漆黒の鋼鉄   作:うづうづ

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( ˘ω˘) ちょっと短いけど許してね


第二十二話 逃げ切りシスターズ

 

 

 

 マイル戦でも十分戦えた私は満足なライブもできてテンションMAXだった。

 だが、翌日に学園に連れ戻され、理事長と駿川さんにトレーナーさんと一緒にお説教されてしまった。

 レースが終わった後3分ちょっとくらい走り続けてしまったのがいけなかったらしく、大分お叱りをいただいてしまった。逸走したわけではないので特に何か処分があるというわけではないらしいが、トレーナーさんと一緒に反省文を書く羽目になり、結果私はエリザベス女王杯を現地で観戦することはできなさそうだ。

 トレーナーさんは抜け出す許可が下りたが私には下りず、駿川さんの監視のもと自室でひたすら反省文を書いている。

 

 

「か、書けましたあ……」

 ぐったりとしながら駿川さんに反省文を提出する。

 

「はい、確認します……ここ、誤字がありますね。後もう少しです、頑張りましょう」

 漢字の点が一つ少なかったことを指摘されて書き直しを指示される。凄く優しい笑みを浮かべているのが逆に怖い。

 

「ひぃん……」

 お母さんも字の間違いには厳しかったけれど、駿川さんも同じくらい厳しい。一つの誤字脱字も許してくれない。涙目になりながら必死に机に噛り付くしかないのであった……

 

 

 

 あの後リテイク5回でなんとか解放された。時間はお昼前である。今から電車に飛び乗れば間に合う……?  東京から京都までは大体二時間……ギリギリか……やめておこう。

 こういう時に急ぐと良いことがないし、大人しくしておこう。もし道中で車にはねられたりでもしたら今度こそトレーナーさんの胃に穴が開いてしまう……

 

 ひとまずカフェテリアでご飯を食べながらレース観戦でもしよう。今からトレーニングするにも少し時間がないし……テスト勉強でもしようかな。

 

 勉強用具を詰め込んだ鞄を持ってカフェテリアへ向かう。学園の食堂であるカフェテリアだが、無料のビュッフェ形式で基本いくら盛ってもいい形になっている。

 勿論、自己管理が苦手なウマ娘向けにおすすめのメニューが張り出されていたり、職員さんに声を掛ければおすすめの量を盛ってくれたりする。ちなみに二十四時間三百六十五日開いているらしい。まあ、深夜にこっそり抜け出してトレーニングをするようなウマ娘も居るし、仕方ないんだろう。

 テレビも数台設置されており、レースがないウマ娘はここで観戦することも可能だ。今日はGⅠが行われることもあって混みあう可能性があるので、少し急いでカフェテリアに向かう。

 

 

 

 何とか席を確保して、昼食を取りに行く。基本的にメニューは人参料理がメインとなっているが、和食に中華はもちろん、ドイツ料理やアイルランド料理など様々な種類がある。

 私は好き嫌いもアレルギーもなく、相当なゲテモノでない限りは何でも食べられるのでバランスが良くなるように盛っていく。今日は洋食の気分なのでハンバーグを多めにとって、後はバランスが良くなるように、山盛りに盛った後に席に戻る。

 

「いただきます」

 手を合わせてから食事を始める。まずはハンバーグから手を付ける。一口大に切ってから食べると中から肉汁がじゅわりと溢れ出てきて、お口いっぱいに幸せが広がる。

 ウマ娘が食べる量に合わせて大量に作っているにもかかわらず、味が大雑把になることはないのが凄い。料理人さんの心意気が感じられる。

 

 その後も食事を続ける。どれもこれも美味しくて顔が緩み切ってしまうのがわかる。でも仕方ないんだ、美味しいから無防備になってしまうのも仕方ないんだ……!

 

「席空いてないね~……あ! ここ! ご一緒してもいいかな?」

 声が聞こえて顔を上げると、そこには二人のウマ娘が居た。

 一人は栗毛ツインテールのウマ娘、自称『ウマドル』のスマートファルコン先輩。もう一人も栗毛で、頭に何か機械っぽいアクセサリーを付けている、ミホノブルボン先輩だった。

 

「えっ、あっ、スマートファルコン先輩にミホノブルボン先輩……ど、どうぞ!」

 レース映像でしか見たことがなかった逃げウマ娘の先輩2人がいきなり目の前に現れて少し動揺してしまう。

 

「失礼します」

「隣にお邪魔しまーす! えっと、ブラックプロテウスちゃんだよね? 前からずーっとお話したいと思ってたんだ♪ 食べながらでいいから聞いてくれないかな?」

 ミホノブルボン先輩はすぐに椅子に座り、スマートファルコン先輩はわざわざ椅子を隣まで持ってきてずいっと顔を寄せてくる。こちらは名乗っていないのにどうやら名前を知られているようだ。

 ネイチャ先輩曰く私は良くも悪くも目立っているらしいので仕方ない……のかな?

