ヘロヘロが行く   作:ロアグリーン

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ここ最近、投稿直後でしかお気に入りやUAが伸びなかったものがソレなりに伸びるようになってきました。
これが波に乗ると言う奴なのでしょうか…。

お気に入りも200人に手が届きそうな所まで増え、読んでくれている駄文の被害者が増えてきてる事が実感できて嬉しく思います(σ≧▽≦)σ
テンポも遅く文章も短くまだまだ先の長い投稿になると思いますが、お付き合い宜しくお願いします。


ヘロヘロ、交渉に向かう。

テーブルの端に置かれた湯呑みから湯気が愉しげに踊っては消えていく。

その周りには、まるでその湯呑みだけを避けたかのような不自然な広がり方で、あまり質の良くない紙が無数に散乱していた。

 

書かれている内容はどれも多種多様な薬草の効能から成分の抽出方法など、言ってみれば回復アイテムの製造方法が記されていた。

 

不意にテーブルの端の湯呑みが上空に持ち上がる。

そしてそのまま傾き、中の白湯はズズッと音を立てて男の口内へと流された。

 

白湯を一口飲んだ男は無造作に湯呑みをテーブルに戻す。

勢い余って溢れた白湯に紙が湿る事など気にも留めず大きく椅子へともたれ掛かった。

軋むイスの悲鳴を耳にしながら男はぼんやりと天井を仰ぐ。

 

いい加減白湯にも飽きたところだ。

次の納品の際には上質の茶葉でも頼んでおくとしよう。

 

などとぼんやり考える矢先ーー…。

不意にドアノブが捻られる音が飛び込んできた。

 

流石は田舎の掘っ建て小屋である。木造二階の都市のホテルと違い、ここまで来る人間の足音が土に吸われて聞こえない。

最も歩く度にギシギシ響いたあのホテルも決して上等な宿では無かったのだろうが…。

こればかりは高級ホテルなど泊まったことが無いから分からない。

 

男は椅子に深く腰かけたまま、来訪者を出迎える。

こんなあばら屋でも一応自宅である。ともなればこの部屋のドアを開ける存在など一人しか居ないのだ。

わざわざ立ち上がって歓迎する必要は無いだろう。

 

ドアが開く。

奥から姿を見せるのは栗色のポニーテールだ。

年頃は十代半ばから後半ぐらい。

片田舎の娘が着るには幾分質の良い衣服で身を纏った少女であった。

 

「先生、今戻りました」

「お帰り、どうだった?」

「魔物が村の中にまで現れたそうです。幸いすぐに撃退できたそうですけど」

 

少女はそう言って男の前を通りすぎ、部屋の窓際へ向かう。

そこにあるのは花瓶だった。

控えめに咲いた白い花がこれでもかと花瓶の中に押し込められている。

もう少し数を減らしても良いと思うが、こうした方が見栄えが良いらしい。

少女はその花瓶の水を慣れた手つきで換えていく。

 

「それで村長から伝言です。しばらく採集に行くのは控えて欲しいと」

「無理難題だね。素材が無ければ薬師だってただの人だよ?ポーションも作れなければ研究も進まない」

 

言いきる男に少女はバケツを片手に振り返る。

こんなに顔に出ますか?

と問いたくなる程に、ジト目で睨む少女の顔は非難の色を雄弁に語った。

 

「…また冒険者に依頼したらどうですか?」

「却下だ。何のためにこんな田舎に越してきたと思ってる?高騰した薬草代を浮かすために来たのに、採集を冒険者に依頼したら本末転倒じゃないか」

「研究を進めるため群生地に近い環境が必要だったからでは?」

「何事にも建前は必要だろう?薬草の高騰で宿泊費すら危うくなったから辺境の村に引っ越すなんて知れてみろ。格好悪いだろ?」

 

さも当然のように言った男の説明に少女がガクリと項垂れる。

男の経済状況など知らなかったのだろう。

男の弁を信じてノコノコ付いていった矢先に直面した真相がこれである。

信じる者がすくわれるのは何時の時代も足だけだが、蓋を開けて見れば余りにソレが情けない。

 

そもそも何でホテル暮らしなんだよ…

不意に浮かんだ言葉を少女はなんとか飲み込んだ。

 

