誤字を修正してくれる方もありがとうございます。
毎話投稿する度に恵まれている事を実感しています(≧▽≦)
読んでて原作との矛盾や、意味不明なものを感じたら
お気軽に指摘下さい。
種族によって相性の良い職業があれば、その逆に相性の悪い職業がある。
例えばゴーレムに対してモンクや剣士等の物理攻撃を得意とする職業は相性が良いと言えるように、精霊に対してウィザードやビショップ等の魔法攻撃を得意とする職業は相性が良いと言える。
ではスライムにモンクと言う組み合わせはどうだろうか?
ユグドラシルプレーヤー100人に問えば100人が答えるだろう。
互いの良さを潰し合うクソ相性だと。
スライムには種族特性として物理攻撃を大幅にカットする性質がある。
元々防具の殆どを装備出来ない性質上、種族特性の性能が極めて高く。見ての通りネバネバした液状のモンスターと言う事も相まって全身が衝撃吸収に優れた仕様となっている。
そしてこの現象は攻撃時にも当て嵌まる。
『スポンジみたいな身体してる奴が殴りかかる時だけ硬くなるわけ無いだろ、常識考えろカス』
と言うようなニュアンスの理由で、スライムと言うのは体当たりや触腕で殴り掛かってもダメージがほぼ通らない仕様になっている。
スライムとはそもそも、酸や毒等の特殊攻撃でダメージを与える種族であり、それでも物理攻撃がしたい人の為に武器の装備が可能になっているような存在だ。
一方、モンクと言う職業は己を身体を武器として戦う職業である。
手にはガントレット等の一部の防具のみが装備可能なだけで、基本的に武器が装備出来ない、キャラクター本体の攻撃力に依存しダメージを上昇させると言うのがモンクの代表的な考えだ。
素の攻撃力が無い変わりに武器の装備が可能なスライムと、武器の装備が出来ない変わりに素の攻撃力に依存しダメージを上昇させるモンク。
正に水と油のような関係であり、『混ぜるな危険』とまで言われた組み合わせ。
それを見事にやってのけたのがヘロヘロだった。
変わった組み合わせはレア職への道ーー…。
何時どこで誰が言ったか分からないが、ユグドラシルでは有名になった文句の一つを信じて突き進んだヘロヘロは最終的に「嘘だ」と罵った。
それは結局今となっては良い思い出なのだがーー。
それは其れとして、その代償は現在ヘロヘロに大きな問題を突き付けていた。
攻撃手段が無いのである。
現在、冒険者の救出に向かうメンバーの道程は順調と言えた。
シルフィーナが道を案内し、グロプが敵を察知し、マイクが状況から作戦を練り、サティアが奇襲で捻じ伏せる。
勿論相手の種類や数によっては迂回したりやり過ごしたりする訳だが、即席ながら完璧なチームワークが発揮されていた。
ただ残念ながら。
非常に残念ながら。
そのチームワークに加わっていない者が一名いると言う悲しい現実がそこにはあった。
ではその間、その一名は何をしていたかと問われれば『ネバネバしてました』としか言いようが無い。
ネバネバしながら歩くか、乗るか、聞くか、眺めるかしかしていないのだ。
いっそ、誰かが指示でもしてくれようものなら「合点承知の助!」とばかりに馬車馬の如く働く所存ではあるのだが、指示役のマイクも基本的にサティアを動かしてばかりで、ヘロヘロに指示を出す様子は見られなかった。
そもそもマイクにはヘロヘロに何が出来るのかを把握していないのかも知れないが、肝心のヘロヘロ自身、自分に何が出来るのかを把握していないのだ。
これは不味いとヘロヘロは焦る。
『彼女を助けたいです』等と言い出した本人がいざ助けに行ったら戦力外通告でしたなど余りにもアンマリだ。
