Sword Art Masked Rider 作:通りすがりの幻想
前 書 き あ と が き の 圧 倒 的 ネ タ 不 足 に つ い て 。
(リズベットside)
数時間後、あたしたちは一日ぶりに店に戻ってきた。
幸いにも、山を下りた時点で、あたしはなんとか体を動かせるようになり、そこからは一緒に歩いて帰ってきた。
リズベット「たっだいま~!…いやぁ、一日留守にしてただけなのに、なんだか懐かしく感じるわね。」
カイタ「その気持ち、分からんでもない。…ほんじゃ、ベテラン鍛冶屋のお手並み拝見と行きましょうか。」
リズベット「分かったわ。じゃあ、工房に来て。」
あたしは、カウンターの奥の扉を開けて、工房に入った。
インゴットを取り出して、真っ赤になった炉に投下する。
リズベット「…え~っと、片手直剣でいいのよね?」
カイタ「ああ。よろしく頼むよ。」
カイタが、奥にある来客用の椅子に腰かけた。
リズベット「りょーかい。…あ、言っとくけど、仕上がりはランダム要素に左右されるから、あまり過度な期待はしないでよ?」
カイタ「なーに。インゴットは山ほどあるんだ。こんだけありゃ、1本か2本はいいのが出来るさ。…それに、最悪の場合、もう一回取りに行けばいいしな。」
リズベット「…長いロープ忘れないでよ?」
カイタ「…覚えときます。」
そんな会話をするうちに、インゴットが十分焼けたようだ。金床の上に置いて、いつも使っている鍛冶ハンマーを振り上げ、勢いよく降ろした。
カーン、カーンと心地よい音を聞きながら、あたしはある決意をしていた。
リズベット(…あたしは、カイタの事が好き。ずっとそばにいて欲しい。…納得のいく剣が出来たら、彼に気持ちを伝えよう。毎日、この家に帰って来て欲しいって言おう。)
その決意は、インゴットの輝きが増していくと同時に、より強固になっていった。
━そして、数百回叩いたところで、インゴットが一層輝きながら形を変えていった。
カイタ「…おお、これは…」
現れた剣を見て、カイタが感嘆の声を漏らす。
出来上がったのは、全長は長いが、少し細い片手剣だった。とはいえ、ロングソードと呼べるほど長くもない。さしずめ、カテゴリー「ワンハンド/ハイミドルソード」といった所だろうか。
眩しいほど銀色に輝く刀身に、鍔の部分はアタッシュカリバーを彷彿とさせる黄色と黒のカラーリング、グリップの部分は、あたしを助けた時に使っていた斧の様な武器のグリップと同じ、深い青色だった。重さも、アタッシュカリバーに負けず劣らずの重量だ。
あたしは、剣をワンクリックして、ポップアップウィンドウを見た。
リズベット「え~と、剣の名前は《ライジング・エクステリオン》ね。…あたしが聞いた事無いって事は、現状、情報屋の名鑑には無い剣ね。…はい、試してみて。」
カイタ「おう。…ちょっと離れててくれるか?」
カイタが右手で剣を受け取り、肩の上に構える。
そして、右から斬り、左から斬り、一回転してもう一度左から斬り、最後に右から左上へ切り上げた。この動きは、ホリゾンタル・スクエアだったはずだ。
カイタ「…ん?…ふふっ。」
直後、カイタが剣を見つめたかと思うと、笑みをこぼした。
カイタ「…いい剣だ。ますます気に入った。」
リズベット「ちょ、ちょっと、何笑ってんのよ?」
カイタ「ああ、スマン。ここ見てみな。」
カイタが指さしたのは、剣の鍔、ちょうど刃先の根本の辺りだ。
よく見てみると、まるで剣のエンブレムであるかの様に、剣を背負ったかのようなバッタが小さく彫られていた。そしてそのバッタは、ライジングホッパー、だったかしら。カイタが変身していたあの戦士のクレスト(紋章)のバッタによく似ていた。
カイタ「…今日から、こいつが俺の相棒だ。あ、こいつの鞘見繕ってもらえるか?」
リズベット「あ、うん。」
あたしはそう言って、彼の衣装とよく似た黒色の鞘を選び、彼の剣を収めた。
