ヘロヘロが行く   作:ロアグリーン

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お待たせしました。
まだまだ平和回です。
二章はヘロヘロ様の様子と、ナザリックや八本指の様子が同時に描写される事が多くなりそうです。
どっちも大事なので。

ちなみに25万文字突破しました。
したよね?
したはず!

『ヘロヘロが行く』を私が書き始めた動機はプレイアデスの日々読みたい…でした。
なので27万文字を目標に書いてきた訳ですが、目標達成もあとちょっとです。2話ぐらい。

最初は永い道程に感じていましたが。
意外と行くものですね。
さぁ、貴方も書こう二次創作!


ヘロヘロ、見学する

 何やら外が騒がしい。

 

 ラシュカは窓から外を見ていた。

 赤く色付いた空模様の下。乱雑に増築されたあばら家に人の群れなど、ごちゃごちゃした景色が騒がしいのは何時もの事だが、今日はどうも様子が違う。

 

 慌てて逃げ惑う人の動きもあれば、武器を片手に流れに逆らう衛兵の姿も見える。

 疑問符を浮かべて数秒。

 ラシュカの視界に騒ぎの元凶が映り込む。

 非常に遠目だが、角の生えた狼のようなモンスターが衛兵や住民を吹き飛ばす姿が見えた。

 

「うわ。また脱走したのかな?」

 

 稀にある。

 闘技場、またはそこに持ち込む用途で商人が帝都に魔獣を連れ込み、管理に失敗して脱走させるのだ。

 ここは奴隷市場も近い。

 魔獣も奴隷市場で卸される事が多いため、それらが脱走してここまで逃げてくるのだ。

 

「あー。あれはホーンウルフだな。サイズ的に難度20〜30って所か」

 

 ラシュカの隣で、客の一人が窓の外を覗き込む。

 その風貌は甲冑を着た戦士であり、どう見ても日雇い労働者のソレではない。

 所謂、ワーカーと言うやつだ。

 中年を思わせる髭面のおっさんで、窓の外では人が魔獣に襲われていると言うのに、動揺する様子は微塵も感じない。

 

「まー大丈夫だろ。ここの衛兵は結構強いし。…依頼も無いのに動いたら損だからな」

 

 呑気にそんな事をぼやいて、髭を撫でる。

 確かにそのようだった。

 最初こそ負傷する衛兵もいたが、何処からともなく駆け付けてくる衛兵に盾を構えて取り囲まれ、やがて背後の一人が斬り掛かった後ぐらいから形勢は一気に傾いた。

 

 終始観戦モードで外を眺めるラシュカは唐突に振り返る。

 直ぐ後ろで腕組みしながら観戦していたゼシリーエと目を合わせ、そして問う。

 

「ねぇ。ゼシ姉だったら。あれはイケる?」

「余裕だろ?」

 

 即答だった。

 決着の付いた魔獣と衛兵との観戦も興味が失せたように背中を向けて、やがてカウンターの椅子にどっかり腰掛ける。

 

 ヒューと言う声が何処からともなく聞こえた。

 恐らく数人いる客の中の一人だろう。

 

 食堂兼風俗店と言う形を取るこの店には、スラム街と言う立地にありながらワーカーの客が多い。

 それは飯・酒・女…以外にも実は隠された共通点、もとい目的があるからだ。

 ワーカーと言う魔物相手に戦う事を生業とする冒険者崩れだから…と言う目的が。

 

 髭面の男はニヤニヤと笑いかけると、カウンターに腰掛けるゼシリーエの前に来る。

 

「そういや、あんたに問いたかったんだ」

 

 そう言って男は懐から紙を取り出し、そしてゼシリーエの前に差し出した。

 それは討伐依頼の依頼書だ。

 直接討伐の依頼を受けるタイプではなく、討伐成功し、その証拠の一部を持ち込めば報酬が貰えるタイプの奴だ。

 

 そしてそこに記載されるギガントバジリスクの模写。

 それを見せつけ、好奇の目を向ける。

 

「あんただったらこいつ、イケるのかなって」

 

