ヘロヘロが行く   作:ロアグリーン

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ヘロヘロ回です(・∀・)
冒険者救出大作戦も当初その3ぐらいで終わるものかと思っていたら、もう6ですよ。
この計画性の無さ!!!

さぁ果たして年内に終わるのか?
正直さっさと二章に入りたい。
原作のあんなキャラやこんなキャラとヘロヘロ様を絡ませたい。

その為にも取り敢えず…。
この話をしっかりと書き切りましょう୧( ˵ ° ~ ° ˵ )୨


ヘロヘロ、冒険者救出大作戦 その6

仕留めた人間の処理をゴブリンに任せ、ナーガは改めて今回の被害を確認する。

目も当てられぬ結果だ。

 

あの男の放った投瓶によってオーガとゴブリン連合は大混乱となり、同士討ちにまで発展する始末。

なんとか収集がついたものの実に3分の1が死亡又は逃走する羽目となった。

 

そもそも、今回の計画は増えた下僕に合わせて食用の人間を補充する為のものだ。

追い詰めた冒険者をわざと逃がし尾行する事によって周辺の村落の場所を把握し、パラサイトの被害を受けないルートを確立。村落一つをまるまる手に入れ冬を乗り越える備蓄にしようと言う狙いがあった。

 

だが現状尾行が失敗したことにより村落の発見には至っておらず、収穫としては新たな人間が僅か二人。

被害や労力と照らし合わせて明らかに釣り合いが取れているとは言い難い。

 

残った捕虜の二人が最早体力的にも道案内が難しい以上、頼りの綱は人間二人を引き連れてきた冒険者一人だ。

懐柔するなり脅すなりして村落まで道案内させ当初の計画を成功させる。

そこまでやってようやく失態を取り消せる。

 

だが、その為に何とかしなければいけない案件はまだ残っている。

この男の奇策も想定外ではあったが、むしろ現在進行系で頭を悩ませているアレこそが一番の想定外だ。

むしろ何なんだ…。アレは…。

 

ナーガは広場から通路を進み、そして奥の広場の光景を見る。

そこにはトロール5体と奮闘するスライムがいた。

容赦無いハンマーの殴打を幾度も受けていると言うにも関わらす、全くもって怯む様子が無く、時折殴打を掻い潜っては体当たりによってトロールを蹌踉めかせている。

いやそれどころか時折転倒するトロールまで出る始末だ。

 

あり得ないだろ!と内心で吠える。

トロールの重量が何キロあると思っているんだ。

そのトロールのハンマーを受けて死なない事も異常だが、体当たり一つでトロールを転倒までさせるなど有り得ない。

それも下等生物でしかないスライムが…だ。

 

ダージュン様を呼ぶか?

ふと解決策としてこの連合のボスを思い浮かべる。

オーガロードである彼の御方ならば得体の知れないこのスライムを屠る事も容易いだろう。

何故ならオーガロードは素手ですら複数のトロールを殲滅する程の力を持った伝説の存在。

そして手にする武器は、ありとあらゆる存在を一瞬で蒸発させて灰と化す神器のフランベルジュ。

永年この地に眠っていながら、適正無き者が握れば立ち所に炎上させる性質故に使い手が現れなかった代物だ。

伝説の存在が神器を振るうのだ。

正に鬼に金棒とはこの事で、その強さは最早、山の巨人やドラゴン、トブの3強をもってしても勝てるイメージが湧かない程だ。

 

しかし…。

と、ナーガはその案に待ったを掛ける。

 

その場合大した手柄も無い内にこの失態を全て報告することになる。

もともとダージュン様の手を借りる事自体は問題無かったのだ。

その余りの強さ故に暇を持て余していた彼の御方は常に強者との闘争を求められていた。

だからこそあの冒険者が連れてくる者がアダマンタイト級冒険者等であれば、『良い獲物が釣れた』と初めからダージュン様に報告するつもりであった。

 

しかし連れてきた者は大して強そうにも見えない人間二人に何故だかトードマンとスライムと言うオマケが付いた珍妙な組み合わせ。

これなら大して苦戦しないと判断し我々だけで事に当たったのだ。

 

なのに散々被害を出した挙げ句に、『手に負えないのでお願いします』等と言おうものなら、『敵の戦力も測れないのか』と参謀として築いた評価も地に落ちる事になる。

 

さて、どうしたものかと思案に耽り…。

 

「そこのスライム」

 

呼び掛けた。

 

 

ーーー

 

 

