トレセン学園の寮に向かう途中。
久しぶりに会うブーちゃんを見ていた。
「…なんだ」
「私もなんだかんだと言って背が大きくなったなって。ブーちゃん、今身長何センチなの?」
「人がいるところでそれはやめろ…160だ」
「…あら、私の方が高いわ」
「……チッ」
にやりと言ってやると、ブーちゃんは拗ねたようにそっぽを向けた。
昔は一番背が低くて、身体計測の度にドヤ顔をされるものだから、10年分の仕返しはできたようだ。
厚底のサンダルを履いているから、余計に小さく見えた。
「もうすぐでつく」
「ああ、あの建物ね。…デッカ」
真向かいはトレセン学園がある。
だけどあれはどう見ても、広い。
「…道、覚えられるかしら」
「その辺のヤツに聞けばいい。アンタの得意分野だろ」
「それもそうなのだけれどね。そんな何回も聞かれたら鬱陶しがられるでしょ」
手に持つパンフレットと交互に眺める。
想像の倍は広いだろう。
「でもブーちゃん、案内ありがとう。折角の休みなのに」
「…別に」
ブーちゃんはまたそっぽを向く。
耳がピクピクと動いているし、咥えている葉っぱが少し忙しなく動いているので、照れているのだろうと予想がついた。
ポン
「!?」
目の前でブーちゃんの咥えていた葉っぱが花になった。
「………おい、フジ…何やっているんだ」
ぺっ、と花を吐き捨てた後、ジロリと後ろにいるウマ娘を睨んだ。
「ごめんごめん、キミが随分と早い時間に帰ってきたから珍しくてね」
「チッ」
ブーちゃんは完全にへそを曲げてしまい、早く帰りたそうな雰囲気を、出していた。
こうなると、肉を渡すか並走の誘いをしないとダメだ。
「あ、キミが新しく来たポニーちゃんだね?私はフジキセキ。栗東寮の寮長をやっているよ。よろしくね」
「寮長さんなんですね。ステルラレックスです、よろしくお願いします」
「ブライアンも案内ありがとう、お疲れ様。…そうだね、折角だし今から部屋の案内しようか」
栗東寮に入っていくことにした。
ブーちゃんは相変わらず拗ねたままだった。
その後、部屋を案内してもらい、荷解きをしたら一日が終わった。
「…ここが、生徒会室」
生徒会。皇帝のシンボリルドルフ、女帝のエアグルーヴ、シンボリルドルフと同じく三冠をとったブーちゃん。
意外にもブーちゃんは副会長をやっているようだが、ちゃんとやれているだろうか。
フジキセキ先輩から聞くに、寮の門限を破るし、生徒会の仕事をよくサボるしでどうも問題児そうだった。
コンコン
「どうぞ」
「失礼します」
シンボリルドルフは、何度もテレビで見たことがある。
そういえば、ルクスもキラキラとした目で見ていたものだ。
ルクスは、レースに憧れていたから。
「はじめまして、ステルラレックス。この学園の生徒会長を務めている、シンボリルドルフだ。よろしく頼む」
「あ、よろしくお願いします」
何度もテレビで見たことがある、そう考えたら今更だけど緊張してきた。それを見て、シンボリルドルフは人の良さそうな笑顔で、緊張しなくていい、と言われた。
「すみません、妹と共にテレビで何回も見たことがあったものですから…」
「妹といったら…ああ、病弱の」
ピラリ、とシンボリルドルフ…会長は手元の資料を捲る。
その資料、というより自分の個人情報が書かれていた。
「…ええ、生まれた時から病弱で。府中のお医者様には大変良くして頂いているお陰で、最近は調子がよくなっているみたいです」
「そうか…良くなるといいのだが」
「はい。…それでお話というのは?」
「ああ、君に質問があってね。この学園に入って、何を成したいのか。それを君の口から聞きたい。」
「…何を成したい、か。ハヤちゃ…ビワハヤヒデとナリタブライアンだけじゃなくて、強い人たちと戦うこと。それに…病弱で走れない妹の為に姉らしい、かっこいい姿を見せたい。あと、私…ミスターシービーさんに憧れてて…彼女のような魅せる走りをしたい、といったところです」
ミスターシービー。
三人目の三冠ウマ娘と呼ばれている。
彼女の走りは、今でも覚えている。手に汗握る、掟をも関係ないと言わんばかりの追い込み。
自由の象徴であり、憧れた。自分の持っていないものを持っているのだから。
「ミスターシービー、か。ふむ…そうか。そういえば、確か君はここまで負け知らずのようだったね」
「本格化がきてからの話ですけどね」
「…ふふ、楽しみだ。星の王と皇帝、どちらが雌雄を決するのか。それまで、待っているよ。ステルラレックス」
ビリビリと圧を感じた。
この圧の中、実際に一緒に走れば、どれほどのプレッシャーに晒されるんだろうか。
目の前の皇帝は、表情は変わらずとも、目はギラついている。
その目で見られると。
「…ええ、楽しみに待っててくれると。嬉しいわ」
怯むのではなく、笑みが零れてしまうのは、こちらもブーちゃんに影響されているからか。
それとも、ハヤちゃんみたいに絶対に勝つという不屈の心があるからか。
どちらもなのか。
ああ、早く走りたい。
早く走って、怪物だろうがなんだろうが。
ひれ伏せさせたくなる。
そう考えてしまうのは、自分が暴君だからなのか。
それは皇帝も、私も分からないものだった。