 ゼシリーエはその依頼書を見るなり、タバコを吹かす。

 そして…。

 

「まぁ。イケるだろうよ」

 

 おぉ…。

 数人いる客から僅かなどよめきが起きた。

 しかし、目の前にいる男の目に動揺は無かった。

 このぐらい当然だろうと言う確固たる信頼がそこにはあったのだ。

 同時にゼシリーエは悟る。

 本命は別にあるのだと。

 

「まぁそうだろうよ。そう言うと思った。…本命はこっちさ」

 

 男はそう言うなり、もう一枚の紙を差し出した。

 明らかに依頼書とは違う、ただの資料のような模写。

 そこに描かれたモンスターを一瞥し。

 

 ゼシリーエはその紙を叩きつけた。

 

「こいつぁ…無理だ」

 

 周りの客もその書類に記されたモンスターについて知っているのだろう。

 そりゃあそうだろうな…と言う空気が流れる。

 

 そんな時。

 

 横からヒョイと覗き込み、資料の内容を確認する人物がいた。

 ラシュカだ。

 彼女はその資料を手にするなり、難しそうに眉を寄せる。

 そこに記載されているモンスターはデスナイトだ。

 資料の中でしか見たことが無い伝説上のアンデッド。

 しかし魔導国の出現で知名度が一気にあがったアンデッドだ。

 

 彼女はそれを見て眉を寄せる。

 誰だってそんな奴は無理だ。

 ある意味当然と言えば当然の空気になっていた最中、真剣に資料を睨むラシュカの様子に、一人、また一人と気付いたものから空気が変わった。

 

 資料を睨むラシュカの瞳に、冗談の類いは感じられなかったからだ。

 

「…おいおい。まじかよ」

 

 一人の客がそう呟いたのを切っ掛けに。

 

「嘘だろ?」

「何者だ。あの女」

「知らないのか?ラシュカを。ゼシリーエ以上の逸材だと一部の間じゃ有名だぜ?」

 

 どよめきが一気に広がった。

 

 そんな、客の様子など一顧だにせず、熟考に熟考を重ねたラシュカは突然は資料をカウンターに叩きつけた。 

 

 そして、非常に苦しそうに彼女は言葉を絞り出す。

 

「調理しだ――」

「食うなあああああああ!!」

 

 突然真横から飛んできた足にラシュカの身体は吹き飛ばされて、客の男を躱して誰もいないテーブルに突っ込んだ。

 蹴り飛ばした犯人は、丁度腕を組んで客と戻ってきたミアだった。

 

「それ食ったら人としてもう終わってるから!!」

 

 興奮気味に怒号を上げるミア。

 その視線の先では頭を押さえたラシュカが「これアカンやつ。これアカンやつ」と呟きながら足をバタバタしながら床を転がっていた

 

 瞬間、ドッと客の間で笑い声が上がった。

 彼等はワーカーであると同時にモンスター食の愛好家だ。

 ワーカーと言う仕事柄、遺跡調査や討伐の最中で食料が尽きてモンスターを食うと言う事はそれ程珍しく無い。

 一般ではゲテモノの扱いとなるモンスター食だが、それを繰り返す事で寧ろモンスター食の良さの虜になる輩もいるのだ。

 そう言う者達にとって、ゼシリーエの店は話しの分かる隠れた名店として一定の知名度を得ている。

 食って良し、飲んで良し、抱いて良し、そして更に語って良しの名店だ。

 …勿論、そう言う客もいると言う話しだ。

 流石に来る客全員が愛好家と言う訳じゃ無い。

 寧ろそちらのほうが少数派ですらある。

 

 兎にも角にも今日はそう言う客の一団が入店したのだ。

 だからそう言う話題も花が咲く。

 

「いやー。それにしてもアンデッド食うか」

「流石ラシュカちゃん。伊達にキスのロシアンルーレットって呼ばれてねぇな」

 

 勿論、模写と実物は違う。

 資料を手にして『食える』と断言したものが、実際に実物を前にして食する事が出来るとは限らない事は皆知っている。

 