 

「えっと……お話って……?」

 

「うん。プロテウスちゃん、逃げ切りシスターズのメンバーになって欲しいの!」

 

「……???? 何故私に……?」

 逃げ切りシスターズは確かこの先輩二人に加えてスズカ先輩、アイネスフウジン先輩、マルゼン先輩の逃げウマ娘五人で組まれた、生徒会公認の広報ユニットだったはずだ。

 確かに私も逃げウマ娘ではあるけれど……

 

「フクキタルちゃんが占いで『今日カフェテリアで出会った逃げウマ娘が逃げ切りシスターズの新たなメンバーになるでしょう……』って言ってたから!」

 随分大雑把な占いである。スズカ先輩が居たら確実にツッコミを入れてくれていただろう。

 

「カフェテリアに居る逃げウマ娘は私だけじゃないと思いますが……それに、私はアイドル「ウマドルだよ?」ウマドル向きじゃないと思うんですけど……フリフリしたものは着慣れませんし……」

 さっと見るだけでも今カフェテリアにはニシノフラワー先輩にご飯を食べさせてもらっているセイウンスカイ先輩とか、メジロアルダン先輩とメジロライアン先輩と一緒に優雅に食事しているメジロパーマー先輩などが居るし……

 

「そんなことないよ! この間のウイニングライブのダンスも上手だったし! 衣装もきっと似合うから! とりあえずお試しでもいいから、ね? ね?? ねっ!!??」

 

「わ、わかりました……わかりましたから少し離れてください……」

 ぐいぐいと迫ってくる圧に負けてつい了承してしまう。まあ、スズカ先輩も所属しているわけだし悪いようにはならないだろう。

 

「やったー! じゃあさっそくダンスレッスン……の前にご飯食べないとね。って、あれ? ブルボンちゃんは?」

 

「ミホノブルボン先輩なら先ほどご飯を取りに行きましたけれど……」

 話している途中に一人でトレーを持って行ったのを目撃している。

 

「え、いつの間に!? って、ファル子も取りに行かなきゃ!」

 

「あ、私もお代わりが欲しいので一緒に行きます」

 山盛り取っていったつもりだったけど全部食べてしまった。少し食べ足りないのでお代わりしてくることにしよう。

 

 

 

 

 

「じゃ、ご飯も食べ終わったし! 早速レッスンだね!」

三人で楽しくご飯を食べ終わった後、途中で出会ったマルゼン先輩を連れて四人でレッスンルームへと向かった。ファル子先輩が張り切って仕切っている。

 

「食事後によりステータス、『満腹』が発生しています。激しい運動は控えるべきかと」

 ブルボン先輩が少し膨らんだお腹をさすっている。あの後更にもう一回お代わりした私につられて結構食べてたから……

 

「あんなに食べちゃうからだよ! まあでも、ファル子もちょーっときついからまずは軽めにしとこっか?」

 

「私は大丈夫よ? テウスちゃんも行けるわよね?」

 

「はい、マルゼン先輩!」

 ちょっとだけお腹が苦しいけれど、マルゼン先輩に行けるかと聞かれたら行くしかない。先輩に格好悪いところは見せたくないし、見せられないのだ。

 

「じゃあファル子がリズム取るから、マルゼン先輩とテウスちゃんはステップしてみてね! いっくよー、ワンツー、ワンツー!」

 ファル子先輩の手拍子に合わせてステップを、俗にいうアイドルステップをする。これはテイオー先輩からも教わったし、ステージでも時々やるので慣れたものだ。

 マルゼン先輩も問題なくステップを踏めている……少し膝を気にしているようではあるが。

 

「うんうん、良い感じ良い感じ! それじゃお腹も楽になってきたし、皆で一度通しで踊ってみよっか! あ、テウスちゃんは振りわからないだろうから見学しててもいいし、見て覚えてもいいよ!」

 ファル子先輩とブルボン先輩が加わって、恐らく逃げ切りシスターズの曲で踊ると思われるダンスの練習を始める。ライブの映像を見たことがある程度だったので大人しく見学する。

 なかなかハードなダンスだと思う。普通のウイニングライブのダンスより動きが大きくて、身体全体をよく使う。逃げ切りシスターズのライブはレース後に行うわけではないので、レース後の消耗を気にしなくても大丈夫、ということなのだろうか。

 そんな動きをしていても、ファル子先輩は笑顔で踊っている。ブルボン先輩は……無表情だ。余裕の表れなのか、はたまたいつも通りのポーカーフェイスなだけなのか。私にはよくわからない。

 マルゼン先輩は……ちょっとヘロヘロになっている。大丈夫なんだろうか……

 

「マルゼン先輩、頑張ってください!」

 私の声援でどれだけ元気になるかはわからないけれど、応援してみよう。ライブの時、ファンの人からの声援はとても心強かったから、多少は効果があると良いのだけれど。

 

「だ、大丈夫よ。これくらい! 後輩ちゃんに情けないところは見せられないもの!」

 マルゼン先輩がきりっとした表情になって踊りにキレが復活する。そして二回目のサビの部分に入る。

 一番盛り上がるところだというところもあって、私のテンションも上がってしまう。キャーキャーと声をあげて応援してしまう。アイドルに熱狂するファンの気持ちが少しはわかってしまうな……

 

「はう゛っ!!?」

 一番振りが大きくなったところで、マルゼン先輩の腰辺りからグキィっととても嫌な音がした。しん、と静まり返って皆でマルゼン先輩の方を見る。

 マルゼン先輩は腰を押さえてその場に蹲っていた。

 

「ま、マルゼンせんぱぁい!!?」

 慌てて駆け寄る。まさか骨折……? いや、これは……

 

「……マルゼン先輩にバッドステータス、『急性腰痛症(ぎっくり腰)』の発生を確認。早急に保健室への搬送が必要です」

 

「言ってる場合じゃないよブルボンちゃん!? た、担架担架!! 担架どこぉ!?」

 

 部屋中ひっくり返す勢いで探し出した担架にマルゼン先輩を乗せ、なるべく揺らさないようにしながら保健室に搬送していくのだった。

 




( ˘ω˘) ぎっくり腰は10代でも発症する。

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