漆黒の鋼鉄   作:うづうづ

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お待たせ、待った?


第三十五話 みんなで、見る夢

 

 

 天皇賞・春が終わってから日本ダービーまでは4週間。その間にダービーに対しての対策と、念のための切り札の調整をすることにした。

 

 東京芝2400は殆どスローペースで進むレースだ。レース自体が長いため序盤から飛ばすウマ娘は少ない。

 

 距離が長い分内枠の方が若干有利だが、内外に関わらず私は大逃げするつもりだ。他の娘がスローペースで来るというなら私は悠々と逃げさせてもらう。

 

 

 

「うんうん、ばっちりなの! 本番もこの調子なら問題ないの!」

 

「ありがとうございます、アイネスフウジン先輩」

 

 今日は丁度バイトがお休みだったアイネスフウジン先輩と併走している。アイネスフウジン先輩はダービーを逃げ切ったウマ娘だ。対策に関しては彼女やブルボン先輩に聞くのが一番だと思って、ここしばらくは彼女たちと併走している。

 

 それまでは主にキタちゃんと一緒に併走していたのだが、キタちゃんが私のトレーニングに食らいついてきてくれるのが嬉しくて多少オーバーワーク気味になるまで追い込んでしまったので、トレーナーさんに禁止令を発せられてしまった。

 坂路10本くらいなら大丈夫かと思ったんだけど、ちょっとキツかったらしい。今度キタちゃんにはお詫びにはちみーでも奢ってあげよう。

 

「それにしてもテウスちゃんはスタミナあるの。これなら2400くらいなら問題ないだろうけど、ダービーはスタミナだけじゃ勝てないの。一番大事なのは想いなの」

 

「想い、ですか……?」

 

 アイネスフウジン先輩の言葉に首を傾げる。ウマ娘はその背中に想いを乗せて走るとは聞いたことがあるが、いままでよくわからなかった。

 フジキセキ先輩の想いを背負って走っている気持ちはあるのだが……

 

「そうなの。日本一のウマ娘になりたいとか、実家の人たちの期待に応えたいとか、そういう想い。生涯たった一度きりのクラシック、その皐月賞を見送ってでもダービーに出る、そういう娘だっているくらいなの。だから、あたしは日本ダービーは運があるウマ娘より、想いが強いウマ娘が勝つって思うの。テウスちゃんには、そういう想いはある?」

 

 スペ先輩もウオッカ先輩も、そしてテイオー先輩も、強い想いを持ってダービーに挑んでいたと聞く。アイネスフウジン先輩がそう言うのも納得だ。

 

「んー……確かに私は他の娘よりそういう想いは弱いかもしれません。目標だってクラシックじゃなくて宝塚記念を挙げてますし、周りの人からクラシックは眼中に無いんじゃないかって言われてるのも知ってます」

 

 一度自分のことを調べてみてから後悔して調べるのはやめた。それでもウマッターを見ていたら不意に見てしまうことはあるもので、そういう忌憚ない意見を目にすることは何度もあった。

 

「それでも、目の前のレースから目を逸らしたことはありません。一度だって負けてもいいかだなんて思ったこともありません。私は私を信じて応援してくれるヒトたちの為、そして何より自分自身の夢の為に走っていますから」

 

「それならよかったの。いきなり変なこと言っちゃってごめんなさいなの」

 

 私の言葉に安心したのか、穏やかに微笑んで頷いている。どうやら先輩の満足いく答えが出来たようだ。

 

「ところで、テウスちゃんの夢って何なの? そういえば聞いたことなかったの!」

 

「え゛っ!? いえあの、恥ずかしいのであんまり言いたくないんですけど……」

 

「他の娘には内緒にするから教えてほしいの! それが今日の併走の報酬ってことなの!」

 

 それを言われると断れない。最初に報酬を決めておくべきだった……

 

「まあその……学園に入った時は確かに、ただ走りたいってだけだったんですけど。チームに入って、いろんな娘と戦って、そしてスズカさんたちの走りを見て、気付いたんです」

 

 チームに入ってすぐレースして、ちょっとトラブルはあったけど、沢山戦って、先輩たちが走っているのをたくさん現地で見て応援して。

 一緒に喜んだり、悔しがったり。時には競い合って行くうちに気付いたんだ。

 

