ヘロヘロが行く   作:ロアグリーン

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お待たせしました(≧▽≦)
冒険に出発です。

グロテスクな表現があるので注意!
苦手な人は360度回れ右して心して読んでね!
レッツパーリー!!


ヘロヘロ、冒険者救出大作戦 その3

クソッ!やってられるか!!

こんな危なっかしい奴の下などクソ喰らえだ。

ふざけんな!…絶対逃げてやる。

 

憤怒となって湧き上がる感情を押し殺し、冷たい壁面に背を押し付ける。

パチパチと燃える篝火が風も感じぬ洞窟内で揺れ動き、壁面に影を踊らせていた。

 

踊る影に隠れて時折、暗闇の奥で巨体が浮かぶ。それも一体ではない。

一つ。

二つ。

三つ…。

数えだしたら切りが無い程に暗闇の奥に犇めいていた。

 

犇めく巨体が取り囲むのは人間と言う食料が二つ。

一つは蹲るように座り込み、ずっと耳を塞いでブツブツ何かを呟く壊れた人間のオスであり。

もう一つは、投げ出されたままとっくに事切れて動かなくなった壊れた人間のメスだった。

 

「なぁ。良いだろう?もう食って良いだろう?」

「おで、内臓、食いでぇ」

「足だ。足でいい。一本よこせ」

 

口々に好き勝手ほざくトロールは涎を垂れ流しながら触れるギリギリの位置までバックリ開いた口を近付ける。

その涎が人間の上に垂れる事などお構い無しだ。

 

人間も人間で頭の上から唾液がダラダラ垂れ流されているにも関わらず耳を塞いで蹲ったまま見ようともしない。

これで知らない間に上半身が無くなっていたら御目付役を押し付けられた俺のせいになるのだろうか?

マジ勘弁してくれ。

こんな事ならこいつらを餌に人間を釣り上げようとか言うんじゃ無かったよ。クソが。

 

そもそもこうなったのは全部頭の悪い部下のせいだ。

そりゃ最初は仕方なかっただろうよ。

最初の一人は俺が言い出した時には居なくなってたせいで伝令がちゃんと伝わる前に襲っちゃったんだから一種の事故だろうけど…。

二人目はどう考えても伝令伝わった後に襲って殺し掛けてるだろうがボケが!

挙句の果てに尾行に出したゴブリンは全員あのメスを見失ってノコノコ帰ってくる始末だ。

何がパラサイト・ビーの群生地に突っ込んで行きやがっただ!!ふざけんなよ。だったらお前等も突っ込んで行けよ、ボケカスどもめ。

 

現実は理想程上手くはいかない。

分かっているけど当初の計画があらかた失敗してるとかどうよこれ?

現実厳しすぎだろ!

頼みの綱は逃してやった名前も知らないメスの冒険者だ。

死にかけてるみたいだけど頑張れ。

死ぬなよ。

ちゃんと村に辿り着いて人間連れてこいよ。

あー次からは尾行じゃなくて脅して村まで案内させよう。

 

…と、その前に。

 

「駄目だ駄目だ。勝手に食うなよ。そいつらにはまだ利用価値が…あるのかコレ?でも駄目だ」

 

御目付役の役割だ。

バックリ行きそうなトロールの馬鹿どもが暴走しないように目を光らせる。

するとどうだろう。

腹を好かせてイライラしているトロールの馬鹿どものヘイトは俺に向くって寸法よ。

ほら今にも人間に喰らいつきそうなトロールの馬鹿は親の仇を見るような目でこっち見てくるじゃない?

 

「おめ、大して強くも無いくせに、偉そう」

 

そう言って棍棒で威嚇しながら俺の方に寄って来る。

一人じゃねぇ。それこそゾロゾロと沢山だ。

皆が皆、俺の事を煙たいだけの存在と思っていやがる。

そんでもってやろうと思えば殺せるんだがらタチが悪い。

本当勘弁してほしい。

 

「お、おい!待てよ!俺一応幹部だからな!逆らったらダージュン様が黙ってねーぞ」

 

この連合のボスの名前を出せば、大抵の場合なんとかなる。皆が皆、口々に「卑怯者」だの「いつか殺す」だの好き放題吐き捨てて背中を向けた。

 

