ガンダムビルドファイターズAMBITIOUS外伝~南風激闘伝~   作:ちくわぶみん

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第1話『廃部寸前の模型部』

その日、私は運命と出会った。

 

初めてのガンプラバトル。最悪のシチュエーション。

追い詰められた私達の前に現れたのは、燃え盛るような“赤”。

 

戦い方はすごく荒々しかったけど、そのガンプラには作った人が込めたロマンと、そして、強い絆があった。

 

追い付きたいと思った。ああなりたいと思った。

 

これは私が、私達が、この島で一番のチームになるまでの物語。その始まりの日の話だ。

 

□□□

 

「気をつけ!礼!」

「ありがとうございましたッ!!」

 

ホームルームが終わると同時に、一番乗りで教室を出る。

 

入学式の翌日と言えば当然、入部届けの提出だ。期待で胸が高鳴り、自然と足取りが軽くなってしまう。

 

あ、自己紹介しなくっちゃ。

 

私の名前はナガミネ・エミカ。つい昨日、この市立南風(みなかぜ)高校に入学したばかりの、高校一年生!

 

趣味はガンプラ!あ、でも組み専ね。バトルするのは、ちょっと苦手で……。

ガンプラを組み立てる事そのものが、私にとっては楽しいんだ~。

 

でも最近、あるガンプラファイターさんのバトルを見てから、ちょっと自分のガンプラを動かしてみたいなって思って……。

 

この高校の模型部はガンプラバトルもやってるみたいだから、この機会に挑戦してみようと思うんだ。

 

確か模型部の部室は、この先の廊下を──

 

「きゃっ!?」

 

しまった……ウキウキし過ぎて、周り見えてなかった!!

ぶつかってしまった相手に、慌てて頭を下げる。

 

「ごめんなさい!大丈夫ですか!?」

「ああ、大丈夫だ。 こちらこそ、よそ見をしていて悪かった」

 

顔を上げると、黒髪で少し色黒な男子生徒が、心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。

 

「だけど、廊下を走るのは危ないぞ」

「すみません、次から気をつけます!」

 

私はもう一度だけ頭を下げると、今度は駆け足ではなく、早足で模型部へと向かうことにした。

 

そこの角を曲がれば、もう部室が見えてくるはずだ。

 

そして、角を曲がった私の目の前にあったのは……。

 

「………………え?」

 

部の名前が書かれた看板は傾き、全体的に寂れた雰囲気を放つ、いかにも廃部寸前といった感じの陰気な部屋だった。

 

「え?えええぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

□□□

 

「ごめんね~、こんな寂れてて」

「いえ……って、あれは!!」

 

部室の前で立ち尽くしていた私は、中から出てきた先輩らしき人に連れられ、部室内のパイプ椅子に腰掛けていた。

 

部室を見回すと、まず目に入ったのは綺麗に組み立てられたガンプラが並んだ棚だった。

 

「これ、リアルモデルのフェニックスガンダムじゃないですか!!」

「ええ。卒業した先輩が作ったものよ」

「こっちはドム・バラッジ!ライノサラスに、サイコガンダムMk-IIも!どれもHG未発売の機体ばかりじゃないですか!!」

「ここに並んでいるのは、どれも先輩方が残していったガンプラなの」

「凄いです!!どのガンプラにも、作った人達の愛を感じます」

「愛を感じる、か。先輩達が聞いたら、喜ぶだろうね」

 

合わせ目は見えないし、つや消しや汚し塗装も完璧……。しかもパーツはフルスクラッチのものが多い。

こんなに綺麗なガンプラを作って来た人達が、この学校にいたんだ……。

 

他には、某有名ホビー誌の並ぶ本棚、布を被った少し大きめの何かの機材。それから、道具箱が置かれた作業机があった。

 

作業机には、男子の先輩が突っ伏している。寝ているのだろうか?

