ヘロヘロが行く   作:ロアグリーン

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お待たせしました(人 •͈ᴗ•͈)

前回はコメント多くて嬉しかったです。
お気に入りも400超えました。
少しずつでも読んでくれる人が増えるのは嬉しい限りです。

さて今回は話しの切りどころが難しかったのですが、なんとか形に出来たと言った感じでしょうか?
当初今回の話でここまで書けるかな?と予想してたシーンまで届かなかったですけど、よくよく考えれば何時もの事でした。書いてみると文字数伸びますホント。

今回も申し訳ない事にギャグシーン無いです。
捩じ込めませんでした!
…なんとか捩じ込もうかとも思いましたが、もうね。この端末の問題なのかサバの問題なのか一万文字超えると重いんですよ。
2つに別けて最期にくっつける書き方してますが、修正の時重たいですしね。┐(´ー`)┌言い訳乙!


ヘロヘロ、冒険者救出大作戦 その7

微睡から意識はぼんやり目を覚まし、瞼を開いて見えるものは光と影とが交差して踊る岩盤だ。

やけに身体全体がだるい。

無茶しすぎたのは当然の事だが、ここが地獄でないなら頼りないこの身体はギリギリオーガの猛攻は耐えきったと言う訳だ。

とは言え当然、種はある。

服の内側に仕込んだポーションの瓶が棍棒の打撃で割れ、徐々に傷を癒していたようだ。

 

目覚めて直ぐに自分の状況を確認しようと目を流し、真っ先に飛び込んでくる肘から先が千切れた腕を見て、良くこれで出血死しなかったものだと感心させられる。

 

幸い片手はなんとか無事らしく、身体を起こそうと試みて直ぐに脚から激痛の信号が脳を貫いた。

 

「痛っ」

 

思わず口に漏れる痛みを堪え、両方とも駄目になっている事を悟りながらも、無理矢理なんとか壁に背を付ける。

それでようやく自分と周りの状況を見るのに楽な姿勢になったところで、隣で眠るサティアの存在に気が付き、思考と時間が停止した。

 

グロプに担がれ脱出したはずの彼女が何故?

そんな疑問が一瞬浮かび、即座に浮かび上がる彼女の性格を思い出して、思わず苦笑する他無かった。

 

ともすればグロプには非常に申し訳ない事を仕出かしたかも知れないが、機会があるなら詫びの一つでも入れる事で勘弁してもらいたい。

 

それにしても馬鹿な事をするものだ。

賢明な子だと思っていたが、こんな馬鹿な背中を見て学んだ子供が親に似るのも已む無しなのかもしれない。

 

ピクリともしない頭をそっと撫でる。

呼吸をしていない事は直ぐに分かった。

そのまま首に指をあて、脈の有る無しを確認して目を落とす。

 

これまで何度も体験した事だ。

死別なんてもう平気なつもりだったが、やはりこればかりは中々堪えるものがある。

 

「あの、無事…でしたか?」

 

酷く戸惑い気味な声がかかり、顔を上げて初めてシルフィーナの姿を認識すると、気遣うように無い腕や傷口に目を落とす視線に気が付いた。

 

無事と言う言葉に戸惑いを覚えるのも無理はない。

生きてこそいるが、満身創痍は御覧の有様であり無事とはとても言い難い。

 

「まぁね」

 

と、笑いかけると安堵した様に彼女も苦笑したが、すぐにその目はサティアに止まる。

 

「あの…彼女は」

「大丈夫。眠っているだけだよ」

 

そう言ってサティアの身体を抱き寄せ、頭を撫でる。

安心させるように言った言葉ではあったが、裏腹にシルフィーナの顔を悲痛に歪んでいた。

 

「…ごめんなさい」

 

サティアの状態を察したのかどうかは定かではないが、どちらにせよ彼女は謝るつもりだったのだろう。

大変な事に巻き込んでしまったと言う自責の想いは、ありありと目に浮かぶ。

 

だがマイクは『そんな事より』と騒がしい現状の正体に目を向ける。

目前にはピンボールの様に多方向に跳ね回る黒い粘体に翻弄されるままの亜人種が入り乱れるカオスな状況が展開されていた。

 