『業績を上げるぞ』等と言いながら仕事だけを増やして職場じゃ何の役にも立たないクソ上司と一緒であった。
仕事は待つのでは無く作りに行くものだと、そのクソ上司も言っていた。
あの当時は社泊3日目の月曜日だったこともあり『休む間もなく仕事を振りまくる癖にまだ作れと言うのか死ねよ!!』と内心吠えていたが、今の立場で考えてみたならあながち間違ってもいないのかも知れない。
仕事、仕事を見付けなければ…と、メガネを無くしたのび太君のような動作でキョロキョロするヘロヘロに神が微笑んだのか、吹き出したのか、腹を抱えて笑い転げたのかは知らないが絶好の機会が訪れたのは、それから後のことである。
「あった。あれです」
等と指を指すシルフィーナの案内で辿り着いた洞窟。彼女はそれを前にして突然駆け出した。
「ちょま…」
突然の行動に思わずグロプは制止の声を上げるも虚しくシルフィーナは洞窟の中へと消え、声は溜息へと変わる。
「グロプ君。こう言う洞窟に迂闊に入って不味い理由は何かね?」
「色々あるけど、一番やべーのは挟まれたら袋小路になる事」
「成程、それは不味いね。とはいえ入らない事には救助は不可能だ。サティア君はここで殿を頼めるかな?」
「嫌です」
「だそうだ」
マイクもまた洞窟の中へと消えたシルフィーナの後を追うように駆け出した。当然のようにソレにサティアが続き、更にその後をヘロヘロが続く、それ等が洞窟に呑み込まれたのを見届け、
「だからせめて索敵しながら慎重に行くんだけどな」
そう愚痴る。
とは言え既に一人が先行した状況だ。
今更索敵も何も無いかと自分に言い聞かせ、グロプは洞窟の中へと飛び込んだ。
ーーー
ーー
ー
「…嘘、確かにここに居た筈なのに」
洞窟の中を下るように突き進み、目的の場所まで来たシルフィーナはそこで愕然としていた。
居ないのだ。
見覚えのある風景が確かにこの場所で隠れていたと言う事実を告げているにも関わらず、目的の人物だけが忽然と姿を消していた。
「どうして」
あまりの失望に膝を突くシルフィーナにマイクが追付くのは間もなくの事で、立ち止まり周囲を確認するとこの洞窟内部に光を運んでいる天井を見上げた。
岩盤に幾重にも張り巡らされた樹木の根っこらしきものが辺り一面を覆っており、喰い破られヒビ割れた岩盤と根っことの隙間が網目状に広がっているせいか、零れ落ちる砂と一緒に僅かな光が運ばれ洞窟内部を照らしていた。
暗いが慣れれば見渡せる。
成程、追われた人間が隠れるには打って付けの空間だ。
シルフィーナが膝を突く方向の床には綺麗サッパリ痕跡が無いが、直ぐ側の壁面には火の消えたランプが吊るされておりホコリ1つ付いていない綺麗な表面は使われてから余り時間が経っていない事を証明していた。
一本道の通路から見れば広場のような空間で、一見ここが最奥のようにも見えるが、よく見れば岩陰に隠れて更に奥の通路がある。
流石にこの奥まで光は届かないようで、奥へと行くほど闇は密度を上げて通路を飲み込んでいた。
マイクが周囲を伺い奥の通路をマジマジと眺めている頃にはヘロヘロとグロプも到着し、広場中央で立ち止まり天井を眺めていた。
「ふむ、暗いね」
「ですね」
「私も見えません」
「オイラは暗闇でも見えるけどな」
「あ、私も見えますけどね」
結局ここには目的の人物が居ないと分かった結果、探す場所は必然的に奥の通路に限られる。
満身創痍だった彼等が何故?と言う疑問はあったが、荷物も一緒に消えているあたり荷物を持って降りていった可能性は否定できない。
