漆黒の鋼鉄   作:うづうづ

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第三十六話 ちょっとしたアクシデント

 

 

 無事にダービーが終わったが、もう1ヶ月もすればすぐに宝塚記念。しかもその後すぐにジャパンダートダービーが来る。一息つく暇もなく、今日も今日とてトレーニングだ。

 

「ふう、良く走ったな。ベルノ、どうだった?」

 

「うん、いい感じだよオグリちゃん、テウスちゃん。クビ差でオグリちゃんの勝ちだけど……クラシック級でオグリちゃんとまともにやりあえるのって凄いと思うよ?」

 

 今日はオグリ先輩たちとダート2000mで本気の模擬レースをして、どの程度走れるか試してもらった。

 

 結果として最後の直線で捲られてしまったけれど、収穫はあった。

 

 お爺ちゃんに教えてもらっていた走り方、それが十分レースでも通用するということが分かっただけでも大収穫だ。

 

 ダートでの走り方を教えるのは得意でトレセン学園では主にダートの走りを教えていたと聞いてはいたけれど、やっぱりお爺ちゃんってすごかったんだなあ……

 

「ぜえ、はぁっ……も、もうむりぃ……」

 

 私とオグリキャップ先輩がゴールしてから20秒くらい後にふらふらとおでこが特徴的なウマ娘がゴール地点に倒れ込んだ。

 

 彼女はウカルディ先輩。ダービーで私と接触してしまったウマ娘だ。

 

 あの後ウカルディ先輩は失格処分を受けた上に2ヶ月の出走停止処分を受けてしまい、暇していたところを併走に付き合ってもらっていた。

 

「大丈夫ですか、ウカルディ先輩?」

 

「わたしダートは走れないんだってばぁ! しかも相手がオグリキャップ先輩とか相手になるわけないじゃない! しかもなんであなたは相手になるのよ! おかしいでしょ!?」

 

「でも、お詫びにどんなことでもしてくれるって言われましたから……人数が多い方が楽しいですよね?」

 

「限度ってもんがあるでしょうがぁ!! せめて芝にしてよ!」

 

「そうだな。折角だしターフも走ろうか。2200mだな。ベルノ、準備を頼む」

 

「あ、うん。分かったよオグリちゃん。でも、少し休んでからね?」

 

「もうやだぁこのウマ娘達なんなの……?」

 

 ウカルディ先輩がマイペースに話すオグリキャップ先輩とベルノライト先輩を見て項垂れている。

 

「凄いですよねえオグリ先輩。やっぱりドリームシリーズのウマ娘は一味違いますよね」

 

「そういう意味じゃないわよ!? いやまあ凄いのは認めるけど!」

 

 他に何かあっただろうか? 首を捻ってもよくわからなかったので気にしないことにする。

 

「よし、そろそろオグリちゃんとテウスちゃんは芝コースに行きましょうか。ウカルディちゃんは今回は休憩していてください。慣れないダートで消耗が激しいみたいですし」

 

「うん、無理をしてはいけないな。何事も腹八分目が良いと聞くし」

 

「オグリ先輩の腹八分目がどれくらいの量かわからないですけど、今は休んでいてくださいね、ウカルディ先輩」

 

 ダートに寝転んで起き上がれないウカルディ先輩の隣にタオルとドリンクを置いてから先輩たちを追いかける。

 

「あ、折角ですしベルノライト先輩も一緒に走りませんか? 皆で走ったほうが楽しいですよ?」

 

 ジャージを着てストップウォッチを持っているベルノライト先輩に提案してみる。彼女の走っているところは見たことがない。

 

 基礎トレーニングはしているみたいだし、走れないってことではないと思うんだけれど……体付き的には短距離向きなような雰囲気があるし、スタミナはないのかもしれない。

 

「う、うーん……私だと二人の本気のペースにはちょっとついていけないかな……ゆっくりでもいい?」

 

「ああ、勿論だ。私も久しぶりにベルノと走りたいしな。ふふ、楽しみだ」

 

「オグリちゃん? 手加減、手加減してね? ね?」

 

 何処までもマイペースなオグリ先輩に振り回されているベルノライト先輩を見てつい和んでしまう。

 

