芝1600m、朝日杯と同じ距離。
併走する相手は、スカーレットとウオッカ、スズカだ。
「レックス先輩、よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくね」
「併走でも、負けないわ」
「ええ」
「よーしお前らー!準備はいいかー!」
トレーナーの声が遠くから聞こえる。
「いつでもいいぜー!!」
かわりにウオッカが声を上げる。
昨日の惨劇?忘れたわそんなもの。しばらくブーちゃんは肉を食べても機嫌が悪かったのだけ言っておく。
しかしこうも、強い相手と併走なんてワクワクしてしまう。
はやる気持ちを抑えて、スタートした。
速い。
速い。
速い。
大逃げの戦法のスズカ、先行のスカーレット、差しのウオッカ。
私は追込。
三人は特に圧を感じさせない走りだ。前回のメイクデビューとは違い、誰も掛からない。
なるほど、これがG1の数々を勝ってきたウマ娘たちの力なのか。
ああ、面白い。
私は、ニヤついてしまう。
雰囲気が変わった、気がする。
オレは、後ろのレックス先輩の圧を感じつつも、走っていた。
この緊張感は、オレが今までに出たレースと同じくらいか、それ以上の緊張感だ。
オレには越したい人が沢山いる。
併走だろうが、なんだろうが、オレは負けねえ。
オレはただ、勝ちを狙うだけだ。
それでも。オレはこのゾクゾクした感じを、楽しんでいる。
レックス先輩は間違いなく、ブライアン先輩と並びうる、カッケー人になる。
もちろん、今もカッケー。だがもっと、カッコよくなる。
オレは想った。それでも負けねえ。
よし、ここから仕掛ける。
スカーレット、先輩方。勝負だッ!!!
レックス先輩は、白かった。
ゴルシよりも、白い、綺麗なウマ娘。
でもそれだけじゃない。レックス先輩は、きっとすごいウマ娘になる。
そんな気がする。
でも私だって負けない。
スズカ先輩だろうが、ウオッカだろうが。
もちろん、後ろの圧はすごい。
ゾワゾワする圧。前の私なら、怖くて、かかってたかもしれない。
それにこの圧はウオッカが一番かかってるけど、ものともしていない。
それなら私は負けないし、負けたくないし、屈しない。
今の私なら。
一番を譲らない。
ウオッカにも、スズカ先輩にも、レックス先輩にも。
さあ、いくわよ。
私が、一番を取るんだから!!
前へ、前へ、前へ。
私は、走っているときは全く、何も感じない。
ただ、先頭の景色を見たくて。夢中に走る。
でも、普段は感じないはずの、圧、とかそういうものが感じる。
…もっと、速く走らなきゃ。
でも、まだダメ。
先頭の景色を譲らせないようにするにはまだ。
ああ、でも。
もっと走りたい。
もっと、もっと。
こんなにワクワクしてしまって、どうしよう。
レックスちゃん。
あの子はきっと、ぐんぐんと伸びる。
だけど、関係ない。
私の先頭の景色は、誰にも譲らないから…!
「っ!!」
スズカが、スパートをかけた。タイミングはちょうどいい所だ。
こちらもスパートをかける。じゃないと追いつかない。
それはスカーレット、ウオッカも同じことで。ぐんぐんと走る速度が速くなる。
しかし、速い。面白い。
シィィィィィィ…!
もっと、もっと。
足に空気を。
ぐんぐんと、追いつく。
ゴール板に近づいていく。
何とかゴールをするも、やはりと言うべきか。
経験の差がある。当たり前だ。
私は四着だった。
「あーっ、負けちまったー!!」
「危なかった…越されるかと思った…!」
「…お疲れ様、レックス」
距離が長かったらわからなかった。
それぞれみんなハナ差だ。
それでも悔しい。やはりまだ、足りないのだ。
「…ええ。私も、もっと強くならなきゃ」
まだ、まだ始まったばかりなのだから。
「トレーナー、どうかしら?」
「シニアまで走り抜いた三人に食らいついたんだ。走れる。これまで以上にビシバシ行くぞ!」
「…ありがとう」
朝日杯は本当はやめようかと思っていた。が、トレーナーが大丈夫なら、出ようと思う。
調整を頑張らねば。そして、そして。
誰よりも強くならなければ。