星の王は果てへ臨む   作:龍覇

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第1R

妹の病気が少し深刻化したらしい。

親からそう聞かれた。だから、引っ越すと。

「ねえ、パパ、ママ。…あの子は、ルクスは大丈夫かな…」

私がそう言えば、父は、きっと大丈夫と頭を撫でた。

妹、ルクスグラーテスは生まれた時から病弱で、家にはあまり帰って来れず、人生のほとんどを病院で過ごしていた。

父も母も、ルクスにつきっきりで、寂しかったが、しょうがなかった。

我が家はルクスでまわっている。当然のことだから。

私は、灰色の世界にいる。

幼い私は、悲しいと寂しいは分かれど、楽しいというものがイマイチわからなかった。

 

 

 

 

 

─引っ越したその日。両親は律儀にも隣の家に挨拶をしていた。

隣の家の人も、鬱陶しがられず、快く応対していた。

「かあさーん、ただいまー!」

「あらおかえり、ハヤヒデ、ブライアン。ああ、ちょうど良かった。この二人は娘でー…」

芦毛と黒鹿毛の、ウマ娘の姉妹だ。

ルクスも、体が丈夫だったら、一緒にいられただろうか。

「ビワハヤヒデです。…ブライアン」

「………」

黒鹿毛の子は恥ずかしそうにもじもじと後ろに隠れた。

「すみません、この子人見知りで…」

「いえいえ。…レックス、できるよな?」

「わかってるわよ、パパ。私の名前はステルラレックスです」

「ステルラレックス…うん、よろしく」

ビワハヤヒデは手をすっ、と差し出し、それを返した。

「………」

じっ、とビワハヤヒデの背からこちらを覗かせている。

「…えっと」

「ああ、妹のナリタブライアンだよ。…いつもはねーちゃん、ねーちゃんって甘えてくるけど…」

「ねーちゃん、うるさい…」

小声でボソッ、と聞こえた。

だがそれ以降、目が合わなくなった。

「よかったわね、レックス。ウマ娘の友達ができて」

「うん」

「では私たちはこれで。これからよろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ。ほら、レックス。いくぞ」

「はーい。じゃーね!」

とくになんてことはないのだ。

世界は相変わらず、灰色のままなのだから。

その日の夜。

環境が変わったせいか、寝付けなかった。

部屋は殺風景、という訳では無いが、年頃の娘にしては物が少なかったし、私はこれといって趣味がなかった。

「困ったな…学校あるのに」

友達はいたが、あくまで一年も満たないし、特に思い入れもなかった。

はぁ、とため息をついてガラガラと窓を開ける。

隣の家の窓も閉まって、真向かいの部屋は暗い。寝ているか物置部屋なんだろう。

ガラッ!!!

「!?」

突然向かいのカーテンが開けられたかと思ったら、窓が豪快に開けられた。

「あ…」

「ビッ、クリした…えと、ナリタブライアンだっけ?」

「……ん」

ペタ、とウマ耳は前に倒れた。

ぬいぐるみは随分と力強く抱きしめられて、少し可哀想だった。

「…窓開ける音、ビックリしたから」

「なんか、ごめん…」

何気なく窓開けただけなのに、そんな鬼気迫るような顔で開けられるのは申し訳なく感じた。

元々、ナリタブライアンは喋らないのか、沈黙が続いた。

「ねえ、ナリタブライアン。明日、一緒に学校行ってもいい?」

「…ブライアンでいい。…行ってもいいよ、ねーちゃんも一緒だけど」

「ありがとう。じゃあ、学校でね!」

「……」

コクン、と頷く姿はとても可愛いと感じたものだ。

その日を境になのか、少しだけ距離が縮まったと思う。

 

 

 

 

 

 

──そんな、夢を見た。

「……」

今日から、今住んでいる家から離れる。私一人だけ。

日本ウマ娘トレーニングセンター学園。通称・トレセン学園に、通う。

今日はまだ休日だが、寮に世話になるのは今日からになるので、家はもう出ていくのだ。

「懐かしい夢…」

自分がまだ、レースに出たい、走るのが好きになる前である。

親はルクスにつきっきりで、寂しさも、親の期待も、自分が何をしたいのかも何も分からなかった、本当に自分も世界も灰色で、何も見えなかったあの頃。

今はそんなことないが。

ガチャ

「おい、まだなのか」

「………遠慮ってのがないの?」

「今更だろ」

「一回、ハヤちゃんに怒られろー、チクってあげるから」

「チッ…面倒になるからやめろ」

「とりあえず、さっさと着替えるから、待ってなさいよ」

「ん」

バタン、と閉めて行った。

「ハァ…よし」

パン、と頬を叩く。

ようやく本格化も迎えたのだ。やっと、二人と走れる。

ああ、楽しみだ。

世界はこんなにも、色鮮やかなのだから。

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