暗闇の向こうへと消えるトロールの背中を見送って、最後の一体が消えたタイミングで盛大に溜息をぶちまける。

この俺が幹部の座から転がり落ちたら絶対食われちまうよな。やっぱり逃げよう。

 

そんな事を考えてた時だ。

 

「ひっひっひっ」

 

と笑って姿を表す嫌な奴。

居たのかよ。

また不可視化で消えていたんだろうが、そいつは俺と同じく幹部のナーガ。

参謀役として命令権を持ってる奴だ。

 

「苦労しとるようじゃな。ワーウルフの」

「阿呆なゴブリン共が獲物を殺し掛けるわ。尾行にゃ失敗するわで尚更な」

「ほう。それで阿呆なゴブリンはどうしたんじゃ?」

「転がってんだろ?そのへんに」

 

適当に地面を指差す。踊る影に隠れてチラホラ見えてたのは何もトロールの背中だけじゃない。

所々に転がる白骨死体。数えたらキリが無いし、どれがどのゴブリンかなど考えるだけ不毛だが、少なからずどっかに転がってる事だろう。

正直ゴブリンなどどうなろうと知ったこっちゃねえが、此処では碌に役割も熟せない無能は皆この様だ。

 

「それで、何の用だよ。参謀様がよ」

「ひひっ、単なる冷やかしじゃて」

 

冷やかしかよ!これだからお気楽な参謀様は…。

誂うように笑うナーガに露骨な程に嫌な顔を向けてやる。コイツに限り効いた試しは無いが、ちったぁこっちの身にもなれってんだ!

 

「うぜ、こっちはそれどころじゃねーっつーのによ」

 

相手が目上の参謀様でも関係ねぇ。

俺がそう吐き捨てた時だ。

その言葉を待ってましたと言わんばかりに、ナーガの口が三日月となって吊り上がる。

 

「安心せい。来るぞ。人間共がの。ワシの占いがそう言っておる」

 

そう言って取り出すのは丸い水晶だ。

透明度の高い水晶だが中心だけがくすんで濁っていた。

そこに此方へ向かう人間のパーティーでも映ってりゃ分かりやすいのだが、そうは問屋が卸さないらしい。俺が見ても何も分からなかった。

 

「…アテになんのかソレ」

「当たり前じゃろ。今まで外れた事がないわ」

 

俺の小言に噛み付くあたり占いには余程自信があるらしい。まぁ元を担ぐ方ではないが、悪い情報じゃないからどうでも良い。当たってくれたら御の字だ。

 

「ふーん。じゃどんな奴来んの?アダマンタイトみたいな奴来ねーよな?」

「そこまで見えん。…見えんが、問題無いじゃろ?誰もあのダージュンには勝てんよ」

 

適当に乗っかった俺の言葉にナーガが不適に嗤う。事実俺もそう思う。そう思うが、思わずボスの名前から連鎖反応で姿を想像しーー。

チッと舌打ちを溢していた。

 

その舌打ちが届いたであろうナーガがこれまた意味有りげに口角を釣り上げる。

 

「人間共の間では伝説にまで謳われたオーガロード。ただでさえ強い其奴が魔神の武器を持ったのじゃ。間違いない。今のあ奴はトブの3強よりも強い」

 

嗤うナーガの瞳は凶気に燃えていた。

それは正に狂信者の瞳だ。

絶対なる強さに取り憑かれた末路がそこにはあった。

 

今にも飲み込まれそうな狂信者の瞳を前に、俺はただ険しい顔でナーガを睨む。

…逃げてぇ。

それが俺の本心だった。

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

ヘロヘロは元々人間である。

それも性欲旺盛で健康的な成人男性だ。

ともなれば男性として当然のニードと言うものもある訳であり、他者を羨む事もあれば嫉妬する事だってある。

 

だが悲しい事にヘロヘロに恋人はいなかった。

歩んできた人生の周りに異性がいなかった訳では無い。

異性に興味が無かった訳でも無ければ刀や銃が恋人等と言うストイックな精神を持っていた訳でも無かった。

 

待っているだけで異性から寄って来る程、美形だったり甲斐性があった訳では無く。

かと言って自分の方から異性と積極的に関わろうとする程、行動力があった訳でもなければ、そんな勇気があった訳でも無かった。

 

結局のところ、ヘロヘロは恋人はおろかその切っ掛けすらも作ることが出来なかった。

それは学生の頃から社会人になっても変わらない。

 