幸い荷物の中にもランプはあるのだ。
行こうと思えばランプを片手に降りていく事も出来たはず。
「皆さん。ランプはありますか?」
等と言いつつ振り返るシルフィーナを他所にマイクがゴソゴソと荷物を漁り小瓶を三つ取り出していた。
「暗視の効果を得られるアイテムだ」
「何でも持ってんな、お前」
「これでも薬師の端くれだよ?傷や毒を無くすだけが薬師の仕事じゃないんでね」
ふふん、と笑って胸を張るマイクが3本の小瓶から2本を各自に手渡す。
受け取るのは人間であるサティアとシルフィーナだ。先の発言から暗闇でも見通せる目を持つヘロヘロとグロプには必要が無い。
なにはともあれ暗闇対策はこれでバッチリだ。薬師の存在は偉大なものだと染み染み感じながらシルフィーナは小瓶の蓋を開けようとしてーー…。
「……」
不意にその手は止まる。
受け取った小瓶をマジマジと眺め、そしてマイクとサティアが持つ小瓶をチラホラ眺めると如何わしそうに小首を傾げた。
「…なんか量少なくないですか?」
量が少ない。
気のせいじゃなく確実に二人の小瓶に比べて1割ぐらい少ない。
そしてよくよく見れば瓶の蓋も開封済みだ。
「研究の為にサンプルをちょくちょく使っているからね。なに、安心したまえ。1割までなら減っていても問題なく使用出来る事は実証済みだよ」
シルフィーナの疑問に爽やかに答えるマイクに『これお前が作ったんじゃないんかい』と言うツッコミを飲み込み、啞然と見遣る。
「9本買って10本に増やすとか良くやってましたね」
なんて言葉が何処からか聞こえた気がしたが、あえて聞こえないフリをした。
兎にも角にも小瓶の薬を飲み干し、洞窟の先を見遣る。先の話のせいで効果の程も胡散臭さを拭えないでいたが、心外に効果は劇的だった。
すーっと広がる視界は暗いにも関わらずクリアに開けた。明るく感じる訳ではない。なのに暗闇の隅々まで輪郭から色までハッキリと分かるのだ。
「…すごい」
その感想は思わず口に出た。
冒険者は様々なマジックアイテムを所持し行使するが、当然ランクによって使う手段は様々だ。
例えば暗闇を照らすと言う手段一つとっても低位の冒険者ならランプや松明を使うし、中位の冒険者なら生活魔法を発動させるマジックアイテムを使う。
自分一人だけに効果を得られてしかも使い切りのアイテムなど、そもそも上位の冒険者や貴族等のお金持ちしか手が出せない代物だ。
アイアン級冒険者でしかないシルフィーナは当然、こんなアイテムに手が出せる訳がない。
それをこうも簡単に他人に使わせるなど、マイクと言う人物は一体何物なのかと考えてしまう。
余程の金持ちか、それとも損得を考えられないような馬鹿ーー。
「あ、多分後者です」
エスパーかこいつは…。
思考の最中に割って入ったかのようなサティアの一言にシルフィーナは思わずそんな言葉を飲み込んだ。
兎にも角にも暗視の効果を受け視界も良好、いざ洞窟の奥へ!となるはずだった。
しかしそうは問屋が卸さないのが現実である訳で、
「奥に何かの気配があるな、しかも複数」
なんて、歩くレーダーのグロプが発言する事によって、事態は再び硬直する事になる。
それは吉報であると同時に凶報だ。
吉と出たなら仲間の冒険者と言うことになり、どのような状態にせよ回復させて連れ帰れば晴れて任務完了と言う事になる。
しかし凶と出たなら敵であるオーガやゴブリン達だ。挟まれれば袋小路になるリスクのある洞窟での戦闘に直面する事になる。
さてどうしようかと言う話となり、当然ーー
「ふむ、まず様子を伺った方が良さそうだね」
と言う流れになるのは必然だった。
