君と夢見た明日へと ──トップウマドルを目指して☆──   作:キビタキ

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【第8話】バトンを継ぐ者 ①祭典の始まり

 雲一つない快晴とは、まさに今日のような素晴らしい天気のことを言うのだろう。

 初夏を思わせる日差しはずっと浴びていると汗ばむほどで、思わず日陰を求めたくなる。そんな陽気の中スタートした春のファン感謝祭。

 既に学院内は大勢のファンであふれかえっていて、限定グッズを買い求めたり、意中の娘を追いかけたり、催し物を楽しんだりと、大盛況である。

 主役である生徒たちも、慌ただしい様子で目まぐるしく行ったり来たりしている。

 ジャージや体操服姿の生徒は、一様に様々な色のゼッケンを着用している。それは体育系競技における八種類のチーム分けによるものだ。

 白鳳、黒鉄、赤帝、青龍、黄雲、緑星、橙陽、桃花の八チームがあり、ファル子の所属は桃花チームらしい。

 

 さて、俺はというと、トレセン学院の正門付近に立っていた。そう、お客さんの出入りが最も激しく、学院の看板ともいえるこの場所。あろうことか、イケメンでもなければ大して経験値もない、新人の冴えない男が…である。

 はっきり言って、正気の沙汰とは思えない。

 

(ファル子の競技に合わせて調整してもらったから、仕方ないっちゃ仕方ないんだろうけど…)

 

 この日ばかりは生徒たちも総出、職員たちも総出。となると、トレーナーにも白羽の矢が立つ。数時間ではあるが業務の手伝いをすることになっていた。

 ファル子の出場する競技を見られるよう取り計らってもらった結果、ここを割り当てられたというわけである。

 聞くところによると、配置を考えたのは鳥林さんらしい。どうしてよりにもよってここに回されたのだろうと、自問自答が繰り返される。どう見ても人前に立つ柄ではないのだが…。

 とはいえ、現にこうして人目につくところに立っているわけだから、おかしな真似をするわけにはいかない。たとえ営業スマイルでも構わないから、笑顔を意識することを心がけていた。

 もしファル子が今の俺を見たら、きっと満面の笑みでからかってきたに違いない。

 

「おはようございます!」

 

 柄でもない明るい声で、その言葉を呪文のように繰り返している。お客さんへの挨拶と、今日のスケジュール等が記されたパンフレット兼チラシの配布。それがここでの仕事だった。

 幸い、俺一人というわけではなく、他数名のトレーナーや職員と一緒ではある。そこには同期のトレーナーである桐生院さんの姿もあった。

 ちなみに、すぐ側に設置された臨時の総合案内所には、理事長秘書のたづなさんが威風堂々と陣取っている。守護神的存在…とでも言うべきだろうか。そこにいるだけでなぜか安心するというか、イベントがスムーズに進行しそうな気がした。

 トレーナーとして働き出して分かったのだが、たづなさんは主要な裏方業務を一手に担い、それでいて理事長の秘書をしつつ、生徒やトレーナーの悩み相談も受け付けていた。

 仕事ができる人というのは、まさにああいう人のことをいうのだろう。とにもかくにも縁の下の力持ちであることは間違いないし、この学院は彼女のおかげで回っていると言っていいと思う。

 

(まぁ、それはいいんだけど…やっぱりここの人選おかしくないか…)

 

 たまたまなのかもしれないが、ここでチラシを配っているスタッフは、俺以外全員女性であった。

 男女平等が叫ばれる昨今、こんなことを言ってはいけないのかもしれない。だが、やはりこういうのは女性の方が適しているというか、華があって良い。それはこの国では一般的な感覚のはずだ。

 もし仮に男女平等を謳っての選出だとしても、それにしたってこの男女比はおかしい。

 それとも、ここに回されたのは何か男手が必要になった時の保険なのだろうか。あらぬ事件が起こった際の取り押さえ役として…。

 いや、正門の前には通行人を誘導する警備スタッフが何人もいるし、そもそもウマ娘がたくさんいるここでそんな狼藉を謀る者こそいないだろう。

 やはり自分が選ばれた理由が不可解すぎる。実はこれは鳥林さんが与えた試練なのだろうか。

 ふと、桐生院さんを見やると、自然と目が合った。

 途端、くすくすと笑い出した彼女。まるでこちらの心を読んでいるかのように。

 

