キョウエイボーガン ~命運は矢となりて駆ける~   作:エガヲ

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これは本編完結後に、後から追加したおまけエピソードとなります。
※読まなくても、本編に支障はございません

時系列的には3話の後、
キョウエイボーガンが長末トレーナーのチームに入ったばかりの頃(クラシック級の五月頃)のエピソードです。


サイドストーリー
3.5話:休息


 春の陽気というにはいささか温かみがました、季節は誰もが浮かれる大型連休の時期を迎えていた。

 

 そして今日はそんな楽しかった連休の最終日……束の間のまとまった休日の終わりに、どこか名残惜しさを感じる。

 しかし明日から始まる新しい日々は一旦忘れ、今日も今日とて精一杯最後の休日を満喫しよう。

 そんな人々の思いがうっすらとすれ違う人々から感じ取れるようであった。

 

「……待ち合わせにはちょっと早いかな……?」

 腕時計かわりにスマホを取り出して時間を確認するキョウエイボーガン。

 彼女は今日、チームメイトであるバニータルーブルから呼び出しを受け、朝早くに集合場所である駅の改札口前に来ていた。

 

(昨日、いきなりチーム合宿するから朝八時に駅前集合って――結構無茶いうなぁ、あの先輩は……)

 突然の連絡だったのにも関わらず、それを反故にせず律儀に守ってしまうあたり、付き合いがいいというべきか、強く断れず振り回されてしまうというべきか。

 そんな自覚がありつつも、結局付き合う羽目になってしまった。

 

 

 その連絡があったのは、復帰戦を再来週に控えて、最近の日課となっている夜の自主鍛錬のマラソンから戻った後の、寮の部屋でシャワーを浴びて一息入れた時であった。

 携帯電話の不在着信を示すランプが点灯しているのに気づき、誰からの電話だろうかと確認をすると、先日加入したチームの先輩――バニータルーブルから数分おきに何件も着信があったのである。

 

「…………」

 何とも言えない嫌な予感にさいなまれながらも、このまま無視するのもためらわれたので、折り返し電話をかけることにする。

 

 しばらくのコール音の後、バニータルーブルへと電話が繋がる

「――あ、もしもしバニータルーブル先輩ですか? なんかあたしのところにいっぱい着信が来てたんですけど……」

『おう、ちと急用があってな……ボーガン、おめえ明日暇か? いんや暇だろ?』

「え、まあ……暇かどうかといえば、暇だとは思いますけど……」

 世間ではゴールデンウィークの真っ只中で、明日はその最終日。

 自分のやることといえば、休日用のトレーニングメニューをこなすぐらいで、これといってどこか出かけるとか用事はなかったが、このバニータルーブルの有無も言わさぬような絡み方というか謎の距離感が未だに慣れずにいた。

『おうしっ。じゃあ明日チーム全員参加の合宿するから、朝八時に駅前に集合でえ! 水着持ってくんのを忘れんなよお! んじゃあなあ!』

「――え? どういう……」

 一体どういうことなのかと問いただす間もなく、一方的に通話は切られる。

 もはや電話からは無機質なビジートーンだけしか聞こえない。

 

 

 今思い返しても頭が痛くなってくる。

 よくこれでちゃんと来よう思えたのだから、彼女自身、自分を未だに信じられないでいた。

 ていよく理由を思いあげるならば……『断る理由が思いつかなかった』、そんな理由だけで今ここ――集合場所に居る。

 

 集合場所についたはよかったが、休日のかいあってか、駅の改札口は人通りが多く、チームの面々をそこから探し当てるのはなかなか困難であった。

「おーい、ボーガンさーん、こっちッスよー!」

 そんなまるで上京してきたお上りさんのようにあたりをキョロキョロさせていると、彼女のことを呼ぶ元気な声が上がる。

 