肩で息する疲弊したトロールがハンマーを奮い、それが味方のオーガを胸を砕いて吹き飛ばし、跳弾の如く斜め上から迫ってきたスライムの体当たりを後頭部に受け、壁に顔面を打ち付けたナーガが鼻血を吹き上げる。

 

時折そのスライムも、トロールのハンマーの直撃を受け大地に沈み、ゴブリンの渾身の槍で貫かれ、オーガの棍棒で追い打ちを掛けられたりしているものの、殴打を抜け出しては再び跳弾を繰り返し阿鼻叫喚の景色を創り上げる様は、そのスライムが彼等の攻撃など物ともしていないと証明しているかのようだった。

 

幻想的と言うには余りにも泥臭く。

かと言って余りにも現実離れしたソレを前に釘付けとなるマイクの視線に気が付き、シルフィーナもまた祈るようにその光景を見守った。

 

「やはり、ただのスライムじゃ無かったようだね」

 

死闘を演じる光景を前に、マイクがボヤけば、折の外から「はい」と返事が返ってきた。

そしてシルフィーナは少し戸惑い気味に振り返り、何に対してなのか再び『ごめんなさい』と謝罪する。

 

「逃げてほしいって伝えたんですけど、もう少しで思い出せそうだって言って、戦い続けてくれてます」

 

現状、今の自分達の命運は奮闘するヘロヘロに掛かっていると言って過言ではない。

そのヘロヘロを逃がすと言う事は、自分達の死を決定付けると言う事だ。

彼女の謝罪の意味を察すると同時に、恐らくそれはここの危険性を村へ知らせる意図があるのだろうと推測し、そしてそのまま聞き流す。

それよりも気にするべきキーワードは他にある。

 

「思い出せそうって…何をだい?」

「分かりません」

 

即答された。

期待してなかったと言えば嘘になるが、当然それは想定済みだ。

ならばここからは観察と推測の時間だ。

幸いマイクはそれが得意分野だった。

 

「ふむ、戦い方。力の出し方…とかかも知れないね」

「戦い方…ですか?」

「そもそも、飛んで跳ねて体当たりって言うのがスライムの正しい戦い方なのかね?」

「それは…。そう言う種族なんじゃないですか?」

「かもね。…でも昔からいたんだよ。ヘロヘロ君みたいに人間に対して特別な感情を抱く亜人種や異型種がさ。聞くところによるとそれ等はいずれも特別な力を持っていたと言うじゃないか」

 

シルフィーナはどうもピンと来なかったらしく、疑問符を貼り付けたような顔を向ける。

語るマイクはお構いなしに話を続け、

 

「近いところでは口だけ賢者、最古のものでは……。まぁ僕の妄想だけれども。見届けようか、ヘロヘロ君の活躍と言うのをさ」

 

そして途端に会話を切り上げた。

このまま語れば小一時間は止まらなくなる恐れがある。

語る事は悪い事ではないが、それは時と場合があっての事だ。

また悪い癖が出ている事を反省し、マイクは見届ける事に専念する事にする。

どの道もうそれ以外の道はない。

シルフィーナは途中から疑問符を浮かべてマイクとヘロヘロとの両方をチラチラ見比べていたが、やがてまた戦いを見届ける事に集中した。

 

そんな時、通路が裏に隠れる壁面の影からゴブリンが逃げるように駆け込んで来るなり…。

 

「ダージュン様が」

 

何を報告しようとしたのか、そこまでの言葉を発した瞬間、暴風のように迫った何かに吹き飛ばされ、壁に衝突して肉塊となった。

 

ゴブリンを肉塊へと変えた獰猛な何かは、勢いのまま横壁に突っ込み、着地の要領で壁を蹴り上げ、肉塊を更に液体に変えた。

ズドンと言う衝撃波と振動をビリビリと発しながら横壁に着地した巨体は、オーガのソレではあるものの最早オーガなんてものでは無かった。

御伽噺で聞いたことがあるオーガを統べる者の存在が真っ先に頭に浮かび、理由も無いのに頭が勝手にソレだと決め付けた。

 

オーガロード、伝説上の怪物。

なんの根拠も無しに結び付けてしまった目前の怪物と伝説の怪物。

だがそれを、否定する根拠も同時に浮かばなかった。

そう思ってしまう程の、絶望的な力を感じたからだ。

 

