漆黒の鋼鉄   作:うづうづ

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おひさしぶりです。こちらの方も短いですが更新します


第六十話 天皇賞春を終えて

 私は今、春の天皇賞を終えウイニングライブも終わった後、いつものようにインタビューを受けていた。

 

 毎回レース後に、何かアクシデントがない限りは必ずインタビューには応えるようにしている。ただ、今まで大体五割の確率程度でしかインタビューに応えられていないのはちょっと問題だと思う。別に意図してというわけではないのだが……

 

「次のレース目標についてお聞かせください。やはり宝塚記念ですか?」

「ああいえ、今年は宝塚記念には出走しませんよ」

「出走しない……? 間に何かレースを挟むというわけでもなく? 珍しいですね?」

 

 とりあえず今は次の出走予定について聞かれたところだったので素直に予定を回答した。ちょうど私をインタビューしていた乙名史さんは首を少し傾げている。周りの記者さんも同じような感じだ。

 あ、そういえば私、トレーナーさんとスピカの皆と両親以外には海外挑戦の件話してないや。

 というかレースに出ないと言っただけで珍しいと言われるとか私の評価はどうなっているんだ? 

 

「この夏はイギリスの長距離三冠レースに挑戦する予定です。前哨戦でヘンリー二世ステークスあたりも走れれば良いなと思っています」

「なるほど、次は世界の舞台にということですね。今の立場に胡坐をかくことなく常に高みを目指すその姿勢──素晴らしいです!」

 

 テンションの上がった乙名史さんがちょっと危ない顔をしていつものセリフを叫び始めた。こうなってしまうとどんなことを言っても素晴らしいですという言葉が返ってくるbotになってしまうので、インタビュアーとしてはしばらく役に立たない。

 

「あー、えっと。つまりは今後の舞台は欧州ということですね。長距離三冠レースが終わった後はどうされる予定ですか? やはりそのままフランスに行き凱旋門賞、といったところでしょうか? それとも同じ長距離のカドラン賞に?」

「凱旋門賞にするか、カドラン賞にするか、現段階では決めかねています。イギリスでのレース結果次第といったところでしょうか」

 

 乙名史さんを後ろに下げたおそらく同僚の記者さんの質問に素直に今の思いを伝える。正直全く行ったことない土地で戦うことになる以上、どうなるかはわからない。というか登録できるかどうかも不明だ。長距離三冠に関しては今のトレンドから外れているレースで最大出走数を割ることがザラなレースとなってしまっているので大丈夫だろうが、凱旋門賞とかは人気レースなのでどうなることか。でも去年ラムタラさんが勝った時も16人しか出走してなかったし大丈夫かな? 凱旋門賞は最大出走人数20人のレースだし何とかなるかもしれないけど、その時になってから考えよう。

 

「ありがとうございました。海外でのご活躍も期待しています」

「ありがとうございました。他に質問のある方はいらっしゃいますか? いらっしゃらないようなので今日はこれまでとします。ありがとうございました」

 

 大体のインタビューを終えて場を後にする。ちなみにトレーナーさんは別にインタビューを受けている。その為、インタビューが終わるまでは待機時間だ。

 

 そう思って控室に帰ろうとしたタイミングで丁度トレーナーさんと鉢合わせた。いいタイミングだったみたいだ。

 

「お、テウス。丁度良かったな。荷物纏めて帰ろうか」

「そうですね。皆さんも待っているでしょうし早めに済ませますね」

 

「忘れ物無いようにな。あ、そうだ。忘れ物で思い出した。今ついでに話しておくけど海外遠征前に一度帰省してパスポート取って来い。2~3週間くらいかかるから大至急な。年越しも帰ってないそうだしちょうどいいタイミングだろう。届出出せば公欠になるはずだ」

 

「そういえばそれも必要になるんですね。わかりました。後でたづなさんに連絡して公欠の手続きしてもらいます。パスポート自体は持ってるので大丈夫ですよ。トレセンに入る前にお祝いで海外旅行に行ったときに取りました。期限も大丈夫なはずです」

 

「18歳未満なら期限は取ってから5年間だから……大丈夫そうだな。俺の方が危ないか。何処仕舞ったかな……」

 

