【完結】現実世界のネット販売で売ってるような便利グッズを無限に取り出せる能力を持った男が「実験」と称して異世界の弱小国家をのし上がらせるお話。   作:主(ぬし)

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異世界転生者のモデルは自分です。同じ能力を持って異世界に行ったら、きっと僕はこうするだろうなと思って書いてます。


第二話

4ヶ月前

 

 

「俺たちは夢でも見てるのか?」

 

 守備兵たちは、目の前の光景が信じられなかった。テーブルには、見たこともないほど豪勢な肉やパンが、見たこともないほど山盛りに盛り付けてあった。痩せたヤギやブタではなく、まるまると太った牛や鳥の肉だ。野菜も果物も瑞々しく、まん丸に滋養を蓄えて膨らみ、輝くばかりに熟れている。文字通り皿から溢れた焼き立てパンの山は見ているだけで涎が止まらない。熱々のスープは具だくさんで、スープより具の方が多いかもしれない。美しいガラスのコップには果実を絞った色鮮やかなジュースが並々と注がれている。

 つい昨日まで、自分たちは残酷な敵兵に城壁を包囲されて、食料もままならなかったはずだ。絶望的な状況のはずなのに、大広間のテーブルにこれでもかと敷き詰められたご馳走の数々に、兵士たちは圧倒されて動きを石のように止めていた。

 

「遠慮はいらない。食べてくれ」

 

 大広間に若領主の堂々たる声が響いた。打ちひしがれて私室に引き篭もっていた人間とは思えない、自信に満ち溢れた声と顔で、若領主が笑う。

 

「好きなだけ、食え!」

 

 それが呼び水となり、兵士たちは一斉に目の前のご馳走に飛びかかった。目が飛び出るかと思うほど美味いご馳走だった。幻覚ではないことを確かめて目から涙が溢れる。

 

「こんなに美味いものは食ったことがねえ!なんなんだよ、この肉は!」

「うめえ、うめえよ!」

 

 食べたことのないパンや果物もあったが、全てが美味だった。パンは中にハムやチーズ、ナッツや青野菜を贅沢に挟んだものもあった。いくら食べてもまだまだあった。見たこともない野菜も、まるで果実のように甘かった。

 一人、ご馳走を食べるのに乗り気でない兵士がいた。まだ年若い彼がおずおずと若領主に伺いを立てる。

 

「領主さま、これを家族に持って帰ってやってもいいですか?」

 

 彼の家族は貧しく、病気がちな母と幼い弟と妹は兵士である彼の稼ぎで生きていた。

 

「ならぬ。その食料は諸君らのための分だ」

 

 若領主の彼らしくない非情な応えにギョッとする一同。そんな彼らをよそに、若領主は彼の傍らに控えていた奇妙な風体の男を振り返り、意志を込めて頷く。

 

「はい、はい。お安い御用ですとも」

 

 ニヤニヤと笑った男が何もない空間を指でなぞり、指先でトントンと叩く。男にしか見えない画面のようなものを制御しているようだと思った次の瞬間、大広間のど真ん中に、空中からドバドバと音を立てて袋詰された大量のパンが流れ落ちてきた。年若い兵士がパンの雪崩に足をすくわれて思わず尻餅をつく。唖然とする兵士たちに、若領主が再び口を開く。今度は笑って。

 

「目の前の飯は諸君らの分だ。家族の分はちゃんと用意してある。どれほど持って帰っても構わない。だから、好きなだけ食え!遠慮はいらない!食って食って、食いまくれ!」

 

 再び訪れる狂乱。先ほどまで遠慮気味だった年若い兵士も若さに任せてステーキを両手に掴むとガツガツと口いっぱいに頬張る。若領主が魔法使いを雇い入れたという噂がまことしやかに囁かれていたが、それは本当だったらしい。

 酒は饗されないものの、そのことに誰も文句は言わなかった。若領主の傍らに立つ男が指先をすいすいと滑らせるたびに、瓶詰めされた果実の絞り汁が次々と出現した。オレンジ、リンゴ、果ては遠い遠い南国の果実まで。

 王侯貴族だって口にすることはないご馳走をたらふく平らげて、兵士たちはこれが夢でも構うものかと胃袋がはち切れんばかりに無我夢中で平らげた。包囲されて絶体絶命でいることなど、この瞬間はすっかり忘れていた。

 

「はい、はい。食後の“サプリメント”をどうぞ」

「“さぷり”……なんだって?」

 

 満腹の腹を叩いて机に突っ伏す彼らの眼の前に、奇妙な男がカラフルな豆粒を置いていく。植物の種にしては色がはっきりとし過ぎているし、形も人工的だ。

 

