ヘロヘロが行く   作:ロアグリーン

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投稿御待たせ致しました。
当初村の中のエピソードはテンポの都合上ここまで書きたいって所まであったのですが、いざ書いてみると文字数だけみるみる増えていって無理でした(ヾノ・∀・`)

しかし次回辺りからシリアス要素が増えて行く予定です。

あと以前、5000文字ぐらいを目安に上げて行くと言ったな?あれば嘘だ!


ヘロヘロ、村の中へと御招待

「魔物をこの村に招待しただとおお!?」

 

とある村落にある掘っ立て小屋から発せられた怒号が屋根の上の小鳥を一斉に羽ばたかせた今日この頃。

屋根の下ではとある薬師の両肩を掴んだ初老の男が、それはもうガックンガックンと揺さぶっていた。

 

「まーまーまーまー。村長落ち着いて」

 

薬師も村長と呼んだ男に揺さぶられるまま、その頭は激しく前後する。

その手は村長の手をタップし続けているが村長の勢いは衰える気配がなさそうだ。

 

「てゆーか、言ったよね?わし、採集はしばらく控えてくれって」

 

そこで村長はギラリと目線を薬師の斜め後ろに控えている少女に向ける。

実のところ村長も常識ある彼女にはこの薬師のストッパーとしての役割を期待していた。

 

だが蓋を開けて見ればストッパーの役割を果たさず二人仲良く採集に出向いていると言うではないか。

これには期待外れにも程があったが、そもそも薬師の助手と言う立場から仕方ない部分もあったかも知れない。

 

一方、少女も少女でこの展開を予想していたのだろう。

彼女は部屋に姿を見せて以降、終始壁の染みとにらめっこを始めて微動だにしなかった。

 

当然背中を向ける彼女に村長自慢の睨みも通用するはずがなく、仕方なしに矛先を薬師に戻す。

 

「なぁ。エレクトーニア君。良いじゃないか採集など冒険者に任せてしまえば。君も分かるだろう。この村には村人を治療できる薬師は君しかいないんだよ?」

「村長。それでは余り利益が出ませんし。何より研究で使う分には余りに足りない」

 

矛先が変わった瞬間に緩んだ村長の手を振り払い。エレクトーニアと呼ばれた男。マイクは襟筋を正すと指を立てた。

 

「今この森で異変が起きていることは明らかでしょう。原因の究明をするにせよ。事件を解決するにせよ。森の恵みを肖って生きる私達に森の魔物の協力は有用です」

 

言いきるマイクの言葉に「ぐぬぬ」と村長は唸る。

悔しい事に言っている事は的を射ているのだ。

 

「し、しかしだね」

「何がしかしなのです。現に魔物が頻繁に出現するようになって以降、この村での散策エリアは徐々に縮小し、ソレにともない森の恩恵も微々たるものになっているはずーー」

 

そしてここからは正にマイクの一方的なターンだった。

説得と言う名の暴力で袋叩きにされる村長も健気に「しかしだね」と軽いフックで抵抗するも、即座に鈍器で殴打されるような重たいカウンターで報復される。

 

やがて十数分程の舌戦の末、背中を向け続けていたサティアも二人を一瞥し「勝負あり」と人知れず呟いた。

ソレ程分かりやすい光景だった。

片や一人は膝をつき。

片や一人は仁王立ち。

 

文字通り言葉のマシンガンで撃ち抜かれた村長は膝をついて地面へ目を落とす。

 

悔しい事に薬師の言葉は全て的を射ており反論一つ覚束なかった。

ソレも仕方がない。

ソレすなわち切羽詰まった現状が後押ししているのだ。

 

ここ最近、魔物の出現が増えて以降ろくに散策にも出れず村の備蓄は減る一方である。

これが一時的なら良い。

だがそうでないなら、いずれ備蓄も底を突き切り詰めた生活を余儀される事は明白だった。

 

それこそ本当に最悪の場合はーー…

この村の苦い記憶が脳裏を霞む。

それだけは何としてでも阻止したい。

 