リズベット「…そういえばあんた、剣を頼んだ際に、アタッシュカリバーと同等、もしくはそれ以上のスペックって言ってたじゃない。見たところ、今作った剣もいいけど、アタッシュカリバーとそんなに違うとも思えないわよ。なんで同じような剣を用意しようと思ったの?」
カイタ「…いや~、実をいうと、確かにカリバーはこのアインクラッドで1、2を争うスペックだと思うけど、致命的な欠点があってね…というのも、こいつで敵を倒したところで、正常に撃破判定がされない可能性があるんだよ…。早い話が、討伐系のクエストを受注して、そのターゲットを倒しても、こいつを使っていたら、討伐したことにならない可能性があるって事だ。この武器がシステムに規定されていないからだろうけど…。」
リズベット「え?規定されていない?どういう事よ?」
カイタ「…まあ、それはおいおい話すよ。」
リズベット「ふ~ん。なら、いいけど。」
カイタ「…おし。これにてミッションコンプリート。この剣の代金を払うよ。…あと、昨日壊した剣の弁償金も。幾らだ?」
リズベット「あ、えっと…」
あたしは深呼吸して、心の中で考えていたことを口に出した。
リズベット「……お金は、要らない。」
カイタ「そうかそうか。金は要らな……はああぁぁぁ!?」
リズベット「その代わり、あたしをカイタの専属スミスにしてほしい。」
カイタ「…はぇ?そりゃあ一体、どういう…」
リズベット「一日の攻略が終わったら、この店に…この『家』に帰ってきて。それで、あたしに装備のメンテナンスをさせて欲しい。…毎日、これからずっと。///」
カイタ「…っ!そ、それって…///」
たぶん今、あたしの顔は、人生で経験した事がないくらい真っ赤になっていると思う。
きょとんとしていたカイタも、あたしの言葉の意味を悟ったのだろう。不適な笑みを浮かべる事の多かった彼の顔は、同じく赤く染まり、あたしから視線を逸らしている。
リズベット(…あと一言。ほんの一言でいいんだ。頑張れリズベット。)
あたしは自分にそう言い聞かせ、残ったなけなしの勇気を振り絞って、彼の腕に手を添えた。
リズベット「…あ、あのね。あたし…あたし、カイタの、事…。」
すでに心臓は爆発しそうで、恥ずかしさで限界だったけど、あたしは最後の一節を
告げようとした瞬間。
(バターン!!)
勢いよく工房の扉が開けられた。あたしは驚いて、反射的にカイタから手を離した。
「リズ!心配したよ~!」
その言葉と共に、あたしは誰かに固く抱きしめられた。顔は見えなかったが、栗色の長い髪で、誰なのかすぐに分かった。
リズベット「…ア、アスナ!?」
聞き返すあたしの顔をアスナはすごい剣幕で睨みながら、早口でまくし立てる。
アスナ「メッセは届かないし、フレンドの追跡機能も使えなかったし、常連の人に聞いても何も知らないって言うし、一体夕べはどこに行ってたの!?私、最悪の事も考えて、黒鉄宮の生命の碑まで見に行ったんだからね!?」
リズベット「え、え~っと、そのぉ~…」
「おいおい、アスナ落ち着けよ。その人困ってるじゃないか。」
どう返答したものかと思案するあたしに助け舟が入った。
見ると、工房の扉の所に、黒いコートに身を包み、黒い剣を背負った真っ黒コーデの男性プレイヤーが立っていた。
アスナ「キ、キリト君…だって、心配だったんだもん!」
リズベット「ア、アスナ?その人は…」
アスナ「えっとね、リズの店でこの人、キリト君の剣を作ってもらおうと思って。」
キリト「…どうも。キリトです。」
リズベット「…はっは~ん。」
その瞬間、あたしは理解した。
リズベット「(ゴニョゴニョ)あの人って事ね?アスナの好きな人。」
アスナ「ええ!?…う、うん///」
アスナが頬を赤く染めながら、小さく頷く。
リズベット「…なるほどなるほど。なぁるほどぉ。…つまり、約束守ってくれたって事ね?」
数か月前、この店を開く手伝いをしてくれたのが、今目の前に居るアスナと、あたしやアスナより年上だけど親しくしてくれる、ローズブラウンの髪をサイドテールでまとめた、
アスナ「…うん。キリト君が店売りの剣を持つなら、ここしか無いって思って。」