ヘロヘロは困惑していた。

突然ナーガが割って入った事によりトロールの餅付き大会も一時中断となり、魔物同士腹を割って話し合いをしようと言う流れとなった。

 

何を今更とヘロヘロは思う。

こちとら通路では散々ガン見をかまされた上に、トロール達の餅付き大会に餅役としてゲスト参戦させられたのだ。

だと言うのに餅付き大会開催の音頭を取った張本人がその事実を棚に上げて話し合いをしようと言う。

 

だが何より耳を疑ったのは

「お互いに被害が無いうちに」

等と言う言葉だ。

 

ヘロヘロは信じられなかった。

散々ハンマーでボカスカ殴っておいて被害が無いなどとどの口が言うのか…。

まぁ事実痛くなかった訳だし被害が無いと言われればそうかも知れない。

 

だがこのナーガのせいでヘロヘロは左右も分からない馬鹿と言う認識を皆に持たれてしまった。

30路の成人男性が10代少女に右は此方だと教えられたのだ。

その悲しみがお前に分かるかとヘロヘロは叫びたい。

 

そもそもこのナーガは知らないのだ。

あの時自分がどれだけ決死の覚悟を持って事に及んでいたのかを…。

少しでも貢献しなきゃと張り切った末路があの様だ。

そんな無様な結果に流石の皆も呆れ果てたのか気が付けば居なくなっていたし、追い掛けたくても餅付き大会にハマって出られない。

何となく広場の方が騒がしかったような気がしたが超至近距離に振り下ろされるハンマーの打撃音が煩すぎて正直分からなかった。

 

はい窓際族確定です!!

…と、やけになってヘロヘロもトロールに負けじと度突き返していた訳だが、確かに何時までもこんな所で時間を潰している訳にもいかないのが事実。

早いところ皆と一緒に冒険者の捜索を再開して救出しなくてはいけないのだ。

 

「…わかりました。話を聞きましょう」

 

その返答を聞いてナーガの口角が三日月に歪む。

乗ってきおった。と、ナーガは嗤う。

ナーガに取って一番厄介なのがこのままここで暴れられる事だった。

頭に血が登って話も聞かず暴れる事も想定していたが、なかなかどうして、このスライムは冷静だ。

 

「お主。何故人間とつるむ?」

 

その質問にヘロヘロは動揺する。

ヘロヘロが人間と一緒にいるのは単純にヘロヘロが人間だからだ。

醜悪なゴブリンやオーガみたいな奴と一緒にいるより見目麗しい人間と一緒にいた方が楽しいに決まっている。

ワンチャン猫耳やウサ耳も良いかもしれないが、この世界の獣人が男性のニーズに答えた姿をしているとは限らない以上、賭けには出れない。

だがそれを馬鹿正直に答えたところで笑われるのが落ちだろう。グロプの時とは同じ鉄は踏まぬとヘロヘロは都合の良い理由を探した。

そしてそう言う時は大抵見付からない。

 

しかし、そんなヘロヘロの動揺をナーガは見落とさなかった。

動揺しておる…。

と、ナーガは内心で笑みを漏らした。

所詮は魔物と人間だ。

共存しているように見えてもその性質は水と油。生きる上で利用し合う事はあっても、真の意味で友情など有り得ない。

ならば懐柔も容易いと踏んだ。

このスライムを仲間に引き入れ憂いを取り払い、あの冒険者に村落の場所を案内させれば良いのだ。

そして村落を落とした後、ダージュン様に気に入られる様ならそれで良し、気に入らぬ様ならダージュン様が始末されるだろう。

ナーガは完璧な計画にほくそ笑み、そして更に懐柔へと踏み込んだ。

 

「我らの仲間にならんか?」

 

それは余りに意外過ぎる言葉だった。

不良の喧嘩じゃあるまいし、ボカスカ殴り合った後に芽生える友情と言うものも……。

否定こそしないが、ヘロヘロは気が進まなかった。

 

そういえば、このナーガは通路を通る時からやたら熱い視線を送っていた気がするがーー…。

全身の無い毛が逆立った。

そんなの余りにも嫌すぎる。

 

「あー。いや、私にはもう仲間がいるんで」

「お主を置いて逃げたのにか?」

 

え!帰ったの?