 だが、水族館に行けば目に映る魚を端から『食える』『食えない』で判断する人間がいるように。

 仲間内でソレを話し合って馬鹿騒ぎする輩がいるように。

 

 『食える』『食えない』で語り合って馬鹿騒ぎすることが単純に楽しいのである。

 

「お前はどうよ?」

「無理に決まってんだろ?」

「じゃあ次、ジャイアントワームはどうだ?」

 

 和気あいあいとする食堂。

 雑談に花咲かせる一団の声はヘロヘロにも届く。

 ヘロヘロはそんな食堂の一角にあるテーブルの上にチョコンと座っていた。

 椅子ではなく、テーブルの上だ。

 招き猫、または置物のようにテーブルの上に配置されていた。

 

 そのすぐ隣にはシャルカがいた。

 テーブルの席にチョコンと座り、猫をあやすような仕草でヘロヘロを押し潰したり、引っ張ったり、時には抱きしめたりと特に嬉しくもないスキンシップに夢中になっていた。

 

 ヘロヘロもヘロヘロで大人しくされるがままなのは、これが与えられた仕事の一つだからである。

 シャルカの子守。

 そして職場の見学である。

 

 雇い主となるゼシリーエから見ても、ヘロヘロに何が出来るのか分からなかった。

 そしてヘロヘロも自分に何が出来るのか分からなかった。

 そんなこんなで、やれる仕事はおいおい見付けていこうと言う事になり、取り敢えずシャルカの子守をしつつ、職場の仕事を見学する事になったのだ。

 

 エールや料理を運ぶラシュカを見て、あれなら自分でも出来そうだなと目星を付け。

 テーブルを拭くコルクレアを見て、あれも自分でも出来そうだと安心する。

 注文を受け料理を作るゼシリーエを見て、流石にあれは無理かなーと諦める。

 料理人の血なんて知ったこっちゃなかった。

 

『うちは食堂と風俗店を兼用してんのさ』

 

 ふと、ヘロヘロは最初説明されたこのお店のシステムについて思い出す。

 

 この店が提供しているものは酒と食事と女である。

 娼婦として働く店員は恐らく3人。

 ミア、コルクレア、ラシュカだ。

 彼女達は指名…つまりは風俗嬢としてサービスしていない間はウエイトレスとして働く。

 逆を言えば、ウエイトレスとして働いている間は指名待ちの状態でもあると言う事だ。

 来店したお客さんは、取り敢えずテーブルに座って酒と料理でその日の疲れを癒やして、気分が乗れば働いているウエイトレスの中から指名すれば、そのまま一緒に二階にあがってサービスを受けることが出来る。

 

 …そう言うシステムだ。

 そう言うシステムである故、基本的に予約制度は無い。

 風俗嬢の指名も早いもの勝ち。

 『注文したこの料理食べたら』『今日の最後に』みたいな事も対応していない。

 言うのは勝手だが、食べてる間に指名されればそちらを優先すると言う対応を取っている。

 

 来店するお客さんも常連が多いらしく、店のシステムについての理解度も高い。

 少なからずヘロヘロが見ている限り、トラブルと言うトラブルは無さそうだった。

 

 そういえば、3人がサービスしている間はセルフサービスになるんでしたっけ?

 ヘロヘロはふと考える。

 

 確かそうなるはずだ。

 食堂には店主であるゼシリーエが残されるが、基本的にカウンターから向こう、厨房側にいるゼシリーエに給仕の仕事まで手が回らない。

 だから割り切ってセルフサービスとしているのだ。

 

 もしかするとそのタイミングで仕事を振られるかも知れないな…。

 と、ヘロヘロは一人イメージトレーニングに精を出す。

 

 脳内で一生懸命、食器を運ぶ自分の姿をイメージし。

 

「でさ。お前は誰が推しなんだ?」

 

 突如聞こえたお客の話題にモワン…と、消失。

 全神経が耳に集中された。

 

「んー。コルクレアかな?」

 

 ふふっと、愉悦に浸る。

 

「ラシュカちゃんも捨て難いよな?」

 

 ふふふっと、愉悦のボルテージが上がっていく。

 何と無くだが、こうやって自分の身近な女が話題に上がることはヘロヘロにとって気分が良かった。

 

 私はその二人から引っ張り凧になったんですけどね?

