ウイニングライブを終えてすぐ、私はトレーナーさんと二人でインタビューを受けていた。
ちなみにウイニングライブの曲は『Special Record!』だった。宝塚記念においても同じ曲で踊るのだが、宝塚記念は諸事情あってウイニングライブが行われなかった為私が踊るのは今回が初めてとなる。
ウイニングライブはその大本のグランドライブからしてURAが発祥であり、海外勢も参加するこのジャパンカップでウイニングライブ出来るのかとは思ったけれど、事前にダンスを覚えていたらしく、多少怪しいところは私とヒシアマゾン先輩でフォローしつつ無事に終えられた。
正直ヒシアマゾン先輩が居てくれて助かった。私一人で外国勢三人をフォローなんて出来るはずがない。
『それでは次走のご予定をお伺いしてもよろしいでしょうか? やはり有馬記念ですか?』
インタビューの真っ最中だが、この記者さんは初顔だ。ウマ娘のようで被っている帽子が妙に盛り上がっている。私が出会う記者さんは大抵帽子を被っている気がする。被っていない人は被っていない人でキャラクターがとても濃い人物が多い。乙名史記者とか。
「いえ、次走はステイヤーズステークスに出走します。勿論有馬記念にも出走する予定ですが」
『ステイヤーズステークスは来週ですが……あまりにも間隔が無さ過ぎるのでは。今年もう既に13戦しておられますよね?』
私の返答に初顔の記者さんが困惑している。よく見る記者さんたちは悟ったような表情をしていた。ついでにトレーナーさんも悟ったような表情をしている。
どうしてそんな顔をされるのかよくわからないが、まあこの記者さんの質問で最後だし我慢してほしい。
「この程度であれば問題ありません」
『そ、そうですか……ありがとうございました』
ステイヤーズステークスは、数少ない長距離レースだ。これを逃す手はない。他にも万葉ステークスとダイヤモンドステークスにも出走する予定だ。
ちなみにステイヤーズステークスとダイヤモンドステークスはダートGⅠの時期と丁度被ってしまっており、何だかんだファル子先輩との約束を果たせていない。3月中旬の平日に船橋レース場で行われるダート2400mのダイオライト記念もその週の日曜に阪神大賞典があるから出走予定に入らない辺り、巡りが悪すぎる。
だが、川崎記念に関しては丁度被っていないので川崎記念に出走することを検討してはいる。地方開催のレースに出るのは初めてなので、問題なく出走登録できるか不安ではあるが、トレーナーさんに任せておけば問題ないだろう。
昔の帝王賞は4月開催で2800mとかいう丁度いい距離と時期だったのに、とは思っている。
現状の帝王賞は6月だから宝塚の代わりに出走する選択肢もあるが、6月に関しては別に出走したいレースが存在するため選択肢に入らないのだ。
そのレースにまだ出走できるのかどうかはわからないから口にはしないが、出れるなら出てみたいレースがいくつか存在している。
ダートレースと言えば有馬記念の代わりに東京大賞典にというのも考えなくはなかったのだが、秋天とジャパンカップで勝利した今その選択をする勇気が出なかった。
そんな選択をした日には私だけでなくトレーナーさんにまでどのような非難が来るか分かったものではない。
今でさえ私のワガママの連闘による批判がトレーナーさんに来ているようだ。どのような内容かは誰も教えてくれないが相当キツイものも来ているだろう。
私が今まで勝っているからいいものの、一敗でもしようものならどうなってしまうことか、考えるだけで恐ろしい。
どうしても出たいレースや周りが出走を期待するレース以外は自重することを考えないといけない。
色々やって注目度が非常に高くなってしまった以上、何もかも自由に行動することは難しい。
私だけで何もかも差配して決められるというならば自由にしてもいいのだろうけど、今の私は周りの人たちに庇護されている存在だ。
そんな状況で、周りを顧みずに行動するということは出来ないし、したくない。それが私の意地……みたいなものだ。
このインタビューだって、殆ど無難なことしか聞かれなかった。メイクデビュー直後はドーピング疑惑などで結構叩かれていたのに、今ではそんな話はめっきり聞こえなくなった。
実力を証明したということもあるだろう。けれど、それ以上に周りの庇護が大きい。