そしてそれはヘロヘロに取って待ちに待った好機であった。
ちょっと見てくれば良いだけなのである。
ちょっと奥に進んで曲って見えなくなってる洞窟の奥に居るであろう複数の何かを確認すれば良いだけの簡単なお仕事だ。
『それならやれる』とヘロヘロは決断する。
『善は急げ』とばかりに触腕を上げる。
「私が見てきましょう」
その行動にまず目を丸めたのはマイクだった。おやっ?とばかりに好奇の目を向けてくる。
「ヘロヘロ君が?」
「んー。良いかも知んねーな」
そして直ぐにグロプからの援護射撃が飛んだ。
ヘロヘロの気持ちを知ってか知らずかグロプはヘロヘロの発言の味方をしてくれたのだ。
感極まるように『信じてましたよ相棒』と内心で叫ぶヘロヘロを他所に、
「相棒、気配無いもんな」
なんて続く。
「存在感無さそうですもんね」
なんてサティアも同意するように頷く。
ほんの少しだけ社内のオフィスで一番古株にも関わらず平社員でボッチ飯食ってる中年の同僚を思い出す。
いつも一人で死んだ魚の様な目を画面に向けてキーボードを叩く疲れたオッサンのあの姿を…。
これはいよいよ本当に貢献しなければオッサンと同じ境遇を辿るかも知れない。
皆とは別の危機感を覚えつつ、ヘロヘロは一人洞窟の奥へと進んだ。
ーーー
気配が無いと存在感が無いは別物だ。
ズルズルと這うように洞窟の奥へと奥へと飲み込まれていく粘体を見守りながら、マイクはグロプへと問いかける。
「気配が無いと言うのはどう言う意味だい?」
「そのままの意味だぜ?オイラは狩りの時なんかは周囲の気配を感じ取って獲物を探すんだけどよ。ヘロヘロはそれを感じねーんだよ」
グロプも最初は驚いた。
時には獣でも獲ろうかと気配を探った時のこと、背後で薪拾いをしているヘロヘロの気配をまるで探知出来なかったのだ。
本人は全く気付いている様子は無かったが、グロプにとっては驚愕ものだ。
なんと言っても狩猟班として気配を探る事は昔から得意だった。虫などの例外こそあるが、どんなに弱く小さな生き物にも生き物特有の気配はあって然るもの、一流の狩人にもなれば気配を隠す事も可能だが、ヘロヘロのソレは最早そんなレベルでは無かった。
あって然るものべき気配が無いのだ。
「…詰まり、アレは虫けらと」
納得の顔で頷くサティアの横でマイクはマジマジとヘロヘロの後ろ姿を眺め、
「彼には何か、僕達には分からない力があるのかも知れないね」
と、独り言のように述べた。
なんにせよ。ヘロヘロの健闘を見守ろうと、肩を並べるマイク達に一行。
そんな彼等に好奇と期待の目を向けられている事等露知らず、ヘロヘロは進む。
だが彼等は知らない。
この時、ヘロヘロもヘロヘロで緊急事態を迎えており、それどころじゃない状態にあった…と言う事に。
「……」
ヘロヘロは進む。
「……」
近くなる。
「……」
真横に来る。
「……」
止まる。
止まった。
止まらざるを得なかった。
この洞窟の道の横幅は大体二メートルから三メートル程だ。人一人が通る分には広いが当然左右の壁はすぐそこにある。その壁に老婆だか老爺だか知らないが、やけに皺くちゃな老人が何故か貼り付きヘロヘロを見ていた。
それもガン見だ。
ガン見である。
離れていた時もそう。
近付いている時もそう。
そして真横に来て確信した。
この老人の顔は確実にヘロヘロを捉えている。
だが顔以外動く気配は無かった。
ひょっとしたら通行しようとするヘロヘロに道を譲っているのかも知れない。
しかしだからと言って、こんな壁に張り付いてまで道を譲ったりするのだろうか?