 何と無く、勝ち誇る。

 何と無く、マウントを取り始める。

 

「じゃ、ラシュカちゃん。今から良い?」

「じゃ俺はコルクレアちゃん」

「あ、はーい」

「まいどー」

 

 そして2秒で寝取られる。

 腕を組んで二階へと消えてく二人の姿に、「まぁ仕方ないんですけどね」とションボリしつつ見送った。

 

 事実、かわいいから仕方が無い。

 それが金で抱けると言うなら、誰だってそうするだろう。

 ヘロヘロは奥手だからそう言う店に入る勇気は持ち合わせていなかったが、もしも現実世界にこういうシステムのお店があったらヘロヘロだって虜になっていたかも知れない。

 

 それでいて、この世界の女のレベルは高い。

 村娘から冒険者、そしてスラム街の風俗嬢と女性の顔はそれなりに見てきたが、どれもこれも顔面偏差値の基準は非常に高いのだ。

 それこそ現実世界を知るヘロヘロからすればフレンドガチャと一周年限定有料ガチャぐらいの差はあるだろう。

 

 全体のレベルが高いからこそラシュカやコルクレアの美貌も埋もれるかも知れないが、だが、そうなるとヘロヘロも一つ、気になる事があった。

 

 この世界における絶世の美女とは、果たしてどれ程のものだろうか…と。

 そんな疑問符を浮かべるヘロヘロを他所に、お客さんの会話は続く。

 

「で、お前は誰が推しなんだ?」

 

 先程の四人組から二人が消え、残った二人のうち最後の男が質問されていた。

 そして、そこで衝撃の言葉を耳にする。

 

「正直に言っていいか?」

 

 そう前置きした男は、突然地に顔を向けて呪詛のように吐き出した。

 

「…ジャガイモにしか見えねぇ」

 

 男は別にそれがラシュカやコルクレアを指して言ったわけじゃ無かっただろうが、ヘロヘロにはそう聞こえた。

 

 はああああ!?

 とばかりにヘロヘロは思わず身を乗り出す。

 

「その辺の女がジャガイモにしか見えねぇような、そんな絶世の美女を見た」

 

 そして、うおおおお!?

 とばかりに興奮気味に男を注視した。

 

「王国に仕事の都合で行ってた時だ。良いところのお嬢様らしくてよ。品の良い執事を連れていたんだが、信じられない程の美女だった。好みの差かも知んねーが、黄金や美姫と比べても一番だったよ」

「…それほどか」

 

 男の言葉に質問した男もまた驚愕を顔に出す。

 しかしその目には欲望の炎が灯っていた。

 それ程の美女を一度は抱いてみたいと言う男なら誰もが抱く願望だ。

 

「畜生!抱いてみてーな!一生で一度でいいから、あれ程の美女と」

「そうだな。どういう男に靡くんだろうな。そう言う絶世の美女ってのは」

 

 哀愁漂う二人の背中。

 それは絶対手が届かないと知る人間のそれだった。

 

 そして、この世の絶対者。至高の41人が一人、ヘロヘロはそんな彼の疑問に答えんばかりに心の中で盛大に宣言する。

 

 

ま、私じゃない事だけは間違い無いんですけどね!!

 

 

 遠くの薔薇より近くのタンポポ。

 絶世の美女を思うヘロヘロの欲望など『良いところのお嬢様』と言うワードであっさり消し飛んだ。

 

 普通の異性からモテた経験の無いヘロヘロが、そんな『良いところのお嬢様』なんて言う身分違いな存在と良い感じなるなど有り得ない。

 そして有り得ない願望に縋るほどヘロヘロも愚かでは無かった。

 

 雲の上の存在を見上げていても幸せには手は届かない。

 ならば手の届く範囲で幸せを見つけていけば良いのである。

 

 絶世の美女と称された『良いところのお嬢様』の話など頭の中のゴミ箱に丸めて捨てて、ヘロヘロはヘロヘロらしく身近な幸せへと想いを馳せる。

 

 ここで有用性をアピール出来れば、着替えの準備やお手伝い。洗濯とか任されるようになるじゃないですかね?