 彼女は呼びかけられた方を振り向くと、すでにチームメンバー――三人共揃っていた。

「これで全員集合ッスね! けど、昨日の夜に言ってくるのは突然すぎッスよ……」

 キョウエイボーガンに声をかけた白髪のショートヘアーのウマ娘――オーサムラフインは、隣りにいる小柄のウマ娘に対して少し非難の声をあげる。

「まあいいじゃあねえか! こうして集まったってえことは、どうせ暇だったんだろ、おめーらもよお! カッカッカッ!」

 高笑いを上げながら赤茶色の長い髪のウマ娘――バニータルーブルはバンバンとオーサムラフインの背中をバンバンと叩く。

 力の加減というものを知らない彼女の平手は、悲痛な悲鳴をあげさせたのは言うまでもない。

「あはは~確かにマーチはずっと部屋でゴロゴロしてたから、全然オッケーだったよ~」

 そんな今の状況をどこか楽しんでいるような、間延びした口調で話す黒髪のポニーテールのウマ娘――アントレッドマーチは、いつもマイペースっぷりを発揮していた。

「……で、合宿って、どこへ行くんですか……」

 見慣れつつあるこのチームの面々とのやり取りに軽く頭痛を覚えながらも、ただ『合宿する』としか言い伝えられていなかったので、肝心の行き先を訪ねる。

 するとニヤリと口元を緩めながら、バニータルーブルはこれが質問の答だとばかりにどこか遠くの方を指差しながら強い口調でこう言い放つ。

「どこってそりゃあ……合宿といえば相場は海に決まってんだろうがよお!!」

 再びキョウエイボーガンは頭痛にさいなまれる結果となる。

 

 水着を持ってこいと、言われた時から嫌な予感はあった。

 できれば別の用途で使うと信じたかった。

 しかしものの見事に予感は的中してしまう。

 

 いくらか暖かくなってきたとはいえ、よりにもよってこの五月という季節外れの時期に、海へ行くはめになるとは露にも思わなかった。

 いっそ泳ぐのが目的なら、トレセン学園にあるプール施設で事足りる。

 

 そのことを提案してみたものの、『風情がない』というよくわからない理由で、即座に却下される。

 そしてそのまま、困り果てているキョウエイボーガンとは対極に、他の面々は妙なハイテンションをみせつつウキウキで、次々と改札口を通っていく。

 それに飲み込まれながらも、彼女はしぶしぶと付き合うことになった。

 

 ◇◆◇

 

 小波が聞こえる。

 磯の香りが強く鼻を刺激していく。

「「「「海だーっ!!!」」」」

 人――いや生きとし生ける物はなぜ海を前にすると、つい叫びたくなるのだろうか……。

 そこに深い理由などはない。

 それは本能――あるいは心が叫びたくなったから、そう叫ぶのだ。

 

 どこかの映画やドラマの一コマのように、四人は仲良く手を繋いで、海原をバックに浜辺で一斉にぴょいっとジャンプする。

 もう高まる鼓動をおさえきれず、早速水着に着替えた四人は、和気あいあいキャッキャウフフと楽しげな声を上げながら海向かって駆け出し、その勢いのまま海に飛び込んでいく。

 サンサンとまではいかないが、ほどよく降り注ぐ太陽の光と、ほとばしる水しぶき――まるで青春の一ページを切り取ったかのようなシチュエーションだ。

 

 だが、一瞬にしてその熱気は冷めていく。

 その物理的な寒さによって……。

「「「「寒ッ!!」」」」

 まだ五月という水の冷たさには、その場のノリと勢いでは太刀打ちできず、皆一斉に海から引き返していく。

「いやいや、これマジで無理ッス。誰ッスか、こんな時期に海行こうって言い出したのは……」

 寒さでがたがたと体を震わせながら、オーサムラフインは今回の合宿の発案者の方を冷ややかな視線を送る。

 しかし等の本人は、何が楽しいのか愉快そうに笑い転げていた。

「あっはっははーっ! いやあ、勢いだけじゃあなんともならんかったかあ!!」

「ちょ、笑ってる場合ッスか!? まったく……ほらみんな、これで早く体拭いてくださいッス、風邪引くッスよ」

 と言ってみんなにタオルを配って回る、気の利くオーサムラフインであった。

 タオルを受け取り、冷たい海の水で濡れた体を吹いていると、キョウエイボーガンはふと我に返る。

(……あたしは一体何やってたんだろ……)