「皆に夢を見せてくれたサイレンススズカのように。皆に奇跡を見せてくれたトウカイテイオーのように。私は全てのウマ娘にとっての憧れになりたい。誰かの記憶にいつまででも残るような、そんなウマ娘になりたいんです」

 

 非常に傲慢で、ワガママな夢だと思う。ルドルフ会長みたいに綺麗な走りをしているわけでもない私が憧れになるのは、相当の強さが居るだろう。

 

 見るものすべての目を灼くような、それこそ私たちの頭上で紅く燃える太陽のような、誰しもが認める一番輝くウマ娘に私はなりたい。だからこそ、次のレースも、そしてその先のレースだって、一度だって負けたくないし、負けられないんだ。

 

「だから、その為にももう一本、お願いしますね」

 

「うん、わかったの! 今日はテウスちゃんが満足するまで走ってあげるの。後輩の為に一肌脱いであげるの!」

 

 そう言って先輩は胸を張る。折角なのでその言葉に甘えることにしよう。

 

 その後芝コースを10周したあたりでアイネスフウジン先輩がギブアップするまで、思う存分併走に付き合ってもらうのだった。

 

 

 

 

 

 

『次は第9レース、本日のメインレースです。全てのウマ娘が挑む頂点、日本ダービー! 生憎の曇り空ですが、バ場状態は良バ場での発表となりました。この大舞台で歴史に蹄跡を刻むのは誰だ!』

 

 そして、ダービー当日。18万人以上が詰めかけた東京レース場に歓声が響いている。

 

 観客席からの熱気もそうだが、今立っているターフの上も、燃えるようなモノを感じる。

 

 それぞれの想いがぶつかり合って、渦巻いているようだ。全てのウマ娘が憧れる最高の栄誉の一つ、東京優駿。時代が移り変わるにつれ様々なレースが増えていったものの、変わることなく常に中核をなすレースの一つだ。

 

 そんな象徴であり最大級の目標であるこの舞台で、私を含めて18人のウマ娘達が、ファンファーレを贈られながらゲートに入る。

 

『3番人気はこの娘です。リボンマンボ。前走はNHKマイルカップで、最終直線から見事な末脚で差し切り勝利を収めています。本日もあの時と同じ末脚が炸裂するのか! 前走からの半マイルの延長がどう響くのか注目です』

 

 1枠1番という良番を引いたリボンマンボ先輩が、1枠2番の私が入る予定の隣のゲートに入っていく。

 私とほぼ同じローテーションでレースに出ているのにも関わらず、リボンマンボ先輩はNHKマイルカップに挑み見事勝利を収めている。現地で見ることはかなわなかったが、中継で見たその走りはまさに空高く飛んでいく鳥のように感じた程だ。

 

『2番人気はこの娘です、タヤスツヨシ。公開練習での上がり3ハロンは何と34秒台。この大舞台でいざ、巻き返しなるか!』

 

 タヤスツヨシ先輩は皐月賞からそのままダービーとなるが、仕上がりは絶好調だと言っていい。私の目から見てもその気迫が見て取れるくらい気合が乗っている。

 

 タヤスツヨシ先輩はあのミホノブルボン先輩と同じトレーナーさんが担当しているらしく、今日も観客席から見守っている。初めて彼と会ったときは怖くて後退ってしまったけれど、話してみると結構優しい人だった。人は見かけによらないということだろう。

 

『そして1番人気は勿論この娘! ここまで9戦9勝無敗、ブラックプロテウス! ここで勝利すればミホノブルボン以来、無敗の二冠ウマ娘が誕生します! 誰も彼もが寄せるその期待に応えられるか!』

 

 私がゲートに入ると観客席からは大きな歓声が聞こえる。この東京2400mはホームストレッチからスタートして一周して戻ってくるコース設計だ。ゲートに入るところもスタートするところも観客席からは非常に見やすいし、こちらからも観客席を十分に見渡せる。

 

 トレーナーさんたちが居る方をちらりと見ると、チーム勢ぞろいで見守ってくれている。ゴルシ先輩は相変わらず何かを売っているようだ。確か今日はホヤ弁当だとか言っていたような気がする。レースが終わって残っていたら一つ貰いに行こう。