トレセン学園やURA。個人的に仲良くさせていただいているメジロ家の力なども大きいだろう。特にメジロ家には明日学校が終わった後もメジロ主催のお茶会に招かれているくらいには親しくさせていただいている。
お茶会にはメジロのおばあさまにウチの娘にならないかと言われるくらいには仲良くなるくらいの頻度で招かれていたりする。その度に丁重にお断りさせていただいている。
まあ、ウチの家は多少土地を持っている程度で、メジロ家とは比べ物にならないほどの庶民なので本気で根回しされたら抵抗できない。
もしおばあさまが本気で私を引き抜こうとしているなら、既に私はメジロプロテウスになっている。だから恐らく冗談だろう。
ただ、メジロ家が実質的な後ろ盾になってくれていることは感謝しているので、親密な関係であることは隠し立てする必要もないことだし、親しくすることで生まれる多少のしがらみは仕方のないことだろう。別に嫌ではないわけだし、表だって何か要求されているわけでもない。
「……テウス? 大丈夫か?」
「え? あ、はい。大丈夫です。少し考え事してただけですから」
インタビューが終わった後歩きながら暫く考え事をしていたら、トレーナーさんに心配されてしまった。
「危ないからちゃんと前は見てろよ? じゃあ、俺はここで待ってるから、着替え終わったら呼んでくれ。あ、学園には今から戻るって連絡もしとくからな」
そう言ってトレーナーさんは自販機のあるスペースで電話をし始めた。報連相は大事だし、そういった点では抜かりない人だ。時折やらかすけど。
着替え終わって部屋を出る前にふとスマホを確認してみると、家族からメッセージが来ていた。今年の年末年始もレースの予定を入れてしまったのでここ暫く実家に帰ることができていないのだが、連絡は毎日取り合っている。
特にレース後は両親だけでなく祖父母たちからも沢山メッセージが来る。特に元トレーナーだった方のお爺ちゃんからは、レース後のメッセージが他の家族たちの3倍くらい来る。
大抵はべた褒めだが、時折厳しいことも言われる。というか前に掛かりきってしまったときは結構厳しめに言われた。
昔は主にダートを教えていたという話だったが、芝のレースしか走ってない私にも的確なアドバイスをくれる。最新のトレーニング情報についても仕入れているようで、その時代に合ったトレーニング方法をアドバイスしてくれる。
さらに昔のコネを使ったのかトレーナーさんの連絡先も知っているようで、頻繁に連絡を取り合っているようだ。
どうやら私の扱い方に関してのアドバイスを色々しているようで、最近はトレーナーさんに上手くコントロールされることも多いが、まあ私も我が儘を聞いてもらっているしお相子だろう。
「あれ? このメッセージは……」
家族にメッセージを返し終わると、普段見慣れない相手からのメッセージが丁度入ってきた。
メッセージを送信してきた相手は、日本ウマ娘トレーニングセンター学園生徒会長にして、日本のレースの歴史において初めて無敗で三冠に輝いた優駿の中の優駿、『皇帝』シンボリルドルフ。そのウマ娘からだった。
翌日、授業が終わった後、生徒会室の前まで来た。生徒会室に来るのは去年の模擬レース事件で謝罪をしに行ったとき以来だろうか。特に避けていたというわけではなく、生徒会活動とかに興味はなかったし、それ以外で立ち寄る用事がなかっただけなのだが。
一先ず扉をノックする。ノック回数のマナーとかあったと思う。正直知らないが、確か3回とか4回とかだった気がする。まあ4回しておけば問題ないだろう。
ルドルフ会長は多分気にしないだろうけど。テイオーさんとか多分ノックせず突撃していきそうだし。
「ああ、開いているよ。どうぞ中に」
「失礼します」
入室を促されたので、一言断ってから中に入る。何だか面接でも受けに来た気分だ。
「そんなに緊張しなくてもいい。別に何か注意するとか、そう言うことで呼び出したわけではないからね。沖野トレーナーは、確か急なインタビューが入ったんだったか」
「あ、はい。ご存じでしたか。後でおハナさん……東条トレーナーから話を聞いておくと言っていましたが」
そう、今日は出来ればトレーナーも一緒に来てほしいと言われていたが、急にインタビューが入ったため今は不在だ。別に不在でも問題ない話ではあるようだが、後から話は聞いておくと言われている。
