ガンダムビルドファイターズAMBITIOUS外伝~南風激闘伝~   作:ちくわぶみん

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第4話『紅蓮の刃』

「ちょっとアンタら、こいつはどういう事だい!?」

「「ひぃぃぃぃッ!!」」

 

ザクインヴォークの敗北と共に、レイコはハッツンの取り巻き2人へと詰め寄る。

見れば先程まで彼らが立っていた操作ボックスには、バトル開始時には居なかったガンプラヤンキーが3人も入っていた。

 

「あのデカブツは何モンなのさ?アンタらの知り合いなんだろ?」

「し、ししし知り合いじゃねぇッスよ姐さん!!」

「誰が姐さんだよ」

「まあまあ、落ち着きなよレイコくん」

 

シロマに宥められ、レイコはため息を吐く。

 

「で、あのデカブツは?」

「あ、あいつは“ジェノサイドのカズヤ”……総長に従うエリートガンプラヤンキー集団『EDGE』の一員で、敵味方問わず目につくガンプラを全てギッタギタにする傍迷惑なやつなんだ!!」

「ほう?で、なんでそんな奴が来てるんだい?」

「し、仕方なかったんだよ!総長の傘下に入った奴らは毎週、現金かガンプラパーツの納税を迫られる!金のない俺達には、こうするしか……」

「総長……?ガンプラの納税……?」

 

突然のパワーワードにキョトンとしているシロマと対照的に、レイコは大体理解している様子で情報を引き出していく。

 

「それとあいつに何の関係があるってのさ?」

「……俺達下っ端のメンバーには、強豪ファイターを相手にする場合にのみ適応される『傭兵保険』ってのがあるんだ。でもまさか、よりにもよってアイツが来るなんて……」

「うわ……絶対手柄の横取りとか、助けた分の報酬を要求してくるやつだ……」

「保険って銘打ってるのがタチ悪いわね……」

「チクショー!こんな事なら保険なんか切らんきゃよかった!!」

「ていっ」

「あがーっ!?」

 

悔しがるモッヒーの額に、レイコのデコピンが命中する。

 

「この莫迦者(フリムン)、つるむ相手を選ばなかったアンタらの自業自得だろ。他人のせいにして逃げんじゃないよ!」

「うぅ……すいません姐さん……」

「姐さん言うな」

「でも、そんな奴が相手じゃエミカちゃんに勝ち目は……」

 

シロマの言葉で、その場の全員がバトルフィールドに目を戻す。

 

ちょうど、ワスプガンダムがグレイズ・アインにランスを掴まれ、地面に叩き付けられた所だった。

 

そしてグレイズ・アインの真っ赤な単眼は、エミカの方へと向けられる。

 

「ハッツーーーーーン!!」

「もうダメだ、お終いだ……」

「逃げろエミカ!!」

「ッ……間に合わない……」

 

試合を見守る4人が諦めかけたその時、人影がひとつ、筐体の操作ボックスへと駆け込んだ。

 

『Intrusion』

 

乱入を示すアラートは、観戦モニターにも赤く表示された。

 

「ッ!?乱入者ぁ!?」

「この期に及んでまだ増援が!?」

「ひえぇ……まだヤンキー増えるのか……」

 

震え上がる男子3人。

 

しかし、レイコだけが画面に映る乱入者を見つめていた。

 

「あのガンプラ……ガンプラヤンキーじゃあなさそうだね?」

「「へ?」」

「なんだって?」

 

画面に映し出された乱入者の姿を確認する一同。

 

戦場に現れたそれは、燃え盛るような闘気を放つガンプラだった……。

 

□□□

 

風を斬る音が聞こえ、真っ赤な旋風が通り過ぎた次の瞬間、グレイズAが持っていたメイスが地面へと落ちる。

 

『何だぁ!?』

『ぬーが?』

 

グレイズ・アインとグレイズBが振り返り、私とワスプガンダムもそちらへと目を向ける。

 

そこに立っていたのは、つい今しがたアラートを鳴らした乱入ガンプラ。

 

背中に背負っているのはタクティカルアームズ……色とV字型の配置から見て、タクティカルアームズⅡL(セカンドリバイ)か。

それと、黒いマントを羽織っている。クロスボーン系統のガンプラのものらしく、バックパックのタクティカルアームズに干渉しない造形だ。

 