いや、それ以前にそんな気配りの出来る存在がこんなガン見してくると言うのも奇妙な話だ。
そして何よりギョッとするのは、その老人の下半身は蛇なのである。
確かナーガと言う種族だっただろうか、しかし、シルフィーナの話の中にナーガは居なかった。
事実、後ろを振り返って見ても、皆は隣のナーガを気にする気配すらない。
ちなみに、右から振り返る。左にナーガがいるからだ。
本来この洞窟は暗いはずだし顔を合わせなければ後になってこのナーガに怒られても『気付きませんでした』と惚ける事が出来るかも知れない。
振り返るヘロヘロの姿に何を思ったのか、後ろのグロプから
「右の方に気配を感じる」
だの、
「気を付けろー」
だの音量を抑えた声が飛んでくる。
とは言え右なんて今はどうでも良かった。
すこぶるどうでも良かった。
今ヘロヘロが無性に気になるのは左のナーガである訳で、さり気なく左へ触腕を向けてみる。
「馬鹿!そっちは左だ!!」
怒られた。
なんかヤキモキしているグロプがどうにかして右がどっちか教えようと大げさに右を指さした。
そんなグロプに便乗してか、
「ヘロヘロさん。スプーン持つ方です」
だの
「右はこっちです」
だの、シルフィーナからサティアまで加わって人間年齢30にもなるヘロヘロにどっちが右でどっちが左かを丁寧に教えようとする10代少女の優しさに触れて涙がちょちょぎれそうになる。
触らぬ神になんとやら…。
ヘロヘロは半ば涙目になりながらもナーガに無視を決め込み前へと進む、そして通路のカーブに差し掛かろうとした時だ。
「今じゃ!!」
突然、ナーガが叫ぶ。
そしてカーブを描く通路の先から降り下ろされたハンマーは、容赦なくヘロヘロへと落とされた。
ーーー
ーー
ー
そのナーガは突然現れた。
怒号の合図と共に振り下ろされるハンマーはヘロヘロを飲み込み大地を揺らす。
そして姿を見せた巨体のソレはグロプもよく知った亜人種だった。
トロール。
トブの大森林でも3強に数えられる支配者の種族であり、巨大な体躯に強靭な肉体、そして再生能力を持つソレは本来絶対に戦ってはいけない相手だ。
最早その戦闘能力はゴブリンやオーガの比では無い。
たった一体のトロール相手に冒険者であればゴールド級冒険者がチームで戦うような相手である。
それがゾロゾロと群れを成しているのだ。
グロプは咄嗟に身を翻す。
逃げる以外の選択肢等ある訳がない。
相棒は死んだ。
間違いなく死んだ。
あの大地を揺らす一撃を真上から叩き落されたのだ。
だが翻すグロプも直ぐに察知する。
洞窟の入口からワラワラと突入してくる敵の気配だ。
ブワリと悪寒が全身を駆け巡る。
今グロプ達がいるのは洞窟だ。
そして洞窟で最も恐ろしいのは挟まれた場合に袋小路へと陥ってしまう事。
「やべぇ、まじやべぇ」
急ぎ駆け出すも広場の中央で立ち止まる。
既に入口から駆け込んでくる敵の群れが見えたからだ。
オーガにゴブリンだ。
個体としての脅威はトロールと比べて遥かにマシだが、それでも数はトロールの比では無かった。
何処で間違えた?
今考えるべき事はそんな事では無いはずなのに。
脳は打開策を破棄して勝手に原因究明へと酸素を使う。
洞窟に突入する前に周りに敵がいない事は気配から探った。
斥候だって事前に潰した。
なのにどうしてこうなった?
そもそもオーガとゴブリンだけの連合じゃなかったのか?
なんでトロールがいる?
なんでナーガがいる?
なんで、なんで、
なんでーー。
なんーー。
「あー!!お前等!!巻き込まれたく無かったら耳塞いでろよ!!」
吹っ切れた。
思いきり息を吸い込み、力を溜める。
トードマンと言う種族はトブの大森林においても中上位の実力を持つ一族だ。
かつては湖を巡ってリザードマンと対立し覇権を奪い取ったのだと言う。
だがトードマンを湖の覇者に至らしめたのは俊敏な脚でも鋭利な爪でも無い。
モンスターの精神を乱し、奪い、使役すら可能とする『声』なのだ。
グロプはそれが苦手であった。
だから村の戦士にはなれなかった。
狩猟班として村に貢献する事が、グロプにとっての精一杯だった。
その甲斐あって狩猟だけは得意だった。
それだけで村は認めてくれた。
だからグロプに取って『声』など必要無かった。
その『声』を、その『力』を、グロプは開放した。