だがそれでも…。

理想は重ねる。

夢は見る。

 

恋人同士、手を繋いで歩きたい。

何気ない会話で笑い合いたい。

何も言わなくても当たり前のように寄り添って欲しい。

 

人が聞けば失笑する程に他愛の無い願望、だが決して現実世界で満たされなかった願望だ。

 

だからそれをユグドラシルに求めた。

 

クリエイトツールでキャラクターを自由自在に造り上げる事ができ、更にAIを組み込むことで、動作を増やし行動パターンを複雑化する事が出来ると知り、自分でも驚く程の熱意を注いだ。

 

幸いと言うべきなのか、似たような願望を抱いていたギルドメンバーはそれなりにいたようで、何時しか協力者も増えた結果、心血を注いで造ったメイド型NPCは戦闘型も合わせるとギルドメンバー総数である41を超えた。

 

元々異型種限定ギルドでありながら、そのギルド内のNPCに人型が多数存在していると言う矛盾した状況を作り上げた戦犯の一人に間違いなくヘロヘロがいる。

 

スライムだから!

ホムンクルスだから!

ドッペルゲンガーだから!

 

同士と共に苦しい言い訳を無理矢理押し通し、『種族さえ人間じゃなかったら見た目人間でも問題無いんだ』と言う先入観を植え付けてまで人型に拘り続けたのはーー…。

 

ーー現実世界で満たされる事の無かった願望を、それを叶える桃源郷を、ユグドラシルに見ていたからだった。

 

しかし、結局夢は夢でしかなかった。

いくら動作を増やしたところで、いくらそれを制御するAIを組み込んだ所で、表情一つ変わらぬ人形に感情を与える事は出来なかった。

 

それに気付いた頃から、急激に冷え込んだNPCの作成は下火となり手を加える事も無くなった訳だが…。

そういえばあの頃、熱心に決めていた7姉妹の序列も結局どうなったのか?

今となっては確認する術も無い。

 

 

そんなヘロヘロも現在…。

猛烈に嫉妬していた。

 

 

恋愛と言うものに距離を起き、手の届かぬ産物と諦め仕事に没頭してすでに久しい。

そんなヘロヘロが異世界に飛ばされて見せ付けられたものはと言えば、

女の子の手を引く少年の姿だったり

絶世の美女を連れた冒険者の話しだったり

挙句の果てには、年頃の女の子であるサティアから先生と慕われているマイクの姿である。

 

羨ましく無いと言えば嘘になる。

…と言うか、普通に羨ましかった。

 

だが、残念な事に、ヘロヘロの今の姿はスライムだ。

最早異型と化した自分には一生恋人が出来ない事は理解している。

正直なところ、人間だったとしても恋人が出来る想像が出来ない。

むしろ恋人のいない人生を謳歌する言い訳が出来たとすら思っているぐらいだ。

 

唯一、異性とスキンシップが図れた事と言えばーー。

これまた悲しい事にペットとして好意を向けてくれた10歳にも満たない幼い少女だけである。

 

唯一残された異性との触れ合いはペット枠と言う悲しい現実。

ふと、そこでヘロヘロは思う。

 

頭の中にあるのは、漫画やアニメで見たような、可愛い可愛いと言いながら仔猫を取り合う複数の女学生と代わる代わる抱き締められる仔猫の姿。

そしてその仔猫の背中にあるのは当然二つの……。

 

あれ?とヘロヘロは思う。

 

10歳にも満たない幼い少女は残念ながら守備範囲外だ。それはペロロンチーノにでも任せるとして、もしそれがサティアやシルフィーナだったとしたら…。

 

あれ?とヘロヘロは思う。

悪くない。

そう。悪くないのだ。

 

なんの希望も無い暗闇の中で雲間から光が射した気分だった。

もしもヘロヘロが人型で一人だったなら、思わず膝を突いて涙ながらに手を合わせ、そして空を仰いだ事だろう。

 

活路はあった。

その考えに行き着いたヘロヘロは思わず、背中を向けて歩くグロプの頭へと飛び付いた。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

マイクと言う人物を言えば、知的好奇心の塊だ。

薬師としてポーションの研究は当然の事、マジックアイテムから国の政治の事まで幅広い。

言わば彼の性質は科学者のソレであった。

 