(俺、今凄く変な顔してるんだろうな…)

 

 ずっと口角を上げているせいか、不自然な笑顔が接着剤を使ったように張り付いて、決して離れようとしなかった。

 

 お客さんが訪れるタイミングには波があった。おそらく公共交通機関の発着にも連動しているのだろう。入場開始直後はごった返していたここも、今ではまばらで落ち着いている。

 この広い学院には他にも出入り口があるし、それによって上手く分散されているのかもしれない。

 

 繰り返される流れ作業。そこに新風が吹いたのは、笑顔を作るのにもすっかり慣れた頃だった。

 

「あの、すみません。聞いても大丈夫ですか?」

 

 手に持つそれを渡す前にそう問いかけてきたのは、三十代くらいの金髪の女性。ウマ娘ではなく人間の女性だ。

 突然話しかけられたことに少したじろいでしまう。普通、こういうのは話しかけやすい人にいくものだが…。

 

「バスケットボールとダートリレーって、いつどこでやるか分かります?」

 

 続けて発せられた質問で、その理由は何となく分かった。多分俺の見た目が最もトレーナー…いや、体育会系っぽいからだろう。

 いつもと変わらない上下ジャージ姿。多少は着飾ったりおめかししている女性スタッフとは大違いである。

 

「そうですね。このチラシを見ていただくか、そちらの総合案内所に問い合わせていただくと、すぐ分かりますね」

 

 そう言いながらチラシを手渡す。受け取ったそれをやにわに折り畳みながら、金髪の女性は丁寧に頭を下げた。

 

「実は北海道から来て何が何やら…ご親切にどうも」

 

 足早に駆けていくその姿をちらりと見送り、次のお客さんへと挨拶する。

 

(北海道から来る人もいるんだな…)

 

 トレセン学院の一大イベントだけに、わざわざ遠方からやって来る熱心なファンもたくさんいるのだろう。

 競技を名指しで聞いてきたということは、意中の娘がそれに出場するのだろうか。

 いや、もしかしたら生徒の関係者なのかもしれない。ファン感謝祭は親族が見に来ることも多いと、ファル子が話していた。残念ながら、ファル子の両親は都合が合わず来られないらしいが…。

 そんなことを笑顔のまま考えていると、今度は小さな女の子に話しかけられた。

 

「あっ! ファル子お姉ちゃんのトレーナーさん!」

 

 長い黒髪を揺らしながら歩み寄る、小学校低学年くらいの少女。隣にいる若い女性は母親だろう。どちらも見知った顔だ。

 少女と同じ目線の高さになるよう、その場にしゃがみ込む。

 

「おはよう。今日は見に来てくれたんだね」

 

「うん! ファル子お姉ちゃんの走るところ見てみたいなぁって」

 

 元気良く返事をしてくれたのは、トレセン関係者ご用達の個人商店、その看板娘のミサキちゃんだった。初めてファル子の高架下ライブに来てくれて以来、欠かさずライブに訪れては、その度に顔を合わせていた。

 今日はお母さんに連れられて、ファン感謝祭にやって来たようだ。

 

「娘が生徒さんのライブにお邪魔してるそうで…」

 

 頭上から降り注ぐ母親の言葉。ミサキちゃんにチラシを手渡しながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

「いえいえ、いつも来てくれてありがたい限りです。お店の方は大丈夫なんですか?」

 

「ええ、トレセンでイベントがある日はお客さんが少ないので、いつもお休みなんです」

 

 足元からせっつくような声が聞こえてくる。

 

「次のライブいつなの?」

 

 渡したチラシのことなんてそっちのけで、見るからにライブの方が待ち遠しくてたまらないといった様子。どことなく、裸足で走りたくてうずうずしているファル子の顔と、似ているような気がした。

 それだけに、待たせてしまっているのが申し訳なく思えてくる。

 