 ついその場のノリというか勢いに押されて、柄にもなくはしゃいでしまった。

 よくよく考えれば五月の海が泳げる温度じゃないのは気付けるはず……なのに周りの妙なハイテンションに感化され、何も考えなしに海に突撃してしまった。

 そんな突飛な行動をとってしまうロケーションによる効果というものは末恐ろしいものだ。

「――海かぁ……」

 遠くの水平線を眺めながら、キョウエイボーガンは独りごちる。

 こうして誰かと海に行くなんてもう何年ぶりだろうか……小さい頃のこと過ぎて、思い返すのも一苦労だった。

 

 あれはまだ小学生の頃だろうか、たまの夏休みに彼女が義理の祖父に無理を言って、海に連れて行ってもらった時のことだ。

 本当に楽しかった――。

 今思い返しても色褪せない、大切な思い出……。

 義理の祖父のことを思い返すのは少し辛く、切ないけれど、前ほど悲しみには暮れておらず、すでに踏ん切りはついていた。

 

「こらぁマーチ! その犬みたいに水しぶきを飛ばすの辞めるッス!」

「うぇっへっへ……ここか~、ここがええのんか~?」

「ちょ、やめ――冷たぁっ!」

 遠くの方でオーサムラフインとアントレッドマーチが仲睦まじくはしゃいでいる姿が見える。

 

 水しぶきを受け、みずみずしくもオーサムラフインの身体に水が滴り落ちていく。

 その身体はまだどこか未成熟さが残るが、ちゃんと出るところはしっかり出ており、これからの成長に期待がもてる……そんな感想が思い浮かぶ。

 そしてもう片方の、身体を震わせながら水を飛ばして遊んでいるアントレッドマーチのたわわな果実がこれでもかと跳ね上がる。

 モデルのようなスラッとした体型と、それに反比例するかのようなまさにわがままボディというのを体現したその魅惑的な身体がまばゆく輝く。

「…………」

 そんな弾ける彼女たちの健康的な身体に見とれていると、ふとキョウエイボーガンは自分の胸に手を当ててみる。

 そして後輩たちの発育の良さに、内心舌打ちを打ち、敗北感からか肩を落としてガックシとうなだれてしまった。

「おう、ボーガン。どうしたよ、そんなしょぼくれた顔をしてからに……」

 威勢のよい声が急に聞こえる。

 どうやらバニータルーブルが話しかけてきたようだ。

 

 声の主の方をゆっくりと顔を向けると、その小さな身体が視界に入ってくる。

「!?」

 お世辞にも豊満とは言えない、はっきり言ってしまえば幼児体型というのがしっくりくる……そんな彼女の身体を目の当たりにし、驚いて二度見してしまう。

 

 先程まで落ち込み暗い表情はどこへやら、再度釘入るようにバニータルーブルをつま先からてっぺんまで舐め回すように見つめると、ぱあっと表情を明るくする。

 そして彼女のその自分とさほど変わらない体型を見て、キョウエイボーガンは急に親近感というか、仲間意識がだんだんと芽生えていく。

「先輩……お互い、頑張りましょうね!!」

 ぐっと握りこぶしを作りながら、そんな謎の意気込みを急に語りだすが、しかして視線は自分と相手の胸を方をチラチラと見比べていたため不自然に下がっていた。

「……おめー、一体どこ見て言ってやがんだあ、あぁん?」

「――あ痛っ!」

 なんとなくその言葉の意味を察したバニータルーブルは、相手の頭上にチョップを入れて、制裁を食らわせた。

 加減を知らないことで随一の彼女のチョップは大層痛かったという……。

 

 ◇◆◇

 

