漆黒の鋼鉄   作:うづうづ

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( ˘ω˘) 最近短いし投稿間隔空いてるけどちゃんと書いてるから許してね


第三十一話 新たな星たち

 落としてしまったシャープペンシルを拾うこともなく、トレーナーさんに詰め寄る。

 

「フジキセキ先輩が屈腱炎って……本当なんですか! 何かの間違いじゃないんですか?」

「病院で精密検査した結果だ。まず間違いない。トレーニング中の発覚だったから他に怪我は無かったのが不幸中の幸いだが……」

 

 至近距離で問いただすとちょっと困ったように答えてくれる。

 屈腱炎は骨折のようにいきなり走れなくなるような怪我ではない。転倒の可能性は少ないものの、それに反して完治は非常に難しく、患部の強度が元に戻ることは稀であることから、ウマ娘にとっては致命的であり、繫靭帯炎と並んでウマ娘のガンだとか、不治の病だとか呼ばれるものである。

 原因はいまだ不明。継続的、反復的な運動負荷によって起こるらしいと推察されているが、世界中のお医者さんたちが長年研究をしても詳しくわかっていない。

 

「そんな、レースの時はそんな感じはなかったのに。もう、治らないん、ですか……?」

「いや、フジキセキのは発見も早くて軽症だったそうだから治りはするだろう。治りはするが、クラシック中の復帰は難しいだろうな。早くて一年はかかると思うぞ」

 

 一年。屈腱炎からの復帰としては平均的な期間とは聞く。だけど、この大事な時期に一年の戦線離脱は大きすぎる。

 ただでさえウマ娘の競技人生は短い。本格化を迎えてから三年程度でウマ娘は緩やかにだが衰えていってしまう。ネイチャ先輩のように長い間能力を維持して走れるウマ娘も存在するが、大体は四年程走ったら第一線を退くウマ娘が多い。

 そんなウマ娘にとってクラシック時期と言うのは最も輝ける時期だと言ってもいいだろう。その期間を丸々怪我で潰してしまうというのは……どれだけ辛いのか、私には想像もつかないほどだ。

 

「と、とりあえずお見舞い行ってきます! 多分いつもの病院ですよね!?」

「落ち着け。軽症で入院はしないそうだから戻ってくるまで待ってろ。落ち着いたらおハナさんに俺から詳しく話聞いておくから。ほら、今日は終わりだ。もう集中できないだろうしな……飯食べるなり風呂入るなりして頭落ち着かせて来い」

 

 掛かり気味に飛び出そうとした私を引き留めて落ち着かせてから、トレーナーさんはミーティング終了を告げた。この状態では集中できないだろうしまあ仕方がない。

 

「……とりあえずお風呂入って来ます。あ、フジキセキ先輩に好みのお菓子聞いておいてくださいね!」

「おう、行ってこい。菓子の好みは……まあ、一応聞いといてやるから」

 

 落としたシャープペンシルを拾ってから部室を後にする。トレセン学園は今日丁度春休みに入って、実家に帰省したような娘も居て少し人は少ない。

 スピカの先輩たちもそれぞれお買い物に行ったり、ご飯を食べに行ったり、鯛を釣りに行ったりしている。

 お風呂に入ろうかと思ったけど、今日はコースも空いているし、折角だから連絡があるまで何処かで走っていようかな……? 

 今日走る予定はなかったのでジャージを持ってきていない。一度寮に戻って取ってこよう。

 

 

 

 

 

 学園から外に出て寮へ戻ろうとしていると、校門の前に見知らぬウマ娘が二人立っているのに気付いた。

 私よりちょっと背が高いくらいの、流星が特徴的な鹿毛のウマ娘と、ちょっと背が低いくらいの栗毛のウマ娘。仲が良さそうに話しつつ誰かを待っているようだ。

 

「テイオーさんとマックイーンさん、出てくるかな? ちょっと遅くなっちゃったけど……」

「きっと大丈夫だよキタちゃん。普通に授業してたらそろそろ終わる頃だと思うし……」

 

 テイオー先輩とマックイーン先輩の知り合いだろうか。学園で見た覚えはないんだけど……制服を着ているわけでもないし部外者ではあると思うんだけど、困ってるみたいだし声を掛けてみようかな。

 

「あの、すみません。トウカイテイオー先輩とメジロマックイーン先輩なら二人でお買い物に行きましたよ。今日は終業式で早終わりだったので」

「ええっ!? そんなぁ……入れ違いになっちゃったなんて……」

「そ、そうですよね。私たちも早く終わってるんですから、マックイーンさんたちも早く終わってますよね……」

 

 既に学園には居ないと言うことを伝えると二人ともしょんぼりしてしまった。何だか申し訳ないことをしてしまったような気がしちゃうな……

 

「ええっと……戻ってくるまで中で待っていますか? 食堂辺りならきっと大丈夫だと思いますし。外は寒いですし」

 

 三月ももう末だとは言え、まだまだ肌寒い時期だ。この時期に長時間外で待たせてしまうのはちょっと可哀想だろう。

 駿川さんかルドルフ会長に相談すれば悪いようにはされないだろうし、今後トレセン学園に入るかもしれない娘たちを案内してあげるのもいいだろう。

 