 

「自己紹介が遅れてたわね。私は副部長のスナガワ・レイコよ。レイコでいいわ、よろしくね」

「レイコ先輩ですね。ナガミネ・エミカです、よろしくお願いします!」

 

髪を後頭部で団子にまとめた先輩、レイコ先輩はそう言って、私の入部届を受け取った。

 

「それで、入部希望って事でいいのかしら?」

「はい、そのつもりですけど……」

「よかったわね部長、これで我が部は潰れずに済みそうよ」

「ん~……新入部員……新入部員!?」

 

先輩が振り返って声をかけると、作業机に突っ伏していたもう一人の先輩が慌てて起き上がり、四角メガネをかけ直す。

 

「ほら、部長なんだから挨拶しなよ」

「模型部部長、シロマ・タケフミだ。よろしく、新人」

「よ、よろしくお願いします」

 

起き上がって私の前に来て、そして挨拶しながら握手を求める。ついさっきまで机に突っ伏していたのに、凄い勢いだ。

 

私が困惑しながらも握手に応じていると、レイコ先輩が呟く。

 

「ようやく1人、確保したわ。これでなんとか、廃部は免れるわね」

「約束通り、廃部届は出さないでおくよ」

「廃部……?どういう事ですか?」

 

私の質問に、先輩達は互いに目を見合わせる。

そして、パイプ椅子に腰掛けると、真剣な表情でこう言ったのだ。

 

「実はね、このままだとうちの部、廃部になっちゃうのよ」

「……え?」

「うちの部、前部長の代から敗北続きでさ。ガンプラバトルの大会も予選敗退ばっかりで、そのうち部員も減っちゃってね……もう、僕とレイコしか居ないんだよ」

 

部長の声には、だいぶ諦めの色が強く出ていた。

 

それは暗に、立て直しが絶望的だと言っているようなものだ。

部屋の前の看板が傾いていたのも、おそらく部費を削られて直せていないって事なんだろう。

 

「でも、助かったわ。エミカちゃんが入ってくれるなら、部員数は3人になる。ギリギリ廃部だけは免れたってところね」

「それ、だいぶ危ないのでは……」

「そうね……あと2人は新入生が欲しいわ」

 

レイコ先輩は、苦笑しながら言った。

 

シロマ部長は諦めムードだったけど、レイコ先輩は立て直す気満々って態度だ。

この人、結構苦労してるんだろうなぁ……。

 

「でも、取り敢えず今日は、新入生の歓迎会を開きましょうか」

「歓迎会?」

「そう、歓迎会よ。行きましょ」

「ど、何処にです!?」

「いつもの場所だよ。着いてきたら分かるさ」

 

そう言って先輩達は、部室を出る。

後を追って歩を進める私は、先輩たちに問いかけた。

 

「いつもの場所って?歓迎会ってどんなのですか?」

「そりゃあ、模型部新入生の歓迎会って言ったら、あれ以外にないわ。──ガンプラバトルよ!」

 

□□□

 

やって来たのは、学校の近くにあるアミューズメント施設『HOUND SUN』。ボウリング場とかカラオケ、ゲーセンなんかが複合してて、放課後は市内の学生達がよく集まっている。

 

当然ながら、今世界で最も熱いゲームであるガンプラバトル用の筐体も、バトルロワイヤル向きの大きな物が設置されており、この地域のガンプラファイターはバトルしたくなった時、とりあえずここに来る……らしい。

 

先輩からの受け売りなので、ガンプラバトル初心者の私にとっては初耳なんだけど。

 

一応、部室にも筐体はあるんだけど、部員が減ったせいで埃をかぶっているらしい。先輩いわく、あと2人は部員が欲しいんだとか。

 

「一応、ガンプラは持って来てるわよね?」

「はい。この前完成させたばかりのHGを一つ──」

「ッ……なあレイコくん、ナガミネくん。今日は別の場所にしないか?」

 

突然、シロマ部長が足を止め、怯えたような顔でこちらを向いた。

 

「はぁ?ここまで来といて、いきなりどういう事よ?」

「いや、だってあれ……」

「あれって何よ……ああ、そういうこと」

「どうしたんです先輩方?あれっていったい……」

 

先輩たちの様子がおかしい。何が何だか分からず、私は怯えるシロマ部長の視線の先を見る。

 

そこに居たのは……。

 

「オラオラー!そんなもんかァ!」

「そんなんで俺たちに勝てるかよ!弱過ぎるぜ~」

「ファーッ!また一機撃墜だぜ!やりぃー!」

 

なんか、明らかにガンプラとは無縁そうなヒャッハーしてる人達が、まるで世紀末のような空気を醸し出しながらガンプラバトルを行っていた。

 

「…………なんですか、アレ?」

「アレはね、ガンプラヤンキーよ」

「ガンプラヤンキー……?」

 

先輩、当たり前のようにサラッと言ったけど……ガンプラヤンキーって、なに?