ワッーーと発せられる言の葉の衝撃は一気に拡がり壁と言う壁に当たって乱反射して広場から広域に掛けて洞窟内を木霊した。
同時に雪崩のように攻め込んでくるゴブリンとオーガ。それが広場の入口へと差し掛かったその時だ。
ゴブリン達の様子に変調をきたしたのは…。
突然、一体のゴブリンが隣のオーガを槍で突き刺したかと思うと、その様子はたちまち全体に広がった。
「オイラの力じゃ弱いゴブリンを混乱させるのが精一杯だ。それも余り長くは続かねぇ」
「お手柄だよ。グロプ君」
見ると、グロプの横にはマイクが肩を並べて立っていた。
その手に持った小瓶を逆さにし、サティアの頭に何かの薬を振り掛けている最中だった。
そしてサティアが唐突に発射される。
まるで弾丸のように突っ込み、広場の入口から拡がりつつ敵陣へ一閃、ゴブリンの混乱で不意を突かれたオーガの胸がパックリと裂けて血飛沫が上がった。
薙刀を地面に突き刺し手放すと肩のダガーを抜いて、そのまま後ろに倒れ込むオーガを回り込み、敵陣の中へ潜り込む。
混乱して暴れるゴブリンと、それに対抗するオーガとの騒乱の最中、その敵陣の中に潜り込んだサティアの姿が見えなくなって直ぐに、
ガギィィィン…。と響く金属音と同時に敵陣から吐き出されたサティアが地面に着地、ちゃっかり薙刀を地面から抜き取りマイクの前まで後退した。
同じくサティアを撃退したと思われるオーガが一体、敵陣から前に出るとニタリと笑った。
体躯も他のオーガより大きく、古傷が所々遺されたそのオーガは如何にも歴戦のツワモノと言う気配が感じられる一体だ。
オーガに限った話では無いが、同じ種族であっても個体差によって強さはバラバラだ。
あの一体はオーガの中でも強い個体であることは明白で、それはグロプから見ても脅威以外の何物でも無かった。
最悪な事にゴブリンの混乱も収まったらしく、混乱の被害で地に沈んだ者以外は既に広場で包囲しようと壁沿いに拡がりつつあった。
詰んだ。
グロプはそう判断して目を泳がせる。
シルフィーナも恐怖の余り顔を凍らせたまま硬直しておりアテに出来そうも無かった。
そんな中で…。
「どれだけ仕込めた?」
「5です」
マイクとサティアだけが冷静に何かを話していた。
こいつら本当に薬師かよ。と思うその一方で、こんなに絶望的な状況ですら平然とする二人の様子は一種の救いでもあった。
「アレをやろうか」
「久しぶりですね。腕が鳴ります」
そう言ってサティアは、スゥっと深く息を吸った。
それにグロプは思わず目を疑った。
その動作をバードでもあるグロプは良く知っている。
それは『声』を持って力を使う者がする動作。
『叫び』『悲鳴』『怒号』等、『咆哮』に属する力を行使する際に必ずと言って良いほどに行う動作であった。
「いかん!其奴も言霊使いじゃ!!」
何処からともなく、そんな叫びが響き渡ったその瞬間。
この絶望をひっくり返す、起死回生の『悲鳴』は、
「ーーーーー!!」
洞窟全土を響かせた。
ーーー
ーー
ー
一方その頃。
「止めてー!痛い痛いイダッーーん?痛くなっ」
「オイ!何時までやってんだよ!!詰まってんだよ!!」
ペッタンペッタンと餅付きのように、トロールのハンマーを振り下ろされるヘロヘロは喚いていた。
途中、後ろのトロールの怒号にビビって言葉を詰まらせながらも、喚いて突かれて転んで喚いて…。
ユグドラシルでもそうであったがデバフの中でも『転倒』はレベル差に関係無くレジスト為難い部類の一つだ。
攻撃自体を無効に出来ればデバフも何も無いのだが、喰らってナンボのヘロヘロの性質上、そんなスキルを積んでいるはずなど無い訳で、彼がトロールの攻撃から脱出するのにはもう少し時間が掛かりそうであった。
それはそれとして、
「なんでコイツ死なねーんだよ!」
「おい!通れねーよ!!何とかしろよ!!」
トロールの進行を妨げると言う重要な役割は全うしているのだが、そんなこと誰も知る由も無かった。
Q&A
Q:なんでヘロヘロ達を罠に掛けれたの?
A:敵に占い師いるからね。仕方ないね。
Q:サティア、レベルの割に強くね?
A:オーガの難度は10〜20。レベルで言うと4〜7。でも本当に強いオーガだとレベル10超える。歴戦オーガとか…。
それにアイテムでのバフ効果。
グロプの『声』による混乱。
この条件なら敵陣突っ込める。
勿論危険じゃ無いとは言ってない。
Q:寄生虫の群生地の話は?
A:後だよ!後!!