「え、いいんですか? じゃあお願いします!」

「いいのかなあ……?」

「多分大丈夫だと思いますけど……ちょっと聞いてみますね」

 

 断りを入れてから駿川さんに電話をして見る。事情を説明すると特別に許可を頂けた。食堂にいれば後で許可証を持ってきてくれるらしい。

 よし、とりあえず後はテイオー先輩たちに連絡しておけば大丈夫だろう。簡単にLAINメッセージを送っておく。暫くしたら戻ってきてくれるだろう。

 

「大丈夫だそうですよ。私はブラックプロテウスです。えっと、貴方たちは……」

 

 食堂に向かいつつもそういえば名前を聞いていなかった事を思い出す。テイオー先輩とマックイーン先輩の知り合いらしいし、メジロ家の誰かだろうか? 

 

「キタサンブラックです! 四月からトレセン学園に入りますっ!」

「同じく、サトノダイヤモンドです。四月からよろしくおねがいします、ブラックプロテウスさん」

 

 キタサンブラックさんは元気いっぱいに、サトノダイヤモンドさんは丁寧に挨拶してくる。

 そんな風に暫く会話をしつつ、食堂へ向かった。何か忘れているような気もしたけれど……気のせいかな? 

 

 

 

 

 

 食堂に着き、辺りを見回す。いつもと比べて大分人が少ないが、いつも通りオグリキャップ先輩は山盛りのご飯を食べている。

 私もちょっとお腹空いてきちゃったかも……いや、流石に後輩の前でがっつくわけにはいかない。彼女たちはまだ学園生ではないからご飯は食べれないし、我慢しよう。

 

「やっぱりトレセン学園の食堂は広いですね! ダイヤちゃんのおうちの食堂より広いかも!」

「流石に学校の食堂には及ばないよ……」

 

 楽しそうにはしゃいでいるキタサンブラックさんにサトノダイヤモンドさんと一緒に苦笑いする。やっぱりサトノダイヤモンドさんは結構なお家の出身のようだ。サトノ家くらいなら流石に私だって聞いたことあるし、分かっていたけど。

 でも別にお嬢様だからと言ってどうということもない。トレセン学園に通ってる娘たちは接しやすい娘が多くて、トレーニングと走ることばっかりで友達を作ってこなかった私でも問題なく過ごせるくらいには、優しい娘が多い。

 サトノダイヤモンドさんも穏やかで優しい娘だという感じがする。こんな娘たちが後輩になったら多分私思いっきり可愛がるだろう。お買い物に連れて行ってお人形さんみたいなお洋服着せたいな……

 

「あの、先輩? ちょっと目が怖いんですけど……」

「あ、ごめんなさい。お人形さんみたいな服着せたいなあって思ってました」

「先輩?」

「ですよね! ダイヤちゃんにはそういう服絶対似合いますよね!」

「キタちゃん……? キタちゃんは私がそういう服着てるところも見たことあるよね?」

 

 キタサンブラックさんと一緒にサトノダイヤモンドさんに着せたい服を話し合う。

 

 

 

 1時間ほど話し合って、結果として私はゴスロリ、キタちゃんは萌え袖で落ち着いた。ダイヤちゃんは30分くらいしたときから真っ赤になってテーブルに突っ伏している。

『もう許してぇ……』とか言っていた気もするけど、つい話に熱中してしまっていた。

 

「貴方たち、何をなさっているんですの……サトノダイヤモンドさんが困っているじゃありませんか」

 

 聞き覚えのある声が後ろからして振り返る。紙袋を片手に持っているマックイーン先輩とはちみー固め濃いめ多めを吸っているテイオー先輩が居た。

 紙袋に有名な和菓子屋さんの名前が書かれていることは……見なかったことにしておこう。

 

「キタちゃん久しぶりー! しばらく見ないうちにおっきくなったねえ! 身長抜かれちゃったよー!」

「テイオーさん! えへへ、勉強大変でレース観戦行けなくて……」

 

「ううう、マックイーンさぁん……」

「よしよし、こわーい先輩にいじめられて怖かったですわね……」

 

 キタちゃんがテイオー先輩に、ダイヤちゃんがマックイーン先輩に甘えに行く。

 いいなあ……私もスズカさんに甘えに行こうかな……確か学園外周を左回りで走っていたはずだし、後を追いかけてみようか……

 

 四人で何か話し合っているし、割り込むのも悪いのでこっそり抜け出して寮へ戻る。

 

 二人は多分入学したらスピカに入るだろうし、もっと交流を深めておいた方が良いとは思うけれど、流石にあの仲良しさに割り込む自信はなかった。

 

 そのまま寮に戻り、ジャージに着替える。今どのあたりを走っているかはわからないけれど、寮の前で待っていればそのうち通りがかるだろう。

 

 こうしてスズカさんを待ち伏せし、こちらに戻ってきたタイミングで私も走りだして後をつけていった。

 

(甘えに行くってどうすればいいんだろう……)

 

(ウソでしょ……さっきからずっと無言でついてきてる……)

 

 ──こんな感じで、お互いにちょっとすれ違ってしまい、1時間ほど無言で走り続けるという光景が繰り広げられることになったのだった。




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