お気に入りや評価ありがとうございます。
読んでくれている人がいるって分かると励みになりますね。
トブの大森林と呼ばれる場所に瓢箪をひっくり返したような形をした湖が存在した。
水と言うものはどんな生き物であれ必ず必要とするものだ。
当然、湖にせよ池にせよ川にせよ。
水場には大小様々な生き物を呼び寄せ住まわせる。
そして大小様々な種族が住めば、当然そこに縄張りが生まれ争いが起こるのだ。
一昔前にリザードマンの群と争い勝利したとかしなかったとか、誇らしげに語る叔父の顔を今でも憶えている。
グロプの故郷はトブの大森林と呼ばれる森の中にあった。
それが今や森を抜けて平地を越えて、長い徒労の果てにたどり着いた名も知らぬ森の中に居を構えたのは、単純に故郷から逃げ出したからである。
別に古いしきたりに嫌気が差したとか、新しい世界が見てみたかったとかそう言う理由ではない。
ただ単純に怖かったからだ。
突如現れた得体の知れない何か、それは本来あるべくパワーバランスを崩壊させトブの大森林を混乱の渦へと叩き落とした。
曰く、それは凶悪な力を有した死の軍団である。
曰く、そらは悪魔ですら従わせる死の権化である。
噂ばかりが独り歩きする中で、村の力自慢共は現状を理解していないのか?はたまた理解していながらその土地に縛られているのか、互いに奮起するように嗤った。
だがグロプは恐ろしかった。
日増しに増える村の縄張りに侵入する他種族の愚か者共。そんな事をすればどうなるか分からないはずが無い筈なのに、侵入しては討ち取られるゴブリンやオーガやトロールの顔は、どんな地獄を目の当たりにすればそうなるのか?
例外無く恐怖に歪められていた。
まるで得体の知れない何かが徐々に迫って来るような感覚。なのに村の連中は過去の栄誉に酔いしれ現状に目を向けようともしない。
だからグロプは故郷を捨てた。
悪魔の巣窟から少しでも離れようと森林を北上し、山脈の麓を周り、平地を抜け今の森林へと逃亡した。
その混乱に乗じて逃げ出したものも数知れず、その多くは冒険者に討伐され無惨な骸を晒したが、グロプを含めた一部の者は新天地へとたどり着いた。
最もそれがどれだけ一握りなのかと考えれば碌でもない数値が浮かぶだろうが…。
ーーーー
ーー
ー
「…ってな感じだな。西の山脈を沿って南へ行けばトブの大森林があってよ。…後はそうだな。東の平地を進めば人間の国がある」
パチパチと火の粉を上げる焚き火を囲み、グロプは地面に簡素な地図を描きながら故郷からの道程で得た情報を開示する。
トブの大森林の事。そこに突然現れた悪魔の巣窟の事。アゼルリシア山脈の麓で見掛けたモンスターの事。そして人間の事。
一方のヘロヘロはふむふむと地面に描いた地図を覗き込みつつ木の実をまた一つ口にした。
時は夕暮れ。燦々と空を照らした太陽が役割を終えたとばかりに山脈の向こうへと傾き掛けた頃。
一度火を灯して味を占めたのか、それとも食材を見事に無駄にしておいて調達も碌に出来ない無能さに焦りを感じたのか…。
「焚き火担当は任せて下さい」
と、特に必要性も感じない焚き火担当を志願してきた。
故郷でも狩猟班として狩りは得意だったのだ。
二人分の食料の調達ぐらいは朝飯前で、ともすれば特に他にやらせる仕事も思い付かなかったのでヘロヘロはそのまま遊ばせる事にしてグロプは狩りへと赴いた。
斯くして出来上がった夜営地で焚き火を囲んで夕食を共にする。
そこでグロプは自分の知る様々な情報を開示していたと言う訳だ。
一方のヘロヘロもヘロヘロで真剣にその情報を取り込んでいた。
何より気になったのは話しに出てきた悪魔の巣窟の事と人間の事だ。
前者は単純に「そんな怖いところ絶対近付いてやるものか」と固く決意するに留まったが…。
人間に関しての情報にはヘロヘロ自身思うところがあった。
いや、そもそも冒険者の遺品を漁った時から気にはなっていたのだ。
電子機器が見当たらないと言う事が…。
勿論スマホのような小型端末ならば身に付けている衣服に入っている事が考えられるだろう。
そしてスマホ一つあれば通話に時計に現在地の確認、撮影もできれば調べものも出来る。ひょっとすると気温や湿度も計れるかもしれない。