幽霊や超能力など科学者にとって理解不能なソレを前に『非科学的だ!』等と頭を抱えるソレとは違い、理解不能な現象であればある程、その探究に熱意が燃え上がる性質だ。

 

そんなマイクの現在の興味の対象は突如現れた知識ある喋るスライムことヘロヘロであった。

 

味覚と言う本来スライムに備わっていない感覚を当然のように知り。

繁殖形態が違うため本来絶対持ちえる事のない子供と言うものを語り、あまつさえ自分の子供に重ねるような発言までもする。

 

その存在から言動の全てまでもが尽く常識と異なるヘロヘロはマイクの知的好奇心を刺激するには十分だった。

 

観察から考察を繰り返し、それによりマイクの立てた仮説はーー。

知識を持ったスライムでは無く、知識ある存在からスライムに変貌した何か…であった。

 

「へぇ。そんな事がね」

 

そんなマイクはサティアからの報告を聞き、興味深そうに口角を釣り上げる。

 

なんでも訓練の休憩中、サティアはヘロヘロから呼び出しを受けていたと言う。突然人気の無い路地裏まで連れ込み、そこでヘロヘロは踏まれる事を要求したと言う。

 

「あれ、絶対変態ですよ」

 

と言うサティアの感想を受けながら、その要求がどういった立場の要求であるかを考える。

それはスライムとしての要求なのか、はたまたスライムになる以前の何かとしての要求なのか…。

面白い話として、仮にこれがサティアの言う変態…つまるところ性的な要求であるとするならば、ヘロヘロの美的センスは人間に近いところにあると言う事になる。

 

奇しくも人間には女に踏まれて喜ぶ趣向を持った存在と言うのも確かに存在している。

仮にヘロヘロが『スライムに変貌した人間』と仮定した上で、これらの矛盾と繋ぎ合わせてみると……。

 

思わず口角が上がる。

あっさり矛盾が解消されたのだ。

 

だからこそマイクは顎を擦って指を立てた。

それは最早持論を語る際のクセのようなものであった。

 

彼は言う。

 

「これはあくまで仮説なのだが」

 

 

 

 

ーーー

 

 

シルフィーナは不安だった。

 

だがそれは仕方がない。

リーダーらしき冒険者の屍を見たと言う報告や、何時まで生き永らえるのかも分からない仲間の安否。

そして5種連合等と言う訳の分からない規模の敵の存在や、ソレを2種連合等と騙して連れて来ている事等…。

 

実に様々な不安が駆け巡っていた。

 

目前にいるのは、グロプと言う名のトードマンであり、行き倒れた冒険者の場所まで先導すると言う事で現在自分達はその後ろを追従するように続いている。

 

ザクザクと森の小枝を踏み砕き、緑の背中を眺め、黙々と森の中を歩くシルフィーナは思う。

 

本当に大丈夫なんだろうか…と。

 

仲間の救出に向かうメンバーは、結局のところ五人と言う事になった。

正確に言うと四人と一体…なのだが、シルフィーナ・マイク・サティア・グロプ・ヘロヘロがメンバーに選ばれ、お涙頂戴な場面に乗せられ俄然やる気にはなっていた農夫達は漏れなく全員がお留守番となった。

 

勿論理由はある。

当初こそ如何に安全に負傷者を運び出すかが論点となり、当然それなりの人数が選出されるばずだった。

 

だが、そうならなかったのは単純に薬師マイクがその案を一蹴したからだ。

 

ゴブリンは兎も角、相手がオーガとなればいくら力自慢の農夫と言っても太刀打ち出来るものではない。

 

にも関わらず、危険な森や洞窟から負傷者の搬送するのはリスクが高すぎるのだ。

 

ならばどうするか?

決まっている。

負傷者の搬送が難しいなら負傷者には一緒に歩いて貰えばいいのである。

 

如何に死にかけていようと死んでいない以上回復が出来る。

体力の回復さえ出来れば、彼らとて冒険者なのだ。魔物の巣窟から脱出する為の優秀な戦力としてそのまま使う事が出来る。

ーーと、薬師であるマイクは語った。

 

それにはシルフィーナも同意する。

敵を薙ぎ倒しながら救出が無理なら少数精鋭で敵との戦闘を避け仲間を回復させて一緒に出て行くしかないと見抜くその慧眼は確かに大したものだと感心すらした。

 