一瞬にして空気が変わる。

 

全員の視線を釘付けにしたオーガの出現で先程までピンボールをしていたスライムも地面に着地したまま動きを止めた。

 

それがチャンスとばかりに転倒していた一体のトロールが立ち上がっては指を差して騒ぎ出す。

 

「あいつ!あいつです!!ダージュン様」

 

暴風にしては余りにも静寂な程、静かに立ち尽くすオーガロードはスライムを眺め。

代わりに騒ぐトロールの声だけがやたらと大きく響いて聞こえたのは、シルフィーナの気の所為ではないだろう。

 

 

ーーー

ーー

 

 

オーガロードは退屈だった。

ナーガ族を壊滅させ、ワーウルフ族を壊滅させ、トロールの長の首を飛ばした。

降伏し恭順するものを吸収し、最早この森にはオーガロードの敵となり得るものなどいなかった。

 

それが詰まらない。

 

かつてこの世界を恐怖のドン底へと落としたと言われる魔神。

その魔神が手にしていた神器に認められ無双の力を得たと言うのに関わらず、この地には神器を奮うに値する猛者がいないのだ。

如何に優れた武具であろうと奮う機会が無ければただの置物だ。

 

時折、トブや山へと侵攻する自分を夢想する。

3強と呼ばれる支配者、山を支配するドラゴンや巨人、そして何よりもトブに出現し逃亡者を数多く生んだ死の家…その逃亡者の中には、この名を呼んだものがいた。

 

アインズ・ウール・ゴウンと…。

 

いずれ相見える強敵を夢想しその期待に胸が躍る。

退屈と言う名の地獄を耐え抜き、研ぎ澄ました闘争と言う名の欲望は、今か今かと蹂躪する機会を欲して唸る

 

そんな腹を空かせた猛獣の檻にポンっと肉を投げ込むような報告が届いたのは先程の事。

 

オーガロードは狂喜した。

突然の御馳走を前に律儀にエプロンを付けるような上品さなど持ち合わせていない。

立て掛けたフランベルジュを片手で掴み、暴風のように駆け抜ける。

その際、やけに脆い何かを撥ね退けた気がしたが、荒れ狂う狂喜の前にはどうでも良かった。

全部終わった後に部下に掃除をさせれば良いだけの事だ。

 

複数のトロールで囲んで尚、手に負えない難敵。

トロールなどオーガロードに取っては素手で事足りる雑魚に違いがないが、それでも尚、この地のモンスターにとっては上位種だ。

それが複数取り囲んで尚も手に負えないとなると、それはドラゴンにすら匹敵する好敵手かも知れない。

それを思うとは久方ぶりに血が滾る。

フランベルジュを存分に奮い暴れる事が出来ると思うと笑みを抑える事すらまま成らない。

 

そしてその期待は…。

スライム等と言う矮小な存在に裏切られ、同時に耐え難い憤怒となってオーガロードの精神を凌駕した。

 

「このーーー」

 

怒りの矛先は真っ先に対峙していたトロールに向けられた。

 

怒りのままにフランベルジュを振り上げノロマなトロールの頭上から振り降ろす。

兜割りの如く頭蓋を2つに砕いた刃先はそのまま大地へと突き抜け巨大な亀裂を大地に穿った。

同時にトロールの身体は獄炎の炎に包まれ激しく燃え上がり瞬く間に肉塊を骨へと変えていく。

 

「ーーー愚か者があああ!!」

 

オーガロードの怒号は恐怖を撒き散らす。

ビリビリと空気を伝播する殺意が瞬時に衝撃波となり武器を手に立つ下僕は腰を抜かして尻餅を突いた。

 

「ひぃ」

やら

「ひゃあ」

やら誇り高きオーガロードの下僕とも思えぬ情けない悲鳴を惜しげなく吐き出し、身震いをするトロールやらオーガやらの愚図な動作がオーガロードの心を逆撫でる。

 

そんなゴミ共を無視し、殺意の目で睨みつける対象は地面に這い蹲って土下座の形をとるナーガだ。

 

「お、お許し下さいませ。ダージュン様」

 