 海に入らなくとも、浜辺でのトレーニングは十分に行える。

 例えば砂浜を素足で走り込みをするだけでも、普段の芝やダートと走るのとはまた違った足腰の力を鍛えられたりする。

 そんなただ走るだけといえばそれで片付けられてしまうようなトレーニングを何本か全員で行った後、単調な鍛錬に少し飽きてきたのか、オーサムラフインが嘆きの声を上げる。

「ルーブル姉御~。もうランニングは飽きてきたッス。せっかく海に来たんだから、もっと海っぽいことしたいッスよ~」

「んなこたあ言われてもねえ……オレはなんも用意してねえぜえ?」

 大げさに首を傾げてみせ、逆にどうしたらいいと、言いたげそうな表情を浮かべる。

 まさかのノープラン、ただ本当に海に行くという目的しかなかったもよう。

 

 しかしその返答は想定内だったのか、オーサムラフインは自分のカバンを漁ると、ビーチボールを取り出して、一気に口で空気を入れて膨らませる。

「フッフッフ、こんなこともあろうかと……ビーチボールを持ってきたッス!」

 どやぁと言わんばかりに高々とビーチボールを掲げ、フフンと得気な顔を見せつける。

 普段であればその調子づいている顔を見せるたびにバニータルーブルがデコピンとかを食らわせて黙らせていたが、今回ばかりはその機転に賞賛を送った。

「おうおうラフインさんよお、随分と用意が良いじゃあねえの悪くねえのって……んじゃあいっちょ、ビーチボールでもやっかあ!」

 バニータルーブルがそう高らかに叫ぶと、まるで打ち合わせたかのようにキョウエイボーガンを除いて皆、一斉にそれぞれ散らばっていく。

「あ、え――? 何?」

 一人だけポツンとその場に残される形となって、自分がどう動けば良いのかわからず、他の三人の顔を次々と見返す。

「そんなところに立ってないでボーガンちゃんも離れて離れて~。早く始めるよ~」

 普段のんびりマイペースなアントレッドマーチにも遅れを取り、彼女の口からそんなツッコミをもらう羽目になる。

 とりあえず他の見様見真似で、その場から慌てて駆け出し、距離を取る。

「んじゃ……オレから行くぜえ!」

 そう言ってバニータルーブルはビーチボールを下から思いっきり叩き上げる。

 ボールは水面に浮かぶような軽い代物なため、宙高く舞い上がった。

 風に揺られながらゆっくりと放物線を描きながら、オーサムラフイン付近に落ちていく。

「……よっと! 次マーチ、行くッスよ!」

 落下予想地点に素早く移動すると、同じくレシーブで上空に打ち返して、今度はアントレッドマーチのほぼ近くへとゆっくり落ちていく。

「ラフインちゃんうまいね~、それじゃ~次はボーガンちゃんだよ~」

 オーサムラフインの絶妙なコントロールのかいあってか、ほとんど動くことなくビーチボールを打ち返すことができたようだ。

 そしてキョウエイボーガンの元を狙いを定めたが、少しずれて離れた場所にボールが飛んでいく。

 

「――ッ!」

 その時、キョウエイボーガンは放たれた弾丸のように駆け出した。

 ボールの落下しそうな位置はここから多少離れてはいるが、走れば十分間に合う距離だった。これぐらいの距離ならいつもランニングで走り込んでいるのでなおさらである。

 

 だが、ついいつもの癖で、ゲートからのスタートダッシュの感覚で飛び出してしまった結果、勢いをつけすぎて、ボールの落下位置を軽く数十メートルは追い越してしまった。

 無情にも、ボトリとキョウエイボーガンの背後で砂浜に落下する音を聞くこととなる。

 

「わ~ごめんね~ボーガンちゃん~」

「ナイスガッツッスよ、ボーガンさん~」

「ドンマイ、ドンマイ~」

 純粋に楽しそうな三者三様の声が上がる。

 合宿のトレーニングとはいえ、これはお遊びのようなもの……そう認識してはいるのだが、何か胸の奥から湧き上がるものを感じるキョウエイボーガンであった。

「――もう一回っ!」

 ビーチボールをバニータルーブルの元へ力強く投げ返すと、リトライを要求する。

 その瞳には、まるでこれからレースに望むような強い意思を秘めていた。

「お? 乗り気だねえ……それじゃあもういっちょ行くぜえ!」

 先程と同じようにボールが空高く打ち上げられる。

 

 しばらくそのままビーチボール遊びに興じることとなった――。

 

