【完結】現実世界のネット販売で売ってるような便利グッズを無限に取り出せる能力を持った男が「実験」と称して異世界の弱小国家をのし上がらせるお話。   作:主(ぬし)

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Amazonを見てたら思いつきました。ライオットシールドとか暴徒鎮圧用ヘルメットとか、品揃え凄いですもんね。これを異世界に、考えなしに、制約なしに放り込んだらどうなるのかを描いてみました。楽しんでもらえれば幸いです。


第一話

「もうダメだ……」

 

 若き領主は頭を抱えて絶望に呻いた。一ヶ月前から、彼の治める都市国家は城壁をグルリと敵軍に囲まれていた。目と鼻の先には敵が臨時の砦を建設し、常に睨んできている。多勢に無勢とはこのことで、自軍5千に対して敵軍は3万。自軍は、常備軍とは名ばかりで、装備も体格も貧弱だ。歴戦の侵略軍とは雲泥の差がある。

 さらに、城壁内には逃げてきた民衆合わせて2万人が詰めて、己の末路を想像して戦々恐々としている。和平交渉の使節はことごとく生首だけとなって帰ってきた。勝利を確信しているはずなのに、残虐な敵軍は近くの川に毒を流し、容赦のない兵糧攻めを仕掛けてきている。破れかぶれの戦いに打って出ても勝てる見込みはなく、このままでもジリ貧だ。だいぶ前に近くの都市国家に援軍要請を送ったが、まず怖気づいて来ないだろう。侵略軍は残虐で恐ろしく、決して容赦しない。一度撃退しても、何度でも襲いかかってくる。抵抗した都市国家が辿るのは口にするのも恐ろしい結末だ。

 全てにおいて、この都市国家の行く末は絶望的だった。領民思いの若き領主は私室に一人、悲しみの沼に沈み込んでいた。

 

すみません(・・・・・)ちょっと(・・・・)お話いいですか(・・・・・・・)?」

 

 一人のはずだった。いや、ついさっきまで絶対に一人だった。

 椅子を蹴り飛ばして驚愕に立ち上がる。机を挟んで眼の前に、いつの間にか男が立っていた。どこにでもいそうな男だった。どこにいてもわからなそうな男だった。奇妙な服装で、見たことのない人種の、意思薄弱そうな中途半端な笑みを貼り付けた中肉中背の男だった。二十代前半だろうが、世の中の厳しさを知らずに育ったように、雰囲気がまったく引き締まっていない。到底、暗殺者とは思えないが、どこからやってきたのかまったく見当がつかない。

 驚いて口を利けない領主に、男が軽薄な笑みを浮かべたまま、控えめな口調で話しかける。

 

「僕の実験に付き合ってもらっていいですか?」

実験(・・)?実験だと?」

「ええ、ええ。そうです。僕のこの能力───いろんな便利グッズを無限に召喚できる能力が、果たして異世界でどこまで通用するのか、試してみたいんですよ」

 

 そう言って、男がにっこりと笑った。なんの含むものもなく純粋な笑みは、彼に他意がない現れだった。つまり、彼は純粋に、“実験”がしたいのだ。

 背に腹は代えられない領主は、この状況を覆せるのならたとえ悪魔でも構わないと、男の手を握ることにした。

 

 

 

歴史が変わった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ、まだ奴らは音を上げないのだ!」

 

 けたたましい怒声が砦に響き渡った。都市国家をぐるりと包囲する軍における最高司令官、すなわち残虐で名を知られる将軍の声であった。猪首に禿頭を乗せた巨漢が拳を机に振り下ろし、窓の外の暗闇に見える都市国家を怒りを浮かべて睨みつける。

 

もう5ヶ月(・・・・・)経ったぞ(・・・・)!」

 

 参謀たちが押し黙って俯く。彼の詰問に答えられる者はどこにもいなかった。

 包囲して一ヶ月までは順調だった。周囲の領民を追い立てて城壁内に閉じ込めることで、食料備蓄に負担を強いる。食料のなくなった人間は途端に暴徒に変わる。都市国家の兵士が戦うどころではないほど疲弊し、領主に至るまで餓死寸前に追い詰めたところで情け容赦なく一気に蹂躪するのが将軍のやり方であり、趣味であった。そのために城壁をグルリと兵士で取り囲むと、都市国家の正門前に簡易的な砦を築城して睨みをきかせ、心理的な圧迫を行った。この攻め方で彼は幾つもの都市国家を滅ぼしてきた。