そのガンプラは、振り抜いた日本刀……ガーベラストレートを、チャキッと綺麗な音を鳴らして納刀する。

 

直後、グレイズAが腰の方から真っ二つになり、崩れ落ちた。

 

『う、嘘だろ……!?は、速──』

 

言い終わる前に爆発し、グレイズAは退場する。

 

こちらへと振り向いたそのガンプラは、やはりアストレイレッドフレームだった。

正確にはレッドフレーム改なんだろうけど、違いは装備くらいしかないし、レッドフレームでいいだろう。

 

『ファー……す、すげぇ……』

「グレイズを一瞬で……」

『……下がってろ』

 

え?今の、あのレッドフレームから?

 

『ファーッ!?何言ってやがる!あれは俺がぶっ倒すんだよ!』

『いいから下がれ。でなきゃお前も斬る』

『ファッ!?お前、味方じゃねーのかよ!?』

 

ハチっぽいヤンキーの人が突っかかってる……。

これ、多分止めた方がいいよね。

 

「えーっと、ハッツンさんでしたっけ?取り敢えず、一旦下がりましょうよ」

『ふざけんな!売られた喧嘩は倍で返さねえと俺の気が──』

『隙ありぃぃぃぃぃッ!』

 

説得しようとしたその時、もう一機のグレイズが攻撃を仕掛けてきた。

 

が、レッドフレームは振り下ろされたトマホークを流れるように回避すると、そのまま素早く蹴りを入れる。

 

『うおおおッ!?』

『不意打ちで大声出すからだ』

 

バランスを崩して転倒したグレイズBに、素早く抜刀したガーベラストレートを突き立てる。

それでグレイズも撃破されてしまった。

 

あまりにも機敏な動作と隙の無さ。そしてガンプラ越しにでもビリビリと感じる、ファイターからのプレッシャー。

 

圧倒的なまでの力の差を感じると同時に、私はそのレッドフレームの動きに、目を惹き付けられていた。

 

『わ……分かったよ!下がればいいんだろ!?行くぞ!』

「は、はいッ!」

 

ようやく聞き入れてくれたハッツンさんと、巻き込まれない範囲まで後退する。

 

残ったのはレッドフレームと、ヤンキー側のグレイズ・アインだけだった。

 

『ほぉう、やるじゃねぇか。テメェ、何モンだ?』

 

取り巻き2人を一瞬で片付けた謎の乱入者に、グレイズ・アインのヤンキー──カズヤと言うらしい──はいたく興味を持ったらしい。

 

レッドフレームはグレイズ・アインのギョロ目を真っ直ぐ睨み返しながら、ようやく名乗る。

 

『アストレイロッソヴィクトリー』

『へぇ……胸のパーツはV2ガンダムか。速いのも納得だぜ。けどなぁ、脚の早さが何だってんだ!結局男は腕っぷし!逃げ足の早さなんて、小学校を出たら何の役にも立たねぇんだよッ!!』

 

言うが早いか、グレイズ・アインの両肩が展開し、内蔵されていた機関銃が姿を現す。ロッソヴィクトリーはマントを翻し、放たれた銃撃を避けながらグレイズアインの周囲を旋回し始めた。

 

『どうやらその機体、銃やミサイルは積んでないみてぇだな?オマケに盾も持ってないときた。って事はつまり、距離を詰めさせなきゃいいって事だよなぁ!!』

『……』

 

弾幕を躱してグレイズアインの懐に入るべく、移動を続けるロッソヴィクトリー。

いつでも抜刀出来るよう、左手は鞘に添えたままだ。

 

『なぁ、これ我慢比べじゃね?』

 

2機の様子を見ていたハッツンさんが、ふと呟いた。

 

『懐にさえ入り込めれば、あのローソンヒストリーとかいうアストレイの方が有利なんだろ?で、あのデカブツは力強ぇけどデカいから動けない。弾が切れるまで続けてりゃ、勝負つくんじゃね?』

 

ハッツンさんの言う事は分からないでもない。

確かに、ただ大きいだけのガンプラが相手なら、そう言いきれたかもしれないけど……。

 

「グレイズ・アインじゃ、そう簡単にはいかないですよ」

『ファ?』

 

そう、グレイズ・アインには()()が搭載されている……。

 