だからこちらも何かしらの行動を起こさなくてはいけない。

高位の冒険者を雇って異変の解決を図ろうにもそんな大金は無く。そもそも冒険者で解決できる案件なのか分からない。

とはいえ低位の冒険者を護衛として雇い採集するとしても、経費とリターンが釣り合わずいずれ資金が底を突くのは明白だった。

そもそも冒険者を護衛に付けることが出来るのはポーションの製造を行い都市から金貨を得る手段も持つこの薬師ぐらいだ。

 

その点、森の魔物の協力を得られれば採集エリアの拡大や安全ルートの確立。護衛だって期待できるかも知れない。

 

それも魔物側から交渉してくるなど願っても無い好機であり、人間側から交渉しようものならソレ自体が命懸けなのだ。

 

見返りとして生け贄でも要求されない限り受ける価値はある。

 

結局そこに落ち着くのだった。

 

そして崩れ落ちた村長もやがて目に闘志を宿し立ち上がる。

 

魔物と交渉するため、村に招待することは受け入れる。

だがこの交渉の場で、この薬師と女子供だけは守りきると決意した。

 

「分かった。その話、受けようじゃないか」

 

薬師の手前、村長は潔く覚悟を決めた。

恐らく自分が村長に就任してから初めてのギャンブルだ。

賽は振る。

チップは賭ける。

だがリスクを掛ける以上、対策は当然取らせてもらう。

その為の用意は既に済ましていた。

 

「ーー聞いていたな?野郎共!」

 

村長は振り返り様に吠え。

 

「おうよ!村長!!」

 

とこれまた呼応して吠える屈強な農夫達が躍り出る。

彼らもまた村の将来を案ずる有志であり、村長と同じく薬師や女子供を守ってみせると目に闘志を浮かべていた。

正直暑苦しかった。

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

ヘロヘロは一人、目元のような窪みを擦る。

 

人間から村へと招待された事を伝えたのは昨晩の日暮れの事。

有り難くも味気無い生の魚や木の実を貪りながらグロプにその事を伝えると彼は鳩が豆鉄砲でもくらった様な顔をしていた。

 

「あんな餓鬼んちょに撃退されて落ち込んでたのに?」

 

別に少年に撃退された訳ではない。

…が、その事は触れないで欲しい。

 

兎も角。

ようやく成果と言える結果を残せた事も相まって、驚いて見せてくれるグロプの顔を肴に食べる食事は久し振りに美味しいと感じた気がした。

 

やれ人間と利害が一致した等。

やれ村人総出で歓迎してくれる等。

有ること無いことついつい戦果増し増しで語った気がするが、それも今や昨日の事。

 

今ヘロヘロはグロプを引き連れ村落を遠目で確認出来る茂みに隠れて村の様子を伺っていた。

 

『期待や不安で胸が一杯です』と言う言葉は入学式や卒業式で馬鹿の一つ覚えのようにやたらめったら使われているが、その言葉は正に今こそが相応しい。

 

高鳴る想いを胸に秘め、村の裏手の柵の外で歓迎の為立ち並ぶ村人達を遠目で眺めると、一人ヘロヘロは無い目を擦った。

 

昨日出会ったマイクと言う男と肩を並べて、代表と思われる初老の男性が一緒に先頭に立つ。

その後ろには農村アピールに全力投球したかのような農夫が農具を手に立ち並んでいた。

 

御客様を歓迎するにあたって村の名産品や特色を全面的にアピールする事は決して珍しい事ではない。

 

自分が勤めていたクソブラック会社も開発するゲームの特色や売りを大々的にアピールしていたのだ。

 

バッタバッタ敵を倒せる爽快感がどうたらこうたら…。

負けず劣らず開発に従事するプログラマーの現状も似たようなものだったが倒される側からすれば地獄以外の何物でもない。

ソレをもって爽快感と言いきるお偉いさんも吐き気を催す外道以外の何者でもないだろう。

 

兎も角ソレは良い。

ソレは良いのだが…。

 

ヘロヘロは一人目元の窪みを擦る。

ゴシゴシゴシゴシと執拗に無い目を擦る。

擦って擦って擦り続けて、それでも何一つ変わらない光景に見間違いではないと確信すると…。

 