リズベット「…ありがとう。アスナ。…それで、どんな武器をご所望かしら?」
アスナ「う~ん…キリト君、片手直剣でいいよね?」
キリト「ああ、構わないぜ。」
リズベット「了解。」
あたしはそう言って、ストレージから残ってたインゴットを取り出す。
キリト「…ん?ちょ、ちょっと待ってくれ。ま、まさかそのインゴット…」
突然、キリトが階段を駆け下り、目を見開きながらあたしからインゴットを取り上げる。
アスナ「キリト君、何か知ってるの?」
キリト「…おい、まさかこれって、55層でドラゴンから採れるって噂になってる、幻の素材じゃないか!?」
アスナ「…えっ!?討伐隊がいくつも出てるのに、素材が一つもドロップしないって言う、あの!?」
リズベット「…あ~、そういう事になるわね。」
アスナ「あれ?それじゃあリズ、昨日一人でこれ取りに行ってたの?もしそうなら、私も誘ってほしかったな…」
リズベット「ううん。さすがにあんな所、一人で行きやしないわよ。…彼に手伝ってもらったの。」
あたしはそう言って、工房の隅の方に居るカイタを視線で指し示す。
カイタ「…え~っと、俺、お邪魔?帰った方がいいかな?」
…そういえば、今の今まで、彼が空気の様になっていた。申し訳ないことをしてしまった。
「…カ、カイタ(さん)!?」
そう叫ぶ2人の声で、あたしは我に返った。
リズベット「え?知り合い?」
アスナ「う、うん。同じ攻略組で、しょっちゅう顔を合わせるから…」
その情報に、あたしはまたまた驚いた。と同時に、腑に落ちた。あのドラゴンと単独でまともに戦える実力。攻略組だからと考えれば納得だ。
キリト「…ていうか、お前ほどの腕前なら、あのドラゴン、屁でもないだろ。なんだって丸一日かかったんだよ…?」
カイタ「…いや~、いろいろありましてね…隠れてろって言ったのに、リズが顔出したっけ、穴落ちちゃって、もう野宿さ☆…高さ80mから落ちた時は、生きた心地がしなかったな。」
リズベット「そ、それはごめんって言ってるじゃない…」
カイタ「いや、別に怒っちゃいねぇよ。むしろ、あの穴に落ちなきゃ、そのインゴット手に入らなかったし。…そうだキリト。あとでアルゴに、インゴットの入手方法拡散させるように言っとくつもりだから。…言っとくが欲しけりゃ自分で採りに行けよ。」
キリト「…ひ、一つくらい譲ってくれても…」
カイタ「バーロー。第一、お前は単に楽したいだけだろ。それこそお前の腕前なら楽勝だ。なんたって総合力は俺より上なんだから。」
キリト「そ、そんなぁ…」
アスナ「ま、まあまあキリト君。その素材を使って、今ここで剣作ってくれるだけでも感謝しないと。」
キリト「…まあ、そうだな。何はともあれ、無事で何よりだ。」
アスナ「…そうだキリト君!店の外に…!」
キリト「…ああ!そうだった!ちょっと待ってろ!」
急にキリトがあわただしく工房を出ていった。
リズベット「…ほんとにごめんね、アスナ。心配かけて…」
アスナ「…ううん。リズが無事なら、それでいいよ。…カイタさん、ありがとうございます。リズを守ってくれて。」
カイタ「ん?いいや、俺は大したことはしてないよ。当然の事をしたまで。」
リズベット「…あんた、それしか言えないの?」
カイタ「…うるさい。」
…拗ねたようで、そっぽを向いてしまった。
キリト「…お待たせ。連れてきたぞ。」
「……カイタ…?」
キリトが戻ってきたが、彼が連れてきたのは、あたしがよく知る人物だった。
リズベット「…あら、レンコじゃない。どうしてここに…」
カイタ「お。レンコ。…一日ぶり、かな?」
レンコ「…かな?じゃないよ!バカァ!」
レンコがすごいスピードで階段を駆け下りたかと思うと、
次の瞬間、カイタに抱き着いていた。
カイタ「おわっ!?ちょ、ちょっとレンコ、く、苦しい…」
レンコ「心配したんだからね!…どうせまた無茶したんでしょ!」
彼をポカポカと叩きながら、小言を言う母親の様にレンコが問い詰めている。
カイタ「い、いや、今回は大丈夫だったぜ?」
