漆黒の鋼鉄   作:うづうづ

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ダスカちゃんとウオッカちゃんが何時クラシック走ったのかわからなかったので今期走らせることにしました。

主人公は今回空気です。代わりにバクシンしています。

自分でも書いてる途中で何を言っているのかわからなかったので、フィーリングでお楽しみください。


第九話 ヴィクトリアマイル

 

 

 私たちチームスピカのメンバーは春の府中、東京レース場に集まっていた。

 

 今日はスズカ先輩の日本でのレースの復帰初戦、GⅠ、ヴィクトリアマイルである。

 

「スズカさんのレース、楽しみです!」

 

「うん、ボクも楽しみ。日本でのレースを見るのはひっさしぶりだからねー」

 

「ですがスズカ先輩はアメリカでは殆どダートを走っていたのですのよね? 日本の芝の感覚を忘れていないと良いのですが……」

 

「スズカなら余裕だろー。なあなあトレーナー、焼きそば売ってきていい?」

 

「頼むから後にしてくれ……」

 後ろで先輩たちがフリーダムな会話を繰り広げているのを横目に、パドック入りを待つ。

 

「東京レース場か……来週にはアタシが、再来週にはウオッカがここで走るのよね……」

 

「ああ、ワクワクするぜ……スカーレット、風邪引いて走れなくなったりすんなよ?」

 

「うるさいわね! アンタこそ気を付けなさいよね!」

 私の両脇ではスカーレット先輩とウオッカ先輩が楽しそうに喧嘩をしている。仲が良いのは良いことなのだが、私を挟んで喧嘩しないでほしい。

 

 スカーレット先輩とウオッカ先輩は既に桜花賞で二度目の戦いを終えており、1と1/2バ身差でスカーレット先輩が勝利している。一度目の戦いでの雪辱を果たした感じだ。

 私はその頃は丁度ライブのレッスンをしていて、阪神レース場には行けなかったのだが、テイオー先輩と一緒にタブレットで観戦していた。

 GⅠのレースはタブレットで見ても迫力がすごくてつい応援に熱が入ってしまい、ゴールの瞬間にはテイオー先輩に抱き着いてしまったほどだ。

 テイオー先輩は笑って許してくれたが、暫く顔が見れなかったくらいには恥ずかしかった。

 

 スカーレット先輩は来週のオークス、ウオッカ先輩は再来週のダービーを目指しているため、次に二人が当たるのは秋華賞か、その前のローズステークスあたりだろう。

 今度はちゃんと現地に応援に行きたいと思っている。

 

 

 

『さあ、春のマイル女王決定戦! 東京レース場、第11レース。ヴィクトリアマイル。注目のパドックです。18人のウマ娘たちを紹介しましょう』

 話しているうちに、ついにパドック入りが始まる。スズカ先輩は3枠6番での出走だ。

 スズカ先輩以外で注目なのは、3枠5番のノースフライト先輩と、1枠2番のサクラバクシンオー先輩だろうか。

 

 ノースフライト先輩は真ん中に穴を開けた海老色のかわいいカクテルハットを左耳に通して被っている鹿毛のウマ娘で、中団あたりから余裕をもって抜け出して行く、好位追走を得意とするウマ娘だ。勝負服は羽を連想させる衣装が特徴的なドレス風衣装。後ろから見ると結構露出度高めな気がする。

 マイル戦を得意とするウマ娘で、一着となったレースはその全てがマイル戦。マイルの女王と呼ばれており、今期のマイル戦を引っ張っていくであろうと言われているウマ娘だ。

 

 サクラバクシンオー先輩は右耳にシュシュみたいな耳飾りを付けている鹿毛のウマ娘で、主に短距離戦を得意としている。彼女も好位追走を得意とするウマ娘だ。先行から逃げ、といった感じの脚質といったところだろうか。

 スプリントの王者、驀進王とまで言われるほどのスプリンターであり、ここまで短距離においては10戦9勝、唯一の負けもGⅠスプリンターズステークスで4着と好走している。

 マイル戦において勝ちに恵まれていないが、実力は十分だろう。

 

『3枠6番、サイレンススズカ! アメリカからの遠征を終え、府中に舞い戻りました。本日、圧倒的一番人気となっています』

 