「トレセン学園内の事ならいつ誰がインタビューを受けるくらいは把握しているよ。色々準備もしないといけないからね。とりあえずそこに座ってくれ。今コーヒーを淹れよう。砂糖とミルクはいくつ入れる?」
「そうなんですね。いつもお疲れ様です。砂糖とミルクは……2つずつください」
そう言って彼女はコーヒーを淹れてくれる。どうやら全自動コーヒーメーカーのようだ。
「今のコーヒーメーカーは高性能でね。豆を挽くところから抽出まで全て自動でやってくれるんだ。カフェ君は少し不満だったようだが……まあ、彼女は自分で焙煎からやっているようだから、物足りないのかもしれないね」
「何度か飲ませてもらったことがありますが、結構おいしかったですね。オリジナルブレンドだと言っていました」
マンハッタンカフェ先輩とは、タキオンさんのところに顔を出したときによく出会うので少し仲良くなった。何度かコーヒーもご馳走になったこともあるくらいだ。
タキオン先輩は紅茶派のようで事あるごとにマンハッタンカフェ先輩に絡んでいる。少し鬱陶しそうにしているが、嫌ではなさそうなので止めないことにしているが。
あの二人はなんだかんだ仲が良い。あの二人に加えてジャングルポケット先輩の三人で居ることが多い気がする。
「お待たせしたね。どうぞ」
「あ、ありがとうございます。それで、お話しとは?」
「そうだね。本題に入ろうか。ブラックプロテウス、君を生徒会書記に推薦したい。より高い理想の世界を目指すため、君に協力してほしい。全ての常識を破壊して、その強い魂を持つ君に頼みたいんだ」
ルドルフ会長から言われたことは、まあ大体予想通りの事だった。思ったよりは地位が高かったが。
なので、私の返答は決まっている。
「ルドルフ会長。私は──」
『中山レース場、本日のメインレース。ステイヤーズステークス! 日本の平地競走において、最長距離の3600mで行われます。本日は絶好の快晴、バ場状態も良バ場となっています。10人のウマ娘たちが、この長い長いレースで鎬を削ります』
時は流れて、ステイヤーズステークス当日。今日はとてもいい天気だ。走ったらすごく気持ちよさそうだし、実際スズカさんはレース前まで走ってきていたようだ。
『ですが、今日のレースを見に来た目的は皆一つだけでしょう。無敗の三冠ウマ娘ブラックプロテウス。ジャパンカップから中五日での出走です』
『まるで野球選手の先発ローテーションのようですが、最早皆さんお馴染みと言ったところでしょうか。勿論、今日の一番人気はこの娘です。二番人気とはちょっと信じられないほど離れた、圧倒的な支持を得ています』
中山レース場3,600mは内回りコースを二周。スタンド前から始まるレースだ。スタンドを見回しているとテイオーさんが手招きしてきていたので、何か伝言でもあるのかと少しだけスタンド前に立ち寄る。
「テイオーさん、何かありました?」
「特にレースには関係ない事なんだけどねー。テウス、カイチョーに生徒会誘われて断ったんだって? 何で? ボクは誘われたことないのにさ」
少しお怒りなのか、それともただ単に不思議に思っただけなのか。表情からはよくわからないけれど、激怒してるってわけではなさそうだ。
「私の目標には、生徒会活動はあまりそぐいませんし、私の事を目標にされると少し……いや、かなり問題がありそうですから。トレーニング量とか」
「あー、まあ……でも、目的というかテウスの夢って『全てのウマ娘の憧れ』になることでしょ? 生徒会のポジションは丁度いいと思うんだけど」
「テイオーさんならわかると思いますけど。シンボリルドルフに『憧れ』ていた貴女なら」
「! それって……」
「憧れているだけじゃ、その人を越えることは出来ません。だからこそ憧れであって、それだけでは目標には成り得ない。その相手を越えたいと思ったときに、憧れは目標になるんです。会長は全てのウマ娘の規範を目指していて、自分を越えたウマ娘が居れば自分のことのように喜べるウマ娘でしょう。でも、私は誰にも、何にも越えられたくないし、負けたくない。私は全てのウマ娘にとっての憧れ、そして障壁でありたいんです」
傲慢で、強欲な夢だと自分でも思う。でも、マルゼンさんも『ウマ娘は強欲な生き物だ』って言ってたし、少しくらい強欲で居たっていいと思う。
「それこそ私たちにとっての、三女神様のように。その名を深く刻んで、誰にも越えられないような存在になりたい。それが、私の目標です」