キリト「あれ?お前、さっき「高さ80mから落ちた」って…」
アスナ「ちょ、ちょっとキリト君…!」
キリト「…あっ。」
カイタ「キリトお前ぇぇ!!!ナニイッテンダ!プジャケルナ!」
レンコ「…やっぱり無茶したんだ。」
カイタ「わ、分かった、俺が悪かったから、一回離れてくれ…」
レンコ「嫌。」
カイタ「…ハイ?」
レンコ「…心配させた上に、無茶した罰。もう少しこのままでいたい。」
カイタ「…ええ?いや、どういう理屈でそうなるんd…ったく、仕方ねぇな…。おいキリト、後でオハナシな。」
キリト「ひえっ…。」
リズベット「あ、あの…カイタとレンコって…知り合いなの?」
カイタ「え?ああ、俺たち、パーティー組んでるんだよ。」
……ああ、そうか。
カイタがこの店に来たのは偶然じゃない。
アスナが約束を守ったのと同じ様に、レンコもあたしとの約束を守ってくれたのだ。
━彼女の「想い人」にこの店を推薦したのだ。
あたしは、体中の熱が一気に放出されていく感覚がした。
レンコ「リズさん、ごめんなさい。カイタが何か変な事言いませんでしたか?」
レンコがそう言っているのが聞こえる。
だが、あたしはその質問に返答する気力も残っていなかった。
レンコ「…リズさん?」
アスナ「リズ?どうしたの?」
立ち尽くすあたしに、アスナ達が声をかける。
リズベット「…もぉー!それならそうと言いなさいよー!ちょっと聞いてよレンコ!こいつったら、出会って早々に、うちの最高傑作の剣をあたしの目の前で叩き折ったのよ?」
溢れそうになる涙をこらえながら、あたしは努めて明るく振舞った。
アスナ「ええっ!?」
キリト「…おい、嘘だろお前…。」
カイタ「う…め、面目次第もございません…。」
レンコ「ほんとに何やってるの…?お金一杯ふんだくらないとダメですよ?リズさん。」
リズベット「…も、もちろんよ。」
今はただ、ここから逃げ出したかった。
そうしないと、レンコやアスナ達に当たってしまいそうだった。
この気持ちの持って行き場が分からなかった。
その証拠に、すでに涙がこぼれそうになっている。
リズベット「…ご、ごめん!あたし、仕入れの約束があったんだった!ちょっと出るから、誰か留守番よろしく!」
アスナ「えっ!?ちょ、ちょっとリズ!」
アスナが呼び止める声も無視して、あたしは店を飛び出した。
そのまま街を走り出て、どこかも分からぬまま走り続けた。
ふと我に返ると、そこは街の端っこだった。
人がいない事を確認した瞬間、堪えてきた涙が堪えてきた。
リズベット「…ううっ…ひぐっ…」
店でレンコと話している間、何度も「あたしも、あの人が好きなの」と言いそうになった。
いや、言いたかった。
でも、言う訳にはいかなかった。
抱き着いてくるレンコを見るカイタの表情を見た瞬間、あたしは分かってしまったからだ。
今はまだだが、
そして何より、レンコは第1層でカイタと出会ってからずっと、彼を支え続けてきた。
そんな二人に、出会って一日の、余所者のあたしが割り込むことは出来ない。出来るはずもない。
…忘れよう。
昨日の事は、全て夢だ。そんな物は、涙で流してしまおう。
そう思いながら、あたしは泣きに泣いた。
━どのくらい泣いたのだろう。
「…リズベット。」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、あたしはちらりと後ろを見た。
…そして、今一番顔を見たくて、でも今一番会いたくない人の顔が見えた。
リズベット「…なんで…来たの…?もう少しで、いつものリズベットに戻れたのに…」
そこには、走ってきたのであろう、息を切らせたカイタがいた。
いかがだったでしょうか。
……やっぱ今回じゃ終わんなかった。
…わっかんねぇなぁ…もう…。
何でこのエピソードだけこんな長くなったのかなぁ???(心の温度編全体で2万字越え)
次回で本当に、誓って本当に、「心の温度」編、完結です。
それでは、また。
…いや、も、ほんとだ…何でこんなに長くなったのかな????(2回目)
(⑧へ続く)