ヘロヘロは驚愕した。

同時に甘かったとヘロヘロは認識を改める。

窓際族だと思っていたが、実際はリストラだった。

しかしそれも仕方ない。

だってヘロヘロは何の役にも立っていないのだ。

それでいてしっかりと御飯は食べさせて貰っている。

この世界が比較的に優しいから甘えていたが、もしあちらの世界であれば使えない無能など即座にクビだ。

 

出会って余り打ち解けていない人間であれば尚の事、だがしかしそれでもヘロヘロにはまだグロプと言う希望が残されていた。

苦楽を共にした彼ならきっと、自分が村から見捨てられても、もう一度チャンスを上げて欲しいと掛け合ってくれるに違いない。

何故ならグロプとヘロヘロは相棒でありズッ友だから。

その想いでヘロヘロは言う。

 

「グ、グロプなら…」

「ん、トードマンか?奴なら真っ先に出て行ったわ」

 

真っ先に出て行ったの!?

嘘でしょ!?

ヘロヘロはその驚愕をなんとか飲み込んだ。

 

既にヘロヘロは満身創痍だ。

足元がガラガラと崩れ落ちたよう気持ちだった。

 

だが改めて考えれば有り得ない話でも無いかも知れない。何故なら相棒と呼んでいる存在の醜態をまざまざと見せ付けられたのだ。

ペロロンチーノさんとパーティを組んでる最中に彼の言動に恥ずかしさを覚えた事が無いかと言われれば確かにある。

恥ずかしさの余り走り去る事は流石に無かったが、グロプの場合はそのレベルに達したと言うだけの事だ。

申し訳無さ過ぎて死にたくなってくる。

 

しかし待てよ。

ヘロヘロは気付く。

その場合自分はどうなるのか…。

 

決まっている。飢え死にだ。

何故ならヘロヘロは未だに自分一人で、食料の調達が出来ないのだから。

 

だったらいっそ手を組んでも良いかも知れない。

こいつのせいで勤め先をリストラされたにも関わらず、弊社に就職しませんか?等と酷いマッチポンプのようにも思えたが蹴った代償が飢え死にと来れば受けざるを得ない。

 

シルフィーナの話では敵はゴブリンとオーガだったはずだし非常時にナーガやトロールと手を組んだところで問題にはならないだろう。

飢え死にしないように散々利用した挙げ句に、また前の皆や人間達と仲良くなれたらその時に「本当に仲間になるわけ無いだろ?ばーかばーか」と言って去れば良いのだ。

ヘロヘロは脳内に描いた完璧な計画にほくそ笑む。

 

「わかりました。その話、乗りましょう」

 

ナーガは嗤う。

もう少しぐらいは手こずるかと思ったが、あっさりとスライムは陥落した。

とは言え当然か。

このスライムはトロールの襲撃時にあっさりと見捨てられ、その仲間も今や壊滅状態。

我々の仲間になる利害を問うまでも無く、こちらに付いた方が賢いと思うのは当然の事だ。

この様子だとあの冒険者の前に出したところで問題はない。むしろ見捨てた仲間に見捨て返される者の顔を見るのも一興と順調に進む計画にナーガは一人ほくそ笑む。

 

「では、付いて来るが良い」

 

 

 

 

ーーー

 

あの広場には複数の隠し通路があった。

その中の一つを連行されて辿り着いた地下牢にシルフィーナは押し込まれた。

地下牢の外はホール状の広い空間だ。

真ん中に設置された松明が影と光を踊らせていた。

 

あのナーガの部下のゴブリンはその地下牢に次々と人間を投げ捨てる。

息絶え絶えと言った様子で横たわるセランと…。

私のせいで死んだマイクとサティアだ。

 

私の隣に沈む背中をそっと撫で、

 

「ごめんなさい」

 

と謝罪する。

そんな事をしても許される訳がない事は分かっていたが、自責の念がそうさせた。

 

ーーと、その時だ。

地下牢の隅で蹲るソレが唐突に顔を上げた。

 

「シルフィーナ?」

 

それは仲間の一人のローヴァだった。

彼は私の顔を見るなりよつん這いで這ってくると、座り込んだ私の肩を掴んだ。

 

「やった!助かった!!呼んでくれたんだろう?銀糸鳥か?漣八連か?ひょっとして王国の漆黒か?」

 

肩を揺さぶる彼の目を、私はまともに見れなかった。

どれだけ怖い思いをすればこうなるのか、最早彼が正気だと思えない。

一体どうすればそんな大物を呼ぶことが出来ると言うのか。

 

遣る瀬無い想いで目を背け、ただひたすらに大地へと目を落とす。

 

「なぁ?なぁ?」

 

と喚きながら肩を揺らすローヴァの期待を沈黙で躱しながらどれだけ時間が経ったのか?