『なんで農具持った農夫全員殺気立った目で森を睨んでるんですか?』

…と、ヘロヘロは叫びたい思いを飲み込んだ。

 

まるで家族を殺された遺族のように修羅と化した形相は、御客様を歓迎するソレとは程遠く。

むしろ敵国の侵略から家族を守らんと構える城兵に近いものがあった。

 

期待と不安で胸が一杯だったのも束の間。

今では不安と絶望でお腹一杯で吐きそうだ。

謀ったなシャアと叫びたくもなる想いを胸に、頼もしき我が相棒に目を向けると…。

それはそれは分かりやすい程のジト目でお出迎えされた。

 

「なんかヤバくねー?」

 

心外なことに騙されたんじゃ無いかと疑うグロプの半目に滝汗の思いで目を反らす。

 

昨日あれだけドヤ顔で語った手前、単純に騙されましたでは不恰好すぎる。

なにか良い言い訳でも無いかと思考に耽ったそんな時。

恩師の言葉が唐突に浮かんだ。

 

『人を見掛けで判断してはいけないよ…。』

 

当時まだ幼かった自分に先生はそう言っていた。

その言葉を思い出し、浅はかな判断で人間との交流のチャンスをふいにしようかと一瞬でも考えた自分を叱咤する。

 

確かに一見、農具を構える腕は力の入りすぎで震えている様にも見える。

確かに一見、修羅の形相と化した農夫達の血走った目は親の仇を見る様に睨み付けている。

 

だからと言ってホイホイ出ていったら最後、八つ裂きにされるんじゃないかと言う不安は見た目から判断した勝手な妄想なのだ。

 

そう思ったからこそ、とりあえず恩師の言葉をそのままパスしてみようかと考えた。

 

「人を見掛けで判断してはいけませんって聞いたことありませんか?」

「知らねーなぁ。一目見てヤバさを判断出来ねー奴は端から死んでったからなぁ」

 

清々しい程にバッサリと一刀両断。

所詮は勝ち組にとって都合の良い洗脳教育で尻尾を振る犬の戯言だった。

 

しかしグロプ曰く、並ぶ農夫共の戦力自体は大したことが無く。

仮に村人総出で襲い掛かられても逃げ帰る事ぐらいは出来るだろうとの事。

 

結局、遠目でにらめっこしていても埒が明かないと言う結論に至り姿を見せた。

 

色めき立つ農夫達。

ざわめきの最中、それを余所に堂々と歩くグロプの背をヘロヘロは追いかけた。

 

やがて両者は対峙し、時が止まったように静まり返る。

気を利かせたそよ風が草木を揺らし森のざわめきを繕った後、唐突に人間代表の片割れが両手を広げた。

 

「ようこそ、わし等の村へ」

 

 

 

ーーー

ーー

 

結論を先に言ってしまうと人間とモンスターとの初邂逅は呆気ない程に上手くいった。

 

修羅の形相で睨みを利かせていた農夫共も修羅を演じ続ける事は不可能だったらしく。

グロプを前に警戒心こそあれ早くも萎れてしまっていた。

 

「物々しくて申し訳ない」

と頭を下げる村長が言うには、

「魔物側が襲い掛かる事でもない限り農夫達も危害は加えない」

との事だ。

 

村の中へ歓迎する。…と言われてノコノコ付いていった先では、村の裏口らしき扉が設けられていた。

扉が開けられ、村の中へと堂々と入場。村長の案内に従い道を歩く。

よくよく辺りを伺えば、掘っ立て小屋の窓や扉から様子を伺う野次馬達がそれなりにいるようだ。

時々子供と思われる人間の目と目があった。

 

しばらくとも言えないぐらいの距離を歩き辿り着く村長の家らしき掘っ立て小屋の中。

そこのテーブルの席に招かれ自己紹介を済ませ、いよいよ本題とばかりに村長が手を組んだ。

 

「この村との交流を望んでいるようですが、単刀直入にどういった取引をお望みでしょうか?」

 

開幕口にした村長の質問にヘロヘロは一人失望を隠せなかった。

どうもビジネスに近い距離感を感じたからだ。

 