だけど、それでもシルフィーナは思う。

一緒に歩く新たな仲間を一望してシルフィーナは思ってしまうのだ。

 

前を見れば、

 

「グロプさん。ペット枠。ペット枠ならまだ私にも可能性があると思いませんか?」

「オイラちょっと良く分かんねぇよー」

 

と、

グロプの頭に取り付いたヘロヘロがなにやら熱心に意味不明な事の同意を求めており、どうでも良さそうに被害者がボヤいていた。

 

後ろを見れば、

 

「人間からスライムに変貌したとして、スライムと人間と言うのは構造上大きな違いがある。その結果、彼は既に人間として当然のものを消失していると考えられる。…なんだと思う?」

「人としての尊厳とかでしょうか?」

 

なにやら熱心に持論を語るマイクに対して、これまたどうでも良さそうにサティアが答えていた。

 

そんなピクニックにでも行くかのようなパーティーの様子を見て、シルフィーナは思う。

…この面子で本当に大丈夫なんだろうかと。

 

とは言え、冷静に考えれば現状これ以上のメンバーは不可能である事も理解出来る。

先頭を歩くトードマンのグロプは戦闘力こそ分からないが、それでも足取りや感覚から言って雑魚では無い事は間違いない。

サティアに至っては一緒に訓練したことがあるから言える事だが、確実にアイアン級はある。と言うか下手すればシルバー級すらも有り得る。

マイクにおいては足取りが確実に戦闘系では無いのだが、会議の様子や今回の作戦を聞くにあたり、頭が回る事は間違いが無く、今回の作戦は如何に戦闘を回避するかが重要である為、むしろ彼の能力に期待するところが大きい。

 

若干一名、使い道の分からない異型が混じっている訳だが、それさえ気にしなければ現状村で戦力になりそうな人物が全員集結している事になる。

 

それは絶望的な状況にあったシルフィーナにとって僥倖以外の何物でも無かった。

 

 

ーーやがて、先導していたグロプの足が止まる。

相も変わらず樹木と茂みばかりの変わり映えの無い景色の中で、茂みに隠れて見えた彼の一部を見つけたのは、

 

「着いたぜ」

 

と言って、顎をシャクるグロプの目線を追いかけた時だった。

 

 

 

ーーー

ーー

 

オランドルは決してリーダーとして頼りになる存在だったと言う訳じゃなかった。

実力はそれなりにあったと思うが、いざという時優柔不断で、すぐ調子にのって問題を引き起こし、金銭管理に甘い人間だった。

だけど、不器用なりに一生懸命で、仲間想いで、責任感が人一倍強い人だった。

 

そんな彼が意の一番に、

「救助を呼んでくる。待っていてくれ」

と言って飛び出したのだ。

 

あの時ほど頼りに思った事は無い。

正直、殺しても死なない人だと思っていた。

それなのにーー…。

 

どうして貴方は変わり果てた姿となって転がっているのか…。

 

四肢の多くを…と言うか片腕と肋骨から下を紛失し、達磨のように成りかけた身体は内臓と言う内臓をぶち撒け、鳥や獣に食い荒らされていた。

 

皮肉な事に彼が彼だと判断出来たのは虫に集られて崩れた顔ではなく、片目を啄まれて光を失った瞳では無く、顎から下がごっそりと無くなった輪郭では無く、唯一遺された片腕に嵌められた腕輪が見馴れたソレだったからだ。

 

「オイラが見付けた時にはもうこんな有様だったぜ」

 

彼の前に座り込んで放心する自分に対して、なんて声をかけて良いのか悩んだ結果なのか、絞り出したようなグロプの言葉が妙に重たく聞こえた。

 

人は死ぬ。

分かっていた事だ。

それでもこうも目前に突き付けられてしまうと、「はいそうですか」と受け入れる事も飲み込む事も、それはそれで難しかった。

ただ漠然と死んでいるリーダーの姿を瞳に収めるだけだった。

先日まであんなに元気だったものが、屍となって転がっているのだ。

なんの冗談だと思ってしまう。

 

だけど、氷が水へと溶けて、その水が土に吸われるようにーー…。

自然とその現実は自分の中へと浸透していく。

なんだ。そうか。死んだんだ。

ようやくその事を理解したのは、その変わり果てた姿を見てどれ程の時間が経った後なのか?