「もう少ししたらまた始まるよ。ファン感謝祭の準備が忙しかったからね…なかなかできなくてごめんね」

 

「ミサキ、あんまり自分勝手なこと言っちゃ駄目よ」

 

 娘の頭に手を置いて、母親は優しい声でたしなめた。

 次いで、申し訳なさそうな面持ちでをこちらを見やる。

 

「すみません。ご都合もあるでしょうし、お気になさらないでくださいね」

 

「いえ、ミサキちゃんが来てくれるのをいつも楽しみにしてますので…」

 

 ちらっと下を見やると、黒髪の少女は難しい顔をしてチラシを眺めていた。

 この小さな女の子の声援に、ファル子がどれだけ元気づけられてきたことか。

 いつどんな時でも、ウマドルとしてのファル子を心から応援してくれる絶対的なファン第一号。これからもずっといてもらいたい大切な存在だった。

 手に膝をついてにこやかに話しかける。

 

「ライブの日が決まったら必ず教えるから安心してね。今日はファル子お姉ちゃんの頑張ってるところを見てくれると嬉しいな」

 

「うん! ファル子お姉ちゃん、何に出るの?」

 

「えっとね、借り物競争とダートリレーだよ。場所と時間は…」

 

 手元のチラシに目を通そうとした時、母親の声が飛んできた。

 

「あ、それは私が調べますよ。そこの総合案内所で教えてくれますよね」

 

「ええ、よくご存知ですね」

 

「いつものことですし、一応イベントの常連ですから」

 

 その微笑みには百戦錬磨の余裕すら感じる。

 考えてみれば、すぐ近くでお店を営んでいるのだ。学院のイベントに関しては熟知しているのだろう。

 

「お仕事中に引き止めてすみませんでした。これからも娘をよろしくお願いしますね」

 

「いえ、こちらこそ」

 

 お互い一礼を交わすと、母子は総合案内所へと向かっていった。

 

「トレーナーさん、またね〜」

 

 去り際の元気な声に癒やされつつ、笑顔で手を振り返す。

 本当に何となく、ファル子のしゃべり方に似てきたような気がした。

 

 

 とどまるところを知らない来訪者。何百人、いや千人など軽く超えていただろう。数多の挨拶とチラシ配りを繰り返して数時間、ようやく交代の時間が訪れた。

 そして今、ファル子の借り物競争を見るべくトラックへと向かう最中、隣を歩く女性トレーナーが明朗な声を響かせた。

 

「確かにそうかもしれませんね。でも、なかなか素敵な笑顔をされてましたよ」

 

 それは男女比の偏りについて愚痴ったことに対する、桐生院さんの返答であった。

 彼女もたまたまトラックに用事があるということなので、こうして一緒に歩いていた。

 当たり前だが、彼女の笑顔の方がよっぽど素敵だと思う。

 

「全くそんな柄じゃないんですけどね…」

 

 ため息交じりに肩をすくめる。

 しかし、そのおかげで営業スマイルを作るのは少し上手くなった気がする。

 ふと、行き交う大勢の来場者が目に入った。

 

「それにしても、お客さんの数かなり多いですね。選抜レースの時も多いと感じましたけど」

 

「ですね…! ファン感謝祭には二、三万人くらい来場するらしいですから」

 

 とてつもない人数だとは思う。都心からやや離れた学校、それも大学などではなく事実上の中高一貫校でこれである。そこにはやはり、トゥインクル・シリーズの人気の高さが窺える。

 ただ、人数の割に過密しているように感じないのは、この広大な敷地ゆえだろうか。まだ正午にもなっていないが、これからさらに来場者数が増えるのだろう。

 生徒よりも遥かに多いお客さんが通路を行き交っている。客層は老若男女様々だが、生徒ではないウマ娘の姿が多く見受けられるような気がする。

 

「こうして見ると、結構生徒を見に来てる親御さん多そうですね」

 

 それは年齢や見た目での判断でしかないものの、ウマ耳と尻尾を生やした三、四十代の女性はそれっぽく見える。もちろん、ただのファンやOBの可能性もあるが。

 「きっとそうですね」と、桐生院さんが相槌を打った直後だった。不意にタブレットから理事長の声が発せられた。

 