そもそもヘロヘロの希望はビジネスのような取引ではない。

『磯野~野球しようぜ?』ぐらいな緩い距離感で親睦を深められる事がヘロヘロの希望だった。

 

「取引なんて大層な望みがある訳じゃねーけどよ。取り敢えず気軽に情報交換が出来るようにはなりてーな」

「そうですか。わし等はーー」

 

テーブルの席に腰掛けた村長とグロプとのビジネストークのような会話が続く。

仕事柄交渉事に自信の無いヘロヘロは暇を持て余して最早置物状態だ。

村長の後ろで銅像と化した農夫達をぼんやり眺めていると、突然後ろからクイクイ引っ張られる感触に振り返る。

そこには十歳にも満たない幼い少女がいた。

間違いなく昨日接近しようとして失敗した件の少女だ。

 

「ね、遊ぼ」

 

突然の遊びの誘いに思わずグロプと顔を見合わせる。

どうしたものかと迷うヘロヘロの気持ちを察してか、グロプは突然親指を立てた。

 

『友好的なモンスターであることをアピールしてこい』

と言われて背中を押された気がして、ヘロヘロもまた強く頷いた。

 

唖然として固まる村長を余所に、

「では僕が様子を見ておきましょう」

と村長の隣に座るマイクがそっと立ち上がる。

 

これで人間側の了承も得たと判断し、少女と共にダバダバと堅苦しいビジネスの場を後にした。

 

 

 

 

ーーー

 

 

ヘロヘロに幼い子供と遊ぶ経験は無い。

当たり前である。

甥っ子や姪っ子がいるわけでも無く。当の本人も子供はおろか結婚もしていないどころか、彼女も出来たことの無い気高き童貞だ。

 

だがそんなヘロヘロも幼い自分と遊んでくれた父親の思い出は今も片隅に残っていた。

四畳一間の狭い部屋を目一杯に広げ、ボール遊びに夢中になった幼い頃の記憶。

それがどんな遊びだったかは最早分からない。

だけどもしも自分に子供が出来れば、きっと同じようにボール遊びをしたのだろう。

ヘロヘロはそう思っていた。

 

幼い少女に連れられ外へと飛び出した時。そんなヘロヘロの目に転がされたまま放置されていたボールが留まったのは必然か?

 

まるで誘われるようにボールを拾うヘロヘロがボール遊びを提案するのは間も無くの事。

満開の笑顔で答える少女に思わずヘロヘロも無い口角がつり上がる。

朧気に霞む記憶の向こう。

今はなき父の面影を幻視しつつ、ヘロヘロはボールを少女に向かって投げーーー

 

ーーーれなかった。

 

「……」

 

満開に咲いた笑顔が萎む。

ネバネバしたスライムの身体は物を投げるに適しておらず、ボールは呆気なく地面に墜落すると申し訳程度に転がって止まった。

 

「…ボール来ないね?」

 

萎んだ顔で見たままの現状を告げる少女にヘロヘロも思わず苦笑い。

だが次の瞬間には打開策を閃き彼はニヒルに笑った。

 

「分かりました。ではこうしましょう」

 

 

 

ーーー

 

 

とある掘っ立て小屋の中でサティアは家主の女性と長話に華を咲かせていた。

そして時を見計らって適当に話を切り上げると、そそくさと家を後にする。

 

キョロキョロと辺りを伺いすぐに目的の人物を見付け出すと、壁にもたれ掛かって何かを眺める彼の横に寄り添った。

ザラザラする壁に背を当て、彼の眺めるものを見る。

幼い少女と戯れるスライムだ。

 

「御苦労様」

 

彼、マイクが顔も向けずに労う。

自分が与えられた任務を全うしたからだ。

あの少女をスライムに嗾けると言う無茶振りを…。

 

「無茶振りです」

「そう?保護者の目を引き付けるだけで上手くいかなかった?」

 

若干なりとも非難を告げると、マイクはわざとらしく小首を傾げる。

なんで馬鹿の癖してこう言う洞察力と駆け引きみたいな所は鋭いんだろうかと此方が首を傾げたいくらいだ。

 