 だが、一ヶ月経った頃から計画は狂い始めた。

 

「川に毒は流し続けているのだろうな!?」

「は、はい。毎日3回、必ず。そのせいで自軍の兵士の飲み水にすら苦労するほどで」

 

 後半は現場指揮官からの苦情だった。籠城している敵を弱らせ、喉を渇かすために川の上流から毒を流したのだが、それが長期間に及んだせいで、同じ川を使用する自分たちにも少なくない被害が出ているのだ。しかも5ヶ月も続けているせいで、3万人もの兵士のための生活用水が確保できない事態になってきていた。動植物もいなくなり、食料も取れない。

 

「奴ら、水を使っていないとでもいうのか!?」

「それが、下流の部隊の報告によれば、城壁内から出てきた下流の水から石鹸の香りがプンプンとしたということでした。信じられんことですが、どうやら大勢が風呂に入っているようです」

「そんな馬鹿なことがあるか!」

 

 城壁内に川の流れを引き込む都市国家は、戦争時に上流から毒を仕込まれることはよくあることだった。だから、普通は井戸を掘って戦時には地下水を汲み上げられるようにしている。今回、事前のスパイ調査によって、城壁内の井戸が少ないことはすでに知っていた。2万人を維持できるほどの水源はないはずだった。籠城させればすぐに枯れ果てるはずだった。それが、風呂に入る余裕すらあるというのだ。どこから水を得ているのか、見当もつかなかった。

 

「それだけではありません、閣下」

「なんだ?……いや、言わんでもわかる。黙っていろ」

 

 窓の外から肉を焼く香ばしい匂いと祭り騒ぎの黄色い音色が侵入してきて、将軍は自分の腹が物欲しそうに唸るのを無理やり抑え込んだ。都市国家の城壁内からは、豊かな食事の香りが常に漂っていた。とうに食料備蓄は途切れておかしくないのに、肉も野菜も穀物も底なしのようにどこからともなく溢れ出てきているようだ。夜な夜な、避難民たちが祭り騒ぎを開いていることから、食料も酒も潤沢にあるらしいことがわかる。暴徒になるどころか、城壁の強化工事に積極的に加わる様子がそこかしこで見られる始末だ。避難民から志願兵が生まれている可能性も十分に考えられる。

 

「ちくしょう、いったいどこから仕入れているんだ。商人なんて一人も入れてないのに」

 

 若い指揮官が憎々しげに呟く。城壁の上でこちらを監視する敵の守備兵たちが、湯気が立ち昇る具だくさんのスープと両手いっぱいの白パンをこれ見よがしに頬ばる様子に、自軍の兵士たちはよだれを垂らすことしか出来ない。それが一日に4回もあるのだ。白パンだけではなく、色とりどりの焼き菓子まで配布されている。砂糖と小麦が焼ける甘く香ばしい匂いが否応なく鼻孔に突き刺さり、苦痛極まる。砦を囲む自軍兵士の食事は一日2食に減らされ、スープの具も保存肉数切れとそのへんの野草だけなのだ。

 

「地面の下にも、川の下にも、抜け道も抜け穴もありません。蟻の一匹とて通れないはずです」

「奴らの食料は無尽蔵なのか?このままでは我々のほうが干上がってしまうぞ」

「むしろそれを待っているのではないか?」

「あり得る話だ。部下たちを抑え込むのももう限界だ」

 

 参謀が頭を抱える。彼らは侵略することで兵士たちの腹を満たしてきた。無力な人々を殺し、奪うことで、彼らの底なしの欲望を開放してきた。それが出来ないと、反乱の危険すらある。なにせ定住せずに常に侵略しながら行動する彼らは最低限の保存食しか持たないのだ。しかも。

 

「閣下、もう冬も本格化しつつあります。常勝し続けてきた我が軍といえど、これ以上は……」

 

 先手大将として長く貢献してきた歴戦の部隊長が、彼には珍しく弱音を吐いた。彼の言うとおり、冬の寒波は着実に近付いていた。燃料として近くの森を伐採し続けているが、半年が経過しつつあるにつれて枯渇が心配され始めている。城壁内では敵軍が無限を疑う燃料を用い、湯を温めて贅沢に暖を取っている。だが、包囲しているこちらはろくに焚き火すら燃やせなくなってきている始末だ。寒さによって風邪を引く者も少なくない。不衛生で食料もない環境で風邪を拗らせたら、大の男も簡単に死ぬ。

 