「テウス……でも、あの会長だって、無敗ではいられなかった。ボクだって、何回も負けたよ。テウスだって、きっと負ける時が来る。常勝無敗なんて有り得ないってことは、覚えておいて。そうしないと、負けた時に折れちゃうから」
「ええ、大丈夫です。負けて得られるものがある事も知ってます。模擬レースでは先輩たちによく負けてましたし。一度越えられたなら、もう一度越えるまでです!」
私はずっと勝ち続けてきたわけじゃない。模擬レースではあるけど、何度も負けてきた。ここまで無敗で来れたのは、運によるものだと思う。
誰よりもトレーニングをしてきた自負があるし、能力で負けているとは思わない。
それでも、レースには時の運が絡む。いままではその運に恵まれてきたが、今後ずっと幸運の女神様に愛されたままでいられるとは思っていない。
特にダービーなんかはかなり危なかったし。
「そっか。そうだよね。レース前にこんな話してごめん。じゃ、ウイナーズサークルで待ってるから」
「はい、ありがとうございます。じゃあ、行ってきますね」
軽く拳を突き合せた後、ゲート前へ向かう。丁度ファンファーレも鳴りだしたので、丁度いいタイミングだ。
「テイオー? レース。見ないんですの?」
「ん? 見るよ。見るけど、絶対に今日のテウスは負けないよ。というか、超長距離レースでテウスに勝てる娘は居ないって。それこそ、怪我する前のマックイーンでも勝てっこないよ。だから、ウイナーズサークルで待っていようと思って。ウイナーズサークルからでも見えるし。まあでも皆で行きたいし、ここで見てよっかな」
「……言ってくれますわね。でも、この展開を見れば明らかですわね」
『先頭のブラックプロテウス、1,000mを通過! 通過タイム……60.0! 何というペースだ! 3,600mだぞ大丈夫か! 後続とは既に5秒以上差がついている!』
テウスが繰り広げるいつもの大逃げに、レース場から歓声とどよめきが起きる。
でも、これがテウスの通常ペースだ。むしろ抑えてるって言えるくらい。菊花賞、3,000mのレースで3分を切れるウマ娘だ。多分、まだまだ本気じゃない。
これくらいのペースなら、テウスならきっと6,000mくらい走れる。この世界の何処にだって、彼女のペースについてけるウマ娘なんて存在しないよ。
というか、ボクだってテウスと超長距離でやりあうのは御免被りたい。怪我する前のボクだって勝てる景色が思い浮かばないもん。
ほら、この展開にあのゴルシでさえ真顔になってる。多分自分がやっても追い付けないって思ってるんだろうね。ゴルシの追い込みは凄いけど、多分追い込むころにはゴールしてるし。
『2,000mを通過して、通過タイム1:59.1! 後続とは既に7秒、いえ8秒差がついています。バ身差は……おそらく50バ身は離れているでしょう! そしてここからさらにスパートを掛ける! まさに規格外、理解外のスタミナ、タフネスです!』
「まあ、確かにこれは目標にしちゃいけないかなあ。というか、出来ないってこんなの。スタミナが持ったとしても多分脚が持たないよこれ」
「ま、まあそうですわね……2,000mのレースと同じくらいの速度で3,600は流石にちょっと……」
「ライスも厳しいかな……ブルボンさんでも無理だと思う……」
他の皆も一人を除いて同じ意見らしい。ウマ娘の脚は消耗品だ。ニンゲンがやる駅伝やマラソンだって走ってる途中に骨折しちゃったり、脚が痙攣して動けなくなっちゃったりすることもあるらしい。
ウマ娘のレースは駅伝よりは短いけど、負荷に関しては何倍も高いだろうから、多分あんなペースで飛ばしてたらスタミナより先に脚が限界になる。異常なほどに頑丈なテウスだからこそ出来る、消耗を全く考慮しない逃げ。常識外れにも程がある。
「ボクもあれくらい頑丈なら……いや、うーん。頑丈なのは良い事だけどあそこまでは流石に要らないかなあ……」
ショージキ、ドン引きすることもあるんだよね。ここ五日間は何かタキオンから貰ったギプスを強化したらしいやつに、マックイーンが春天の時にしたトレーニング用のおっもい蹄鉄つけて、更におっきいタイヤ三本重ねたやつ引いて坂路走ってたし。流石に遅かったけど引けてるだけでドン引きだよ。
あの時はテウスはどこに向かうつもりなんだろって思ったね。ボディビルダーでも目指すのかな? 『最近脚が太くなってきた』とか言ってたけど、残念でもないし当然だよね?
