【完結】現実世界のネット販売で売ってるような便利グッズを無限に取り出せる能力を持った男が「実験」と称して異世界の弱小国家をのし上がらせるお話。   作:主(ぬし)

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思ったより長くなってしまったので途中で区切って投稿することにしました。
この小説は、『自分がAmazonで買えるような商品を無限に取り出せたら異世界で何ができるか』という思考実験の産物です。Amazon、凄いですよね……。


第四話

 小国が大国に打ち勝った例は皆無に近い。なかんずく、大陸を手中に収めんとする大帝国に、その足元にも及ばないちっぽけな都市国家が勝利することなど不可能だ。だが、その不可能を可能にした国があった。

 この世界において、これから何千年も後にも語り継がれる伝説的な戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 両軍が衝突し、雷鳴のような衝撃音が響き渡った。

 全力疾走を維持したままの守備兵たちは、この時なんと時速20キロに達していた。遅いようにも思えるが、これは闘牛の平均速度と同じである。装備が従来より軽くなったとはいえ、頑健な肉体を得た守備兵たちは、この時一人ひとりが100キロ近い筋肉と高強度物質の複合塊と化していた。それが2千人分である。鎧を纏った体重100キロの闘牛の大軍が列を為して襲いかかってくるようなものだと考えればいい。たとえ、鎧兜をきちんと身につけて満足な隊列を構築できていたとしても、侵略兵たちは数秒とて持ちこたえられなかっただろう。

 事実、強烈なタックルを全身で受け止めた侵略軍の兵士たちが次々と撥ね飛ばされ、もんどり打って大地に崩折れ、ミリタリーブーツの踵によって肉も骨もないまぜに踏み潰されて一瞬でミンチ肉となった。槍も剣も守備兵の装備を貫くことはできず、勢いを止めることも出来なかった。

 歴史上、最初の両軍の接触はコンマ一秒とて拮抗を見せることはなかった。砦に入りきれなかったという理由で都市国家と砦の中間地点に野営する形で布陣していた侵略兵たちは、自業自得とはいえ、ただただ不運だった。だが、見方によってはまだ救いがあったかもしれない。なにしろ、恐怖を味わう時間が短くて済んだのだから。

 

「嘘だろ……」

「じょ、冗談じゃねえぞ」

 

 簡易砦の城壁塔から一連の惨状を戦々恐々と見ていた侵略兵たちが背を仰け反らせて震え上がった。砦の中に入れてしまえば、次は自分たちがああなる番なのだ。

 

「矢を射るんだ!奴らを止めろ!」

「門に取り付かせるな!」

 

「なんだ、なんの騒ぎだ?どうして我々が攻められている?」

 

 寝床に引き篭もっていた将軍と参謀たちが遅まきながら騒ぎに気がついて事態を把握しようと出張ってくるが、窓の外に身を乗り出して背筋を凍らせた。ひと目見て、もはや指揮がまともにとれる状態にないことがわかった。砦の中心に建つ城館の最上階からは、戦いの趨勢が悪い方に転がり落ちていることがハッキリと判別できた。皮肉なことに、城を攻める側と護る側の立場が完全に逆転していた。

 守備兵たちは怒涛の勢いを衰えさせることなく簡易砦の門扉に迫る。何人か、往生際の悪い侵略兵が立ちはだかって剣を振るうも、堅牢な防刃装備とその下のレンガのような胸筋に難なく防がれ、お礼にと返ってきたハンマーのような拳に顎や肋骨を砕かれてバタバタと戦闘能力を喪失した。

 簡易砦の塔に配備された弓兵が頭上から矢を降り注がせても、透明な盾によっていともたやすく防がれてしまう。ライオットシールドは拳銃弾程度なら余裕で耐えられる。青銅の鏃がまったく歯が立たないのは当然だった。透明なシールドは視界を確保しながら効率的に防御できるため、死角を突くことも出来ない。

 そうこうしている間に守備兵たちが門に取り付き、木製の扉に複数人で激しいタックルを加える。ズドン、ズドン。巨大な破城槌を食らったかのように、樫の木の門扉が衝撃で内側にしなる。ミシッ、ミシッと一撃のたびにヒビが随所に走り、木片がパラパラと飛び散る。

 

「な、なんなんだよ、アイツら、化け物かよ」

「誰か城壁塔に来てくれ!援軍をよこしてくれ!上からも来るぞ!」

「う、上からもォ!?」

 

 門扉の破壊と同時進行で、にぶい銀色のハシゴがカシャンと軽い音を立てて高さ4メートル厚さ2メートルの城壁に次々と立てかけられ、守備兵たちが異常な身軽さで駆け上ってきていた。この世界に存在しないはずのアルミニウム製の伸縮ラダーは、最大伸長8メートルという長さながら重さはわずか10キロ。筋骨隆々な守備兵が二人で運用すれば突撃の際に担いでくるのもお茶の子さいさいだった。耐荷重200キロのために二人ずつしか登れないものの、それはハシゴの数で補う。もちろん、援護策も忘れられていなかった。