あの巨体であまりにも生物的な挙動を可能とする、鉄オル作中でも異端扱いされていたあのシステム……。

 

その名前は『阿頼耶識』。

 

『阿頼耶識システムを忘れてもらっちゃ困るぜぇ!!』

 

グレイズ・アインはトマホークを両手に握り跳躍。

ロッソヴィクトリーの頭上へと跳び、トマホークを振り下ろした。

 

『……ッ!』

 

トマホークを躱すロッソヴィクトリー。

だが、着地したグレイズ・アインは間髪入れず、機関銃を乱射する。

 

ロッソヴィクトリーが射線を外れると、阿頼耶識システムにものを言わせた運動性能で跳躍し、トマホークを振り下ろし、時に足のクローをドリルのように回転させては、再び機関銃を乱射する。

それを繰り返す事で、グレイズ・アインはロッソヴィクトリーに隙が生じるのを狙っていた。

 

私だったら……いや、私じゃなくても並のファイターなら既に機関銃で蜂の巣にされ、トマホークでぶつ切りにされている頃だろう。

隣で見ているハッツンさんも「何だあいつ……怖ぇ……」と青ざめている。

 

だけど、ロッソヴィクトリーのファイターが呟いた言葉は、私達の思っていたものと全く異なるものだった。

 

『所詮、その程度か』

 

え……今この人、その程度って言った?

 

あの巨体でこんなに動いてるのに?

 

『どういう意味だ!』

『本物の阿頼耶識使いの動きは、もっと機敏で、もっと鋭い。ピョンピョン跳ね回って、力任せに斧を振り回す事しか出来ないお前の動きは、コメツキバッタと変わらないッ!!』

『てめぇ……ナメやがって!!』

 

コメツキバッタという喩えが癇に障ったらしい。何度目かの跳躍、グレイズ・アインはトマホークを振り下ろすのではなく、ロッソヴィクトリーへと向かって投げつけた。

 

回転しながら向かってくる2つのトマホーク。それすら悠々と躱すロッソヴィクトリー。

 

でも、どうやら狙いは別の所にあったらしい。

 

『こいつがただのグレイズ・アインだと思ってんなら、それは大きな間違いだ。俺のグレイズ・アインには、ビーム兵器も積んであんだよッ!!』

 

センサーが剥き出しになっていたグレイズ・アインの頭部が、その一言と共に閉ざされる。

 

そこは本来、黄色いカメラアイがある場所だ。

だが、そこにあったのは……鉄オルの機体にあるまじき形状の砲門だった。

 

「ハイメガキャノン!?」

 

多分、ZZの頭部にあるそれを、ピンバイスで穴開けて移植したものだと思う。

 

殆ど未改造のガンプラに、隠し武装としてのワンポイントなカスタム。鉄オル機にはビーム兵器がないという先入観と、第1シーズンのラスボスというグレイズ・アインの存在感を逆手に取った見事な作戦。

 

『死ねぇぇぇッ!!』

 

ほぼ初見殺しだ。この時点で私は、ロッソヴィクトリーの敗北を悟った。

 

撒き上がる土煙。射線を逃れられず、粒子の怒涛に呑まれていくロッソヴィクトリー。

上空から降り注ぐ高出力の桃光が、大地を抉り直線を刻んだ。

 

『どうだ!ざまーみろ!俺の勝ちだァァァッ!!』

 

勝ち誇るグレイズ・アイン、身を乗り出して勝利の興奮を露わにするカズヤ。

先程までまっさらだった眼前には、土煙が舞い続けている。

 

「そん、な……」

『やられちまったのか……あんな自信ありげに啖呵切って……やられちまうのかよッ!!』

 

悔しさのあまり、拳を叩きつけるハッツンさん。

私も思わず、膝を落としそうになる。

 

でも……あれ?敗北時のウィンドウが出ていないような……?

 

『なるほど……今のは悪くなかった』

『ッ!?』

 

周囲を見回すグレイズ・アイン。

やっぱり、ロッソヴィクトリーはまだ撃墜されていない!

