漆黒の鋼鉄   作:うづうづ

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( ˘ω˘) 一度今回の話のデータが吹き飛んだので実質初投稿です

モブウマ娘に関しては完全に適当に選んでます(一応脚質は合わせてあります


第十八話 芙蓉ステークス

 楽しかった夏合宿も終わり、時は過ぎて10月。ついに私が出走するレース、芙蓉ステークスの日がやってきた。ちなみに今回のSDTは一着はマルゼン先輩、二着はシンボリルドルフ生徒会長、三着はグラスワンダー先輩だった。大体前評判通りといったところで、ドリーム・シリーズは現状リギル一強の状態だ。

 

 今日の中山の天気は晴れ、バ場状態も良となっている。ただ、第9レースの為内側は少し荒れているかもしれないとトレーナーさんが言っていた。まあ、特に問題はないだろう。

 蹄鉄などの点検をしつつ、パドック入りを控室で待つ。

 

 今日のレースは10人が出走する。フルゲート18人を割れてしまっているが、この時期のOPクラスのレースなら特に珍しいことでもないらしい。

 客入りもちょっと少なめだそうだ。というのも今日は同じ日に中京の方でGⅢ、シリウスステークスが実施されている。重賞レースとOPレースでは注目度が違うということだろう。

 

 ただ、中京の方もそんなに人が入っているわけではないという。それは、シリウスステークスがダートで実施されるからだ。

 今のURAの主流は芝の中距離だ。その前後距離であるマイルや長距離も根強い人気がある。一時期短距離はあまり人気がなかったが、それもニシノフラワー先輩やサクラバクシンオー先輩、キングヘイロー先輩などの活躍によって大分改善されてきている。

 だが、ダートの人気に関しては低迷している。大体のレース場でダートコースは芝コースの内側に設置されているため、観客から見辛かったり、URAがダートを興行的に盛り上げていくという意識に乏しかったりすることが主な原因だ。

 スマートファルコン先輩が頑張って盛り上げようとしているが未だ道は険しい。ファンの人によってはダート専門のウマ娘を毛嫌いする人もいるくらいなんだそうだ。

 私はダートも好きなので、機会があればダートのレースに出場してみたいとは思っている。ただ、スピカの先輩方はターフ専門と言ってもよく、殆どダートのノウハウがない。マックイーン先輩がデビュー戦で走ったくらいだろうか。そのマックイーン先輩も今併走をお願いしたり出来るような状態ではないので、調整は非常に難しいだろう。

 アメリカでダートを走っていたスズカ先輩も、向こうのダートは砂ではなく土だ。なので走り方が結構異なるし、参考にはならないことの方が多い。

 私のお友達も芝専門の娘ばかりだし……もし走るようなことになったら、タイキシャトル先輩かエルコンドルパサー先輩、それか一度も話したことはないがスマートファルコン先輩辺りにお願いして併走してもらうことにしよう。

 

 

 

 「テウス、そろそろ時間だぞ。準備できたか?」

 考え事をしているとコンコン、と扉がノックされて、扉の向こうから呼びかけられる。トレーナーさんの声だ。

 

 鏡の前で姿を確かめ、ゼッケンや体操服の乱れを確認する。大丈夫そうだ。

 

 「はい、大丈夫です。行けます!」

 

 「……よし、今日も調子は良さそうだな! パドック行ってこい!」

 外に出るとトレーナーさんがこちらを見て満足そうに頷き、軽く頭を撫でて送り出してくれる。何だか事あるごとに頭を撫でられる気がする……テイオー先輩やスカーレット先輩はこんな頻繁に撫でられたことはないと言っていたので明らかに子供扱いされてる気がするんですけど……まあいいか。嫌じゃないし。