 そうか、海外行くならパスポートとか必要になるのか。パスポートは実家の自分の部屋の棚に三日坊主になった日記と一緒にしまってあるはずだ。帰省ついでに取ってこよう。

 これを機についでに日記も再開しようかな? いや、また走るのに夢中になって三日坊主になるのが目に見えている。やめておこう。とりあえず家に帰ることをお母さんに伝えて……

 

「テウスー? 考え事はとりあえず着替えてからにしてくれなー?」

「あっ、ごめんなさい。すぐ着替えてきますね!」

 

 考え事しながら歩いていたらトレーナーさんに怒られてしまった。とりあえずさっさと着替えてくることにしよう。

 

 待たせている皆のためにも駈歩で控室に向かい、着替えを急いで済ませるのだった。

 

 

 

 

 

 そうして、月曜日に申請書を出して翌日の火曜日、とあるウマ娘を一人連れてギリギリ都内にある実家に戻った。電車ですぐ帰れるからか結局入学してから初めての帰省になる。

 

 急ぐ理由もないのでお昼ぐらいに着くように計算して電車に乗り、二回乗り換えを挟んで実家の最寄り駅で降りて駅のメインの入り口から出て、少しお手洗いに行った連れの相手を待っていると、広場のようなところのど真ん中にとっても見覚えのあるウマ娘の銅像が建っていた。私である。銅像のプレートを見ると『ブラックプロテウス 無敗三冠記念』と書かれていた。

 

 本人に何の断りもなくなぜこんなものが建っているのか。というか電車に乗る前に一度電話したのだがその時お母さんは何も言っていなかったのに……! 

 

 

「あっ、あのっ! もしかしてブラックプロテウスさんですか!? 大丈夫ですか?」 

 あまりの出来事に少し頭痛を覚えて頭を抱えていると、後ろから声を掛けられた。振り返るとスーツを着た女性が居た。こんな目立つところで頭抱えてたらそりゃ目立つか。今回は特に変装とかもしていなかったし。

 

「ああはい、そうですよ。こんにちは。久々に帰ってきたんですけどこんなものが建っていて驚いていたところです」

「ああ……まあ、驚きますよねえ。ブラックプロテウスさんの出身小学校なんて凄いですよ。レースで勝つたびに『○○優勝!』みたいな垂れ幕が掛かって名物みたいになってます」

「なにそれきいてない」

 

 本人に何の断りもなくなぜそんなことしているのか。いやそういえばトレーナーさんに垂れ幕がどうのって言われたことがあったような……? 特に興味がなかったのでお任せしていたのだがまさかこんなことになるとは……

 

「とりあえずサイン貰えますか! えっと、このスマホケースに……」

「ああはい、いいですよ。──はいどうぞ」

「ありがとうございます! 家宝にしますね!」

 

 そこまでしていただかなくても……と思いつつポケットにペンをしまいながら去っていくOLさんを見送る。サインは良くねだられるので常にポケットにペンを入れるようにしてある。持っていないと流石に不便なので。

 

 そうしていると軽自動車が止まった。ア○トである。とても見覚えのある車だ。主に実家で使用していた普段使い用の赤い軽自動車だ。

 

「あ、いましたね。クウちゃん、お待たせしましたか?」

 

 運転席の扉が開き、中から線の細い長めに整えられた黒髪のウマ娘が降りてきた。何を隠そう私の母親である。身長は私と同じくらいだし、顔も私にそっくりなのだが体格は結構違う。折れそうなくらい細い、と言ってもいいくらいで儚げな印象を与える女性だ。

 

「お母さん。お迎えありがとう。久々に会えて嬉しいです。あんまり帰らなくてごめんね」

 

 お母さんに駆け寄って抱き着く。懐かしい匂いだ。とても暖かくて落ち着く匂い。私の大好きな匂いだ。

 

「いいのですよ。クウちゃんには今が一番大事な時期ですから。さあ、帰りましょうか。御父様と御母様が首を長くして待ちわびて居ますよ」

「あ、はい。あ、でもまだ連れの相手が来ていないので……」

「先輩さんでしたね。あ、見えたようですよ」

 

 そうこうしているとお手洗いから戻ってきた栗毛の穏やかそうなウマ娘がこちらに小走りで向かってきた。

 