 専属のサポーター的な立ち位置なのもあってか、彼女たちの相性は抜群だ。きっとオグリ先輩の原動力はこういったところにもあるのだろう。

 

 今日は沢山それを学ばせてもらうことにしよう。三人で横並びになって、ターフを駆け始めた。

 

 

 

 

 

「お、此処にいたか。おーい、テウスー!」

 

 芝コースでの併走を終えて少し休憩してくると、トレーナーさんが小走りでこちらに向かってきた。また何かやらかしてしまったではないかと少し不安になってしまう。

 

「と、トレーナーさん。な、何か御用ですか?」

 

「何で怯えてるんだ……別に悪い知らせじゃないぞ? 次の宝塚記念の前にセレモニーがあるんだが、それにスズカとライスシャワーと一緒に出てくれないかって話だ」

 

 宝塚記念。春のグランプリで、人気投票によって出走ウマ娘が決まる、一種のお祭りのようなレースだ。

 

 現状人気投票一位はライスシャワー先輩。先の春天での二年ぶりの勝利という話題もあってか、彼女を応援する声が高い。

 

 二位は私とスズカ先輩がほぼ横並びで競っていて、四位以下は混戦模様といったところだ。

 

「それは……光栄なことですね。是非参加させてください。ふふ、楽しみです」

 

 ファンの皆さんがそこまで私に期待してくれているということは素直に嬉しい。シニア級の先輩たちにも負けないだけの期待を掛けてくれている。その期待に少しでも応えたいと思うのは当然のことだろう。

 

「そうか、よかった。次の日曜日リハーサルがあるから、勝負服の用意をしておいてくれ。それでその……これはいったい?」

 

 トレーナーさんがターフに横向きで倒れているベルノライト先輩を見て聞いてくる。

 

「かつて、ベルノライト先輩だったモノ……ですかね……」

 

 あの後併走が白熱してしまってついオグリ先輩と全力で走ってしまい、ベルノライト先輩もそれにつられて必死に後を追いかけて来てくれたが力尽きて倒れてしばらく動かなくなってしまっている。

 

 オグリ先輩が言うには「しばらく休めば大丈夫だろう」とのことだったので、とりあえず寝かせて様子を見ていた。

 

 当のオグリ先輩は飲み物を買ってくると言って暫く戻ってきていない、何処かで道草でも食っているんだろうか……

 

「またお前は他の娘を巻き込んで……後で謝っておけよ? ほれ、これセレモニーの資料。ちゃんと読んでおけよ」

 

 呆れたように頭を抱えながらもこちらに資料を渡してから去っていく。

 

「はい、ありがとうございます。ベルノライト先輩だったモノを介抱し終えたら戻りますね」

 

 トレーナーさんを見送ってベルノライト先輩だったモノの介抱に戻る。完全にスタミナが尽きてしまっているのか横向きに寝たままぐったりとして起き上がろうとしない。大丈夫だろうか……

 

「あなた用事があるんでしょう? わたしが見ててあげるから、戻りなさいな。わたしも今日これ以上は走れそうにないし、丁度いいわ」

 

「ウカルディ先輩。そうですね……では、お願いします。早めに打ち合わせした方が良さそうですから。お任せします。ありがとうございます」

 

 ベルノライト先輩は心配だが、ウカルディ先輩がついているなら大丈夫だろう。しばらくすればオグリ先輩も戻ってくるだろうし、ここは任せていいだろう。

 

 お礼を言ってからその場を後にして、詳しい話をするためにトレーナーさんの所へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 宝塚記念まで、残り2週間。今日は休日であるが、阪神レース場は翌週からの使用となるため、問題なくリハーサルが出来るということで関係者が集められ、勝負服着用でのリハーサルを行っている。

 

 今は一段落付いて、私を含めた主要メンバー三人で休憩を取っているところだ。

 

「ふふ、今日はいい天気ね。走ったら気持ちよさそう……」

 

 緑と白を基調としたいつもの勝負服を着たスズカさんが晴れ渡った空を眺めて気持ちよさそうにしている。

 

「はわわ……ス、スズカさん。今日はリハーサルだから走っちゃダメだよぉ……」

 

 漆黒のドレスを着たライスシャワー先輩が困ったようにスズカさんを引き止めようとしている。その腰の短剣は何に使うんだろう。流石に刃は潰してあると思うけど。レース中、邪魔になったりしないのかな? 