 

『各ウマ娘ゲートイン完了、出走の準備が整いました』

 

 大外のウカルディ先輩がゲートに入り、鳴り響いていた歓声が次第に収まっていく。いつも通り肩に力を入れてから、ゆっくり力を抜いていつでも走り出せるように構える。

 

『今スタートが切られました! ブラックプロテウス、これは素晴らしいスタート! 内枠ということもあって先陣を切り軽快に飛ばしていきます!』

 

 今日のスタートは90点といったところだろう。いつもよりちょっといい感じにスタートが切れた。今日は良バ場だし、とても走りやすい。この2400はタフなコース設計だが、そういったコースは得意中の得意だし、このまま飛ばしてしまおう。

 

『先頭はブラックプロテウス、いつも通り軽快に飛ばしていきます。続いて大外18番、ウカルディ。少しペースが早め、掛かり気味にぐんぐん上がっていきます。その後ろからリボンマンボ、ジェニュインと続いている。注目の2番人気、タヤスツヨシは中団から様子を窺っています』

 

 運よく内枠だったということもあって先頭で直線を駆け抜けて、そろそろ第1コーナーだ。いつも通り速度を落とさないように、内側を綺麗に回ればいい。この東京レース場はコーナーもゆったりとしているので、いつもよりスピードを保つのは難しくない。

 

 そしてコーナーに入ろうとした、その時だった。ふと気付くと、斜め後ろから猛烈に追い上げてきていたウカルディ先輩の気配をほぼ隣から感じて振り向くと、途端に横から大きな衝撃が走った。

 

 掛かり気味に突進してきた彼女が割り込んでくるように思いっきり斜行して身体を捻じ込むようにして接触してきたのだ。

 

 いつもならそれくらいなら踏ん張れるのだが、踏切りのタイミングが悪かったらしく丁度足が浮いていたタイミングでの接触であった為、勢いのまま内ラチにたたきつけられる。

 

『あっと、第1コーナーで逃げていたブラックプロテウスとウカルディが交錯! 斜行してきたウカルディが割り込むようにしてコーナーに突入しぶつかってしまった! これはいけません! これは危険な走りだ、後ほど審議が入るでしょう!』

 

 何とか転倒こそ避けたものの流石に失速してしまう。

 

 驚いたような表情でウカルディ先輩が振り向いて、焦ったかのようにさらにペースを上げて飛ばしていく。大分掛かってしまっているようだ。きっと傍から見たら私もあんな感じに見えるんだろうな。

 

 衝突の影響で逆に冷静になれたのか、そんなことを思いつつ中団のあたりで何とか留まる。

 

 流石に最後方まで下がってしまうと差し切れなくなってしまうだろうし、ここらあたりで一度様子を窺うべきだ。

 

『先頭はウカルディ。まだ冷静になれないのか、向こう正面に入ってもぐんぐんと飛ばしていきます。2番手の位置にはリボンマンボとジェニュインがほぼ横並び。続いてサンセットグルーム、タイムティッキングと続き、中団のあたりにブラックプロテウスとタヤスツヨシが居ます。ブラックプロテウス、厳しい状況だがここから巻き返せるか!』

 

 向こう正面に入ったあたりで7,8番手あたりで追走する。内側ががっちり固められているが、むしろ好都合だ。ここで一つ切り札を切ることにしよう。

 

 本来なら宝塚記念まで取っておくつもりだった武器だが、温存していても仕方がない。斜行や妨害にならないようジワリ、ジワリと気を付けつつ外に出て進路を確保する。

 

 勝負は第4コーナー、残り600の標識あたりから仕掛けよう。そこからはほぼ直線だから、切り札の使いどころとしては問題ない。

 

『第3コーナーを回ってついに力尽きたかウカルディ! ずるずると後退していきます! それを見るようにしてリボンマンボが先頭に躍り出た! 負けじとジェニュインも追走! そして外からじりじりとブラックプロテウスとそれを追うようにタヤスツヨシも延びてくる! 最後はやはりこの四人だ!』

 

 第4コーナーに入ってもうすぐ直線。今まで以上に姿勢を低くして、そして脚に渾身の力を籠める。

 