「…まぁ、そうですけど。そちらこそ、良く村長が許しましたね」

「いや本当だよね。4パターンぐらい考えてたけど、すんなりスライムだけ連れ出してくれたよ」

 

「ふふっ」と得意気に笑うマイクに「偶然かよ」と心の中で突っ込みを入れつつ件のスライムを眺める。

ボールを持ってピョンピョンと跳ねる姿は確かに普通に少女と遊んでいるようにも見えた。

 

「それで先生、観察した見解は如何ですか?」

「普通に遊んでいるね。想定外の事態に違った顔も見れるかもって思ったけど、やっぱり悪意があるようには見えないな。…って言うか本人も楽しんでない?あれ」

 

また少女の手からボールが飛ぶ。

今度はよりにもよって二人がもたれ掛かる壁に向かって飛んで来る。

そしてボールはマイクの足元に転がると追い掛けてきたスライムと鉢合わせ。

 

「やぁヘロヘロ君。子守りは如何かな?」

「ええ、なんか娘が出来た感じでしょうか?意外と悪くないですよ?」

 

マイクの挨拶に快く答えると、ボールに飛び付いてピョンピョン飛びながら少女の方へ運んでいく。

そしてボールを少女に手渡すと、再び少女の手から発射され、ヘロヘロがそれを追い掛けていく。

 

ご主人様の間違いだろ?

サティアは喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。

 

 

 

 

ーーー

 

「ねぇ飼っても良いでしょ?」

「いけません。森に捨てて来なさい!」

 

近くの家から激しく言い争う親子の声が響く頃。

グロプと村長の交渉も一通りを終えて今しばらくの休憩に入っていた。

 

最近になってトブの大森林からこの森に訪れており、別に強者と言う訳ではない自分達がこの森で生き抜くために人間との友好関係を築きたいグロプ側の都合と。

 

今まで比較的安全に散策が出来た森の浅い層のエリアにまで魔物の出現が相次ぎ、日々減少する物資の収穫に歯止めをかけたい村の都合。

 

まず真っ先にお互いの身の上を説明出来たことが功を奏したのか、二人の交渉は実にスムーズに運んでいた。

 

グロプ側の要求は、

①お互いに危害を加えない事。

②非常時における避難場所の提供。

③資材や食料、アイテム等の売買。

④必要に応じて都市への買い出し。

 

人間側の要求は、

①お互いに危害を加えない事。

②森の中での情報の提供。

③採集等の散策の協力。

 

おおよそそのような内容を取り決めた辺りで村長から休憩の提案が出て今に至る。

 

「失礼」

 

村長は一言断りを入れてパイプに火を灯す。肺一杯に煙を取り入れ吐き出すとスゥっと頭のモヤが晴れたような気がして癖になる。

そして冷めた頭で現状を振り返り思わず吹き出しそうになる口を気合いで押し込むものの。

押し込みきれずにクククと笑いが溢れた。

 

「いや申し訳ない。しかし、まさかこうして魔物と協力関係を築くなど、半年前なら想像もしないでしょうな」

「そりゃオイラもさ。とは言えお前達は魔物と一括りに考えるだろうけどよ。オイラの種族、トードマンは亜人であって一応文化を築いてんだ。人間と亜人が共存する国だってあるって聞くぜ?」

 

隣国の評議国では人間と亜人が共存している話は有名だ。

そもそもこの帝国だってドワーフと取引していたと言う話は風の噂で聞いたことがある。

だが村長の言うソレは少し違う所にあった。

 

「グロプさん。今でこそ税率が下げられ生きていける時代になりましたが、昔は違いました」

 

突然物思いに耽るようにパイプをいじり始めると、語り始める村長にグロプも黙って耳を傾ける。

 

「農作物の殆んどを年貢として奪われ、わし共は森からの恵みに肖って生きてきたんです。ーーですが、冬がくれば収穫も無くなり蓄えも底を突くようになる」

 

そこまで言って、村長は額に皺を寄せる。

握りしめたパイプからギリッと圧力による悲鳴が上がった。

 