「攻城兵器はどうだ。なぜ突破口を開けられない」

「いくら鉄球をぶつけて城壁に穴を穿っても、次の瞬間には黒い泥のようなものを押し込まれて塞がれてしまいます。奇妙な臭いの黒い泥はすぐに固まって硬くなるのです。あのようなものは見たことがありません」

「ハシゴをつけて城壁を乗り越えようにも、鋭い棘がついた金属のロープが幾重にもずらりと並べてあって、乗り越えようとした兵の手や身体に食い込んでしまう始末です。あんなものがこの世にあるなんて知りませんでした。恐るべき金属加工技術です。この国を滅ぼしたら、ぜひ開発者を技術奴隷として連れ帰りたいものです」

 

 得意とする攻城戦においても歯が立たないとくれば、どうしようもない。攻めあぐねている間にも寒波は近づいている。この地域の冬は厳しい。満足な物資もないまま大所帯の軍が乗り越えられるとは思えなかった。

 

「……閣下、引き際やもしれません。どのみち、兵力で劣る奴らが逆攻撃に打って出ることはないでしょう。それは自殺行為であることは奴らも知っているはず。我らが去るのを待つ籠城計画を取っているのが間違いない以上、遺憾ながら、被害が大きくならないうちに撤退すべきです」

 

 将軍は半分の耳でそれを聞いていた。彼はそれよりも士気の低下を問題視していた。自軍と敵軍の士気が反比例していると、戦いで培った勘がひしひしと訴えていた。何かがおかしい、このままではまずい、と危機を訴えていた。敵の守護兵はたかが5千。しかも侵略戦争を何度も経験して歴戦の自軍兵士と違って経験は不足し、貧弱のはずだ。だが、城壁の上を警備している敵兵たちの体格が遠目にも見る見る大きく立派になっていくのを見るにつれて、両者の差が急速に埋められていくのをひしひしと感じていた。狩人の自分たちが腹を空かして疲弊する一方、獲物の牙が鋭利に研がれて輝きを増していく。その理由がわからないことがまた焦りを生む。

 

「撤退、だと?」

 

 顔面が焼けたヤカンのように赤くなり、血管が浮きあがる。爆発して激昂するか否かと思われたが、将軍は机をもう一度殴りつけて怒りを発散させると感情を押し殺した声で命令を告げた。

 

「……あと一ヶ月だ。ひと月堪える。あともう少し様子を見るのだ。兵たちには装備を置いて休息を取らせろ。すぐに戦うことはないだろうからな。体力を温存させろ。それと、本国までの帰路に帰国物資の準備をさせろ。ひと月後に……撤退を開始する」

 

 参謀たちがホッと安堵する。この将軍がすんなりと撤退を選択するのはあまり例がなかった。本国に帰れば少しばかり糾弾され、ライバルである他の将軍たちから馬鹿にされるだろう。それを堪えるのは、短気な彼にはひどく我慢ならないことだろう。それを呑み込んでくれたというのだから、参謀たちは心から安心して緊張を解いた。なにはともあれ、この奇妙でひもじい籠城戦はもうすぐ終わるのだ。犠牲も最小限で済む。滅ぼす機会は、この先いくらでもある。その時に、この美味そうな匂いをさせるご馳走や、今も祭りで楽しそうな声で笑う女たちを奪えばいいのだ。

 そう思えば、諸将たちの気も晴れた。小さな都市国家など、いつでも攻め滅ぼせる。今回はたまたま、相手の備蓄が多かっただけだ。

 

「戦議はこれで解散とする。持ち場に戻るがいい」

 

 将軍の一言に弾かれるように席を立った各部隊の指揮官たちが、急ぎ足で己の部隊のもとへ駆けていく。弱った部下たちをなるべく早く装備を解かせて省力状態に移行させたかった。彼らが真面目で部下思いなのではなく、兵士の損耗はそのまま指揮官である彼らの命に繋がっているからである。部下を失いすぎると命を以て責任を取らされるとあっては必死になるのも当然だった。彼らは部下が奪った金品や奴隷といった戦利品を接収する権利を与えられているが、部下が無駄に死んだりしたら己の首を差し出さなければならないのだ。今回の遠征は儲けは少なかったが、まだ生きて帰れる。それだけで僥倖だ。次こそは、必ず落とす。次こそは。

 

 

 

「───次なんてねえよ」

 

 

 

 

 城壁の上で、()()()()()()指向性集音器(ガンマイク)を耳に当てた兵士が、殺意をこめて呟いた。




武富健治先生の『古代戦士ハニワット』が面白いです。
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