 前にデイリー杯ジュニアステークスに出走したとき、終始掛かってしまって大暴走してしまったことがある。

 

 だがその時の走りはトレーナーさんが今までで一番良かったと評してくれるほど、いいパワーだったという。あのパワーでスピードに乗れればもっと良くなると言われて、あれから今日まで何度も練習を繰り返してきた。

 

 結果としていくつかの欠点があるものの、何とかスピードに乗ることにはできるようになってきて、切り札の一つとして使えるようになった。

 

 欠点の一つは、まずまともに曲がれないということだ。

 

 スピードに乗るということはそれだけ曲がる難易度は高くなる。ましてや重心を思いっきり低くしてパワーのすべてを前進することに費やしてしまっている状態なので、加速し切ってスピードを保ったままではいつも通りの小回りどころか大きく回ることも難しい。

 

 それでも、最終直線であれば問題ない。この東京レース場の直線は600m弱もある。加速するのに十分な長さがある。

 後二つ欠点があるのだが……まあ、その時になってから考えよう。発生しない可能性も十分にあるし。

 

『最終コーナーを曲がって先頭はリボンマンボ! だが、だがここで外からブラックプロテウス、ブラックプロテウスだ! アクシデントがあってなお、巻き返しを図ってくる!』

 

 ただ真っ直ぐ、速く進むことだけに全能力を費やし、リボンマンボ先輩を追走する。

 

 思えばこうやって彼女の背中を追うのは、あの芙蓉ステークス以来だ。

 

 あの時の彼女は落鉄してしまっていて、十分な力は出し切れていなかっただろう。だから、今日の彼女は万全だ。

 

 NHKマイルを制したその末脚で、私より前を駆けている。だけれど……

 

「その場所は、私のものだ。そこを……退けッ!!」

 

 脚に力を籠め、さらに加速する。次第に周りの音が聞こえなくなって、世界から色が失われていく。

 

 最後の上り坂を、その白い翼で羽搏くように駆けていく彼女の背を捉えて、そして一気に抜き去る。

 

『ブラックプロテウス、並ばない、並ばない! 一瞬の出来事だ。最終直線、あっという間に抜き去った! これが本当に逃げウマ娘の末脚なのか!?』

 

 坂を登り切って、残り300で先頭に立った。油断することなく、加速を続けようとすると、ずるりと左足が少し滑る感覚がした。多分、靴底が破れてしまっている。

 

 これが、二つ目の欠点。今まで以上に力を入れる以上、靴に、特に蹄鉄を留めているあたりには多大な負担がかかる。その結果、大体300mくらいまでしか靴が持たない。

 

 先日開けたばかりの新しめのシューズだったのだが、やはり持たなかったようだ。練習中に何度もやらかしてしまっていたのでこれの発生は予想出来ていたのだが、レース用のシューズの材質は厳格に決められている為どうしようもできなかった。

 

 だが、それでも構わず前へ進む。前へ加速していくだけなら特に問題はないように練習しておいたからだ。今日が重バ場だったりしたらまた話は別だったのだが、良バ場なら何とかなる。

 

 だがこれで三つ目の欠点が起きてしまうことは確定した。そこはもうゴールしてから考えよう。

 

『ブラックプロテウス、差した差した差し切った! 一時はどうなるかと思いましたがやはりこのウマ娘は実力が違う! 逆境を物ともせずまさに鋼鉄のような安定感で、今ゴールイン! ブラックプロテウス、ダービーを制し二冠達成! そして秋の京都へ伝説は引き継がれていく!』

 

 何とかゴール板を駆け抜けて、先頭を守り切った。

 

 そしてゴールしてからすぐに第1コーナーである。そう、この加速し切って、靴も破れて踏ん張りがきかない状態でコーナーに突入するとどうなるか。深く考えなくてもわかるだろう。

 

『審議となったこのレースですが、最早文句なしに着順が確定しました。ブラックプロテウス、これで10戦10勝! あの幻のウマ娘トキノミノルに並ぶ大記録が此処に打ち立てられました! 勝ち時計2.24.7、上がり3ハロンは何と31.8! 正しく驚異的な記録──!?』

 

 そう、止まり切れないし、曲がれないのだ。これが3つ目の欠点。

 