 ◇◆◇

 

『ハァハァハァ…………』

 もうかれこれぶっ通しで一時間以上は続けていただろうか。

 肩で深く息を吐き、手を膝について流石に疲労を隠せないでいた。主にキョウエイボーガンが……。

 

 なぜか何か狙ったように、大きく軌道がずれたボールが彼女の元に集まったからだ。

 それに加え、明らかにボールが明後日に飛びすぎていて、走っても間に合わなそうなボールまでも追いかけ、その度に全力スプリントをしていたせいでもある。

「……ちいっとここいらで、休憩するかねえ」

 そうバニータルーブルが提案すると、キョウエイボーガンは崩れるようにその場に座り込んでしまう。

(――ふぅ……。あたし、何やってたんだろ……)

 一息つくと、ふと我に返り、少しボールを打ち返すことにムキになりすぎていたことに気づく。

 思い返してみれば、遊び半分で始めたこのビーチボール遊びだったが、意外と鍛錬になっていた。

 

 足場の悪い砂浜と不規則に揺れるボールを追いかける瞬発力、落下位置を即座に予測する判断力などなど……これは普段のトレーニングに活かせるかもしれない。

 そんな自分の成長につながるかもしれないなどと、つい考えてしまう。

 

 それにしても目を見張ったのは、オーサムラフインの天才的な上手さだった。

 ボールの落下予想位置の正確さしかり、どこに落ちても対応できるような位置取り、なにより相手のボールの打ち上げ方がほとんど相手の位置直ぐ側という、絶妙なコントロールを何度も見せた。

 普段はお調子者でそんな片鱗は見れないが、意外とクレバーなのかもしれない。

 

 そんな隠された一面を発見していたころ、辺り一帯にアントレッドマーチから大きなお腹の音が鳴り響いた。

「マーチ、お腹がすきました~。何か食べ物を所望します~!」

 どうやらガス欠の合図だったようである。

 もうなにか食べないと一歩も動けませんというように、大の字になってその場に寝っ転がる。

「食い物ねえ……このシーズン外れに海の店はやってねえなあ」

 自分たち以外にもちらほらビーチで享楽に勤しんでいる観光客が見受けられるが、出店らしきものは一切見られなかった。

「そんなこともあろうかと……じゃ~ん、持ってきたッス! みんなでスイカ割りするッスよ!!」

 今回やけに準備のよいオーサムラフインである。

 またしても自分のカバンの中から、ガサゴソと取り出す。

 

 しかしそう言って彼女が取り出して見せたのは、どう見てもスイカではなく……色と形はまあ似てもなくはない瓜違いの野菜であった。

「……カボチャじゃあねえか……」

「カボチャだね~」

「うん、カボチャだね……」

 これ本当にスイカ割りの要領で割ってそのまま生で食べるの? そんな何とも言えない雰囲気が流れる。

 この時期なのでまだスイカは売っていなかったので、代わりに似たようなカボチャを買っておいたというわけだが……流石に無理があった。

「……まあこれは長末の土産にするかあ」

「そうッスね……」

 取り出したものをそっとしまい、カボチャの処理はこの場にいない長末トレーナーに押し付けるということで方がついた。

 

 ちなみに今日は予定が埋まっているとのことで、長末トレーナーの合宿参加は見送られていた。

 

 ◇◆◇

 

 お腹が空きすぎて生のカボチャをそのまま食べようとしたアントレッドマーチを引き剥がしつつも、最寄りのコンビニで食料を調達し、無事栄養補給を済ませる。

 ちょうどお昼ごろだったのでいい昼休憩となった。

 

「んじゃそろそろ腹ごなしに動き出しますかねえ」

 十分に休憩は取れたので、約一名「え~もっと休みたいッス~」と苦情が出たが、合宿を再開する流れとなった。

「今度は趣を変えて……いっちょ真剣勝負と洒落込もうぜえ……」

 大胆不敵にニヤリと不敵な笑みを浮かべると、バニータルーブルはその辺に落ちている棒切れを拾い上げる。

「……それで一体何をやるつもりッスか……?」

 すでに嫌な予感がプンプン漂っていたが、一応確認のためオーサムラフインはそう訪ねる。

「何ってそりゃ……砂山崩しに決まってんだろおぉ!?」

 そう得意げに語りだすが、もはやトレーニングでもなんでもなかった。

 ただの遊びである。

「地味ッス! 激しく地味ッスよ!?」

 