「各種ビタミン、鉄分、亜鉛、アミノ酸、アスタキサンチン、ドコサヘキサエン酸、グルコサミン、セサミン、マカ、その他諸々。まあ要するに、肉体と精神を強くする薬です」

「そんな便利なものがあるはず……」

「あるんですよこれが。嚙んではいけませんよ。そのまま呑み込んで。あと、これも飲んでくださいね」

 

 差し出された透明で軽い密閉容器には、少し濁った乳水が満たされていた。

 

「“クエン酸プロテイン”です。あなた方の筋肉を強くして、疲労回復を促進します。訓練を終えたあと、それから寝る前に必ず飲むように」

 

 恐る恐る口に含んでみると、臭みの一切ない牛の乳に、甘い粉が溶かされているようだった。口当たりの良さに思わずガブガブと飲みくだしていく。食後の飲み物としても爽やかでちょうどよかった。

 ご馳走を無限に取り出せる奇妙な魔法使いのことをどう扱っていいのかどうか迷ったが、ご馳走に免じて少なくともちょっとは信じてみてもいいと兵士たちは思った。素直に“さぷりめんと”の粒を掴むと、噛まないように注意して“ぷろていん”で呑み込む。

 

「諸君。聞いてくれ」

 

 全員が“ぷろていん”を飲み干したのを見届けた若領主が傾注を要請する。ご馳走で精気を取り戻した兵士たち全員が一斉にそちらを見やる。いつの間にか、若領主の後ろには等身大の人形(マネキン)が置かれてあった。奇天烈な服と兜と靴、そして奇天烈な盾と武器を装備している。この世界のオーソドックスな金属製の武具とはまったく異なる質感と形状だった。親から受け継いだり、質屋で売り買いしたりする自前の剣や盾や鎧やサンダルとはまったく違う。より洗練されていて、取り回しがしやすそうで、軽くて丈夫そうだった。若領主のための特別な装備だろうか。

 

「諸君、私は君たちに勝利を約束できない」

 

 ザワッと兵士たちが動揺に波打つ。けれど、言葉とは反対に若領主の顔は厳然とした自信を失わない。

 

「諸君らに約束できることは、次の3つのみだ」

 

 若領主の背後で再び男が空中に指を踊らせる。次の瞬間、兵士たちの目の前に、マネキンが身につけているものと全く同じ武具一式が音を立てて出現した。特別な装備は兵士たちのためのものだった。手にしたことのない高品質な盾や武器、布のように柔らかく軽いのに表面は刃を通さないほど硬質な服、一流の職人が作ったような頑丈なブーツを配られて、兵士たちは目を白黒させる。そんな彼らに、若領主は椅子を撥ね飛ばして立ち上がると声を大にして吠える。

 

「敵の百倍美味い食料!敵の百倍上等な武具!敵の百倍優れた待遇!」

 

 兵士たちの視線が流れる。食べても食べても食べ切れないご馳走、最高品質の装備、そして家族への土産。特に土産はパンだけでなく、箱詰めされた焼菓子やケーキ、缶詰に入ったクッキー、瓶詰めされた果実水や新鮮な果実の詰め合わせなど、どんどん増えていた。これを家族に持って帰ってやれる。どんなに喜ぶだろう。

 

「だから、諸君!!」

 

 兵士たちが一斉に立ち上がった。希望と戦意の竈に火をくべられた男たちが拳を握りしめ、若領主の言葉を不敵な笑みで待っていた。もうそこには、絶望に沈んでいた男たちはいなかった。

 

「諸君らが、私に、勝利を約束してくれ!!」

「「「応ッ!!応ッ!!!応ッ!!!!」」」

 

 栄養と滋養と戦意と装備をたらふく与えられた兵士たちが拳を突き上げて若領主に応える。大広間に覇気と熱気が満ちていた。

 

 この日から、守備兵5千人は猛訓練を開始した。誰も文句は言わなかった。鍛え、食べて、休み、鍛え、食べて、休んだ。肉体はどんどん強くなり、より巨大に、より頑健になっていった。精神も比例して自信を高めていった。

 理想の肉体を手に入れ、高カロリーな美食を食べ、家族にチョコレートの塊を土産として持って帰る彼らの姿を見て、怖気づいていた男たちも我先にと志願兵に加わった。守備兵はどんどん増えていった。そして最高の待遇に面食らい、瞬く間にいっぱしの兵士へと成長していった。

 

 そして、包囲から5ヶ月後。

 彼らが本領を発揮する舞台が訪れた。




久正人先生の『カムヤライド』が面白いです。
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