「うちってそんなに貧乏だったんですね」

 

少女の言葉に男は無言で親指を立てた。

何一つ愉快な事など見当たらない現状の中で、嬉しげに立つ親指だけが少女の心を逆撫でた。

出来ることなら折ってやりたい。

 

 

 

 

薬草の高騰。なにも高騰しているのは薬草だけでは無いのだが、主に二つの理由から薬草の採集が難しくなっているらしい。

 

一つは森の様子が変わった事だ。

 

比較的に安全だった浅い層にもモンスターが頻繁に姿を見せるようになった。

特に顕著なのがトブの大森林と隣接している南の村々だ。

その辺りは平地にまで森のモンスターが出現するらしい。

お陰で今まで森で採集していた村人が気軽に探索にも行けなくなってしまった。

 

そしてもう一つが単純に採集の依頼を受ける冒険者の減少だ。

 

最も、冒険者の絶対数自体は減っていない

実際減っているのはワーカーだ。

それも帝国で名の知れた上位のワーカーチームが複数、忽然と姿を消したらしい。

その為、本来ワーカーに流れる筈だった依頼の大部分が冒険者組合に流れ、薬草採集など比較的安価な依頼を受ける冒険者は減った。

 

その結果、薬草など森から採集する素材の値段は高騰だ。

 

それも当然だろう。今まで村人や薬師が直接採集出来ていたものが、魔物の出現と安価な依頼料ではなかなか来ない冒険者。

リスクや経費が莫大に上昇したのに今までと同じ金額で卸せる筈がない。

 

その結果起きたのが、この男のような弱小薬師による移民であった。

弱小だろうと無名だろうと薬師はそれだけで村の中では歓迎される。

それは辺境な村程医療に関する施設が無い上、魔物による怪我や病気のリスクは都市以上だと言う村独自の背景が起因している。

男もまたその恩恵に肖り、村の中では比較的上質な空き家をほぼ無料で用意された。

その代わり男は村の病院扱いだ。

と言ってもポーションを振りかけるだけの簡単なお仕事だが。

 

「…ところで、例の冒険者は結局戻って来なかったのか?」

「ええ、まだですね。魔物にやられて全滅したんじゃないかって噂です。クラちゃんも仲が良かった分、気が気じゃ無いみたいで」

「ふーむ、村長から自粛命令が出るのも已む無しか」

 

男はそこで大きく背伸びをすると立ち上がる。

そして思い出したように飲み掛けの湯呑みを豪快に飲み干すと、キリッと良い顔でこう言った。

 

「それでは、サティア君。薬草採集に向かうとしよう」

 

サティアと呼ばれた少女は無表情のまま極寒の瞳を向ける。まるでどうしようもないクズに踏み潰される虫を見る様な冷たい眼差しは、彼女の感情を言葉以上に雄弁に語った。

駄目だコイツは…と。

 

「…準備してきます」

「森は危険なんだ。君は留守番をしてくれてても良いんだよ?」

 

部屋のドアまで足早に到達した少女から、男の言葉にピタリと止まり、これ見よがしに溜め息が溢れた。

振り返る少女の顔は、正に呆れ果てた人のソレ。

 

「私を孤児にするつもりですか?」

 

そんな言葉を残してサティアが部屋のドアを開けた。

そして奥へと姿を消そうとした時だ。

思い出したように問いかけた男の言葉にサティアは再び振り返る事になる。

 

「そう言えば、村に出現した魔物って何なんだ?」

「スライムらしいですよ?」

 

 

ーーー

ーー

 

グロプは困惑していた。

相棒と呼べるスライムが今日はいつもに増してネバネバしていたからである。

 

適当な岩の隙間に身を隠しては、伸びたり縮んだりネバネバしたり…。

そんでもって時折「完敗ですけど?」等とボソボソ独り言が飛んで来る始末だ。

正直言って怖いが、今はそう言っていられない。

 

傷心してるのだろう。

それは分かる。

だがその余りにあんまりな負け犬っぷりにグロプは掛ける言葉を失っていた。

 

 

 

時は少し遡る。

ヘロヘロの提案に乗り人里を探す方向で森の中を彷徨ったグロプ達一行は、幸いにしてすぐに人里の発見に到っていた。

 