『アメリカでは主にダートを走っていたようですが、それでも凄い人気です。遠征帰りの疲れも見えませんし、仕上がりは完璧に見えますね。今日は彼女の得意とする左回りですし、この人気も納得ですね』

 スズカ先輩の番になると、一段と大きな歓声が上がる。正面をしっかり向いて胸のあたりで一回拳を握る。スズカ先輩の調子がいいときにやるポーズだ。仕上がりはばっちりらしい。

 

 スズカ先輩と会うのは一週間ぶりだった。昨日まではレースでの調整があって、私と二人にすると勝手に走り出して調整どころではなくなるからとトレーナーさんから接触禁止令が出ていたのだ。

 

 結構不満だったのだが、トレーナーさんの言っていることは全面的に正しいと思ったので我慢した。その代わりに明日は一日併走してくれる予定だ。

 

 

 

 パドックが終わり、一度スズカ先輩がこちらに戻ってくる。スズカ先輩は穏やかな笑みを浮かべていて、リラックスしているようだ。

 

「スズカ先輩、お疲れ様です。今日は頑張ってくださいね」

 

「ええ、ありがとう。テウスちゃん。駆け抜けてくるわね」

 

「スズカさん、頑張ってください! あ、レース前に人参焼き食べますか?」

 

「スペちゃん、大丈夫よ。それはスペちゃんが食べて」

 私の労いに笑顔で応えてくれた後、スペ先輩が差し出した人参焼きを丁寧に断っている。ドリンク程度ならともかく、レース前に食事するのはスペ先輩くらいなものだと思うのだが……

 

 そうして少し話した後、地下バ道までスズカ先輩を見送りに行く。トレーナーさんが一言二言、スズカ先輩に言葉を掛けた後、スズカ先輩は行ってきます、と一言だけ私たちに言い、笑顔でコースへと駆け出して行った。

 

 

 

 

【サクラバクシンオーSide】

 

 

 

 

 今日は待ちに待ったヴィクトリアマイル!! 今日は何と! あのスズカさんが出走するのです!

 

 ノースフライトさんも手強いライバルですが、一番の強敵はスズカさんでしょう!

 

 ノースフライトさんもそう思っているのか、スズカさんをずっと見ています。このレースはどれだけスズカさんについていけるか。それが勝負の分かれ目となるでしょう!

 

 つまりは、バクシン! 正々堂々、私の全ての力でバクシンすれば良いのです!

 

「スズカさんッ!! この『ヴィクトリアマイル』、私は正々堂々とバクシンし、貴方に勝利することを誓いますッ!!」

 というわけなので、スズカさんに関白宣言をしておくことにしましょう!!

 

「え? ……ええ、でも、私は絶対に先頭は譲らないわ。たとえ、誰が相手であっても」

 スズカさんも戦意バッチリのようです! これは学級委員長として、絶対に負けられませんね! バクシンにバクシンを重ねて、バクシンせねばなりません!

 

 

 

 スズカさんに宣言をし終えたタイミングで、ファンファーレが鳴り響きました。ようやく出走のようです。私たちはゲートに入ります。

 流石に皆さん慣れたもので、スムーズにゲート入りしていますね。うんうん、とても良いことです!

 

『女神見守る府中に天使が舞い降りる! ヴィクトリアに見染められたものが勝者となる!』

 

『三番人気のウマ娘はこの娘です、サクラバクシンオー』

 今日の私は三番人気です。ですが構いません。何故なら、最後までバクシンしたものが勝者だからです!

 

『二番人気を紹介しましょう、ノースフライト』

 ノースフライトさんは二番人気、流石はマイルの女王です!

 

『スタンドに押し掛けたファンの期待を一身に背負って、グランプリウマ娘、サイレンススズカ。一番人気です』

 そして一番人気はスズカさん! 異次元の逃亡者、その実力は確かです! 故に! 私はいつも以上にバクシンします!

 

 ググっと身構えてスタートの準備をします。いざ、バクシン!

 

『各ウマ娘、ゲートに入って体勢整いました。そして今……スタートしました!』

 ゲートが開き、私はスタートを切りました。今までで一番良いスタートが切れたでしょう!

 

 ですが、スズカさんは私より前に居ます。スタートの技術、その後の加速、どれをとってもやはり一流です。私は彼女の後ろ、二番手に付けて機会をうかがいます。

 私の後ろにはノースフライトさんが居て追走してきています。彼女も良いバクシンですね!