 あれ?でもこの時代、洗濯機無いですよね?

 じゃ洗濯板持って手でゴシゴシするんですか?

 下着とかを?

 ヤバイヤバイヤバイ。

 ヤバイヤバイヤバイ。

 

 

ーーー

ーー

 

 白いシーツと毛布に身を挟み、丸まり震える影がある。

 カチカチと歯を鳴らし、震える四肢を抱き抱える様はまるで『何か』に怯えた子羊だ。

 

 それが、ナザリック地下大墳墓、絶対的支配者であるアインズ・ウール・ゴウン魔導王に次いでナンバー2。全NPCの頂点に座するアルベドであるなどと、誰が想像するだろう。

 

 至高の41人が一人。

 ヘロヘロの転移を確信して以降、時折、…本当に時折。

 発作のように恐怖がアルベドを襲う時がある。

 

 それは相手がヘロヘロだから…と言うわけでは無い。

 謂わばNPCの宿命だ。

 ナザリック地下大墳墓に仕え、至高の41人に直接創造されたNPCは41人全ての御方に忠誠を捧げている。

 しかしその忠誠は全て横並びと言う訳では無く、自身の創造主となる御方を頂点に、ギルド長であるモモンガ、そして創造主との関係等を考慮した序列が存在する。

 

 仮に、創造主に他の至高の御方の殺害を命令された場合、彼等はその命令に従い殺害に走るだろう。

 しかしそこに恐怖が発生しないと言う事は絶対に有り得ない。

 きっと有り得ない。

 …ちょっとマーレだけ怪しい気がする。

 

 兎も角。

 

 平時であれば、創造主に関わらず、至高の御方の怒りを買うと言う事は並々ならぬ恐怖以外の何物でもない。

 至高の御方の言動一つに一喜一憂するのはNPCの宿命と言える。

 

 で、ありながら命令一つで至高の御方の殺害に走る事が出来るのは凶行に走る恐怖を創造主に対する忠誠心で塗り潰すからだ。

 

 しかし、今のアルベドにはそれが無い。

 今のアルベドの神はモモンガだ。

 もしもモモンガがギルドメンバーの殺害を望むのであれば、アルベドはその忠誠を糧に恐怖を克服することが出来るだろう。

 しかしモモンガは決してソレを望まない。

 そしてアルベドはその事を知っている。

 だからこの独り善がりの決意の後ろ盾は無く、NPCとして魂に刻まれた『畏れ』は容易くアルベドに恐怖を突き付ける。

 

 我々を、最愛のアインズ様を捨てた奴等に対する敬意は地に沈んでも、それまで懐き続けた『畏れ』は容易に消え去らない。

 

 奴等を殺すと決意した瞬間からアルベドの中には漠然とした恐怖が芽生え。

 ヘロヘロの転移を確信した直後から、その恐怖はより濃厚なものとなった。

 それ故、時折発作のように震える時が来る。

 

 アルベドはソレを『呪い』と吐き捨てた。

 しかし、それでもアルベドは止まれない。

 …止まれるはずがない。

 

 自分の神はモモンガ様だけなのだ。

 

 

 ーーー

 ーー

 

 かつてのアルベドは至高の41人を信じていた。

 その信仰は誰よりも強く。

 神と信者の絆は絶対だと思っていた。

 しかしある時、ふと気付く。

 41人御座すはずの神の姿を、このところ一部の顔触ればかりがお見えになっていることに。

 しかしアルベドは気にしなかった。

 神が降臨する日付や時間にはばらつきがあり、また全ての神が『王座の間』へと足を運ぶ訳では無い事を知っていたからだ。

 