しかし考えられるだろうか?それを充電する為の機器や予備バッテリーの類いが何も無いなんて事が…。
何と言っても夜営の道具まで揃っていたのだ。野宿を想定していないなんて事は無いだろう。
であればソーラーパネルぐらい使った発電機の一つぐらい持っていて良い筈なのだが、何処を探せどそういう類いは見当たらない。
…と言うことは。
「グロプさん。人間の乗り物って見たことあります?」
「人間の乗り物だぁ?そんなの馬か馬車だろ?」
決定的だ。とヘロヘロは一人確信する。
この世界の文明はせいぜい中世止まりだ。
車も無ければ電気も無い筈である。当然冒険者の荷物から電子機器なんて出る筈がない。
だとすれば…。とヘロヘロはここに来て初めて自分がこれからどうしたいのかを考えた。
最初はクソブラック会社に行かなくて良いと言う安堵と単純な眠気から泥のように眠った。
次は独りぼっちで見知らぬ樹海に投げ出されている現実を前に絶望した。
そして次は空腹の余り食べ物を求めて森の中を彷徨った。
そして今、三大欲求が満たされた今だからこそ、冷静に自分の想いに目を向けられる。
そう。自分はーー。
人間の中に溶け込みたいと思った。
そう、人の世界に戻りたいのだ。流石に彼方の世界はもうお腹いっぱいで吐きそうな程ではあるが…。
それでもヘロヘロは人の世界を求めた。
この世界の文明が中世だとか、今の自分が粘体だとかそんな事は関係がない。
このまま樹海の中で死ぬまで人目を避けて岩陰を寝床にするのはまっぴらごめんだとヘロヘロの中の人間が吠えた。
だが、同時に湧いた不安がヘロヘロの胸を押し潰す。
ーーそれをグロプがどう思うのだろうか?
そんなヘロヘロの様子に気付いたのか、ふと気が付くとグロプが怪訝に顔を覗き込んでいた。
「んー、どうかしたか?」
そんな彼からの質問に背中を押され、ヘロヘロもまた決する。
モモンガは勿論の事。恐らくユグドラシルから転移した全てのプレーヤーが口に出来なかったであろう真実をーー。
「グロプさん。私は異世界から転移した元人間です」
この日、ヘロヘロの口から語られる事になる。
向こうの世界の事。
ユグドラシルの事。
そして何より自分がゲームで遊んでいただけの人間でしか無いことを。
語って語って語り続けて、伝えたヘロヘロの真実はーー…。
「げーげっげっげ」
高らかな笑い声で一蹴された。
ゲラゲラと笑うカエルの姿にヘロヘロは少しだけ悲しく思う。信じてもらえている様には全く見えないからだ。
とはいえ、それは仕方ない事だと言うことも分かっていた。
仮に向こうの世界で働く自分の前に「異世界から転移してきました」と言う男が前に立てばどう思ったであろうか?
まず間違いなく可笑しな奴がいると思うだろう。
最悪これは遠くない未來の自分の姿だと憐憫の情を懐いたかも知れない。いやむしろ後者だと確信する。
荒唐無稽過ぎるのだ。漫画やアニメじゃあるまいし、そんな話を信じろと言う方が無理がある。
ただ…。
「人間ってのはな。すっげー賢い種族なんだ。壁も家も砦だって皆自分らで作っちまう」
と言う言葉から何と無くお前みたいな馬鹿丸出しな奴が元人間な訳無いだろうと言うニュアンスに聞こえなくとも無かったが、流石にそんな筈が無いから聞き流す。
そして散々嗤ったグロプは突然ジロリとヘロヘロの顔を覗き込む、
「まさかお前。人里に行きたいなんて言うんじゃ無いだろうな?」
コクリと頷くヘロヘロを前にグロプはゆっくり腕を組み「あー」だと「うー」だの言いながら暗闇に溶けて見える筈の無い上空を眺めた。
グロプも何と無くだがヘロヘロがそう言い出すんじゃないかと言う事は分かっていた。
転生の話は兎も角として、こいつが人間に焦がれている事は言動を見ていれば簡単に分かる。
知性が有る事とそれがどう関係あるかまでは定かでは無いが、料理なんて人間の真似事をしようとする程だ。
当然、人間がいるなら関係を持とうとするだろう。
しかしだからと言って人間の村に行くことはリスクが高い。
確かに人間のそれも村人の戦闘力なんてものは高が知れている。だが人間程個人差がある種族も他にいないだろう。徒党を組んだ冒険者になればドラゴンを狩ることもあると言う。
それに対してこちらの戦闘力はどうだ?