 

「ガンプラヤンキー。それは、喧嘩がご法度となったこの現代社会で、ガンプラバトルに住処を移して突っ張り続ける不良たちの総称よ」

「えぇ……なんですかそれ……」

「どんなゲームにも、マナーの良くない層が一定数居るでしょ?そういうものよ、あいつらは」

「全国的に普及したガンプラバトルと、沖縄に根付くヤンキー社会がドッキングしちゃったんだよね……。ガンプラヤンキーって呼称も、沖縄から全国に広まったらしいよ」

「酷い合体事故ですね……」

 

えぇ……そんな人達が居るんだ……。迷惑すぎるでしょ。

 

「主にガンプラバトルの筐体がある店に屯しては、バトルで打ち負かした相手のガンプラやパーツをカツアゲする迷惑なヤツらよ」

「見かけても、視線を合わせない方がいい。関わるとろくな事がない……」

 

シロマ部長、絡まれた事あるんだろうな……。

 

でも、少し気になって見てしまう。

すると、ちょうどバトルが終わったところだった。フィールドを映す画面には、『Battle Finish』の文字が表示されている。

 

対戦相手を見ると、中学生の男の子が3人。

どうやらガンプラバトルに負けたのは、彼らの方らしい。

 

リーゼントにモヒカン、それと……なんかファーファーうるさい、ミツバチみたいな柄の帽子をかぶった金髪ピアス。

 

誰がどう見てもThe・不良な3人組は、負けてへたり込む中学生達を取り囲んでいた。

 

「ファーッ!俺たちの圧勝だな!」

「って事でよぉ~、そのガンプラ俺達は俺らのモンだぜ」

「で、でも……」

 

えっ、これって……もしかしなくても、カツアゲの真っ最中だよね……?

 

「敗者は勝者に従うのが筋だろ?ほらほら、素直に渡せばお兄ちゃん達、すぐ帰るからさ」

「お前らのもだ。さっさと渡してくれるよなぁ~?んん?」

 

何あれ……酷過ぎない?

 

「い、嫌だよ!頑張ってお小遣い貯めて、やっと買えたガンプラなんだ!」

「ファ?俺らに勝ったら見逃す、負けたらガンプラは貰う。そういう約束だったよな?約束破んのかよ?ファ~ン?」

 

なにそれ……意味分かんない。

そのガンプラを買ったのはその子じゃん。

 

「そ、それはアンタらが脅してきたからで……ズルいのはそっちだろ!」

「つべこべ言ってねぇで寄越しやがれ!」

 

おそらく、買ったばかりのガンプラが入ってるであろうレジ袋に手を伸ばす不良。

 

正直言うと……我慢の限界だった。

 

「ちょっとアンタ達!!やめなよ!!」

 

気が付くと、私は不良と中学生達の間に割って入っていた。

先輩達は多分、驚いて口を開けていたと思う。

 

「そんなに欲しいなら、自分のお金で買えばいいじゃん!歳下から横取りするなんて、かっこ悪いと思わないわけ!?」

「ファッ?何だよお前」

「すっこんでろよ。関係ねーんだからよぉ」

「それともなんだ?このガキの姉ちゃんか何かか?」

「別に。この子達とは何の関係もありませんけど?」

 

そうだ。私とこの子達は関係ない。ただ、通りすがっただけの赤の他人だ。

 

でも、自分で買ったばかりのガンプラを見ず知らずのヤンキーなんかに奪われるなんて、見過ごせない。

一人のガンプラモデラーとして、絶対に許せなかった。

 

「寄って集って、他人のガンプラ奪い取って!そのくせ威張っててさ!最ッ低!恥ずかしいと思わないわけ!?」

「んだとゴラァ!」

「やんのかオラァ!?」

 

リーゼントとモヒカンが詰め寄ってきた。

 

ヤバい。我を忘れて、勢いに任せて割り込んだはいいけど、近くで見るとヤンキーめっちゃ怖い……!あああああどうしよう!?

私、今結構ピンチじゃん!!

 

でも私、間違った事言ってないもん!

絶対謝ってやるもんか!一歩も引いてやるもんかぁぁぁ!!