 

「ライスシャワー先輩、大丈夫ですよ。流石のスズカさんも今は走らないと思いますから」

 

「走りたいのはやまやまだけど、今はリハーサルに集中しないと、ね?」

 

 心配するライスシャワー先輩に安心するように伝える。どうにも私たちは何もかもほったらかして走り出すような風に見られているところがあって、事あるごとに心配されているのでもう慣れたものではあるけれど、少しモヤモヤするものはある。

 

「そろそろ休憩も終わりですね。次はパドックで演説のリハーサルで終わりですから、その後コース使って三人で少し走りませんか?」

 

「ふふ、それはいいわね。とっても気持ちよさそう」

 

「い、いいのかなぁ……」

 

 三人で談笑をしつつパドックへ向かう。正直今でも演説は苦手なのだが、今回はちゃんと台本もあるしリハーサルも行うのでいつもよりは気が楽だ。記者会見みたいに質疑応答があるわけでもないし、特に変なことは起こらないだろう。

 

 

 

「なので、みなさんっ、声援をよろしくお願いします!」

 

「──はい、OKです! これで今日のリハーサルはすべて終了となりまーす!!」

 

 ライスシャワー先輩が締めてお辞儀をしたところで、今日のリハーサルが終わる。いつもとは違うパドックの使い方に少し緊張したけれど、何とか無事に終えることが出来た。

 

「ふう、疲れたわね。走る前に一休みしていきましょうか」

 

「そうですね……私も緊張しちゃいました。ちょっとお腹すいちゃったかも……」

 

「ライスもちょっとお腹すいちゃったかな……軽くお食事してから、コース使わせてもらえないか頼んでみよっか」

 

 皆緊張していたのか、少し疲れ気味だ。軽く軽食を取ってから走るかどうかは決めよう。三人でパドックの裏の方に歩いていく。

 

 ──するとどこからか、『メキッ』とか、『バキッ』とかみたいな音が聞こえてきた気がした。

 

「あれ、何か今へんな音しませんでした?」

 

「そうね、したかも……蹄鉄でも割れちゃったかしら?」

 

「ライスも聞こえたけど……そういう音じゃなかったような……?」

 

 何処から聞こえたかがわからず三人で首を傾げる。何かもっとこう、構造物が壊れるような音だったと思うのだが……

 

 私はよく柵とかラチとか壊すし、そんなようなものの破壊音に近かった気がする。でもあれらもそんな簡単に壊れるようなものはなかったと思うのだが……

 

 ──バキバキバキッ……ゴッ! 

 

「っ、危ないっ!」

 

 ゆっくり歩きながら周りの様子を窺っていると、丁度門のところに差し掛かったあたりで門が崩れ、倒れてきた。

 

 咄嗟に私の前に居た二人をなるべく遠くに突き飛ばして、崩落範囲から逃れさせる。

 

「っ、テウスちゃん!?」

 

 ガラガラと崩れ落ちてくる門と、それを繋いでいた部分の下敷きになる直前、私が見たのは突き飛ばされた衝撃で少し離れたところに座る二人、こちらに手を伸ばすスズカ先輩と、呆然とこちらを見ているライスシャワー先輩だった。

 

 

 

 

 

 暫くして衝撃が収まる。結構な量が崩落してしまったみたいで、身体が殆ど埋まってしまっている。

 

 流石に身体中ちょっと痛むが、この頑丈な体のおかげで大怪我はしていないようだ。チート様様である。

 

「ど、どうしよう。ライスのせいで、ライスのせいでテウスちゃんが……!」

 

「お、落ち着きましょう、ライスシャワーさん。まずは人を呼んで……」

 

 瓦礫の向こう側から先輩たちの焦ったような声が聞こえてくる。痛みが引くまでちょっと休んでいたかったけど、早めに無事を知らせて安心させてあげないと……

 

「けほっ、あー、大丈夫です、大丈夫ですから心配しないでください」

 