 

死んだリーダーの姿と、死にかけている仲間の姿が重なり、無意識に自分の身体は立ち上がる事を選んでいた。

 

「……」

 

もう一度だけ彼の姿を振り返る。

弔ってあげるべきかとも思ったが、生憎今は時間が惜しい、もしも生きて戻れたならば必ずここに戻ってくる事を胸に誓い。

その目にここの風景を焼き付ける。

 

そんな私の心情を気遣っての事なのか、先程から困った顔を向ける一方のグロプの目線に気付き私は強く頷いた。

 

「行きましょう」

 

もう。何を見ても驚かない。

そう刻んだ想いを胸に全員の顔を見合わせて、そして唐突に気付いた事を口にする。

 

「…あれ?ヘロヘロさんは?」

 

するとグロプは別の種類の困った顔を見せると、おもむろに後ろの方を指差した。

 

「なんかすっげー後ろの方の木の上にいるぜ」

「なんで?」

「なんかグロいのがどうとか」

「……」

 

私は今どんな顔をしているのだろうか?

何を聞いても驚かないとは言ってない。

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

そのゴブリンは斥候の役割を与えられていた。

樹木と茂みに遮られ見渡しが悪い上に変わり映えの無い景色をぼんやりと眺めつつ、不意に欠伸が漏れた。

 

人間の討伐隊が来るかも知れないと聞かされていたが、いまいち実感が沸かない。

だが、それも仕方ない事だった。

人間の冒険者が現れたが、それも呆気なく壊滅。唯一逃された人間が命からがらパラサイト・ビーの群生地の奥に逃げ延びた訳だが、それすらも無事に人間の拠点に辿り着けたかも分からない。

 

そもそも辿り着けたとしても軟弱な人間共がこんな所まで来るものか…。

と、そのゴブリンは半信半疑のまま任務を続けていた。

 

ガサリ…。

 

不意に拾った物音にゴブリンは何気なく顔を向ける。

風でも吹いたか、それとも獣が走ったか…。

本当にその程度の気持ちで振り返る。

ああ、そう言えば、あっちにはアイツがいたな…と、呑気にそんな事を考えた時だ。

 

その目が拾った光景は、呑気を貫くゴブリンの予想とは大きく違い。

まさに今、首から転げ落ちようとしているアイツの頭と、フラフラと踊るアイツの身体。

そして片手で別のゴブリンの手を引く人間の姿。それはまるでダンスを踊るワンシーンをそのままくり抜いたような光景で、既に落とされたそのゴブリンの頭が茂みの奥から恨めしそうに眺めていた。

その人間の片腕に持った鋭利な薙刀の刃先が、丁度アイツの首を両断したように滑る最中で、それら全ての情報が脳を駆け巡って始めて襲撃されていると判断出来た時にはもう。

その冒険者、恐らく彼女の狩人のような眼光が自分を捉え、円を描くように滑る薙刀の刃先が丁度この首に迫っていた。

 

ーードサリ。

と、投げ出されたゴブリンの身体が地を叩く。

ーーガサリ。

と、転げ落ちた頭が茂みに沈む。

 

その中に平然と立つサティアが薙刀を素振りし血糊を飛ばす、そして何事も無かったように振り向き一言。

 

「終わりました」

 

そう告げた。

そしてわざわざ小走りでマイクの前まで戻ると、その顔を見上げ。

 

「終わりました」

 

大事な事だったらしい。

 

「御苦労」

 

と、マイクはサティアの頭に手を起き、

 

「しかし、一体目のアレは首を完全に落とすのでは無く、皮一枚残すべきだったね」

「そうですね。茂みに落ちた頭があんなに音を立てるとは、失敗でした」

 

等と反省会を始めていた。

 

一方、

シルフィーナは驚愕していた。

 

サティアが強いだろう事は分かっていた。

だが今見せられた光景はアイアン級のシルフィーナにとって信じられないような光景だった。

 

瞬殺、正に瞬殺だ。

マイクから指示を受け茂みに身を隠し接近し、そして襲撃する一連の動作は最早芸術の域に達していた。

 

だが驚愕すべきはサティアだけではない。

このゴブリンの存在に真っ先に気付いたグロプも最早異常だった。

ここからかなり離れた距離からゴブリンの存在を察知し、木の上から様子を伺うだけで3体のゴブリンの位置を正確に把握、動作から見て組織に仕える斥候だと判断すると補足されないルートを導いたのだ。