幹部とは思えぬ震えた小動物のような声だ。

少し知恵が回るからと連合の指揮を任せていたが、その結果がコレである。

だからこそ許せない。

 

「貴様はああ!これが!!こんなスライムが!!このダージュン様が殺すに値する獲物だと言うのかあ!!!」

 

 

 

ーーー

ーー

 

シルフィーナは呼吸を忘れた。

暴れる心臓に伴い酸欠になってようやく脳がそれに気付いたのか、慌てて肺に呼吸を命じて、ようやく口が酸素を取り込んだ。

えらく乱れた呼吸が続く。

 

釘付けとなって離すに離せない眼球が捉え続ける対象は獰猛な咆哮を挙げて、トロールを斬りつけたオーガだった。

信じられない事に屈強なはずのトロールは、まるで柔らかな豆腐のように2つに別れて、燃え上がる炎の前に朽ち果てた骨となって転がった。

 

甘かった。

今になって気付く。

 

冒険者組合に知らせれば、アダマンタイト級冒険者を仕向けて討伐してくれるものだと思っていた。

だがこれは最早そう言う次元の話しではない。

 

勝てない。

勝てないのだ。

こんなもの人間がどうのこうの出来る存在ではない。

 

全細胞がアレの存在を否定する。

なんであんなものがこの世界にいるんだと脳が勝手に逃避を始める。

 

追い打ちを掛けるように発せられたオーガロードの咆哮の衝撃は、ビリビリと皮膚を伝い、髪を靡かせ、僅かばかりの希望をへし折った。

 

恐怖で真の臓まで凍り付き、歯がガチガチと音を上げ、組んだ掌は力んだまま動かず、視線は釘付けのまま…。

ーー嘔吐した。

 

その反動で蹲り、解けた手を大地に付けて、まるで土下座をするような体制のまま、ビチャビチャと大地に吸い込まれるように落ちる吐瀉物を見送った。

 

見ていて気持ちのいいものでは無かったが、最早怖くて顔を挙げられなかった。

 

「あのー。大丈夫ですか?」

 

そんな時だ。

余りには場違いな程のんびりした声色で、自分を気遣う声が前方から届いたかと思うと、そっと背中を擦る感触が伝わった。

 

それに思わず顔を挙げると、自分のすぐ目の前で器用に触腕を伸ばして背中を擦るヘロヘロと目が合い。

 

「あ、ごめんなさい。…つい。セクハラとかそんなんじゃないですからね?」

 

と、これまた実に場違いな事で慌てていた。

 

「あ、マイクさんも。おひさーです?」

 

等と檻に向かって触腕を振る呑気な姿に、シルフィーナは啞然としたままヘロヘロを見遣っだ。

 

「怖く……ないの?」

 

そして当然の疑問を口にする。

一方のヘロヘロはと言うと、不思議そうに首を傾げて、一度振り向きオーガロードを眺めると再びシルフィーナへと視線を戻す。

 

「ふぇ?」

 

そして再び不思議そうに首を傾げた。

どうやら恐怖に対するピントが違うらしい。

 

「だ、だって殺されちゃうとか、思わないの?」

「大丈夫ですよ?」

「な、なんで、だってヘロヘロさんも見たよね?トロールだって一瞬で殺しちゃったし」

「んー。なんでって、多分私の方が強いからじゃないですかね?」

 

え?とばかりに、今聞いた言葉を疑った。

シルフィーナは今自分がどのような表情をしているか分からない。

恐らく信じられないものを見た時のような顔をしているのだろう。

 

だがその言葉は件のオーガロードは勿論のこと、その下僕達の耳にも届いたらしく、一瞬ざわめきが拡がった。

そして当然、怒りをぶち撒けていたオーガロードの矛先はヘロヘロに向けられる。

 

「貴様、黙って聞いておればぬけぬけと…。スライムの分際で、俺様よりも強いとほざくか」

 

ヘロヘロは顔をオーガロードへと向けた。

ズカズカと殺意を向けて歩み寄る姿に、ヘロヘロは一度気遣うようにシルフィーナへと顔を向け、そして再びオーガロードへと向き直る。

 

それからは正に対峙する二人の為の舞台だった。

歩み寄るオーガロードに呼応するように、ヘロヘロもまた近付いていく…。

そして対峙する両者が死地とも呼べる間合いへと足を踏み入れ、唐突に止まる。

 