『着信ッ! 直ちに確認されたし!』

 

 例の着信音である。二人ともびくっとしてしまうほど唐突に、そして大音量で。

 たまたま近くを通りかかっていた人も、訝しげに立ち止まって目をぱちくりさせている。

 俺は何も聞こえなかったふりをしながら、歩みは決して止めなかった。幸い、桐生院さんもそれについてきてくれた。

 ただ、気のせいだろうか。彼女は口に手を当てながら顔を逸らし、笑いをこらえているように見えた。

 

(いや、でもこのタイミングで助かった…)

 

 心底そう思った。お客さんを迎えている時に鳴り出していたら、色々と気まずかっただろう。

 厄介なことに、重要メールの着信音は消せないようになっている。だったら、せめてマシな着信音にしてほしいところではあるが…。

 学院内のLANが通じるところでしか鳴らないので、普段は一般の人に聞かれることはないものの、お客さんが入る日だけは例外だ。

 それを忘れて、つい、いつもの癖で持ち歩いてしまっていた。タブレットはもちろんポケットに入り切らないので、ショルダータイプのタブレットケースを常に肩にかけている。当然、学院内にいる時だけだが。

 

「私のところに着信は来てないですね」

 

 桐生院さんが自らのタブレットを確認しながら、独り言のようにつぶやいた。

 おそらく彼女も習慣ゆえに持ち歩いていたのだろう。同じようにタブレットケースを肩にかけている。

 不思議なことに、鳴ったのは俺のタブレットだけのようで、桐生院さんのそれはうんともすんとも言っていない。

 

「個別メールかもしれませんよ」

 

 そう言いながら、ケースに収まったままの俺のタブレットに目を注ぐ彼女。

 とにもかくにも急いで取り出し、内容を確認してみることにした。

 側面のスイッチを押し、着信通知からメールを表示させる。そこに現れた文字を見て、全てを察した。

 

「昨日の質問の返信ですね」

 

 それは先日『教えて!たづなさん!』に投じた質問の答えだった。理事長直々の返信になるとは夢にも思っていなかったが。

 

『不問ッ! 裸足での出走を許可する!』

 

 単刀直入にして豪放磊落。これ以上ない簡潔さに感動すらしてしまう。

 

「もしかして、『教えて!たづなさん!』の返信ですか?」

 

「ええ、今日ファル子が出場する競技について問い合わせしてたんですよ。使ったことがあるんですか?」

 

「はい…一度だけ。ただ、あの質問アプリは地雷ですよ」

 

「地雷…?」

 

 穏やかではない単語に不穏な空気が漂う。

 奇しくも、今通り過ぎた屋台が『バクダンおにぎり』を販売していたのは、単なる偶然だろうか。

 

「ミークには瞑想のトレーニングを設けているんですが、その最中にあの着信音と共に返信が来てしまいまして…」

 

「それから…?」

 

 意味深な溜めに思わず声が出てしまう。次いで発せられたのは意外な結末。

 

「私とミークの笑いが止まらなくなってしまったんです」

 

「笑いが…?」

 

「ええ、もうそれはずっとです。今でこそ落ち着きましたが、ことあるごとに思い出し笑いするようになってしまって…ですからあのアプリは地雷です…!」

 

 人差し指を立ててそう力説する桐生院さんの姿こそ、どこか笑いを誘った。

 

(まぁ、確かに静かな空間にあれが突然流れたら、不気味に思うか笑ってしまうか、どっちかだろうな…)

 

 思い返すと、以前トレーナー室で着信音が流れた時、桐生院さんは吹き出していた。あの時は大量のタブレットによる時間差込みでの大合唱だったから、なおさらおかしかったのだろう。

 

「俺も今後は使用を控えますね。ファル子に悪影響が出ても嫌ですし…」

 

 その話を聞いてから、自分も吹き出すのではないかと怖くなってきた。少なくとも、担当ウマ娘に実害を及ぼさないよう気をつけるべきだろう。

 