「そうかしら? 私は欲しいわ。だって、沢山走れそうだもの。とっても気持ちいいと思うわ」
「まあ、スズカはそう言うよね……」
スズカは平常運転だ。多分スズカも3,200くらいまでなら走れる。道中3秒差をつける逃げを打てば勝てるってトレーナーも太鼓判を押してたくらいだし。
『さあラスト600! 通過タイム、にっ、2:59.8! 彼女が京都レース場で出した菊花賞レコード! そのタイムと全く同じタイムで残り600を迎えました!』
「うわあ……これもう圧勝どころのレベルじゃないじゃん……蹂躙だよこれ」
場内は興奮どころか静まり返っている。後続は10秒以上の差がついてるし。バ身差にするなら60バ身ってところかな? もう笑いしか出ないね。
うん、お世辞でもなんでもなく、既に越えられない壁だと思うよ? 壁って言うよりつるっつるの断崖絶壁だけど。掴んで登ることすら出来ないって。
これと有馬で戦うマヤノとネイチャ、大丈夫かなあ……? 2500ならうーん、ここまで差はつかないと思うけど……
テウスが出遅れして前が塞がればワンチャンある……かな? マヤノやネイチャなら多分その隙を逃さないだろう。でも、今年の有馬出走人数少ないっぽいしなあ……ボクも出ないし。うーん、でも最後に走りたかったな。引退するのちょっと早かったかも?
『そして今ゴール! 一着ブラックプロテウス、二着は無し! 勝ち時計、3:35.1! 勿論世界レコードです!』
そうしてテウスは後続に12秒くらい差をつけてゴールした。時代が時代ならタイムオーバーだけど、そのルールが適応されたとしても世界レコードだし一応記録は残る、だろう。まあ、それどころではないと思うけど……
ドーピング疑惑が出るのも仕方ないよね。これ。対応はともかく、疑惑が出たのはまあ仕方ないんじゃないかなって思う。あの時の対応はボク、今でも許してないけど。
「ふえぇ……もうむりむりですぅ……」
ゴールしたのち、タンホイザがフラフラと芝に倒れ込んだ。テウスのペースにつられて少し前に出てしまったがために、後半バッテバテになっちゃった可哀想なウマ娘の姿が、そこにはあった。合掌。
『世界レコードでエクリプス越え達成! そうして次は、年末のグランプリ有馬記念! これを制せば、秋シニア三冠、そしてシンボリルドルフを越える八冠ウマ娘の誕生です!』
大喝采を贈る観客たちに、テウスが手を振って応えている。今も昔も、ファンサービスを欠かさないウマ娘だ。だからこそ人気がある。オグリやボクほどじゃないけどね!
「そ、それじゃあウイナーズサークルに向かいましょうか。たっくさん祝ってあげないとね!」
一番早く持ち直したダスカがボクたちを引き連れてウイナーズサークルへ向かっていく。スズカの次に仲が良いだけに、持ち直すのが早い。ちなみにスズカは既に向かってた。
「勝ちましたよスズカさーん!」
「うふふ、おめでとうテウスちゃん。私もうれしいわ」
遅れてウイナーズサークルへ着くと、スズカがテウスに抱きしめられてグルグルと回されていた。スズカは動じることなく受け入れてた。
これが慣れか。そう思いながら、暫くぐるぐると回る二人を、ボクたちは眺め続けていたのだった。