シルフィーナも。

マイクも。

ナーガも。

トロールも。

最早観衆と化した群衆に魔物も人も区別なく、自然と端へと寄った彼等は固唾を呑んで見送った。

片や一方は神器を手にした伝説の怪物。

片や一方はトロールすらも匙を投げた不死の粘体。

比べて見れば釣り合いの取れたカードとは言い難い組合せではあったものの、最早ソレを笑うものはこの場にはいなかった。

 

あるものは当然の勝利を期待して、

あるものは一握り奇跡を期待して…。

誰もがその瞬間を見届ける為に注目した。

 

なんの感情も無く死地の間合いへと入ってきたスライムの姿に苛立ちを覚えたのか、それとも好敵手だと認めたのか…。

オーガロードは値踏みするように睨み付け、そして顎に手をやった。

そしてそれは後者だ。

オーガロード自身、妙な心地良さを感じていた。

 

何故なら森の支配者となって以降、敵対者に飢えて既に久しい。

支配するに至って殺して来たものを振り返っても、その全ては戦闘前から実力差を感じて怯えて武器を手放した子羊であり、斬り付けた背中は対峙した者より遥かに多い。

 

堂々と死地へと踏み込んで来たものなどいなかった。

にも関わらず、目前のスライムはそれをするのだ。

 

それが愉快だった。

オーガロードが望んだものは蹂躪ではあったが、駆除では無かった。

闘争であり、戦闘であり、戦争だ。

殺意に満ちた猛獣同士、喰らい合って初めてこの欲求は満たされる。

 

「俺様はダージュン。オーガを統べる王であり、この森の支配者だ」

 

だからだろう。

オーガロードはこの時初めて名乗りを上げた。

 

「そうですか、私はヘロヘロです」

 

対するスライムもまた名乗りに応えた。

この場に及んで未だに緊張感を感じさせないスライムの声色が、何故だか妙に気分を高揚させた。

 

「貴様の憐れな程にふてぶてしい態度に免じて、最強の神器にて葬ってやろう」

 

オーガロードは嗤う。

クカカと大顎を開けて、高らかに嗤う。

そして唐突に巨大なフランベルジュを片手で軽々しく振り抜くと、ヘロヘロのすぐ真上を素振りする。

赤い閃光が熱風を巻き上げ、そして刃先は業火の炎を纏って燃え盛る。

 

「かつてこの地を恐怖に塗り替えた魔神が所持した一振りの神器、一度傷を受ければたちまち地獄の業火に包まれ灰となる。未だにこの一太刀を受け生存したものはいない」

 

語るや否や、オーガロードはゆっくりと燃え盛るフランベルジュを振り上げた。

 

それはまるで断頭台へと設置されたギロチンだ。

さすれば、その場で静かにソレを見上げる粘体は、まるで処刑される瞬間を待つ罪人か…。

 

兎にも角にも死刑執行人は嗤う。

 

「誇るがいい。魔神の神器によって死ねる事を!」

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

振り上げられていく刀身を黙って見上げ、正に今、命を刈り取らんと向けられた刃に、ヘロヘロの胸の中の何かがピクンと反応した。

それは遥か昔に眠りについた一つ感情。

だが、語るオーガロードの言の葉に、確かな感情が胸の奥で燻り続けたのをヘロヘロは感じた。

 

魔神の神器と言うものこそ覚えが無いものの、このオーガロードがそのフランベルジュに絶対なる自負を抱いている事は容易に感じられた。

 

そんな武器を、このオーガロードはヘロヘロに向けているのである。

 

ドクン…。と、胸の中の鼓動が激しく脈打った。

死んだはずの感情に血が巡り、遥か昔に吠え続けていた『何か』が唐突に目覚めた気がした。

 

ユグドラシルにおいて、ヘロヘロの実力は決して高い方では無かった。

むしろ弱かった。

広範囲攻撃による低レベル帯の殲滅は得意分野ではあったものの、同レベルのプレイヤーには大半が負ける。

モモンガやウルベルトのようなマジックキャスターにはそもそも勝機が無く。

ペロロンチーノのようなアーチャーには得意分野が活かせない。

武御雷やタッチ・ミーのような物理特化の戦士でようやく得意分野を活かせるが、そもそもあの二人にはパラメーターと戦闘センスの差で勝てる気がしなかった。

 