 行ってきます、と返して、パドックへ駆け足で向かう。私は今日は6枠6番だから、パドックも6番目だ。

 今回のレースには知り合いが一人居る。1枠1番、リボンマンボ先輩だ。メイクデビューで戦った相手で、未勝利戦を問題なく圧勝で勝ち進んできた娘だ。

 ただ、今回のレースはOP戦。つまり、どの娘も最低一勝はしているウマ娘たちだ。どの娘たちも強敵で、油断しちゃダメだろう。頬を軽くたたいて気合を入れなおして、パドックへ臨んだ。

 

 

 

 

 

 パドック、本バ場入場を済ませてファンファーレを待つ。今回は6枠6番なので、ゲートは後入りだ。狭いゲートは今でもちょっと苦手なので、少しでも短い偶数番なのは少し気が楽になる。

 

 「こんにちは、ブラックプロテウス。今日は貴方に勝ってみせるから、覚悟していてね」

 深呼吸していると、リボンマンボ先輩が声を掛けてくる。というか、宣戦布告してくる。

 

 「こんにちは、リボンマンボ先輩。私も負けるつもりはありません。良いレースにしましょう」

 痺れるくらいの闘志に笑顔で返す。そうしているとファンファーレが鳴り、お互いの位置に戻る。

 

 『中山レース場、第9レース、芙蓉ステークス。芝2000mの右回りで行われます』

 『三番人気、8枠9番、ミントドロップ。前走は1600m。後方からの追い込みを得意とするウマ娘です』

 『二番人気を紹介しましょう。リボンマンボ。好位追走、王道の走りを好むウマ娘です』

 『今日の一番人気、ブラックプロテウス。デビュー戦ではシニア級の2000mレコードをも塗り替えた、今話題のウマ娘です。今日もその鮮烈な逃げ足を見せることが出来るのか!』

 遠くに聞こえる実況の声を聴きながら、奇数番から順番にゲートに入る。大きい歓声が聞こえてきて、心臓がドキドキし始める。胸に手を当てて、ゆっくり深呼吸をして、心を落ち着かせる。

 

 『各ウマ娘ゲート入り完了しました……今スタートしました!』

 ガタン、と音を立ててゲートが開く。今日のスタートも可もなく不可もなく、普通のスタートだ。

 

 『おおっと!? リボンマンボ飛び出した! リボンマンボ、一気に飛び出してブラックプロテウスからハナを奪う! これは予想外の展開だ!』

 だが、私より早く飛び出したリボンマンボ先輩が内側を、そして先頭を譲らず、先頭でレースを引っ張る形になった。

 

 『先頭からリボンマンボ。二番手はブラックプロテウス、ぴったり後ろをマークしています。三番手にオネストワーズ、大体1バ身ほどの差か。大きく離れてサコッシュ、差がなくリボンフィナーレ。2バ身半ほど離れてアグリゲーション、並んでノワールグリモア、少し離れてリボンガボット。掛かり気味に上がっていきますヤッピーラッキー。そしてシンガリ、ミントドロップ』

 リボンマンボ先輩を風よけにするかのようにぴったり後ろにつけて様子を窺う。全力で逃げているようで、思ったよりハイペースだ。最初の2ハロンは先行争いが激しくなるがその後は落ち着くと聞いたが、第1コーナーを過ぎてもペースを落とさず走っている。

 

 『向こう正面に入りまして先頭は変わらずリボンマンボ。スタミナは持つのか? ブラックプロテウス、不気味に息を潜めています。オネストワーズは息を入れているのか少し差が開いた。そこより後ろは団子状態になっています』

 少し左右に動いてみるとこちらの頭を抑えるようにリボンマンボ先輩も動いてくる。そのあたりの駆け引きはお手の物ということだろうか。

 だけれど、やはり少し疲れてきたのか脚が鈍い。一度大きく振ってしまえば逆を切り込んでいけるだろう。

 

 『ブラックプロテウス、ここで仕掛けっ!? ブラックプロテウス、仰け反ったぞ!? アクシデント発生かっ?』

 ぐっと踏み込んで左に大きく振り、そして右に踏み込んだ、その時。頭に強い衝撃が走り、視界左半分が真っ赤に染まった。

 