「そういえば、ファルコンさんはあれから調子どうですか?」

 

 話を変えたいと思い始めていた矢先、桐生院さんによってそれは叶った。

 ただ、人の数が増えてきて、なかなか前に進めなくなってきている。どうやら目の前の物販コーナーで人集りができているのが原因のようだ。

 歩くスピードを落としながら、その質問に答えた。

 

「良い感じですね。今日もかなり張り切ってます。ミークと併走した効果は出てますし、鳥林さんにもアドバイス頂けました」

 

 四日前、ハッピーミークと併走したことで確実に走りは上達した。伸び悩みを鳥林さんに相談してみてはどうかと提案してくれたのも桐生院さんだ。あの日から目まぐるしく状況は変化しているが、結果的にはあれをきっかけに好転したといえるだろう。

 

「ありがとうございます。ミークもそれを聞いたら喜ぶと思います」

 

「いえいえ、お礼を言うのはこっちです。ところで、ミークは何の競技に出るんですか?」

 

「借り物競争とダートリレーですね」

 

 どこかで聞いたことのある組み合わせに目を丸くする。

 ようやく物販コーナーの横を通り抜けると、通路はまた広々と快適なものへと戻っていた。

 

「奇遇ですね。ファル子も全く同じですよ」

 

 その言葉に、桐生院さんは紺色の髪を揺らす程度には驚いていた。

 

「そうだったんですね…! ミークはダートも走れますから、それでダートリレーに選ばれたらしいですけど…」

 

 尻尾の動かし方でいかなるバ場、距離も走ることができるというハッピーミーク。そのオールラウンダーぶりが評価されての選出だろう。きっとファル子のライバルになるに違いない。

 とはいえ、新入生であることを考えると、ダートリレーではおそらく一走目か二走目だとは思うが。

 

「借り物競争を選んだのはどうしてです?」

 

 その質問に、桐生院さんは少しだけ考える素振りをしてから口を開いた。

 

「のんびりできる競技がやりたかったらしくて、それで選んだのが借り物競争でした」

 

「まぁ、借り物競争は運ゲーですからね…」

 

 のんびり屋の雰囲気を漂わせるハッピーミークらしい選択だと、内心そんなことを感じていた。

 

「ファル子さんはどうして借り物競争を?」

 

「ああ、それは…」

 

 担当ウマ娘の声が脳内で再生される。

 

『勝つための秘策があるの! ファル子が走る番になったら、トレーナーさんは目立つところに立っててね♪ すぐ借りにいくから☆』

 

 彼女の話によれば、お題には必ず『トレーナー』が一つ以上含まれているらしい。他にも『手帳・ノート』、『ジャージを着てる人(生徒以外)』、『タブレット端末』などもあるらしく、そのお題を引けば俺一人で対応できるとのことだった。

 それを掻い摘んで説明した。

 

「…というわけで、彼女の発案ですね」

 

「なるほど…意外に策士ですね」

 

 それはきっと褒め言葉だったのだろう。だが、策士というよりは、限りなく運任せに近い不正な気がしないでもなかった。

 ダンスや歌唱対決があれば間違いなくそちらに飛びついたのだろうが、それらは秋に行われる聖蹄祭にしか行われないらしい。いわば消去法で勝率の高い借り物競争を選んだというわけだ。

 

(妙なところで負けず嫌いなんだよな、ファル子って…)

 

 彼女いわく、借り物競争とはタッグを組んで挑む競技とのこと。確かに、そう言われるとそんな気がしないでもない。

 何にしても、その作戦のためには俺がいなければならず、責任は重大であった。

 

「とまぁ…そんなわけで、この作戦は他言無用でお願いします」

 

「ええ、もちろん」

 

 彼女は素敵な笑顔でくすくすと笑っていた。

 

 春の穏やかな風に乗って、他愛のない会話がふんわりと紡がれていく。二人の新人トレーナーは、担当ウマ娘の待つトラックへいそいそと歩んでいくのだった。




お疲れ様でした。
8つのチーム名は、某校の体育祭で使われているものを一部拝借しました。
次回は以前顔見せしたあの娘が登場します。
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