 

「へぇ、言うじゃないか後輩」

 

え?レイコ先輩?

 

「アンタら、うちの新入りに手ぇ出そうっての?度胸あるじゃん」

 

振り返ると、レイコ先輩が後ろからゆっくりと歩いて来る。

 

それも、滅茶苦茶すごいオーラ立ち昇らせながら……。

 

「「ひぃッ!?」」

 

リーゼントとモヒカンが震え上がり、声を揃えて悲鳴を上げた。

 

「この子に手ぇ出すんならさ、アタシともやってくれんだろ?なぁ?」

「せ、先輩……?なんか怖いですよ……?」

「ナガミネくん、レイコくんは怒らせるとキャラ変わるんだ……。いや、むしろこっちが素なのかもしれない。少し離れた方がいいよ……」

「シロマ部長、柱の陰から解説どうも……」

 

部長、めっちゃビビってる……。この人、もしかしてレイコ先輩の尻に敷かれてたりするんじゃ……。

 

ともかく、レイコ先輩が乱入した事で空気がピリピリし始めた。

これ、結構ヤバいんじゃ……。うう……今すぐにでもこの場から逃げ出したい……。

 

「いいぜ、やろうじゃねぇか」

「え?」

 

緊迫した空気を、何も考えてなさそうな声が崩壊させる。

 

声の主は、モヒカンとリーゼントに挟まれている金髪ピアスだった。

 

や、やるって何を!?まさか、河原で殴り合い的な!?

 

「俺もちょうど退屈だったからな。見たところ、お前もガンプラファイターなんだろ?なら、やる事は一つしかないよな!」

 

………………え?

 

「へぇ、そこの2人と違って随分と礼儀正しいじゃないか。アンタ、名前は?」

「ハチノセ・ショウヘイ。“秒殺のハッツン”ってのは、俺の事だぜッ!ファーッ!」

「スナガワ・レイコだ。果たしてどっちが秒殺か、見せてもらおうじゃないか」

 

えー……。

 

なんか、ヤンキー同士の喧嘩みたいなノリで、ガンプラバトルが始まろうとしてるんですけど?

 

「リーゼン、モッヒー、お前らもそれでいいよな?」

「は、ハッツンさんがそう言うなら……」

「俺らに喧嘩売った事、後悔させてやるぜぇ!」

 

さっきまでビビってた2人も、ガンプラバトルと聞いた瞬間に元気になった……。

こ、これがガンプラヤンキー……うん、よく分からない。

 

「で、バトルはアンタと……そこの短髪も参加すんだろ?」

 

そう言って金髪ピアス、もといハッツンは私の方を向いた。

 

「って……わ、私もですか!?」

「ちょっと!?バトルを受けるのは私よ。その子を巻き込むのは──」

「ファ?先に喧嘩ふっかけて来たのはそいつだぜ?見たところガンプラも持ってるみてぇだし、1人で観戦ってのは筋が通らねぇだろ?」

 

うっ、ご尤もです……。

 

どうしよう。ガンプラバトル、全然初心者なんだけどなぁ……。

もっぱら大会のバトル中継とか、人気のファイターさん達の配信動画を見て楽しむだけの見る専で……。

 

でも……ここで逃げるわけにはいかない。

確かに私は初心者向けだけど、今、それを理由に逃げ出したら、私は自分の言葉に嘘をつく事になる。

 

一歩も引かないって決めたんだ。初めてのバトルだって、なんだってやってやる!!

 

「わ、わかりました。その勝負、受けて立ちます!!」

 

そして私とレイコ先輩、そしてシロマ部長は、ヤンキー三人衆とのガンプラバトルに挑む事になったのだ。

 

「ごめん、ガンプラ部室に忘れてきてて……」

「部長ぉぉぉぉぉ!?」

「はぁ……」

 

前言撤回。ヤンキー三人衆との2vs3の勝負に挑む事になったのだ。




登場人物紹介①

ナガミネ・エミカ:本作のメイン主人公。市立南風高等学校の模型部に入学してきたばかりの新入生で、負けず嫌いなガンプラ女子。
ガンプラ作りは得意だが、ガンプラバトルはまだまだ初心者である。
使用ガンプラは無改造のアトラスガンダム。

叫んでる時は大体涙目。『はたらく細胞』の赤血球ちゃんのイメージ。
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