「お待たせしてしまいましたか、テウスちゃん」

「いいえ、丁度いまお母さんが来たところでしたので、大丈夫ですよ、グラスさん。あ、紹介するね、お母さん。こちらはグラスワンダーさん。グランプリ連覇の偉大なるウマ娘です」

「(グランプリ連覇はテウスちゃんもしているのでは……?)グラスワンダーと申します。よろしくお願いいたします」

 

 今回同行しているウマ娘はグラスワンダー。チームリギルのウマ娘であり本来なら同行するような立場ではないのだが、以前私がお裾分けした漬物のお礼の手紙をきっかけにおばあちゃんと親交を温めていたらしく、今回丁度トレセン学園の広報活動で休日にURAへ赴いた際の代休を取っていたため一泊二日だけだが帰省に付き合ってくれることになった。ちなみに私の帰省期間はまるまる二週間。代休が溜まりに溜まっていた結果がこれである。休む理由も見当たらなかったので使わなかったのだがこの機会にまとめて使うように、との学園長によるお達しのためだ。その後は多分殆ど間を置かずにイギリスに行くことになるだろう。

 

「貴女がグラスワンダーさんですね。母からお話はかねがね伺っております。ブラックプロテウスの母のソフィスティケートと申します。うちの娘がいつもお世話になっております」

「いえこちらこそいつもお世話になっております。いつもトレーニングに付き合わせてしまっていて」

「どちらかというとうちの娘の方が引っ張っていっているのでしょう? ごめんなさいね。昔から走るのが大好きで抑えが利かない子でして。放っておくと崖から転げ落ちて服をぼろぼろにして帰ってくるくらいに」

 

 お母さんの何の遠慮もない暴露に顔が熱くなる。私に関わったことのある人にはもう大体ばれているだろうことだけれど母親からぶっちゃけられるととても恥ずかしい。

 

「も、もう! お母さん! その話はまだ小学生だった頃の話だよ! 今は……少しくらいしかぼろぼろにしないし!」

「言い訳になってませんよテウスちゃん……」

 

 グラスさんに冷静に突っ込みを入れられ押し黙る。宝塚記念の前とかに勝負服を破ったり金鯱賞の時に背中で滑った時に体操服の背中の部分が少し破けたりしたくらいだ。結構破いてるわ私……

 

「と、とりあえず早くお家に帰りましょう!」

「ふふっ、そうですね。立ち話も何ですし、どうぞグラスワンダーさん、狭い車ですが乗ってください」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 そう言って自然な流れで運転席の後ろの席にグラスさんを乗せ。私は助手席に乗る。ここはいつも私の特等席なので。やっぱり前で見る景色はいいものだ。風は感じられないけど景色が速く流れていくのはとても楽しい。多分走った方が速いというのはここに居る全員に共通しているけれど言いっこなしだ。

 

 そうして30分ほど車を走らせると実家に着く。道場と鍜治場が併設されているだけあって結構な大きさの和風なお家だ。ここには父と母と、母方の祖父母が住んでいる。ちなみに父方の祖父母は病院を経営している関係上ここにはいなかったりする。なおそれぞれ耳鼻科医と眼科医なのでお世話になったことは今の今まで一度もない。

 

「窺ってはいましたが……すごく良いお家ですね」

 

 車から降りてグラスさんの第一声がこれだ。尻尾は興奮したようにぶんぶんと揺れているし、見るからにテンションが上がっている。

 

「グラスワンダーさんは和風なものが御好きと窺っていますから、我が家は楽しめるかもしれませんね」

「後でおじいちゃんのところに行って蹄鉄とか打ってもらいましょう。私も打てますけどおじいちゃんはほんとすごいんですよ。薙刀の穂先も作れますけど所持するなら申請しないといけませんし」

「流石にそこまでは……でも鍛えるところは見させていただきたいですね。とても興味があります」

 

 そうして半ば探検するような形で実家での交流が始まるのだった。

 

 

 

 なお、宿泊予定を一泊二日から土日を合わせて五泊六日まで延長した挙句お祖母ちゃんの『うちの子になる?』という冗談に『私此処に住みます』と即答したグラスさんを送り返すことに何とか成功したのはまた別の話である。




『ソフィスティケート』趣味、考え、態度などが都会的に洗練されていること。

なお同名の馬が居ないことを投稿時点のJBISサーチで確認しています
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