「この村のように、辺境にある貧しい村では物資が底を突く冬を…。どのように乗り越えるか御存知ですか?」

「まぁ、口減らしじゃね?」

「如何にも。わしの村では農作業を熟せない老人を森の奥へと捨ててくるんです」

「…あー。それは。良く魔物に出会さないもんだな」

 

グロプが言い、村長もまた乾いた笑みを溢した。

パイプに煙草を詰め直す作業が再開され火を灯す。

愉しげに踊る白い煙を見上げつつ、その心は過去を振り返る。

 

昔から何故だかこの森で魔物と遭遇する事が無かった。

この村が魔物に襲われた事も無かった。

だからこそ森から様々な物資を散策によって得ることが出来たのだ。

 

しかし、この森に何かが潜んでいる事も分かっていた。

 

山に捨てられた老人の誰一人としてこの村に戻って来なかったから。

また、散策エリアから外れ奥地へと足を踏み込んだものも姿を消した。

 

だからこの森に恐ろしい魔物が住み着いていると信じる者もいれば。

森の神様を盲信するものもいる。

挙げ句の果てには昨今の森の異変の原因は生け贄として老人を森へと捧げなくなったからだと言い出すものまでいた。

 

斯く言う村長も森の魔物を恐れる村人の一人だ。

これまでの森の魔物のイメージとは得体の知れない巨大な魔物であり人間ではどうすることも出来ない悪魔のような存在だ。

 

それがここに来てガラリと印象が崩れた。

村の少年ですら撃退できた軟弱なスライムに、礼儀良く椅子に座り取引をする知的なトードマン。

これが長年恐れ続けた魔物の正体かと思えば笑いが込み上げたのも仕方がない。

 

グロプ曰く、ここ最近の森の異変は隣のトブの大森林から逃げ込んで来た魔物達によるものらしい。

 

この森全体より遥かに巨大な大森林は突如出現した勢力によって大混乱に陥っており。

その混乱の最中、逃げ出した魔物がこの森に住み着くようになった。

しかし森には本来テリトリーと言うものがあり、強い魔物程森の奥地に縄張りを張ろうとする。

そして逃げ込んできた魔物との縄張り争いの果てに敗れたものは端へと追いやられるのだ。

この場合の『端』と言うのが人間の言う『浅い層』と言う事になり平地に近付く程、弱い魔物が跋扈する。

 

本来、その弱い魔物と遭遇しなかった方が不可解だそうだ。

 

グロプと村長はそのような会話で時を潰す。

どれだけの時間が経ったのか?

護衛である農夫も一人、また一人と姿を消して農作業に戻る中。

突然、村の使いの一人が申し訳なさそうに顔を覗かした。

 

「村長。間も無く昼食の準備が整うそうですけど、どうされます?」

 

そんな問い掛けに人と魔物との会話の場を引き裂かれ、村長とグロプは互いに顔を見合せる。

 

「もし良ければ。ご一緒に如何ですか?」

 

村長の何気ない誘いの言葉にグロプも不意に相棒の姿を脳裏に浮かべた。

あの人間の手料理に固執したヘロヘロの姿を…。

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

ペットを飼いたい少女とそれを許さない母親との大喧嘩は佳境を迎え。

 

「もう知らない。お母さんなんて大嫌い!」

 

と吐き捨て走り去っていく少女が行方を眩まし、農夫達の捜索の甲斐あってやがて森の中で発見されると言う短い騒動の果て。

抱き締め会う親子は涙の中で最悪を免れた喜びを噛み締める。

 

「ごめんなさい」

 

と胸の中で涙する娘の言葉に母親もついに折れ、ペットの飼育を認めると言う一連エピソードに周りの農夫は一同に、

 

「イイハナシダナー」

 

と頬を濡らした。

 

たまたま農夫の一人が持っていた『スライム育成Q&A』と言う怪文書に従い新しく家族に加わったヘロヘロを村の共同便所の肥溜めに落とし込もうとする最中の事である。

 

グロプ達によってヘロヘロが保護されたのは…。

 

「いやー酷い目に合いましたよー」

 