勿論その間、シルフィーナにはゴブリンの姿など見えてもいなかった。

 

そして極め付けはマイクである。

彼はゴブリンの姿を確認すると、真っ先に『消音』のマジックアイテムを取り出した。

そしてソレをサティアに振りかけて、指示を出す。

襲撃のルートと倒す順番など、具体的な指示を出して芸術的な瞬殺へと導いた。

 

それはどれ一つ取ってもシルフィーナには出来ない芸当だ。

仲間の救出に希望を抱く一方で、もしかしたら自分が一番の御荷物では無いかと不安を抱く。

そしてふと、シルフィーナはヘロヘロを見て『まさか』と思う。

リーダーの遺体の周辺でヘロヘロは木の上に登っていた。

その不可解な行動から推測されるのは、その時点でゴブリン達の存在を察知していたと言う事だ。

その場所はグロプが敵を察知した場所より更に遠く、あの川の手前からこの場所までどれだけの距離があると言うのか…。

もしそうならヘロヘロはグロプよりも高い索敵能力を発揮したことになる。

 

シルフィーナは思わずヘロヘロに問い掛けていた。

 

「へ、ヘロヘロさん。もしかして先程、川の手前で木に登っていたのは…このゴブリン達を察知してですか?」

「はい。……えっ?」

 

ヘロヘロの上擦った返答に少しだけシルフィーナは安心した。




何時の間にか突破しているパラサイト・ビー群生地の話しは次回に持ち越しです(・∀・)



登場人物紹介 その1


「一応、私だって要注意人物としてニャル測に載ってるんですけどねー」

名称:ヘロヘロ
種族:異形種(粘体)
役職:至高の41人、ギルドメンバー
カルマ:-500
レベル:100(種族:40/職業:60)
【種族】
粘体:15
腐食の粘体:10
古き漆黒の粘体:5
他:10
【職業】
モンク:15
ブレイカー:10
他:35
【装備】
○視覚の指輪
○リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン
○リング・オブ・ステルス
○時間停止無効の指輪
○調停者の指輪

【一言】
この世界ではチート級。
物理に対して極めて強く。
魔法に対してすごく弱い。
でもメンタルはもっと弱い。

ーーーーーー

「オイラはグロプ。トードマンのグロプってんだ。喋るスライムと言うのも珍しいな。げっげっげ」

名称:グロプ
種族:亜人種(トードマン)
役職:元狩猟班
カルマ:+50
レベル:17(種族:3/職業:14)
【種族】
トードマン:3
【職業】
ハンター:5
レンジャー:3
ローグ:3
バード:1
他:2
【一言】
トブの大森林において中堅以上のトードマン。その中でも狩猟班として活躍していただけあり野伏としての能力は高い。純粋な前衛職は持っていないが、それでもオーガぐらいなら普通に狩れる。


ーーーーーー

「サティア君。そんなに警戒しなくとも、この辺りは比較的安全でそうそう魔物など出てこないさ」

名称:マイク・エレクトーニア
種族:人間
役職:薬師
カルマ:+400
レベル:10
【職業】
ファーマシスト:3
アルケミスト:2
ドクター:1
シーカー:1
他:3
【装備】
○旅装束

【一言】
村の中では最もレベルが高いが、戦闘職を所持していない為戦闘力は低い。
それでも柔軟な思考力とアイテムを使ったサポート能力はそれなりに高い。

ーーーーーー

「だけど。それでもーー私の、恩人です」

名称:サティア
種族:人間
役職:薬師助手
カルマ:0
レベル:7
【職業】
ファイター:3
ローグ:1
ソルジャー:1
他:2
【装備】
○薙刀
○旅装束
○他
【一言】
戦闘職に偏ったレベル構成の薬師助手。村人の中で唯一、オーガと単身で戦える存在。戦闘能力はシルバー級。
マイクの事を先生と慕っている。
薬師助手なのにそう言う職業を持っていないの不思議。

ーーーーーー

「馬車を…いえ、馬を貸してください」

名称:シルフィーナ
種族:人間
役職:アイアン級冒険者
カルマ:+50
レベル:4
【職業】
ファイター:2
他:2
【装備】
○鉄の剣
○村人の服(探索用)
↑装備が半壊したため村人から提供されたもの。
【一言】
ブリタ級だからね。仕方ないね。
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