ヘロヘロが行く   作:ロアグリーン

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第一章 田舎でヘロヘロ
ヘロヘロ、プロローグする。


 人の感情が何のために生まれてきたかなど知るよしもないが、人は感情によってその反応も左右される生き物だ。

 嬉しければ笑うし、悲しければ泣く。

 人として当然の反応だ。

 

 しかしそれは時として裏返る。

 

 感極まると言う言葉があるように

 喜びの余り涙する者がいるならば、突き付けられた絶望に笑うことしか出来ない者もいるだろう。

 

 そう例えるならば、深い森の岩陰に佇む今のこの粘体のように…。

 

 

 

 彼と言って良いのか、その粘体は元人間の転生者だった。

 漆黒に輝くクソブラック企業の仕打ちで死にかけた事は多々あれど、死んだ記憶こそ無い自分が何故こうして異世界で転生者をやっているかと言えばーー…。

 そんなのこっちが聞きたい所である。

 

 ただ昔遊んでいた某DMMO-RPGのギルド長からメールを貰い。

 サービス終了直前にログインして現在現役でボッチ活動していたギルド長と話して眠けに負けて早々にログアウトして、気が付けば転生者のこの有り様だった。

 

 何を言ってるか分からないだろうが此方だって何言ってるか分からない。頭がどうにかなりそうなのだ。

 本当に勘弁してほしい。

 

 兎にも角にも、突然見知らぬ森の中に飛ばされ、ログアウトも出来ずGMコールも機能せず、すったもんだで小一時間。

 ほっぺをつねってみたり、岩に頭を打ち付けてみたり川にダイブしてみたり、伸びたり縮んだりと狂人の真似事散々やって、ようやくこれがゲームでも無ければ夢でもないのだと実感して真っ先に彼は吠えた。

 

 吠えて吠えて吠えて、そしてそのまま泣き崩れた。

 彼は悲しみに打ち崩れたのか?

 答えは否、歓喜の咆哮である。

 

 何故ならそう。寝れるのだ。もう二度と会社の納期に怯えながら睡魔を薬で黙らせ朝方までキーボードに指を走らせる必要など無いのである。

 

 その他リアルにおける思い残しが無いかと問われれば、無いとは言えないが…。

 

 もうあの何処の国の古代文字で書かれたのかも分からない文字の社訓ーー…。

 たまたま偶然日本語の『笑顔の絶えない。クリーンな業務』と言う文字にそっくりな古代文字。

 恐らくだが『働けるだけ働いて死ね』と言う意味の古代文字ーー…。

 

 が額縁で堂々と飾られているあのクソブラック会社に顔を出さなくていいのである。

 

 それを思えばその他の事など取るに足らない小事と決めつけ、惰眠を貪ること数時間。

 目覚めた粘体はぐっすり眠ってスッキリした頭で現状を再確認して、とても良い笑顔で笑っていた。

 

 だってもう笑うしかない。

 改めて現状を振り返ってみれば、サバイバルの経験などしたことの無いようなもやしっ子(30路)が、そういう道具も食糧も無しで、見知らぬジャングルみたいな樹海の中で、ぽつんと一人取り残されているのである。

 

 何の地獄かな?

 冗談にしてもこれならあのクソブラック会社の社訓の方が高級感あってまだ笑えるだろう。

 

 挙げ句の果てには今の自分は人ですらないスライムだ。

 仮に今ここで人と出会せても救援の対象として見て貰えるかどうか考えただけで吐きそうになる。

 

 そんな訳でこの粘体。ナザリック地下大墳墓において至高の41人と称されるヘロヘロは、絶望の余りたった一人ぽつんと岩影で笑っていた。

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