 身体を圧し潰さんとする瓦礫を押し退けてなんとか這い上がる。途中、瓦礫に勝負服をひっかけてしまい所々破けてしまったが、致し方ない犠牲だろう。

 

「ほ、本当に、本当に大丈夫なの? 何処も痛くない?」

 

「まあちょっとは痛いですけど、何処も大きな怪我はしてませんし問題ないですよ?」

 

「ウソでしょ……あれでほぼ無傷なの……?」

 

 ライスシャワー先輩は私の無事を確かめるように身体をペタペタと触ってくるし、スズカ先輩は信じられないような顔をしている。

 

 まあ、自分自身正直信じられないとは思うけれど、無事なんだからそれを喜んでほしい。

 

「ラ、ライスシャワーさん! サイレンススズカさん! ブラックプロテウスさん! 大丈夫でしたか!!?」

 

 スタッフさんが血相を変えてこちらに駆け寄ってくる。一般的に見れば大事故だ。この反応も仕方ないだろう。

 

「す、すぐに救急車が来ますから! 三人とも安静にしててくださいね! トレーナーさんもすぐ駆け付けるそうなので!」

 

 そう言ってから何度か平謝りした後、バタバタと慌ただしくスタッフさんが駆けていく。流石に辺り一帯騒然としていて、ここは大人しくしておいた方がよさそうだ。

 

「ごめんねテウスちゃん、ライスのせいで……」

 

「ライスシャワー先輩のせいじゃないですよ! あんなにいきなり崩れてくるなんて誰にもわかりませんって!」

 

「そうよ、あんまり自分を卑下しちゃ……っ」

 

 落ち込むライスシャワー先輩をスズカさんと二人で慰めていると、スズカさんが顔を顰める。少し左足を気にしているようだ。

 

「スズカさん、何処か怪我を……? ごめんなさい、私が強く突き飛ばしすぎちゃったから……ライスシャワー先輩も痛いところはないですか?」

 

「ちょっと捻っただけだから、大丈夫よ。この後病院にもいくだろうし、このくらいなら問題ないわ。それに、テウスちゃんが突き飛ばしてくれなかったらこの程度じゃ済んでいないもの」

 

「ラ、ライスは大丈夫だよ……ごめんなさい、ライスがもっとしっかりしてないといけなかったのに」

 

 結構強く突き飛ばしてしまったのが逆にいけなかったのか、スズカさんを捻挫させてしまったようだ。ライスシャワー先輩は無事なようだが、落ち込みが酷い様子だ。落ち着いてからちゃんと話し合わないと……

 

 そうこうしているうちにトレーナーさんと救急車が到着し、三人とも病院で検査を受けることになった。

 

 

 

 

 

 

「ブラックプロテウスさんは全くの無傷。本当に瓦礫の下敷きになったの、これで? 無傷だけど頭打ってるみたいだし、経過観察で3日間は入院してもらおうかな。ライスシャワーさんは特に所見は認められないけど、一応経過観察ね。痛みが出てくるようなら一度かかりつけのお医者さんに相談してね。サイレンススズカさんは捻挫だね。靭帯部分断裂とまではいかないけれど、全治2週間ってところかな。その間は強い運動はしないように」

 

 救急車で運び込まれた病院で先生に診断を受ける。まあ、私は頭もちょっとぶつけたし、検査入院くらいは覚悟していたが……

 

「2週間……間に合わないわね。でも、仕方ないわ。無理して怪我を酷くするわけにはいかないもの。ごめんね、テウスちゃん」

 

 2週間安静ということは、2週後の宝塚記念にはぎりぎり間に合わない。

 

 開催時には完治しているじゃないかと思われるかもしれないが、それまで走れなかった以上、十分な調整が取れないままレースに挑むことになる。

 

 それは万全の状態に仕上げられないということだし、身体が走ることに慣れていない状態ではレースに出走するのは怪我の危険が伴うことになる。

 

 トレーナーさんもそんな状態じゃ出走は許可しないだろうし、今回は見送るしかないだろう。

 

「こちらこそごめんなさい……もうちょっと考えて行動するべきでした」

 