だが、それでもヘロヘロには一つだけ得意とするものがある。

武器破壊だ。

それなら出来る。

誰よりも出来る。

 

その為に全てを注ぎ込んだ。

武器破壊に特化したスキル構成を持つ『古き漆黒の粘体』を種族に選び、『混ぜるな危険』と他者が笑ったモンクとの組合せをあえて選び取り込んだ。

武闘家の古武術が侍の刀身を折り無力化するように、モンクにはモンク特有の武器破壊スキルが備わっていたからだ。

 

互いの特性を殺す組合せを選んだ代償として戦闘能力は見劣りする結果となったが気にしない。

 

他者が必須とするスキルもステータスも、ヘロヘロは必要としなかった。

攻撃性能なんて無くていい。

防御性能なんて必要無い。

素早い動作なんて要らないし。

空だって飛べなくていい。

 

あれもこれも何だって捨てて、たった一つの特性だけを磨き尖らせた。

武器破壊…。

それだけあれば良い。

それがヘロヘロの特技であり、全てだった。

 

そしてそれはDQN配信者のゴッズ破壊を持って完成し、そしてその時にヘロヘロは死んだ。

 

配信され拡散した動画はたちまち伝説となりヘロヘロの知名度を不動のものとしたが、同時にそれはヘロヘロに挑む戦士を遠ざけた。

 

当たり前だ。

主力武器の完全なるロストはデメリットがでか過ぎる。

並のプレイヤーなら引退までに一本作れれば良い方だと言われるゴッズアイテムだ。

そのロストを許容できる者などいるはずが無かった。

 

だから敵対プレイヤーは、ヘロヘロを見るなり対策を講じた。

戦士はことごとくヘロヘロを避け始め、

ある時は使い捨ての武器を用意するようになり。

またある時はマジックキャスターを差し向けた。

ゴッズアイテムは勿論のこと、主力武器を手に真向からヘロヘロに挑む戦士など、ついに最後まで現れなかった。

 

その状況にぷにっと萌えは戦略的価値が極めて高いと称したし、ギルドメンバーの皆も非常に助かっていると褒めてくれた。

 

だからヘロヘロもそれを甘んじて受け入れた。

ギルドメンバーの役にたっているなら幸いと、自分の全てだった取柄の機会すら失ったユグドラシルをメンバーと共に謳歌した。

 

 

ーーつもりだった。

 

 

今なら分かる。

消し炭となって眠っていた願望。

だけど本当はずっとずっと胸の奥で燻り続けていたのだ。

自分の全てを捧げて築いた性能に、真向から挑んでくれる戦士を待ち焦がれていた。

 

実のところ、オーガロードとヘロヘロは似た者同士だった。

この世界基準では強すぎた為に強者との死闘が叶わなかったオーガロードと…。

武器破壊性能を極め過ぎた為に真向から挑んでくる戦士を失ったヘロヘロ。

互いに求めるのは、最強と自負する性能を存分に発揮する機会であり、牙を向けるに値する相手だ。

 

飢えた獣2体は相対する。

 

「誇るがいい。魔神の神器によって死ねる事を!」

『光栄に思え!僕のゴッズアイテムで死ねる事を!』

 

その瞬間、オーガロードの姿はかつてゴッズ破壊を成し遂げたDQN配信者の姿と重なった。

 

既視感はあったのだ。

その余りにも誇らしげな言動は勿論のこと。

まるでその武器が絶対であるかの様に嗤うオーガロードの声が、表情が、そして向けられた刀身が…。

 

まるでヘロヘロが最盛期であった当時の伝説を繰り返し見せているかのように、あの日の記憶とダブって重なった。

 

そして処刑人は執行する。

発せられたギロチンのように、真上から叩き落される波打った刀身。

 

何の躊躇も戸惑いも無い、純粋な殺意だけで向けられた一閃の斬撃。

 

その全てがあの日の記憶と同調する。

まるでずっと忘れていた歌のフレーズを突然耳にした時のように、自ずと身体はあの時の感覚をなぞり始める。

 

あの時、自分はどうしたか?