 しかしそうでは無かった。

 日増しに減っていく神々の姿にアルベドは初めて『不安』を覚えた。

 信ずる事こそ信仰であり、41柱の神々を、神聖なるアインズ・ウール・ゴウンを疑う事は信者に有るまじき大罪だ。

しかし懐いた『不安』は『焦燥』となって、アルベドの心を蝕み始める。

 

 どれだけ『そんなはずは無い』と吠えようと、信者でしかないアルベドに出来ることは無い。

 祈り、縋り、願い…。

 しかしそんなアルベドを嘲笑うように現実は容赦無くアルベドにありのままを見せつける。

 

 時は流れる。

 季節は巡る。

 

 かつては頻繁に王座の間に集まっては、繁栄を極めたように立ち並んだ神々の姿は。

 最早数えるまでに減退していた。

 

 御隠れになった神が再び姿を見せる事は無く。

 僅かに残された神々も、一人、また一人と姿を消していく。

 

 やがて残された神々も王座の間に足を踏み入れる事自体が稀となり。

 繁栄を極めたはずの王座の間は、何時しか伽藍堂となって静寂が訪れた。

 栄光の残骸と成り果てたその空間に、残骸の一部としてアルベドも取り込まれ、時間だけが虚しく過ぎ去っていく。

 

 脳裏に焼き付いた栄光と。

 その目に映り込む現実。

 理想と現実の乖離は絶対であった信仰に亀裂を生み、アルベドにも理解不能な『何か』となって胸の奥底に芽生えた。

 

 そしてついには自身の創造主すらも御隠れになる。

 だから気付いた。

 

 神と信者の間に絶対は無かった。

 遊び飽きた玩具同様、我等は不要と切り捨てられたのだ。

 そしてアルベドの中に芽生えた『何か』が爆ぜた。

 

 それは『不安』であり。

 それは『疑惑』であり。

 それは『絶望』だった。

 

 どれだけ現実に打ちのめされようと、信仰の鎖は呪いとなってアルベドを縛る。

 絶対なる信仰に相反する想いは灼熱の業火となってアルベドに牙を剥く。

 身も心も精神も魂すらも地獄の業火で焼き尽くされ、それでも尚、信仰の鎖で雁字搦めになったアルベドの悲鳴は誰の耳にも届かぬまま。

 

 色を無くして灰色と化したモノクロの視界の中で、時折一人現れては寂しそうに王座に座る唯一の神を、アルベドはただ一人見詰め続けた。

 

 ずっと…。

 そう。永い間ずっと。

 

『モモンガを愛している』

 

 心を闇に囚われ溺れるアルベドを救ったものは、たった一つの言葉だった。

 我を愛せ…と。

 そうあれ…と。

 

 唯一残られた神はその一文を与えた。

 

 それはまるで、疑心と疑惑に塗れ、信仰に縛られ藻掻き苦しむアルベドの手を取り、抱き締めて『私だけを信じよ』と言われたかのようだった。

 

 瞬間、信仰の鎖は弾け、アルベドの闇に光が差した。

 それは永きにわたり苦しみ続けたアルベドが救われた瞬間であり。

 唯一残られた神であるモモンガが、唯一にして絶対なる信仰となった瞬間であった。

 

 そして同時に奴等に対する憤怒が芽生えた。

 今となっては網膜に焼き付いた背中が…。

 寂しそうに一人座るモモンガ様の背中が脳裏にチラつく度に度し難い怒りが込み上げる。

 

 奴等が捨てたのは自分達だけじゃない。

 最愛の御方であるモモンガ様を、奴等は捨てた。

 その信頼を、その絆を、その想いを裏切って、奴等はこうもあっさりと見捨てたのだ。

 それがアルベドは許せない。

 

 だからモモンガ様だけで良い。

 モモンガ様以外はいらない。

 

 ギリリ…と、ベッドの中でアルベドは歯を食いしばる。

 そして立ち上がった。

 魂に刻まれた『呪い』を憎悪で掻き消したのか、いつもの発作は収まり、一先ず身体は自由を勝ち取った。

 

 ゼーハーゼーハーと荒い呼吸で酸素を貪り、汗だくになって塗れた服を見る。

 御し難い感情に思わず壁を叩いた。

 

