浜でのタイヤ引き、筋トレ、遠泳、ランニング……それが終わったら全員一緒に早押しクイズ大会だそうだ。

 

 前四つはともかく、一番最後は何なんだろう。レクリエーションか何かだろうか……

 

 多分クイズ大会ならゴルシ先輩が圧勝すると思うんだけどな。多分スピカの中で一番頭がいいのはゴルシ先輩だ。普段ふざけているけど、時折アグネスタキオン先輩の研究結果に口を出していたりとかするし。

 

 タイヤを三つ繋げて、一番前のタイヤを身体に繋ぐ。全てのロープがしっかり固定されていることを確認して、最初の一歩を……

 

「……って、テウス! 軽いものにしろって言っただろ! 一つにしとけ一つに!」

 踏み出そうとして、出鼻を挫かれた。しぶしぶ繋いだロープを解いて一つだけにする。

 

「全く……ゴルシィ! お前は何やってんだ! 城を作るな城を! 頼むからトレーニングしてくれ!」

 私を止めた後トレーナーさんはゴールドシップ先輩の方へ向かった。そちらの方を見ると立派な砂の名古屋城が建っていた。えっと……金つながりだろうか?

 

 別の方を見るとスカーレット先輩とウオッカ先輩は競い合うように遠泳していた。スズカ先輩とスペ先輩は筋トレ、テイオー先輩とマックイーン先輩はランニングをしている。ここは私もゴルシ先輩と同じトレーニングをするべきだろうか……

 

「ちぇー、つれねーなトレーナーはよー……お、マックちゃーん! 一緒にアトランティス探しに行こうぜ!」

 

「いきなりなんですのゴールドシップ!? ちょ、こっちに来ないでくださいまし! きゃああああ!?」

 

「ちょっとゴルシー!? マックイーンはボクとトレーニングしてるんだからねー!? あ、ちょっと、勝手に連れてかないでよー!」

 悩んでいるとゴルシ先輩はマックイーン先輩に絡んでいって連れ去ろうとし、テイオー先輩に追いかけられていた。

 

 よし、一人でトレーニングしよう。タイヤ引きは二人でやってもあまり意味がないし……気を取り直してタイヤ引きを再開した。いつもの坂路より引きやすいけれど、砂に足を取られてしまいそうになってパワーは結構使う。

 

 

 

 ずるずると引きずっているうちにゴルシ先輩が作っていた砂の城を崩してしまい、報復だとか言って首だけ出して砂に埋められたりもしたが、まあ有意義なトレーニングだったと思う。




ブラックプロテウス
埋められた後は自力で抜け出した

スペシャルウィーク
一人で3日分の食糧を食べ尽くした

ゴールドシップ
エアグルーヴからは逃げ切り、マックイーンを連れて海底神殿探検をして、ブラックプロテウスを砂に埋めた

番外編アンケート

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