 

【トレーナーSide】

 

 

 

 

 

『ブラックプロテウス、ここで仕掛けっ!? ブラックプロテウス、仰け反ったぞ!? アクシデント発生かっ?』

 テウスが仰け反ったのを見て、柵から身を乗り出す。向こう正面に居ることもあって姿がよく見えないが、上体を起こして仰け反っているのが見える。

 

 「くそっ、何があった! ゴルシ、見えなかったか!?」

 俺から双眼鏡を奪ってレースを見ていたゴールドシップについ詰め寄ってしまう。当の本人は少し難しい顔をしていた。

 

 「んー、多分だが、前の奴の蹄鉄が飛んだなありゃ。それが運悪く頭に当たったんだろ」

 

 「落鉄ってことか……くそ、不運にもほどがある……」

 ウマ娘たちは時速60キロ以上で走る。その為、レース前にちゃんと打ったとしても落鉄することは珍しいことじゃない。外れかけることも含めれば、1レースで1人2人は落鉄を起こしてしまうことだってあるだろう。

 ただ、それが後ろのウマ娘に直撃するなんて滅多にあることじゃない。不運、としか言いようがない。

 ゴルシ以外のメンバーは顔を真っ青にしていて、とても話せるような状態じゃなさそうだ。

 

 『ブラックプロテウスにアクシ……いや、持ち直した! 持ち直しましたブラックプロテウス! 少し差が開きましたが仕掛けなおした。第3コーナーに切り込んでいく!』

 実況につられてコースを見ると、仰け反っていた体勢を立て直して、スパートを掛け始めている。まるで当たった影響なんてないかのように、いつも通りコーナーに突っ込んで行くのが見える。

 蹄鉄は大体120gくらい、野球ボールよりちょっと軽いくらいだ。それが頭に直撃してダメージがない訳がない。下手すると脳震盪を起こしている可能性もある。無事であればいいんだが……

 

 『リボンマンボ逃げられるか? おっと、リボンマンボ、第3コーナーを越えたところで少し外によれました。そこを内側からブラックプロテウスが切り込んでくる! 更にロングスパートで上がってきていたミントドロップが大外から上がってくるぞ! ノワールグリモア、ヤッピーラッキー、サコッシュが上がってくる! 他の娘たちも団子になって上がってくるぞ!』

 落鉄の影響か少しよれたリボンマンボをかわして、いつも通りのコーナリングで最内を回って先頭に立つ。いつもよりスピードは遅いがそれでも十分な速度が出て……

 

 『さあ最終直線に入ってブラックプロテウスせんと……ブラックプロテウス、出血している! 頭部から出血しているぞ!? 最終コーナーを曲がってくるまで見えませんでしたが、顔の左半分が真っ赤に染まっている!』

 最終コーナーを回ってくると、歓声とともに悲鳴が聞こえてくる。頭か額が大きく割れてしまっているのか、左半分が血で染まっている。

 

 「ありゃやべえな……」

 

 「ああ、出血がひどいな……」

 ゴルシの呟きに少なく言葉を返す。頭の皮膚は血流がいいから、傷の大きさより大きく出血することがある。

 

 「それもそうだし、こっから直線だ。今までは遠心力で外に血が飛んでたかもしれねえが、こっからは遠心力がかからねえ。下手すると視界が全部潰れるぞ」

 ゴルシに言われてハッとする。最終直線は293mしかないが、293mもあるとも言える。視界が全部潰れてしまうと真っ直ぐ進むのは難しいだろう。このレースに出ているウマ娘たちは斜行したその隙を見逃してくれるような娘たちじゃない。

 

 『ブラックプロテウス、負傷しつつも先頭は譲らない! 出血はまだ止まっていないようですが、その足もまだ止まらないぞ! 凄い根性だ! 荒れた内側を気にせず進んでいく!』

