ヘロヘロが行く   作:ロアグリーン

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現実世界の設定が原作と合わない為ヘロヘロさんの学歴を変更しました。
高卒→中卒。

義務教育が無いため莫大な奨学金で中卒になって一生優秀な歯車として働き続ける人生です。
やったねヘロヘロさん!!


ヘロヘロ、樹海の中でのサバイバル

 初恋は中学に入ってすぐだった。

 

 中学と言っても実際は勝ち組の歯車の中でもプログラミング等、高度なIT技術を有した人材を確保するための専門学校で、小学校の成績で特に情報処理が優れていた生徒が厳しい試験を経て入学する事が出来る。

 これだけ聞くと貧困層の中でも勝ち組側に近いエリート街道のようにも思われるが、実際は莫大な奨学金でリードを付け一生飼い殺しにしたまま高度な技術を有した歯車を確保すると言う企業の政策だ。

 確かに給料の良い仕事には就けるが逆に言えばそこで養った技術を用いて働かない限り最底辺の暮らしを余儀なくされる。

 そんな夢も希望もない未来を高収入やら高学歴と言う甘美な言葉で覆い隠した歯車製造工場が、僕の初恋の舞台だった。

 

 

 同じクラスで席は自分の斜め前、授業中にも関わらず窓際から外をぼんやり眺める横顔をいつも後ろの席から見詰めていた。

 

 大人しくて余り目立たない。

 どこにでもいるような普通の女の子に人知れず恋をして、そしてそのまま告白も出来ずに卒業してそれ以降再び会うことも無かった。

 

 何処にでもあるへたれた人間のよくある思い出だ。

 

 風の噂で、何処何処の誰々と付き合っていただの、結婚しただの聞いた時には些か胸がチクリとしたのを覚えている。

 

 就職の時だってそうだ。

 本当は目指したい会社があった。

 だけどそこは難門で、目指したところで就職出来るか怪しかった。

 

 挑まなかった理由は単純だ。

 

 たまたま手頃な職場が身近にあったから、たまたまそこに入社する友人に誘われたから、たまたまお前はそこが向いていると言われたから。

 

 初恋も、入社も、人付き合いだってそう。

 そうやって求めもせずに、そして拒みもせずに、いつも流されるように生きてきた。

 

 楽だったからだ。

 そうすれば悩みも恐れも不安も無縁で居られる。

 

 それが今やこの様だ。

 彼女も友達もおらず、ブラック会社で毎日残業してボロボロになりながらも働いている。

 

 だけどもし…。

 もしもあの時、たった一言『好きだ』と告白していれば、何かが変わったのだろうか?

 

 もしもあの時、友人の誘いを拒み、自分の夢を追いかければ何かが変わったのだろうか?

 

 求める事を恐れて手を伸ばす事を諦めた自分も、もしもその勇気があれば自分の何かを変えることが出来たのだろうか?

 

 自問自答に答える者はいない。

 当たり前だ。それに答える事ができるのは何時だって自分自身だ。

 

 ならばもう手遅れか?

 無意識に幻視した若き自分に問う。

 流されるように生きてきて、気が付けばもう30路。

 毎日剃ってやらなければ無精髭だって目につくおじさんだ。

 …を通り越して、ここ最近何故か転生して粘体になった。

 

 ならばもう手遅れか?

 今確かに抱いた望み、今確かに覚えた渇望。

 それが今、目の前にある。

 それが今、手を伸ばせば届きそうな位置で留まっている。

 

 ならばもう手遅れか?

 ーーそんな事は無いと心の中の何かが吠えた。

 望めばきっと手は届く。

 願えばきっと手は届く。

 もう抗うことも出来ずに現状を妥協して生きていくのは嫌だと吠えた。

 

 本当は分かっていた筈だった。

 手を伸ばすことをしなければ道端の石ころを拾うことだって出来ないのだ。

 

 だからヘロヘロは手を伸ばす。

 確かに抱いた想いを、確かに生まれた欲望を決してもう逃がすまいと手を伸ばし。

 手を伸ばし。

 手を伸ばしーー…。

 ーー…

 ー…。

 

 ーー岩場から身を滑らし川へと盛大にダイブした。

 

 

 そんなヘロヘロの姿を嘲笑うように浅瀬で留まっていた川魚は優雅に川沿いへと逃げていく。

 

 後に残されたその場所には水面に浮かぶ廃油のようにしか見えない粘体がポツリ。

 

「…やっぱり魚には勝てなかったよ」

 

 と悲壮感駄々漏れで留まっていた。

 

 

 

 

ーーーー

ーー

 

 Q.スライムを飼う場合、特別食事が必要でしょうか?

 であれば餌は何を与えれば良いでしょうか?

 

 A.いいえ。特に必要ありません。

 ぼっとん便所や肥溜め、下水道みたいな場所に投げ込んでやりましょう。勝手に汚水を吸収して勝手に増えます。

 

 あらやだ簡単。生き物を飼い始める初心者マークの貴方も超安心。

 さぁ画面の向こうの貴方もぼっとん便所でスライム育成レッツトライ!