 

『ファッ!?あいつ何処だよ!?』

「ッ……上見てッ!」

 

見上げる空。太陽を背に腕を組む機影は、ライトグリーンの双眸を爛々と光らせ、巨人を見下ろしていた。

 

その背中に、逆光でなお強く光り輝く粒子の翼を広げて。

 

「光の翼……」

 

V2ガンダムの光の翼。それはV2ガンダムの代名詞にして、超巨大ビームサーベルであり、超巨大ビームシールドでもある。

 

おそらく、ハイメガキャノンが命中する直前に展開させ、土煙に紛れて視界を外れたんだ。

 

なんて鮮やかな一手だろう。

なんと華麗な動きだろう。

 

思わず感嘆のため息が漏れる。視線を一点に釘付けられる。

それほどまでに、このガンプラには作者が込めたロマンが、『かっこいい』が溢れていた。

 

そして、ガンプラの性能に振り回されず、その能力を持て余すことなく使いこなしてる姿からは、ファイターとガンプラの間にも、確かな絆が強く結ばれているのが伝わってくる。

 

だから言える。

この人は、絶対に負けない。

 

『今度は俺のターンだ』

 

今度はロッソヴィクトリーが動く番だった。

 

『かっこつけてんじゃねぇぞ紅白野郎!!』

 

もう一度ハイメガキャノンを放とうとするグレイズ・アイン。

しかし、その視界を真っ黒な何かが覆い隠す。

 

『なっ!?何かこれ!?外れん!』

 

それはロッソヴィクトリーが羽織っていたマントだった。

視界を失い、標準をつけられなくなったグレイズ・アインはキャノン発射を断念し、再びセンサーを露出させる。

 

感度の上がったセンサーでロッソヴィクトリーを補足した次の瞬間、右肩の機関銃が破壊される。

 

『何をされた!?あいつは……この距離から……!?』

 

センサーに映るロッソヴィクトリーは、グレイズ・アインからかなり離れている。

 

『遠距離攻撃!?あいつに銃火器の類は装備されていなかったはず……。いや、違う!一番目立つ所にあったじゃねぇか!!』

 

気づいた直後、左肩の機関銃も爆発した。

 

そう。今、グレイズ・アインの武装を破壊したのは、ロッソヴィクトリーの遠距離装備『タクティカルアームズⅡL』のアローフォームだ。

 

タクティカルアームズは、アストレイの代表装備で、バックパックのフライトフォームから、大剣型のソードフォーム、作業用のワークフォームなど状況に応じてあらゆる形態へと変形できるスグレモノ。

 

アローフォームはその名の通り、遠距離戦闘用の弓型形態だ。

そして、接近するのに一番邪魔だった遠距離武器が消えた今、アストレイはその隙を逃さない。

 

タクティカルアームズを背負い直すと、4つの羽を持つフライトフォームへと変形。

再びガーベラストレートを。それと同時に、右腰に提げたもう一本の刀、タイガーピアスを抜刀して素早く接近する。

 

使いこなせれば機体やミサイル、果てはビームさえをも両断する2本の兄弟刀。

歴代ガンダム作品の中でも特に異彩を放つ刃は、傾き始めた戦場の夕陽を反射して、炎のように煌めいていた。

 

『はぁぁぁぁぁッ!!』

 

一斬、二斬、旋回して更に一閃。

繰り出される紅蓮の刃が、悪鬼の如き黒の巨体を切り刻んでいく。

見る見る間に、グレイズ・アインの装甲はズタボロになり、フレームが露出していった。

 

ここでようやくマントを破き、グレイズ・アインは視界を取り戻す。

 

『ナメやがって!スクラップにしてやる!!』

 

先程投擲したトマホークは、ハイメガキャノンの衝撃に呑まれ行方不明。グレイズ・アインは拳を握り、両腕のパイルバンカーを頼みに走り出す。

重たい音と共に大地を蹴り、ロッソヴィクトリーへと向かっていく。

 

対するロッソヴィクトリーは二刀を鞘に収め、背負っていたタクティカルアームズをソードフォームへと変形させて構える。

 

『潰れろォォォォォッ!!』

 

ロッソヴィクトリーの顔面へ鉄杭を打ち込んでやらんと、拳を突き出すグレイズ・アイン。

それが悪手になっているとは、夢にも思わず。

 

『そこだぁぁぁぁぁッ!!』

 

グレイズ・アインの横っ腹に、タクティカルアームズが叩き付けられる。

 