コツンと言う音と同時に、「ひぃ」と怯え上がる彼の声。

そして見上げたその先には、ゴブリンとオーガ、そしてトロールまで引き連れたナーガがいた。

 

忌々しくも歪んだ口角が三日月を描いていた。

 

「出せ」

 

ナーガの一声で、私はゴブリンに地下牢から強引に引っ張り出される。

なすがままにそれを受け入れ、ナーガの前に膝を突く。

そんな私の様子をナーガは実に楽しそうに見下ろしていた。

そして言う。

 

「人間よ。死にたくは無いじゃろ?」

 

刹那、ガシッと鉄格子を掴む野獣のような何かが雄叫びを上げた。

 

「死にたく無い!死にたく無いです!!」

 

しかしその瞬間、ゴブリンが容赦無く槍を突き出し野獣の肩に鉛を打ち込んだ。

まさに野獣に相応しい咆哮を上げてのたうち回る獣の姿を、私は憐憫の想いで眺めていた。

…そんなローヴァの姿など見たくなかった。

 

「村落まで案内しろ。その村の人間が残っている間はお主も、その仲間にも手出ししないと誓おう」

 

覗き込むナーガの瞳。

ドクン…。と心が揺れた。

私は思わず目を背け、そっと横たわる二人を眺めた。

私のせいで犠牲になった人達だ。

 

心が痛い。

心が苦しい。

 

村へと案内すれば、そこでどのような惨劇が繰り広げられるのか…。

それが想像出来ない私では無かった。

それがギュッ…と胸を締め付ける。

 

「…なぁ頼むよ。シルフィーナ。これはもう仕方ない事なんだ」

 

なおも、隣の鉄格子からは哀願するようにローヴァが囁きかけてくる。

それは正に弱者を装った悪魔の囁きだ。

その声を受けて私の心は揺れ動く。

怯えた私の本能は死にたくないと吠え。

だけど既でソレを抑えつけるのは、今まで快く接してくれた村人の温かさ。

そして何より…

 

ーーーーークラちゃん。

仲の良かった友達の顔が唐突に浮かぶ。

 

私の為に笑い。

私の為に悩み。

私の為に泣いてくれた。

 

かけがえの無い友達の顔が……。

 

「わ、わたしは…。」

 

怯えた私が繋いだか細い声は、

 

「うりゃああああ!!」

 

と言う咆哮を上げてナーガへと突撃したスライムによって掻き消されて消えた。

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

繋がった。

繋がった。

繋がった。

ナーガに誘われるままノコノコ付いていった先にゴブリンやオーガがいた時から、まさかとは思っていた。

 

そして、地下牢で捕らえられている皆の姿を見て、そしてナーガとシルフィーナとの会話を聞いてヘロヘロは確信した。

 

こいつが敵なのだと。

だからヘロヘロは渾身の力を込めてナーガに体当たりを仕掛けた。

 

「何じゃお主、裏切ーーー!!」

「おりゃああああ!!」

 

言わせねーよ!と渾身の体当たりをぶちかます。

まだ間に合う。

まだ何とかなる。

ヘロヘロは必死であった。

 

一時はゴミ箱を漁る未来まで見たが…。

皆はまだ帰ってなかった。

ヘロヘロはまだ捨てられて無かった。

とは言え、こんなナーガの口車に乗って裏切った等と知られれば確実にクビだ。確実に飢え死にだ。

 

裏切り、不意打ち、老人に対しての容赦ない暴行。

ゲスかろうが、卑怯だろうが最早手段なんて選んでいられない。

だってもうこれはボーナスステージだ。

救助すべき冒険者はそこにいて、クライアントもそこにいる。

そして倒すべき敵はもう敵じゃない。ただのキル数量産機なのだ。

ただスライムの性質である衝撃吸収が攻撃時にまで作用して禄にダメージを与えられないだけで、こいつら自体が硬い訳じゃ無い。

大丈夫、やれる。殺せる。

例え今日が敬老の日だろうと、このナーガが死ぬまで体当たりを止めないと血走った目で飛び跳ねる。

 

ゴミ箱を漁る未来を幻視する程に追い詰められた社会的弱者の決意は硬い。

ここでの功績は必ず頂く。

 

例え今ここに初心者マークアイコンを付けたプレイヤーが指をくわえて見ていたとしても見て見ぬ振りをするぐらいの決意がそこにはあった。

 

 

 

ーーー

 