 顔全体に血が広がって、殆ど前は見えていないだろう。それでもひたすら真っ直ぐに進んでいく。体操服にまで垂れて白い体操服が赤く染まっているが、そんなことは全く気にならないと言わんばかりに末脚を伸ばしていく。

 

 『リボンマンボ、ミントドロップ、ヤッピーラッキーも上がっていくが届かない! ブラックプロテウス、今先頭でゴールイン! アクシデントにも負けずに勝利をもぎ取った! そのフィジカルもさることながら、メンタル面でも強さを見せつけた! 2着は1バ身差でヤッピーラッキー、3着はクビ差でリボンマンボが入りました。4着はハナ差でミントドロップ。5着はサコッシュ』

 何とか先頭をキープしてゴールした。肩から力を抜く。ここまで心臓に悪いレースは久しぶりだ……

 

 『レースを制しましたブラックプロテウッ、おおおっと!!? ブラックプロテウス、勢いそのままに外ラチまで突っ込んだ!! 出血で前が見えていなかったのか!? 外ラチに激突してラチの向こう側に行ってしまったぞ!』

 レースが終わった後、テウスが外ラチに激突して会場が騒然となる。やはり前が見えてなかったようだ。慌てて救急隊がコースに入っていき、テウスが突っ込んでいったところへ向かっていく。

 

 『ブラックプロテウス、大丈夫でしょうか……おっと、姿を現しましたブラックプロテウス。問題なく立ち上がれるようです。救急隊に手を引かれて救急車に乗り込んでいます』

 何事もなかったかのように姿を現したがまだ前は見えていないようだ。救急隊員に手を引かれて救急車に乗り込んでいる。っと、ぼーっとしてはいられない。こっちも動かないといけない。最低限必要な荷物だけ持って他はゴルシに預け、救急車の方に走る。

 

 

 

 息を切らしながら救急車に辿り着く。こちらが駆け寄っているのが見えていたのかその場で待っていてくれていたようだ。

 

 「テウス! 大丈夫か!? 怪我の具合は!?」

 救急隊員に事情を聴くのもそこそこに扉を開けて乗り込む。中では頭部の怪我を応急処置していた。

 

 「トレーナーさん? 大丈夫です。軽く切っただけですから。あ、勝ちましたよトレーナーさん! 見ていてくれましたか?」

 いつも通りの呑気な声が返ってくる。

 

 「大丈夫ならよかった……レースは見てた。よく頑張ったな、テウス」

 

 「はいっ! この後のウイニングライブも頑張りますね!」

 

 「いやいや、お前がこれから行くのはステージじゃなくて病院だ。流石に頭を怪我してるのにライブは出させられないし、出させないぞ!」

 流石のこの状態でライブをするのは無理だろうし、URAもさせようとはしてこないだろう。なんせ頭部の怪我の上外ラチに派手に激突して転倒している。このまま検査入院コースだろう。

 

 「えええ!? そんな! ファンの人にお礼が出来ないのは申し訳ないです。ライブを楽しみにしてくれてる人も居るのに……もう血は止まってますし、この程度なら問題ありませんから、出させてください!」

 

 「絶対にダメだ。問題ないわけないだろうが……救急隊員さん、このまま病院までお願いします。付き添いは俺がします」

 

 「了解しました。受け入れ先病院へ搬送します。ほら、大人しくして……」

 ライブに出たいとごねるテウスを何とか宥めて、何とか病院へと搬送してもらうのだった。




ブラックプロテウス
病院へ着いていてからもごねていたが駆け付けたたづなさんに微笑まれて大人しくなった

リボンマンボちゃん
ブラックプロテウスに対抗して逃げを打つも落鉄の影響で沈んでしまう不遇な子

沖野T
ごねるブラックプロテウスに痺れを切らして増援(たづなさん)を呼んだ

番外編アンケート

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