考えたことはないか?
数多の物語で描かれた武闘大会。それを主催者側で楽しみたい、と。

大会には様々なドラマがある。
例えば、戦った男女が恋に落ちる。
例えば、長く共に過ごした師弟が競い合う。
例えば、戦いを見ていたお姫様とフラグが立つ。
例えば、「宿敵」と書いて「トモ」と読む絆が生まれる。
例えば、例えば、例えば…。

私はそれらを主催者として最も近い所で堪能したいのだ。
だって、楽しそうだから!
必要なら、トーナメント表も弄るし、イベントも仕込んでおく。
だって、面白いから!

…そんな感じで世界中を巻き込んでいく迷惑男の物語。

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転生した世界で巨大武闘大会開いて繰り広げられる人間ドラマを堪能したい

「――はい。というわけで貴賓の方々のお言葉でした!いやー!そうそうたるメンバーでしたね!」

「代理も多いとはいえ、誰もが国や地域、種族を代表する者たちばかりですからねぇ。世界がこの闘技場オリュンピリオに凝縮されていると言っても過言ではないかもしれませんよ。長い歴史で見ても初めての偉業。まさしく奇跡と言えるでしょう」

「おやおや?今度はその偉業を成し遂げてみせた奇跡の男から言葉があるようですよ?」

 

 ふっ、この日のためにスカウトしたが、なかなかどうして司会進行役も解説役もピッタリじゃないか。

 

「紹介に預かった、この大会の主催者コルネオだ。とはいっても、ここに集った者は参加者も観客も全てが何をすべきか理解しているはず。だからこそ私からは1つだけだ。ここに集いし英雄英傑に告げる!さぁ、見せてくれ――」

 

 地球のコロッセウムを参考にして造り上げた巨大な闘技場。そこに集った全ての者の視線を感じながら、私はここまでの道のりを思い返していた。

 

 

  ◆

 

 

 私の産まれは廃れた寒村である。

 寒い寒い北の地に位置する国の、誰も知らないような村だ。

 両親は早くに病気で死んだ。助け合うような余裕は誰も持っていなかったから、それからは戦いの日々となった。

 生きることは戦うことだと何かで聞いたが、まさしくその言葉がピッタリだったな。

 盗んだものを食ったり、お供え物を頂戴したり、木の皮を食ったりしながら食いつないだ。

 極度の飢餓の中、積もった雪を食って空腹を誤魔化そうともした。

 まぁ、当然ながら普通に何度も死にかけた。ほとんどは運で生き残っていたようなものだ。

 

 そんな日々の中、私は生きている意味ってのがわからなくなった。

 死んだ方が楽なんじゃないかと幼心に何度も思った。

 

 それで、ついに食料が尽きて、ゆっくりと死を受け入れようかと考えていた、その時。

 前世の記憶を思い出した。

 地球という星の、日本という国で、平成という時代を生きた記憶を。

 

 同時に私は前世の「俺」が抱いていた夢を思い出した。

 もしも自分が異世界に行ったら…という誰もが一度は夢想する空しい夢だ。

 

 前世の「俺」は異世界の物語を読むたびに常々願っていたことがあった。

 ハーレムを築く?そんなんじゃない。

 無双して勇名を馳せる?それも違う。

 仲間と共に過酷な冒険を乗り越える?お断りだ。

 どれも全く違う。前世の「俺」が抱いていた夢はそういうものではなかった。

 

 願っていたのはただ1つ。

 巨大な武闘大会開いて繰り広げられる人間ドラマを堪能したい、と。それだけであった。

 