 

『スローペースになることが多いこの東京レース場芝1600、今日は圧倒的ハイペースで進んでいます! 何とテンの3ハロン、33.7秒だ! サイレンススズカ、ぐんぐんと後続を突き放していきます!』

 

 何という速さでしょう! スズカさんは私をぐんぐんと突き放していきます! 

 まるで短距離を走っているようです! このまま突き放されてはいけない、私はそう思ってペースを上げます。何としてでも食らいついていかねば!

 

『負けじとサクラバクシンオー、ノースフライトもペースを上げていきます。今1000mを通過して、1000m通過タイムは56.5! コーナーと上り坂で少しペースが落ちましたが、何というハイペースだ! これは短距離レースか!?』

 

 去年走ったスプリンターズステークスと同じくらいのペースで走っている気がします。

こんなペースでは私の脚も持ちません。

 

 ですが! 委員長たるもの最後までバクシンせねばなりません! 根性を振り絞って第4コーナーを越え、最後の直線に入ります。最後の直線の途中も緩やかに上っていますが、諦めなければきっと追いつけます!

 

 脚に力を入れ、スパートの体勢に入ります。残っている脚を全部使うつもりで、一気に加速していきます。ノースフライトさんも負けじと加速して、私に並びかけてきます。

 

 ――ですが、スズカさんは左足をぐっと踏み込むと、そこから更に伸びていき、私たちを突き放しました。

 

 これが噂に聞く、逃げて差す脚。異次元の逃亡者と言われる所以となった、異次元の逃げ足ですか!

 

 必死に追いすがろうとする私もノースフライトさんも全く追いつけず、7バ身、8バ身とぐんぐん引き離されていきます。

 

『サイレンススズカ、これは余裕の走りだ! 2番手との差は縮まらず、いやさらに引き離していく! これが世界の実力! これが異次元の逃亡者だ!』

 

 何という速さ! 何というバクシンでしょう! これが、サイレンススズカ――!

 

『大楽勝だ、サイレンススズカ! 後ろを突き放して、大差でゴールイン! マイル戦で大差勝利! 圧倒的な実力差でレースを制しました! 勝ち時計は1:29.0、掲示板にはレコードの4文字が輝いています! 2着はノースフライト、3着はサクラバクシンオーが入りました!』

 私は脚を使い果たしてしまい、上り坂でノースフライトさんに抜かれてしまいました。ですがマイルでの自己ベストでしょう。そう思えるくらい、今までで最高のバクシン具合でした。

 

 ですが私は3着。つまりはバクシン度合いで、私はスズカさんにもノースフライトさんにも負けてしまったのです。これは鍛えなおす必要がありますね!

 

『鎬を削る熱い戦いを制し、見事女王の戴冠を受けたのはサイレンススズカ! スタンドを揺らすほどの大歓声が鳴り響いています!』

 

 スタンドからの大きな祝福がスズカさんに鳴り響いています。ですが彼女はゴールしたことに気付いていなかったのか、400mほどは全力で走っていました。暫くして辺りを見回すと気付いたのか、観客席に向けて小さく手を振っていました。

 

 スズカさんのあまりの速さに、そしてそのスタミナに悔しさよりも先に恐ろしいと思います。ですがそれ以上の尊敬を、私は抱いています。

 彼女こそ世界最強のウマ娘だ。そう思える何かがスズカさんにはありました。

 

 

 

 今回は完敗でした。ですが! 次は必ず勝って見せます! その為に、明日の為にこれからさらにバクシンしていきましょう!




ブラックプロテウス
サイレンススズカが最終直線に差し掛かったタイミングでテンションが振り切れ隣のウオッカに抱き着いたしゴールしたタイミングでそのまま抱き上げてぐるぐると振り回した。

サイレンススズカ
気持ちよく走りすぎてゴールしたことに気付かなかった。

サクラバクシンオー
脚が持たなかったのでバクシン的トレーニングを増やそうと思っている。


参考:中央競馬芝1600m 3歳以上レコード 1:30.3(トロワゼトワル 2019年9月8日 中山競馬場)
ヴィクトリアマイル レコード 1:30.5 (ノームコア 2019年5月12日 東京競馬場)

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