その人里は木造の平屋が建ち並ぶ集落であり、それを細い丸太の柵で覆った至って平凡な村だった。

 

柵の間から垣間見える営みは、洗濯物を干す者、荷物を馬車に積み込む者、農具を手に歩く者と、御多分に漏れない典型的な農村のソレだ。

 

ここからでは見えないが、奥には街道へ続く門があり、その左右に広大な畑が広がっているのだろう。

 

そんな村の光景をグロプとヘロヘロの二体は茂みに身を隠し遠目で眺めていた。

村の位置が分かれば占めたものと一時退却を考えるグロプの横で、

「村!村ですよ!!グロプさん」

と興奮気味に跳ねようとする粘体を諌めつつ、その頭で如何に友好的な関係を築くかを考える。

兎にも角にもここで村人に見付かり警戒心を煽るような真似はしたくない。

ただでさえ隣に魚を誘う疑似餌のような動きをしている粘体がいるのだ。

長居は無用とばかりにグロプは早々にヘロヘロを引き摺り退却した。

 

ーーー

ーー

 

 

グロプが交渉するよりヘロヘロが交渉する方が良い。

それがグロプの判断だった。

 

人間から見たらモンスター丸出しのトードマンが行くより、雑魚丸出しのスライムが行った方が騒ぎになりにくいと思ったからだ。

それにスライムと言うのは人間の生活の一部に取り込まれていると言う話を聞いたことがある。

ともなれば尚更人間の警戒心を刺激しないで済むだろう。

行ったが最後、警戒され戦闘態勢などに入ってしまったらもう交渉どころでは無くなってしまう。

 

それともう一つが、こちら側の問題だ。

グロプにせよなんにせよ。基本的にモンスターだって人間を警戒する。

戸惑いもすれば躊躇だってするのだ。しかしそう言う心の乱れを感付かれる可能性は否定できない。

なんと言っても人間社会では騙し合いなど日常茶飯事だと聞く。

変な感付かれかたなどして警戒心を高められたら溜まったものでは無い。

 

その点、ヘロヘロであれば大丈夫だろう。

人に焦がれ、人の真似をする知性あるスライムだ。

人間と交渉する事に対して戸惑いや躊躇などある筈もない。

 

むしろ心配なのはヘロヘロのチョロさと人間の狡猾さだ。

交渉出来たとして良いように利用されて終わりと言う訳にはいかない。

はたまた知性あるスライムの希少性に目を付け拐われる可能性だって無い訳じゃない。

 

だからこそグロプは人間の狡猾さについては再三にわたり説明した。

 

一方…。

長々と説明を受けるヘロヘロも実のところグロプの説明に大いに納得していた。

 

一見それは人間を侮辱し陥れるような説明ではあったものの、なんと言っても人間の醜さを大々的にアピールしたような腐敗した社会から転移したヘロヘロである。

 

人間は人間を平気で騙すと言われた所で『よくご存知で!』と褒め称えたくなるだけで、

人間は弱者を平気で搾取し食い物にすると言われた所で『御名答!』と思わず盛大に拍手したくなるだけだ。

それも全て勝ち組とクソブラック会社の所為だが、人間に対して博識なグロプの見識にはヘロヘロも思わずニッコリだ。

 

当然、そこに不満など沸き起こるはずが無かった。

そう不満など無い。

不満など無いのだがーー…。

 

人間社会で生きてきた正真正銘の人間だった自分が、何が悲しくてこんな畜生の進化系みたいな奴に人間のなんたるかについて説かれなくてはならないのか…。

胸のなかに湧いたそんな想いは拭えない。

 

兎にも角にも畜生先生の人間講座も終演を迎え、レッツトライと送り出して貰った先にはスタンバイしてましたとばかりに森の中を散策する二人の少女の姿があった。

 

キャッキャウフフと談笑しながら歩く二人の姿は仲慎ましい親友のソレで、時折しゃがみこんで何かを拾っては腰の鞄に放り込んでいる。

どうやら野草の採集をしているらしい。

 

グロプの期待をその身に背負い好機とばかりに様子を伺う。

まるでこの辺りは安全だと疑いようの無い二人の様子に、ヘロヘロはあくまで慎重を貫き情報収集に尽力した。

 

年は十代半ばから十代後半ぐらいの少女のソレで、栗色のポニーテールと蜂蜜色のセミロング。

どちらも整った容姿と程よく育った胸を持った美人さんである。

 

ならばそろそろ行くべきか?