 

「いてえ!た、助けてくれ!」

「目が、俺の目が潰れたっ!」

 

 ハシゴによる侵入を阻止しようと駆け寄った侵略兵たちの顔に凄まじい数の飛礫が食い込んだ。パパパパパと軽快な音を立てて、小指の先程もない極小の粒が弾幕となって襲いかかる。その間断のない攻撃は、殺傷能力は無いに等しいが皮膚に当たれば激痛が走るし、なにより弾幕の激しさに圧倒されてしまい、ハシゴに近づくことが出来なくなった。それは東京マルイ製の電動モデルガン、MP5サブマシンガンだった。成人向けで高威力かつ高性能なそれは、鎧や兜を傷つけることは出来ないものの、人間の皮膚に当たれば怪我をさせ、眼球に直撃すれば角膜を抉って失明させる。守備兵全員のライオットシールドの裏に大量の予備マガジンと一緒にマジックテープで縛り付けていたのだ。扱うのに大した腕力も必要とせず、修練もほとんどいらず、素人でも狙いをつけやすく、装弾数も多いため攻撃の連続性は弓矢に比べるべくもなく、次弾交換も容易だ。マガジンを使い果たしたらその場に放り捨てれば装備は軽くなる。才能を示した者はより強力で高価なガスガンを支給され、侵略兵の目玉を精確に狙い撃っていく。

 さらにダメ押し。

 

「あわっ、あわわっ!?なんだ!?」

「落ち着け、ただの爆竹だ!子供だましの花火に過ぎん!死にはせん!落ち着け!ええい、落ち着かんか!」

「なんで、こんな辺境の連中がこんなにたくさん火薬を持ってるんだ!?」

 

 次から次に投げこまれてくる花火の爆竹に侵略者たちが驚愕して狼狽える。激しい音と光の明滅は冷静な思考を寸断させると同時に、指揮系統を妨害し、麻痺させることを狙っていた。事実、指揮官たちの必死の命令は爆竹の音にかき消されて部下に届かない。守備兵たちはタクティカルベストのポケットから次々と爆竹を取り出し、電子ライターで火を付けて振りかぶると簡易砦に投げ込んでいく。激しい煙が煙幕のようになって辺りに充満し、喉と鼻の粘膜を焦がす。フルフェイスヘルメットの守備兵たちとは違い、兜をつける余裕すらなかった侵略兵たちはたまらず涙と鼻水で剥き出しの顔を汚した。この世界において、火薬は発見されたばかりの希少かつ最新の兵器であり、産出国は遥か遠くだ。それが、閉鎖された都市国家の軍においてこれだけ贅沢に用いられるなど、普通では考えられなかった。

 粘膜を刺激された侵略兵たちが苦しげに咳をして手をこまねいている間に、アルミニウムのラダーから一人また一人と守備兵たちが城壁塔に侵入する。驚いた弓兵が立て掛けていた剣を手に取ってバッと振り仰ぎ、そして度肝を抜かれて硬直した。

 

「え、なに、その肩幅───?」

 

 まさか、その間抜けな呟きが今生(こんじょう)の締め台詞になろうとは誰が予想しただろうか。彼が最期に目にしたのは、鳩胸を思わせるはちきれんばかりに膨らんだ胸筋と、熊を思わせるほど横に広い肩幅、そして憤怒に血走って殺意を爆発させる眼光だった。“同じ戦士として、これは勝てない”と太古の本能が膝を突かせ、肉体が生命への執着心を勝手に放棄する。次の瞬間、大上段から風を切って振り下ろされた斧が弓兵の鉄兜を粉砕し、頭部を両断し、胴体を真っ二つにし、そのまま股下まで突き抜けて床石を穿った。 

 いの一番に突入した守備兵たちは、全員、志願兵だった。そして彼らは、侵略軍によって都市国家に追いやられた避難民出身の男たちだった。先祖代々の土地を土足で汚され、田畑を奪われ、家を焼かれ、最愛の家族友人を無残に殺された恨みつらみの復讐を果たすべく、彼らは既存の守備兵たちも背筋を凍らせる地獄の鍛錬をこなしてここに立っているのだ。

 いきなり戦友を縦に分割された弓兵たちが腰を抜かして後ずさる。返り血を浴びた守備兵が斧を振り上げる様を失禁しながら見上げることしかできない。彼らが許される謂れが微塵もないことは、彼ら自身がよく知っていた。城壁塔から数名の悲鳴が上がり、そして止んだ。




『ダンダダン』の2巻が早く読みたい。
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