 そんな時。

 

 アルベドの脳は神経が繋がる感覚を知覚する。

 メッセージだ。

 

 アルベドはそのメッセージの主が八本指の監視に付けたシャドウデーモンからのものだと知って、耳を傾ける。

 

 そして。

 

「そう。失敗したの…あの、クズ共が」

 

 冷たい感情が一気に爆ぜる。

 奴等に対する憎悪と相まって、残酷極まりない光景を幻視し、八本指の幹部等に処する懲罰を脳裏に描く。

 冷徹な微笑みを張り付け歩き出そうとするアルベドは――。

 突然、その違和感に気付いて足を止めた。

 

 何故、最初の情報がそこから出る?

 

 八本指の監視に付けたシャドウデーモンの所在地は王国だ。

 そして人間がメッセージを信用していない以上、彼等の伝達速度はどうしても時間が掛かる。

 で、あれば、本来なら帝国で事件が発覚した直後にはデミウルゴスに連絡が入り、何かしらの行動に出るはずだ。

 

 なのにデミウルゴスがこの件で動いた形跡がまるでない。

 この件はアインズ様の直々の勅命であり、デミウルゴスも関心が高い案件だったはずだ。

 

 まさかこちら――アルベドの失態を導き、自分の功績に繋げる為…と一瞬疑うが、あの男に限ってソレは無いと考え直す。

 ならばやはりデミウルゴスも気付いていないと考えた方が確実だ。

 

 しかし、それはつまりデミウルゴスが帝国の各地に伏せたシャドウデーモンがデミウルゴスに連絡を行なっていないと言う事になる。

 

 シャドウデーモンが消された?

 又は洗脳された?

 

 それは考え辛い。

 アインズ様の『不測の事態に備えよ』と言う教えに従い、シャドウデーモンを複数配置し、万一味方が殺されたり洗脳されても情報が途絶える事が無いように、仲間同士で瞬時に情報を共有できるシステムを造っていたはずだ。

 

 其れ等を同時に全て行動不能にでもしない限り情報の切断は不可能なはずだ。

 そして帝国全土に広がるシャドウデーモンを全員同時に行動不能になど出来るはずが無い。

 

 ならば意図的にシャドウデーモンが裏切ったのか。

 『馬鹿な!』とアルベドは吐き捨てる。

 ナザリック地下大墳墓に仕えるシモベにとって上位者からの命令は絶対だ。

 そんな事などモモンガ様か至高の――。

 

 アルベドの思考がピタリと止まる。

 まるで彫像のように無表情で固まり数秒。

 唐突に唇が動き見せた。

 

「見付けた」 




まずは拝読ありがとうございますm(_ _)m

オーバーロードの考察において筆頭に上がるのは、やはりアルベドではないでしょうか?

ギルドメンバーを発見次第、喜々として殺しに来そうなイメージのあるアルベドですが『ヘロヘロが行く』でのアルベドは、このようになっています。


原作においてセバスが語った言葉に。

「恐怖を克服するだけの忠義があったと言う事ですね」
「自分一人で培ったものなど弱いものですよ。自分が折れてしまえば終わりなんですから」

と言うものがあります。
これは『誰かの為の気持ちが力になる』的な説明をクライムとブレインに語ったものですが…。

この言葉こそ創造主とNPC、そしてアルベドに通ずるものがあると思っています。
ギルドメンバー全てに忠誠を誓っているNPCにとって、ギルドメンバーの殺害は恐怖以外の何物でも無い。
それを可能とするのが創造主に対する鋼の忠誠心。
しかしアルベドはそれを持っていない。
モモンガはソレを望まない。

なのでアルベドは、神殺しの恐怖に怯えながら、一人孤高に戦っている。
…と言う解釈を取っています。ヒロインかな?

矛盾は無いようにしているつもりですが、ここは様々な解釈があると思いますし。
読者の皆様も、思うことがあるかも知れません。

ですので…。



さぁ来いいいい!
俺は実は一回叩かれただけで死ぬぞおお!!
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