「ううん、あの時はきっとあれが最善だったわ。気にしないで、軽い捻挫で済んでよかったくらいだもの。もし巻き込まれていたら……ね?」

 

 スズカさんを怪我させてしまった。もっとやりようはあったはずなのに、それが悔しくて仕方ない。

 

 スズカさんは大丈夫だと私を撫でてくれているが、ちょっと暫く立ち直れそうにない。

 

 ライスシャワー先輩も俯いて落ち込んでいるようで、今はちょっと建設的なお話は出来なさそうだ。

 

 お医者さんに三人でお礼を言って、診察室を後にする。待合室ではスタッフさんとトレーナーさんが何かお話をしていたようで、こちらに気付いた二人がこちらに近寄ってきた。

 

「ライスシャワー、スズカ、テウス。大丈夫だったか? 診断結果は?」

 

「あ、はい。私が軽い捻挫で2週間安静、ライスシャワーさんは異常なしだけど経過観察、テウスちゃんはいつもの検査入院です」

 

「そうか、大怪我じゃなくて何よりだが……でも、丁度良かったかもしれないな……」

 

「え、それって……?」

 

 報告を聞いたトレーナーさんが少し不穏なことを口にする。思わず聞き返すと少し言い辛そうにしていた。

 

「いえ、沖野さん。ここからは運営スタッフとして、私から。ライスシャワーさん、サイレンススズカさん、ブラックプロテウスさん。この度はご迷惑をおかけしまして、誠に申し訳ありませんでした」

 

 話を引き継いだスタッフさんがこちらに深く頭を下げる。放っておいたらその場で土下座でもしそうな雰囲気で、つい三人で同時に止めようとしてしまったくらいの勢いだった。

 

「──そして、貴女方にはまだ謝らないといけないことがあります。今回のセレモニー、そして、宝塚記念……阪神での開催は見送るだろうとの通達がありました」

 

 スタッフさんはそう言ってもう一度深く、深く頭を下げた。

 

 その内容に、息を呑む。

 

 曰く、今回のパドックでのアクシデントは、原因が全くの不明。しかもサイレンススズカという怪我人──思いっきり突き飛ばした私が主要因だと思うのだが──を出してしまったし、私に至っては下敷きになったうえ検査入院とはいえ入院することになってしまった。

 

 大きな怪我ではないとはいえ大惨事になりかねなかった事は間違いなく、それならばレース場を再点検する必要があるだろうと。

 

 そうなると点検や修繕などを含めて、最短でも3週間は必要になると判断されたとのことだ。

 

 宝塚記念は、今日から2週間後だ。つまり──

 

「それじゃあ、宝塚記念に、間に合わない……」

 

 ライスシャワー先輩が、ぼそりと呟く。きっと思っていることは、みんな一緒だろう。

 

「このようなことが無いよう我々も日々、努めてはきていたのですが、何分前例もないことで……皆さんにも、宝塚記念を楽しみにしていただいていたファンの方々にも、申し訳が立ちません……」

 

 スタッフさんが悔しそうに、瞳に涙を湛えて歯を食いしばっている。

 

 きっと彼らも、年に一度の大舞台の為に、並々ならぬ努力をしてきたのだろう。それがこんな形で潰されてしまっては、やりきれないというもの理解できる。

 

「今まではなかったのに……ライスが、ライスが来て、突然……? やっぱり、ライスのせいで……」

 

 その小さな、小さな声が、やけに大きく聞こえた。

 

「誰のせいでも無いですよ、ライスシャワー先輩。誰が悪かったわけでもないんです。だから、自分のせいだなんて、そんな風に抱え込まないでください」

 

 今にも折れてしまいそうだった雰囲気の彼女を気が付いたら抱きしめていた。

 

「……うん、ありがとう、テウスちゃん。それに、大丈夫だよ。ライスにも、出来ること……一つ、思いついたから」

 

 そう言って私を見上げるその瞳は涙に濡れていたけれど。一つの決意を感じられた、意志の籠った瞳だった。

 

 




流石に災害を起こすためにも行かなかったのでアプリ版からイベントを貰ってきました。

まあ立派な労働災害ではあるのですが……

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