 物語において武闘大会などの大会というのは非常に重要な意味を持つことが多い。

 まず、主人公や主要キャラが挫折を経験する場として活かせる。そこでの敗北をきっかけに修行に繋がったりするわけだな。

 逆に、挫折や辛い出来事を経験して修行をし、その成果を存分に発揮する場ともなるだろう。

 また、物語では絡まない強キャラ同士が対決することで、実際はどれくらいの強さなのかという分かりやすい指標を読者・視聴者に示すこともできる。

 さらに、これが一番重要だが、大会では敵味方様々な陣営が入り乱れて一カ所に集まる。故にこそ、多くのドラマが生まれるのだ。

 例えば、実は生き別れた兄弟であったことが判明する。

 例えば、殺し合いではない競い合いを通じて「宿敵」と書いて「とも」と呼ぶような絆が生まれる。

 例えば、協力が必要な競技で敵同士が手を組むことで、相手の新たな一面を知る。

 例えば、競い合った男女が惹かれ合い、恋に落ちるなんてこともあるだろう。

 例えば、伝説の強者に敗れ、その人に弟子入りするなんてこともあるかもしれない。

 例えば、活躍が観戦していたお姫様の目に留まるなんて展開も考えられる。

 とにもかくにも、「武闘大会」というのはドラマの宝庫なのだ。

 だからこそ、前世の「俺」は常々、異世界に行ったら武闘大会を開いてみたいと考えていた。主催者であれば参加者たちの情報を元に好き勝手にトーナメントを弄り、ドラマを引き起こすことができるし、いつどこでドラマが起きるか予測しておけば間近で堪能することができるだろう。

 或いは、正体不明の主催者、何やら黒幕っぽい謎の存在として物語に深く関わるのも楽しそうだ。集めた戦士たちのぶつかり合うエネルギーを利用して計画を遂行するとか如何にもありそうじゃないか?

 

 そんな「俺」の夢を思い出し、私の胸に火が灯った。「生きたい」という渇望が生まれた。

 「俺」が焦がれた夢は、今世の私にとっても魅力的に映ったということだ。やはり、魂とか根本的な何かが同じということなのだろうか。

 このまま廃れた寒村に居ても何かが変わるわけじゃない。日々同じ作業を繰り返し、貧しさに喘ぎ、やがては病気や飢餓で苦しみながら死ぬのだろう。私の両親と同じように。

 なら、駄目もとで抗ってやろうと思った。どうせ一度は死を受け入れた身。今更失敗や破滅を恐れるような境遇でもなかった。

 そういうわけで、私は「俺」の夢を継ぐことにしたのだ。

 

 そこからはまさしく七転び八起きの日々であった。

 現代知識を大いに使い、少しずつマシな状況を整えた。

 成長し、村を出た後は現代知識に頼って商売も始めた。

 失敗は数えきれないほどあった。騙されたのも両の手では数えきれない回数だ。破滅の危機というのも何度もあったし、幼少期のように木の皮を食った日もあった。

 それでも、私は諦めなかった。失敗を経験しては少しずつ少しずつ学んでいった。どうやって立ち回ればいいのか、相手の嘘を見抜くにはどうすればいいか、売り時買い時とはどういうものか。その過程で培った数々の人脈も有効活用した。

 

 そして、ついに。

 齢も40間近となり、前世の享年を大きく過ぎた頃。

 私は自身の商会で一つの街を掌握。街をあげての長期プロジェクトを推し進めた。

 

 だが、その後も一筋縄では行かなかった。

 予想以上に種族や国の間にある壁というのは厚かったのだ。

 まぁ、ここまで来てその程度で私が諦めることなどありえなかったが。

 

「ほう、東の剣豪。どれどれ………なに、龍を単身にて討伐!?これは凄い!ぜひ招かなければな!………ふむふむ、42才の男性か。そろそろ肉体の衰えも始まる年だな、最後に一花咲かせられる機会があると言えば招くのは容易だろう。よし、この方向性で行くぞ。東方だとジパリナ商会に伝手があったな。あそこに情報を流してもらえ」

 

 商会の手を広く広く伸ばしていき、ありとあらゆる強者の情報を集めた。

 

「ほう、西の遊牧民たちの間で伝説と語り継がれる男か。どれどれ………なに、あの巨大なデススコーピオンを飼いならした!?そんなことが可能なのか!真実ならば招かないわけにはいくまい。………かなり高齢だな、これでは長期の旅は厳しいか…?」

「彼にはたくさんの子供がいるのですが、そのうちの一人に自らが築いてきた戦闘技能の全てを教え込んでいるようですよ」

「なるほど、継承者ということか。なかなかに惹かれるものがある。この際だ、その親子両方を招いてしまおう。片方でも来れば良し、両方が来て親子の決闘となるのも面白そうだ」

「はい。それではそのように」

 

 信頼できる有能な部下を集めた。

 