 

 

 ーーとか思った奴。ちょっと前でろ。

 

 異世界に飛ばされ樹海の中で早一晩が過ぎ、元人間の転生者であるスライムことヘロヘロは現在。

 絶賛空腹真っ最中であった。

 

 ミミズだって、オケラだって、アメンボだって生きている以上お腹は空くのである。

 

 当然スライムであるヘロヘロも空腹を覚え、何をどうして良いかも分からず森の中を彷徨い、成果もなく空腹の余りアホみたい事を自問自答したところで誰が責められると言うのだろうか?

 

 スライムの食しそうな物はと言えば、汚物だったり死骸だったり…。

 しかしだからと言って嬉々として汚物に飛び付く程人間を捨てたつもりは毛頭無い。

 

 スライムとは言え元は人間だ。

 川があれば新鮮な魚を食べたいし、木が生えていれば熟れた果物が食べたいのである。

 

 しかし現実は何時だって残酷だ。

 いくら探せど食用に適していそうな果物は見付からないし、川の魚を生け捕る事も出来そうもない。

 

 川魚を取るため自慢の毒や酸を流そうにも、下流で生活してる人がいるかもと考えると実行には移せない。

 

 そもそもそんな方法で取った魚を食べると言うのも、なかなかどうして気が進まない。

 

 無い無い尽くしだ。度し難い。

 とは言え空腹だって治まらない。

 

 このままでは飢え死にだなと…。

 仕方も無しにその辺に生えてる雑草を食そうかとモソモソ動き出したその時だ。

 

 浅瀬に留まる手頃な大きさの魚が目に止まったのは…。

 

 これまた丁度手頃な岩が傍にあり、如何にも手掴みしやすい様に誰かがセッティングしてくれたかのような絶妙な配置であった。

 

 だから無理もないだろう。

 あれなら捕まえられると思ってしまっても…。

 

 だから無理もないだろう。

 今晩は焼き魚だと思ってしまっても…。

 

 かくして魚の生け捕りに挑んだヘロヘロは足を滑らし川へとダイブし水面に浮かぶ汚水と成り果てていたと言う訳だ。

 

 丁度その時だった。

 

「げっげっげ」

 

 何処からともなく嗤い声が上がった。

 

 思わずビクリと顔…と表現していいかも謎だが、そういう部分を上げると

 岩場の上に何かがいた。

 

 ヘロヘロの乗っていた岩とは別の岩場に腰を掛け、衣服らしい衣服も身に付けず、ヌメヌメとした緑色の体を晒したその者は、人と言うよりもカエルのソレにそっくりだった。

 

「……」

「……」

 

 そしてそのまま時間が止まる。

 当たり前である。

 件のカエルにとっては兎も角、ヘロヘロにとって凍りつくには十分な出来事だ。

 

 だってほら想像してほしい。

 一人で川辺で魚取りしてたら、カエル男に遭遇しました。

 

 これって怖くない?

 

 子供だったら漏れ無くトラウマ間違いなし。

 大の大人でも泣いて喚いて一目散に逃げ出しても許される程の衝撃だ。

 

 当然、元もやしっ子(30路)のヘロヘロもまた御多分に漏れず、泣いて喚いて逃げ出す性分だった。

 

 やがてしっかりじっくり硬直した後、凍った身体が溶けたかのように自由を得ると、止まった時間は動き出す。

 それはつまりーー…。

 

「出たあああ!!」

 

 御多分に漏れず一目散に逃げ出すと、向かいの岩場によじ登ろうと、しがみ付いては足を滑らし川の水面にダイブした。

 

 それを二、三回繰り返した辺りで、このままでは埒が明かないとでも思ったのか、ようやくカエルが再び声を掛けた。

 

「安心せい。スライムは喰わん」

 

 その言葉にようやくヘロヘロは動きを止めて振り返る。

 驚く事に飛び込んで来た言葉をヘロヘロは理解出来たのだ。

 何故ならそれはヘロヘロが普段使っている日本語なのだから。

 それが急激にヘロヘロの頭を冷やすと、ようやく冷静さを取り戻し振り返るに至ったと言う訳だ。

 

「…ええと、誰ですか?貴方」

 

 ヘロヘロもまさかカエルに話しかけられようとは思わず、おっかなビックリ問いかける。

 人語、それも日本語を喋るカエルとはまた奇妙な存在だ。

 ワンチャン可哀想なほどカエル似に育ってしまった哀れな日本人と言う可能性も疑ってみたが思い浮かべて二秒もせずに丸めて捨てた。

 それは流石に、あまりにもあんまりだからだ。

 

 そもそも現在スライムである自分がカエル男を化物と罵る権利なんて無いだろう。

 

「オイラはグロプ。トードマンのグロプってんだ。喋るスライムと言うのも珍しいな。げっげっげ」

 

 カエル男はそう言って笑った。

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