シルフィーナは不思議なものを見た。

万策尽きた。何もかも希望を失い。諦めるしかなかった。

そんなシルフィーナの瞳が映す光景は、なんの役にも立たないと思っていたスライムがナーガやトロールと言った恐るべき魔物に果敢に挑む姿だった。

そんな不思議な光景を前に真っ先にシルフィーナが抱いた想いは、何故…?と言う疑問だった。

 

だって私はあの時に見捨てたのだ。

トロールの襲撃を受けるこのスライムを、躊躇もせずに見捨てたのだ。

 

だから見捨てれば良いのだ。

だから逃げれば良いのだ。

なのにあのスライムは果敢に魔物に飛び掛かる。

 

時折、トロールのハンマーに押し潰され。

時折、ゴブリンの槍に突き刺され。

それでもまだ私達を見捨てようともしないスライムは決死の咆哮を挙げて飛び掛かる。

 

いつものんびりしている姿からは想像も出来ないような、何処までも真っ直ぐで何処までも必死な彼の姿は、正に高潔な騎士のよう。

 

だってあんなに叫んでいる。

だってあんなに吠えている。

 

誤解していた。

シルフィーナは気付く。

 

何の役にも立たないと思っていた。

だがそんなスライムがゴブリンを吹き飛ばし、トロールを怯まし、ナーガを押し倒す。

そして何より、誰よりも高潔な魂を持っていた。

 

シルフィーナは自分でも無意識のうちに手を組んでいた。

まるで神に祈りを捧げるかのように組んだ手を胸にヘロヘロを見詰めた。

 

 

ーーー

 

ナーガは困惑していた。

何故このスライムがこのタイミングで裏切るのかが分からない。

どちらが優勢でどちらに利があるのかなど、最早見るまでも無いはずだ。

これではまるで仲間を助けるために偽りの降伏を申し出たようなものではないか…。

馬鹿な!とナーガは吐き捨てる。

こんな下等な人間共に命を賭けるだけの価値があると言うのか?

所詮は水と油なのだ。

真の友情など有り得ない。

真に分かり会える事など有り得ない。

 

「何故だ!?何故そこまで人間共の肩を持つ!!」

 

ナーガは吠える。

信じられないものを見たと否定する感情が怒号となって言の葉を吐き出した。

 

だが、それがヘロヘロの心を逆撫でる。

組織を管理する役職持ちには雇用契約が打ち切られる心配を常に抱える派遣の気持ちなど分からない。

所詮ヘロヘロは凡庸だ。

死ぬのが怖い。リストラが怖い。見捨てられるのが怖い。

様々な怖いを持ち合わせて震える矮小な存在だ。

安定した生活の為なら引くし媚びるし省みる。

 

スライムに身を落とそうとも、その精神は未だに人間だ。

一度知った文明の消失には耐えられない。

便利な通信端末はもう無理でも。

フカフカなベッドで寝たい。

温かな食事が食べたい。

当たり前な生活を当たり前に送りたい。

 

そしてそれは、人間の文明の中でしか有り得ない。

 

安定した生活を勝ち取るか…。

野良犬のように捨てられ飢え死と言う末路を辿るか…。

正にデットオアアライブの採決が後ろで見ているシルフィーナの目に掛かっているなら尚の事。

虫ケラ以下のナーガを潰しに掛かるのは当然だった。

 

だからヘロヘロは吠えるのだ。

 

「命が掛かってるからに決まってるでしょーがあああ!!」

 

 

 

ーーー

 

 

命が掛かっているから…。

 

シルフィーナはその言葉にハッとする。

何故、マイクは人質になったセランを見て出口に背を向けたのか…。

何故、サティアはあんなにボロボロな姿でありながら引き返して来たのか…。

全て命の為だ。

 

では私はどうだ?

冒険者である私はどうだ?