ロッソヴィクトリーの身の丈とほぼ同じくらいの大きさの大剣だ。この使い方は斬るというより、叩き潰すと言う方が正しいだろう。

 

横薙ぎに吹っ飛ばされ、大地を転がるグレイズ・アイン。

起き上がろうとするももう一撃、重たい一斬が振り下ろされる。

 

片腕を失い、上半身と下半身が真っ二つになったグレイズ・アインを、ロッソヴィクトリーは静かに見下ろしていた。

 

『思い出した……。最近、舎弟連中の間で噂になってるのはお前か。確か、血濡れの──』

『総長ってのに伝えろ。これ以上街を荒らすな、ってな』

『無理だと言ったら?』

『草の根分けても見つけ出して、二度とこの街で悪さできないよう徹底的に叩きのめす。俺とロッソヴィクトリーがな』

『……ククッ、いいぜ。伝えといてやる。だが……お前はここで負けるけどなッ!』

 

悪足掻き。至近距離で放つ自爆覚悟のハイメガキャノン。

しかし、今更そんな見え見えの手が通じるはずもなく……。

 

『勝手に爆ぜてろ』

『あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーーーッ!!』

 

ガーベラストレートを顔面に突き立てられ、耐久値が底を尽き、悲鳴と共に爆発した。

 

『……嘘だろ……勝ったのかよ!?』

『あの人は、いったい……』

 

動画サイトで色んなプロファイターさん達のバトルを見てきた私だけど、この人の動きは私の中で、最も推しているファイターさん……の次の次くらいだけど、あの人達に匹敵する程鮮烈で、とても輝いて見えた。

 

画面越しじゃなく、間近で見たからかもしれない。それかガンプラヤンキー、なんてよく分からないルール無用無法者集団に絡まれた、この普通じゃない状況がそう思わせてるのかもしれない。

 

けれども私は今、見つけてしまった。

 

私がなりたいガンプラファイター。目指す目標、憧れの星を。

 

□□□

 

「本ッッッ当にすまねぇッ!!この通りだ!!」

 

バトルの結果は、残った私たちが降参した事で終了。

自分達の非と敗北を認めたハッツンさんは、誰よりも先に中学生達に頭を下げていた。

 

「何やってんだ、お前らも謝るんだよ!」

「す、すまんかった……」

「悪かったよ……」

「ファファ~ン!?もっと真面目にやれよ!子供相手にゴメンナサイも出来ねーやつは漢じゃねぇぞ!!」

「「ごめんなさいッ!!」」

 

ファッションヤンキー、というやつだろうか?

見た目と言動はオラオラしてるけど、根っこは悪い人達じゃなかったみたいだ。

 

中学生達はそのまま、買ったガンプラを大事そうに抱えて帰って行った。

そしてハッツンさんは私の方を見て、再び頭を下げる。

 

「アンタにも悪かった。反省してる」

「ううん、もういいよ。自分が悪かったって、分かってるみたいだし」

「……なぁ、かっこいいって何だろうな?」

 

ふと、ハッツンさんはそんな事を呟いた。

 

「俺はイケてると思ったからヤンキーになった。ツッパるヤツがかっけぇと思って、だからアイツらとつるんでた。なのに、いつの間にか全然イケてねぇ俺になっちまってた。一体、何がいけなかったんだろうな?」

「んー、難しいなぁ……」

 

私なんかが口出していい事なのかなぁ……。

と悩んでいると、レイコ先輩が口を挟んできた。

 

「朱に交われば赤くなる、ってことわざがあるわ。悪い仲間とつるんでたら、自分までかっこ悪くなっちゃうの。かっこよくなりたいなら、まず総長とかいうやつとは関係を断つ事ね」

「ファ~……言ってる事は分かんだけど、俺は今、こいつに聞いてんだよ」

「あら、ごめんなさいね。じゃあ、エミカちゃんの答えを聞こうかしら?」

 

ああ、結局私が答えなくちゃいけないか。

 

うーん……そうだな~……。

かっこよさ……かっこよさか~……。

 

「う~ん……かっこよさって、人によって色々あるから、私も一概には言えないかも」

「ファ~……思ってたより難しいんだな。かっこよさって」

「でも、少なくともこれだけはハッキリ言える」

 

首を傾げるハッツンさんに、私は思わず微笑みながら応える。

 