いや、焦りは禁物と自分の軽率さを叱咤する。

チャンスは今しか無いのだ。

ここで焦って取り返しのつかない失敗を犯しては、送り出してくれた畜生先生に会わせる顔がない。

そう。落ち着くべきなのだ。

落ち着いてベストのタイミングを逃さず接近する。

ヘロヘロはまさに狩人の精神でそのタイミングを待ち続けた。

 

そして一時間が経ち。

二時間が経ち。

夕日も沈みかけてグロプも今晩の夕食のレパートリーがおおよそ揃い始めた頃。

採集も終わり村へと帰っていく少女二人の背を見送ったヘロヘロは、トボトボと帰って来てはこう言った。

 

「年頃の女の子に気軽に声掛けれるぐらいだったら向こうで童貞なんてやってないんですよね?」

 

残念ながらグロプにその意味は伝わらなかった。

 

ーーー

ーー

 

翌日。

一晩かけて伸びたり縮んだりと哀愁漂わせていたヘロヘロも寝て起きれば元気一杯に交渉を再開していた。

 

今回のターゲットは十歳にも満たない一人の少女であった。

子供であれば警戒心も低く、敵対されたとしても殺される心配が無い上、ヘロヘロにとっても変に意識せずに声を掛けれると言う正に今回の目的にお誂え向きの標的だ。

ヘロヘロもまたかつて無い程にやる気に満ち満ちていた。

 

村の柵の間から身を滑らし村の内部に潜入すると、敷地内だからと警戒心も無しに独りで彷徨くイケない幼女の後をつける。

気分はさながら昔ゲームでハマっていた探偵なのだが、当然村の住民には見付からないように気を付ける必要があった。

当然である。人間の姿ならいざ知れず今の自分はスライムと言うモンスターなのだ。

 

難易度が上がれば闘志も沸き上がるのがゲーマー魂だと奮起するヘロヘロだったが…。

仮に人間だったとしても30路のおっさんがコソコソと幼女の後を付け回す様は探偵と言うより完全な変質者のソレで、見付かった時点の末路に大差は無いように思われる。

 

グロプがヘロヘロの様子を心配し、木の上から遠目で眺めたのがそんな時…。

間も無く見付かったヘロヘロのストーカー行為に思わず頭を抱え、多数の村人に撲殺される前に回収に向かおうかと悩んだその時だ。

 

突然村の奥から一人の少年がヘロヘロに飛び掛かった。

 

「ーーーちゃんから離れろ!」

 

と怒号を上げてスライムに立ち向かう少年の勇気は流石ではあるが、こん棒を手にスライムをベシベシ殴る動きは正直お粗末だ。

 

ヘロヘロの無事より、むしろヘロヘロが少年を怪我させたりしないかハラハラしながら見届けるグロプを他所に…。

 

「ーーちゃんは僕が守る」

だの、

「ーーちゃんの事が好き」

だの、散々吠えてヘロヘロを叩く茶番劇に、

「私もーー君が好き」

などと遂には少女も介入し、最終的には少年に手を引かれて村の奥へと消えていった。

 

その間ボコボコに殴られて微動だにしないヘロヘロも、村の中が騒がしくなってきた頃にはトボトボと森へと帰還した。

 

哀愁漂うなんて言葉で表現出来ない余りにあんまりな負け犬っぷりに言葉を失い様子を伺うと…。

適当な岩の隙間に身を隠して伸びたり縮んだりしながら呟いた。

 

「完敗ですけど?」

 

マジであんなガキんちょに負けたのかとグロプが驚愕に身を震わせたのは言うまでもない。




ようやく人間の話が出てきました。
帝国のワーカー上位がいなくなった影響やナザリック地下大墳墓の転移で起こる森の混乱の影響は完全に私の妄想です。
トブの大森林から移住するモンスターがいるなら移住先の混乱もあるだろう的な?
故にツッコミ処はあるかも知れません(´・ω・`)
御容赦を!!
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