とPTSD発症寸前で回避されたヘロヘロはグロプの頭によじ登り、己の苦境を告げる。

 

スペースの問題もあり食堂として提供されたのもまた村長の掘っ立て小屋だった。

 

横長のテーブルに暖かなシチューが並々と装られた御椀が並び、湯気を踊らせる。

 

この食卓の席に座るのは、村長とマイクとグロプ…そしてその頭にこびりつくヘロヘロで、黙々と給仕の役割に付くのがサティアだ。

 

シチューの香りに無い鼻腔を擽られ、これまた無い目を輝かせたヘロヘロはグロプの頭で器用に跳ねる。

 

「グロプさん、これ!これですよ!!私が食べたかった料理と言うのは!!」

 

イヤホンのような至近距離から興奮したように発せられる大音量と、ネバネバとした不快感を頭全体に感じながらグロプはほんの少しだけ保護した事を後悔する。

とは言え、あれ程望んでいたものが目の前にあるのだ。

少しぐらい多目に見るべきか…と呆れ半分に頬杖をついた。

のも束の間ーー

 

「ーー味気ない木の実や魚の拾い食いとは違うんです!」

「拾い食いで悪かったな」

 

ーーと頭を振って粘体を振り落とす。

プギャっと言う短い悲鳴を上げて落下するヘロヘロを目にして、思わず笑い声が上がった。

 

笑っているのは村長だ。

恐怖の象徴だった魔物のイメージと余りにも掛け離れた雰囲気に溢れだす笑いが堪えられなかった。

残念ながらもうこの二体の魔物を嫌悪することは出来そうも無い。

これが魔物の策略だと言うのなら完全に白旗だ。

 

「ヘロヘロ君。人間の料理に興味があるのかね?」

「え?あ、はい。勿論です。凄く美味しそうで、今から楽しみです」

 

嬉々として返事を弾ませるヘロヘロは器用にテーブルの椅子へ跳び跳ねる。

そして自分の前に装られたシチューに目を奪われる。

 

「それは良かった。妻のシチューは絶品でね。まぁ魔物の口に合うかどうかは分からないが」

「絶対美味しいってもう匂いで分かりますよ」

 

サティアが最後の御椀を片手に、

「私も手伝いましたー」

と呟きながらテーブルに並べ、ようやく食卓の形が完成した。

 

辺境の村の質素な食卓ではあるが、ヘロヘロにとっては夢にまで見た御馳走だ。

新鮮な野菜と新鮮な肉の散りばめられた正に黄金のシチュー。

そしてその脇には質素ながら野草のサラダが添えられている。

もし彼方の世界に持ち込んだのならどれ程の価格が付く事か?

 

やがて誰かが食事に手をつけるタイミングを見てヘロヘロは自分の食事に飛び付いた。

 

しばらく無心でシチューを頬張るヘロヘロは、突然勢い良く顔を上げその目で何かを訴える。

 

余程美味しかったのか?

その顔にはどこか焦りが見えた。

 

グロプを見て、

村長を見て、

マイクを見て、

サティアを見る。

 

一同に怪訝な顔で様子を伺う中、ヘロヘロはポツリと言葉を漏らした。

 

「…味しないんですけど?」

 

一同唖然とするのも無理はない。

やがてマイクが誰ともなく問いかけた。

 

「…そもそも、スライムに味覚ってあるのかい?」

 

それは正に問い掛けと言うなの死刑判決。

グロプの用意した拾い食いの全てが味気ない…と言うか味がない理由がそこにはあった。

彼の一言で食卓は静まり返り、ヘロヘロは一人救いを求めるように食卓を囲む全員の顔を見回した。

 

その様子に一人、サティアだけが驚愕した様子で口を覆う。

 

「まさか……知らなかったの?」

 

知らなかった。




スライムって良く良く考えると味覚なんて無いよね
と気付いたのは結構最近の事だったり(笑)
その為今回はこう言う落ちを採用させて貰いました。

残念。ヘロヘロ!!
負けるな。ヘロヘロ!!
そんな感じで次回もお楽しみに(σ≧▽≦)σ

…してくれる人がいるなら幸いです(n‘∀‘)η
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