確かにトードマンは故郷において其れなりに強い方ではあったと思う。だがそれも村の総力あってこそだ。
グロプ個人は決して強者と言う訳では無いのだ。
ヘロヘロにおいては最早論外だろう。
それでいて人間は狡猾かつ残忍であり知能が高い。
探り合いや化かし合いに置いては人間の方が秀でているだろう。
それに自分が何処まで対応出来るかが分からない。
ヘロヘロにおいてはやっぱり最早論外だ。
だが人間と亜人の共存が不可能かと言われると前例がまったく無いわけでは無い。事実現在でもそう言う国が存在すると言う話を聞いたことがある。
そして何より人間との共存が成立すれば、この森での生存率は格段に上昇する事が期待できるのだ。
現状、グロプもこの森では補食される側の存在だと見て過言ではない。
ならばこのまま身を隠しながら生活したとて長生きは出来ないだろう。
正直、味方は多い程良かった。
あれやこれやと熟考し、それからたっぷり二分間程経った後。上空を仰ぐグロプが致し方ないとばかりに口を開く。
「…まぁ。いいんじゃね?確かにメリットはあるわけだし」
その言葉に、ヘロヘロは『ぱぁっと』視界が開けた気がした。
嬉しかったのだ。
自分の意見が肯定された事もそうだが、同じ意見を持って貰えると言うことが単純に嬉しい。
実の処不安だったのだ。
見るからにモンスターであるグロプが人間に対してどのような心象を抱いているか分からなかったから。
ゲーム知識宜しく人間を食料の一部と認識しているかも知れないし。
倒すべき敵と認識しているかも知れない。
だからこそ、そこで一応念を押す。
「あ、襲いに行くとかそんなんではーー」
「それこそ馬鹿だろ。ゴブリンの群じゃあるまいし。自殺行為って言うんだよそう言うの。…人間と関係を持ちたいんだろ?」
そんな言葉でグロプはヘロヘロの不安を一蹴してくれた。
意見が合う事。
同士を持つ事。
それがどのような事であれ、それ自体が凄く嬉しい事なのだと、そう言えば誰かが語っていた。
今ならそれがよく分かる。ヘロヘロにとってこれは正に希望だった。
モンスターであるグロプと人間の精神を持つヘロヘロとで同じ意見を持てると言う事は、モンスターと人間とで同じ意見を持てると言う事。詰まる所仲間として仲良くやれる可能性があると言う事だ。
それが嬉しくて堪らない。
そんな心境なのだ。グロプの確認に、
「そう。そうなんです」
と、思わずピョンピョンと跳ねてしまっても仕方ない事だろう。
「ただし、ヤバイと思ったらすぐに引く。これが条件だ」
と、即座にグロプに釘を刺されたが、そんな事は何の問題も無かった。
「ええ、勿論です」
色良く返事をするにヘロヘロに、何を思ったのかグロプは頭を掻きながら目をそらす。
「…ったく、嬉しそうにしやがって」
そう吐き捨てるグロプの言葉も何故だか悪い気がしなかった。
「じゃあよぉ、いい加減こっちの質問に答えてくれよぉ。オイラその為に声掛けたんだぜ?」
ヘロヘロの喜びも束の間、グロプはまるで駄々を捏ねる子供の様に苦言を告げる。
その様が何故だが妙に可笑しくて、とは言え笑うわけにもいかず無い目を丸くしてグロプへと向き直る。
思えば質問一つ聞く為に日中から日暮れまで付き合ってくれたグロプも本当にお人好しだと思う。
その間、取ってくれた食料もそれなりで彼方の世界の奨学金には遠く及ばなくとも、随分と借りを作ってしまった筈である。
何よりこの世界で初めて出来た相棒と呼べる存在だ。
今更何かを隠しだてする気など毛頭無かった。
何て言っても中世の文明から隔絶したレベルの現代人だ。
それも貧困層ながら優秀なプログラマーなのだから、知識においては最早比べ物にならないだろう。
ソースだろうがデバッグだろうがプラグインだろうが優しく説明してあげられる。
ヘロヘロは余裕の面持ちで
「うぇるかむ」
と、わざわざ外来語を用いて質問を促すと…。
この森に生息するモンスターの種類だったり縄張りだったり、危険なモンスターが生息する場所だったりと昨日転移したばかりのヘロヘロに答えられる訳が無いようなグロプの質問に…。
うんうん。なるほどね。と前置きしつつ、
この森に生息するモンスターは分からないし、当然縄張りなんて知らないし。そもそも危険なモンスターがいたら怖いなーと思う事など、ヘロヘロは心底丁寧に答えていった。
これには流石のグロプも満足したのかニッコリと微笑むと、
「お前、クソの役にも立たねーなー」
そう吐き捨てた。
奇しくもヘロヘロもまったくの同意見であったが、別に嬉しくは無かった。
ここまでの流れ…。
一話→転移したよ。
二話→お腹空いたよ。
三話→ご飯作るよ。
四話→会食したよ。
誰が読むんだこんなもの/(^o^)\
さてヘロヘロの転移した時間と場所がようやく固まって来ました。
時間はアインズ様が魔導王になった後!
場所はトブの大森林の北にある森。帝国領!
いよいよヘロヘロが人間と関わって来ます( *・ω・)ノ
その辺の原作知識全然分からないけど、なんとかなるよね?ねっ?ねっ?ねっ?