「グレイズ・アインから私を庇ってくれた時のあなたのガンプラ、すっごくかっこよかったよ」

「ッ!そ、そうか?俺のワスプガンダム、かっこよかったか!?」

「はい!とっても!」

 

それを聞いて、ハッツンさんはとても嬉しそうに目を輝かせた。

 

晴れ晴れとした顔で店を出ていくハッツンさん達を見送ると、先輩達が安堵した顔で私を囲んできた。

 

「おつかれ、エミカちゃん」

「まさか、ガンプラヤンキーと戦って無傷で済むなんて……ラッキーにも程があるよ……」

「あはは……心配かけてすみません」

「そうね。あのレッドフレームが居なかったら、今頃どうなってたか……」

「そういえば、あのレッドフレームのファイターさんは?」

 

お礼を言おうと、辺りを見回す。

 

「今日のところは俺達の負けだ。次会う時は、こうは行かねぇからな!!」

 

大声のした方を振り向くと、捨て台詞と共にその場を去っていく3人組、そして、それを見送るパーカーを羽織った後ろ姿が見えた。

 

「助けていただいて、どうもありがとうございます!」

 

我ながら勢いよく頭を下げていたなと思う。

でも、あんなバトル見せられたら、そりゃ興奮しちゃうって~。

 

見たところ、私と同い歳くらいだろうか?

 

「次からは、バトルの前に設定を確認した方がいい。始まってからじゃ、後戻り出来ないからな」

「はい、次からは気を付け──えっ?」

 

そう言って頭を上げた私は、その人の顔を見て驚いた。

 

知っている顔だったからだ。それも、割と最近見たばかりの……。

 

「もしかして、さっき廊下でぶつかった人?」

「ん?……ああ、あの時の」

 

まさか、こんなすぐ近くにいたなんて……。

偶然って恐ろしい。いや、単にこの島が狭いだけかも?

 

「あまりあいつらには、関わらない方がいい。ろくな事がないぞ」

「うぅ……ご尤もデス……」

「それじゃ、俺は用があるから」

「え?あの……ちょっと!?」

 

色々話してみたいのに、全然言葉が出てこない。

学校は同じだけど、次話しかける時にちゃんと話せるかどうか……。

 

ええっと、こういう時は……そうだ!

 

「名前!教えて、ください!」

「名前……?」

 

せめて名前は聞いておこう。名前を知ってるかどうかでコミュニケーションのしやすさは大きく変わる。

 

「私、ナガミネ・エミカ。あなたは?」

「……キンジョウ・マサヒロ」

「マサヒロさんね、覚えた」

「もう、行っていいか?」

「うん。じゃ、また学校で!」

 

その場を立ち去っていくマサヒロさんの背中を見送り、私は先輩達の方を振り返る。

 

「それで、エミカちゃん。散々な初陣だったけど……ガンプラバトル、どうだった?」

 

確かに、私のガンプラバトルデビューは散々だった。

マナーは最悪、ルールは無法。きっかけも物騒で、ガンプラの傷は自分の下手な操縦で付けてしまったものの方が多い。思ってたのと別の意味で気が休まらない瞬間の連続だった。

 

でも、心の底から言える。

 

「すっっっっっごく楽しかったです!私、もっとちゃんと上手くなって、この子と……アトラスガンダムと、もっと色んな景色が見たいです!!」

 

私の答えを聞いて、レイコ先輩は可笑しそうに吹き出した。

シロマ部長は私とレイコ先輩を交互に見て、「え?今の笑うところ?」と困惑している。

 

「初バトルであんな目に遭って、『楽しかった』ね~。タケちゃん、これは中々の傑物かもしれないわよ」

「傑物か~……。まあ、レイコくんとは別の意味でアグレッシブな娘なのは、間違いないかも」

「ん~?誰がジャイアントメスゴリラだって?」

「言ってないから!やめてよその笑顔!」

 

こうして、私のガンプラファイターとしての日々が幕を開けた。

 

──と、言いたい所なんだけど……順風満帆とはいかないんだよね、これが。




皆さんにお知らせがあります。

この『ガンダムビルドファイターズAMBITIOUS外伝~南風激闘伝~』でも、読者参加型企画を行う事が決定しました!

募集の詳細等は後日、活動報告にてお知らせいたしますのでふるってご応募いただけたらなぁと思います。

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