 

人々の命を守る為に存在する冒険者でありながら、私は己の命欲しさに村を犠牲にする事に心が揺らんだ。

その事実が私の心を締め付ける。

だけど冒険者である私が取るべき選択肢など本当は初めから決まっていたのだ。

 

今、私の肩には沢山の人の命が掛かっているのだから…。

 

それを思い知らされシルフィーナは恥じるように嗤った。

ならは今、私がしなくてはいけないことは…。

 

「もう良い!ダージュン様をお呼びしろ!!」

 

痺れを切らしたナーガが叫ぶ。

呼応したゴブリンが駆け足で通路の奥へ消えていく。

跳弾のように跳ねるスライムが偶然シルフィーナの前に着地した。

躙り寄るトロールとオーガが武器を構えたまま睨み付け、互いに牽制したまま動かない。

その為生まれた一時の静寂…。

それはまるでシルフィーナの為に神が与え給うた機会であるように、この時、全ての時間が止まったのである。

それを見て、シルフィーナは意を決する。

 

「ヘロヘロさん」

 

彼を呼ぶとスライムはそっと振り返る。

窪んだ眼が真っ直ぐに自分を捉え、黙って続きを促しているようにも見えた。

 

ほんの少しの戸惑いと。

強い決意が交差する。

口に出してしまえば自分の命運が決まってしまう。

それがシルフィーナの決意を日和らせる。

 

その時だ。

 

「やれ!倒せ!スライム!!」

 

鉄格子にしがみつくローヴァが叫んだ。

それを見て、シルフィーナは思う。

 

冒険者とはなんぞや?

 

不意に幻視したのは冒険者組合の門を初めて潜ったあの日の自分。

現実を知らず淡い理想を描き続けたお花畑な眼差しは、いつも御伽噺に出てくるような、高潔なヒーローを捉えていた。

そんな初心を思い出す。

 

そしてシルフィーナは鉄格子越しにローヴァの口を塞いだ。

 

「逃げて!」

 

ヘロヘロはそんな自分の言動をどう捉えたのか、困ったようにシルフィーナとローヴァを見比べる。

藻掻くローヴァを抑えつけ、胸から込上げる言葉はヘロヘロに対しての懺悔であった。

 

「私ね。本当は期待してなかったの。ヘロヘロさんの事、何の役にも立たない変な奴だって思ってた。…ごめんね」

 

戸惑う気持ち隠すかのように目を落とし、込上げるままに懺悔の言葉を口にした。

一つは、ヘロヘロが見捨ててくれる事を期待して。

一つは、自責の念がそうさせて。

 

「だけどね。真っ先に助けたいって言ってくれたのはヘロヘロさんだったんだよね?」

 

冒険者である自分がするべき事は、ヘロヘロの活躍を期待して祈ることではない。

この事を伝え、村人を避難させ、国に冒険者組合に討伐部隊を派遣させる事だ。

 

「…でももう良いから、逃げて」

 

それが出来るのはヘロヘロだけなのだ。

きっと逃せば報復で酷い目に合うことは分かっていた。

ローヴァもセランも巻き込んでしまうことは分かっていた。

 

「それで、もし良かったらさ…。一つだけお願い聞いてほしいんだ」

 

だけどそれでも尚、最後の最後で怯える彼女の背を押したのは冒険者としての矜持であった。

シルフィーナは笑う。

最期ぐらいはせめて笑って終わろうと、はにかんだ笑顔を浮かべてヘロヘロへと向けた。

 

「村の皆にさ。逃げるようにって…。クラちゃんにさ。巻き込んでごめんって、伝えてくれないかなぁ?」

 

 

 

ーーー

 

「伝えてくれないかなぁ?」

 

シルフィーナはそう言って笑った。

まるで何かをやり遂げた様な、そんな穏やかな笑顔だった。

ヘロヘロは一つ分かった事がある。

 

シルフィーナは立場上敬語で喋ってただけで普段はこう言う喋り方を…とかそう言う事じゃ無く。

実は窓際族とかリストラとか心配する必要は無かったとかそう言う事でも無く。

 

実は今、彼女達は物凄く窮地に落とされていて、それでいて凄く真面目な場面だったのでは無いか…。

と、ヘロヘロは今初めて気付いた。

 

確かによくよく見るとマイクとサティアなんて、結構酷い怪我をしている…と言うか、下手すると死んでるかも知れない。

グロプの姿が見えないのは逃げたからなのか…。

これら全て自分が呑気にペッタンペッタンされている間に壊滅させられた結果である可能性に気付き、ヘロヘロはそっとシルフィーナに背を向けた。

勿論、動揺を顔から悟らせないようにした訳じゃない。

 

ただこれだけは言える。

 

これ程真っ直ぐに健気な笑顔を向けたシルフィーナの期待を裏切りたくなったのだ。

 

そう。飛び切りに良い意味で。

 

「もう少しだけ。待ってもらえますか?喉の近くまで来てるんです。もう少しで…思い出せそうな気がするんです」





マイクさん死んでないです。
ギリギリ生きてます(必死)

さぁ次回はヘロヘロvsオーガロード
お楽しみに!
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