2年間におけるブランクにより頭では完全に忘れた筈だった。 

だがそれでも、この身体は覚えていたのだ。

 

瞬間、ヘロヘロの中でカチリと何かが噛み合った。

 

 

ーーー

ーー

 

刹那にしてギロチンの刃は罪人に落とされる。

粘体の身体を容赦無く両断する無慈悲の斬撃、それはヘロヘロの中に深く喰い込んだ。

刹那にして吹き上がる煙は煙幕となり上空を漂い、充満していく硫黄の匂いが鼻を突く。

 

かつて無い手応えにオーガロードは狂喜する。

本来であれば、液状のスライムなどたちまち蒸発するか爆散するかの何方かだ。

にも関わらず、目前のスライムが煙を吐き出すに留まっているのは、それだけこの者が強者の位置にあるものだからだろう…。

 

だがこの煙の量からして勝負は決したと言っていい、まだ息はあるかも知れないが、最早万全の動きは不可能だろう。

心残りがあるとするなら、それ程の猛者ならば死闘を演じてみたかったと言う事ぐらいか。

何故、このスライムが何の抵抗も見せずに素直に斬られたかは謎だが、終わった事に興味はない。

 

フランベルジュを引き抜き、まだ息があるならトドメを刺して終わりだ。

 

そんな事を思った直後。

ゾクリと悪寒がオーガロードを襲った。

そして気付く、スライムから白い煙に混じって夥しい程の黒い煙が…。いやオーラが吐き出されている事に…。

その煙に触れた瞬間、一瞬脳裏に死が過ぎる。

それが恐怖だと脳が理解する前に、本能が警報を鳴らすまま身体は無意識に距離を取る。

 

ただならぬ何かを目覚めさせた。

単純にそれだけを理解した。

それ故にオーガロードは狂喜する。

ならば真の闘争はここから始まる。

オーガロードとして持って生まれたこのスペックを、魔神の神器の力を存分に奮う事が出来るのだ。

バックステップで距離を取れば、当然それに伴い粘体を貫き埋もれた刀身が顔を出す。

 

 

ーーー

ーー

 

オーガロードは幸運だった。

何故なら強者との闘争を…。存分に性能を発揮し暴れる事の出来る機会を欲した望みはすぐに叶う。

何故ならヘロヘロは強者だからだ。

しかも相性も良い。

性能の高い武器を手にしただけでしかない物理特化のオーガロードに対して、ユグドラシル最高峰のウエポンキラーであり物理耐性の塊であるヘロヘロだ。

相性の差であっさりと対象が死ぬなんて有り得ない。

 

フランベルジュの持主にして200年前に恐れられた魔神。

その魔神が神と崇める者達ですらユグドラシルの世界でヘロヘロと対峙したのなら、

 

「お、お前…やれよ」

「いやいや、俺この武器ロストしたら引退するわ」

「いやいやいや…」

「いやいやいやいや…」

 

なんてコントを取り始めかねないような相手だ。

存分に力を奮う事が出来る。

…最も、オーガロードとしての性能を存分に奮いたいと言う片方だけの望みであれば、と言う条件付きではあるのだが…。

 

 

「ば、馬鹿な!何だこれは!?」

 

オーガロードのその声が響くのは間も無くの事である。




ロアグリーン「と言う訳でヘロヘロ様、一発ギャグをお願いします」
ヘロヘロ「…はい?」
ロアグリーン「本編にギャグを捩じ込めなかった以上、後書きにギャグ入れるしか無いじゃ無いですか」
ヘロヘロ「ちょっと意味分からないですけど」
ロアグリーン「このままでは失望した読者からお気に入り切られて、片っ端から0点評価入れられるかも知れないがじゃないですか!嫌ですよ!朝起きたら調整平均0.8とかになっててお気に入り数2とかになってたら!どう責任取るつもりですか!?」
ヘロヘロ「それ私のせいなんですか?」
ロアグリーン「3」
ヘロヘロ「え!ちょ?」
ロアグリーン「2」
ヘロヘロ「待って!」
ロアグリーン「1」
ヘロヘロ「……べ、ベトベターーー
ロアグリーン「次回もお楽しみに!」
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