 そのまま外ラチに突っ込み、大きな音を立てて外ラチを粉砕して転倒し、暫く転がってようやく止まる。レース場外まで突っ込まなくてよかった。第1コーナーからはちょっと下りだし、下手するとそのまま飛び出してしまった可能性もあった。

 

 このまま寝転がっていても心配をかけてしまうし、コースに戻って無事を知らせよう。

 

『ブラックプロテウス転倒! 止まり切れず外ラチに突っ込んだ! あっと、ですが何事もなかったかのように起き上がってそのままウイニングランを始めました。周りの娘たちが心配そうに見つめています』

 

 周りの困惑する視線を感じつつ軽くウイニングランしてウイナーズサークルへ向かう。途中リボンマンボ先輩からは呆れたような視線を向けられていたが、今更なので気にしないことにした。

 

 ウイナーズサークルに立って観客席を見上げる。多少心配そうにしている人もいたが、大勢の人が歓声を上げて、拍手をして私の勝利を称えてくれる。

 

 何度経験しても、この瞬間はとても嬉しい。これを感じるために走ってきたんだと思える程に嬉しくて、毎回涙が出そうになる。

 

 この歓声に応えるために、指を二本、Vサインの形に立てて天に掲げる。これで、二冠だ。最後は菊花賞3000m。私にとっては得意中の得意の距離。油断はしないが、絶対に譲る気はない。

 

 私の名前を呼ぶ大きなコールに見送られながら、ウイニングライブに備えるべく、コースを後にした。

 

 

 

 地下バ道を通って控室に戻ろうとすると、その途中に珍しい顔があった。

 

「ダービー制覇おめでとうございます。ブラックプロテウスさん。見事なレースでした」

 

「駿川さん。ありがとうございます。えっと……お、お叱りでしょうか……?」

 

 トレセン学園の緑の事務服を着た理事長秘書、駿川たづなその人である。さっき外ラチを思いっきり粉砕してしまったしその件だろうか。弁償で許してもらえないものだろうか……

 

「いいえ、単純に今日はお祝いに来ました。お説教は明日学園でトレーナーさんとすることになると思いますが。あ、ライブ後にもう一度お時間下さいね」

 

「あ、ありがとうございます……その、お手柔らかにお願いします……」

 

 今日は見逃されたがお説教は避けられないようである。まあ、私を心配してのことだろうし、甘んじて受け入れることにしよう……

 

「とても見事な走りでした。見ているこっちまで走り出したくなってしまうくらい。本当におめでとうございます。次走も期待していますね」

 

「あ、ありがとうございます。駿川さん。でも、いいんですか? 貴女の立場上誰か一人を応援するのはまずいと思うんですけど……」

 

 彼女は理事長秘書という立場である。そんな彼女が一人のウマ娘に肩入れするように見られる行為は避けるべきだと思うのだが……

 

「ふふっ、だから今日私がこうしてここに来たことは秘密にしてくださいね?」

 

 唇に人差し指を当てて微笑む。美人がやると映えるもので、同じ女なのにちょっとドキッとしてしまった。

 

「ふふ、わかりました。今日は本当にありがとうございます。駿川さん」

 

「たづなでいいですよ? 勿論無理にとは言いませんけれど、私はそちらの方が嬉しいので」

 

 そういえばマルゼン先輩も駿川さんのことは名前で呼んでいた気がする。今度からそうさせてもらうことにしよう。

 

 その言葉に頷き、ライブの準備をするためそこで分かれる。

 

「もし、貴女がもう少し早く産まれて来てくれていたら、私も──」

 

 そんな彼女の呟きを聞き後ろを振り返ると、彼女はいつも通りの穏やかな微笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 なお、ライブ終了後に今日一番良い笑顔を浮かべたたづなさんに捕獲され、検査のためにいつもの病院に放り込まれたのは言うまでもないことである。




NHKマイルカップは1996年創設の為1995年世代の娘たちは前身であるNHK杯に行くのが妥当ですが、アプリ版はNHKマイルしかないのでそれに準拠しました。

上がり3ハロン31.8は獲得賞金世界歴代一位、なんとGⅠ25勝を誇るオーストラリアの女傑、ウィンクスが何度も達成しています。

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