「ほう、南の女戦士。どれどれ………おい、ここに書かれているのは本当の事なのか?」

「我々が調べた情報ではそのようになっておりますが、何か問題がありましたか?」

「燃えるような緋色の髪と紅の瞳。南方には珍しい白目の肌。齢は18とのことだが、孤児であったために正確な年齢は不明……」

「それがどうされたのですか?」

「前フレアザード帝国皇帝ボルケア・メラ・フレアザード。かの皇帝は名君としても知られるが、徐々に怪しげな呪術・黒魔術に傾倒していったことでも知られている。その皇帝の正妃が双子を産んだという噂が20年前にあったのだ。呪術界隈において、双子は忌子として扱われる。片方を殺してしまうのが一般的だそうだな。皇帝ボルケアも双子の妹を秘密裏に処分したという話だったが…」

「フレアザード皇帝の血筋は赤髪紅眼…まさか、この女戦士が!?」

「年も近しく、可能性は高い。母か側近か、何者かが逃がしたのかもしれないな」

「仮にそれが真実だとしたら…」

「あぁ、荒れるぞ。今のあの国の皇帝は稀代の愚王として有名だ。しかも、ボルケアの血を継いでいるわけではない。世界を揺るがす内乱になるかもな」

「それでは招待はしない方向性で…」

「何を言っている。当然、招待するに決まっているだろう?帝国に睨まれようが、政治闘争が絡もうが知った事か。私はただ、強者の集う大会を開くだけ。必要な資格は強さのみ」

「………コルネオ様は、一体何をしようとしていらっしゃるのですか?」

「ふっ。ただ強き者同士の戦いが見たいだけさ」

 

 世界中の強者を招く大会とあって、各国の事情が深く絡んできてしまうことも多かった。

 まぁ、それも私の情熱を阻むことなど出来ないのだがな。

 政治闘争が絡むような陰謀渦巻く大会?大いに結構じゃないか!それもドラマだ!背景が複雑になればなるほど素晴らしい物語が紡がれる下地となっていく!

 

「あぁ、当然だが魔族にも招待は送るし、彼らの国に噂も流す」

「なっ、それは…!」

「何か問題があるか?私は言ったぞ、強者を集めよと。であれば、それが人間種だけなわけがあるまい?エルフやドワーフを始めとした亜人種も、当然ながら魔人族も招待するに決まっているだろうが」

「しかし、魔族と人間は敵対しており…」

「この世界で人間種だけの大会を開いたところで意味などあるのか?そんなものは世界最強を決める大会に相応しくないだろう?私が求めるのは、ありとあらゆる障壁を超えた純粋なる決闘だ。それを忘れないでほしいな」

 

 この世界には普通に「勇者」も「魔王」も存在している。魔族と人間をはじめ多くの種族が憎しみ合っている。

 だが、それがどうした。歴史的対立など知った事か。そんなものは私の大会を引き立てるスパイスでしかない。

 

「さぁ、見せてくれ――」

 

  

  ◆

 

 

「――見せてくれ、君たちの強さを!君たちが紡ぐ物語を!己こそが最強なのだと世界に示せ!ここに、第1回オリュンピリオの開幕を宣言する!」

 

 その瞬間、世界が震えた。

 この地に集いし英雄英傑の咆哮が。英雄たちの活躍を待ちわびる人々の声が。

 天へと轟き、大地を震わせる声、声、声。

 

 殺し合い続ける種族があった。

 己が正義を掲げて敵対する組織があった。

 憎しみ合う2人がいた。

 敵でありながら恋し合う2人がいた。

 運命が引き裂いた兄弟がいた。

 共に過ごした師弟がいた。

 

 だが、それらは今、全てがただの戦士となった。

 ありとあらゆる関係性や過去から解き放たれ、同じルールの中で競い合う存在となった。

 

 この大会が平穏無事に終わるということはあり得ない。

 私の仕込んだイベントが、仕組んだトーナメントの組み合わせが、必ず大きな波乱を招く。

 

 さぁ、集った英雄英傑たちよ!私の掌の上で戦い、踊り、泣き、そして笑うがいい!その全てが私を楽しませる最高の娯楽となるのだから!




需要があれば続きを書いていきたいと思います。

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