 そんな一悶着があったにしろ、せっかくなので何戦か砂山崩しで遊んだ。

 

 力任せに砂を崩して自爆したり、姑息な手段を使おうとして反則負けしたり、勝負事となると全力を出しすぎて自滅する者が続出する中……アントレッドマーチがそのマイペースっぷりを遺憾なく発揮し、誰の揺さぶりにも動揺せず、正確無比な手さばきを見せて圧勝して終わった。

 ここ一番での度量大きさというのを彼女から感じずにはいれなかった、新しい発見である。

 

 しかし……ただ無言で砂山を作っては崩すという果てしなく地味な遊びに、小学生ならいざしらず、すぐ飽きがきてしまったため自然と終了となる。

 

 

「そういやあボーガン。おめーさんは、なんかやりてえ事とかねえのかい?」

 そんなことをふと尋ねられる。

 そういえばキョウエイボーガン以外は一通り何かしらの提案をして、それをみんな一緒に実行していた。

 その流れで彼女の希望を聞いたのであろう。

「えっと……ショットガンタッチとか……?」

 最近スポーツ番組でそれを観ていた影響だろうか、なぜかパッと思いついたことがそんなことだった。

「ボールはあるから……出来なくはねえか……」

 テレビで観た奴だと、ボタンを押すと一定距離からボールが落下していくので、そのボールが地面に付く前に触れられたらクリアという、一種のスポーツのようなものである。

 誰かがボールを投げてやれば、今の環境でもなんとかできそうであった。

「はいはーい、それじゃあボクがボール投げるのやるッスよ~」

 こんなときだけ元気よく、いの一番でボール投げて落とす役を買って出てくる。

 

 どうみても運動量の少ない楽な作業を選んだとわかったが、一定距離を正確にボールを投げられそうなのはオーサムラフインが適任ではあった。

「んじゃ早速やってみっか、ほれっ」

 ビーチボールをオーサムラフインに投げ渡すと、「合点承知ッス」と言って、オーサムラフインは駆け出し、いきなり20mぐらいは距離を取った。

 確かテレビでは体力自慢の有名人が13m行くか行かないかの最高記録を出していたはず……それを遥かにこえている。

「――もちろんウマ娘なら、これぐらい余裕ッスよね~?」

 と、満面の笑みで遠くからオーサムラフインが大声でそう確信犯的に煽ってくる。

「あのトンチキめ……いっぺんしばいたろか……」

 明らかに調子づいている彼女にお灸をすえてやろうかと肩をブンブン振り回して一発ポカリとやる準備をしたバニータルーブルだったが、背後から物凄い力で肩を捕まれ、制止される。

 その時――空気の温度が変わっていた。

「面白い――やろうかっ!」

 そういったことに耐性がまったくないのもあったが、すでに闘志がメラメラと火がついているキョウエイボーガンがそこに立って居た。

 もうこうなった彼女を止められるものは、存在しなかった……。

 

 その後、楽々と最初の20mを突破するも、オーサムラフインはまたまた調子に乗って距離を勝手に伸ばしては、さんざんと「これくらいできるッスよね~?」と、煽り倒すのを繰り返した。

 しかしキョウエイボーガンはそれをまったく意に介せず、「もっとやれるが?」という風に無言で淡々とクリアしていき威圧をかけ、逆に戦々恐々とさせた。

「す、すみませんでしたッス! ボーガンさん……いえボーガン姉御!」

 そんな詫びが入るまでに、そう時間はかからなかった。

 余談ではあるが、その日からキョウエイボーガンに対する『姉御』呼びが、定着していった。

 ちなみに記録は、すでに30mは軽く超えていたという――。

 

 ◇◆◇

 

(……はあ疲れた……。今日何やっていたんだろ、あたしは……)

 時間はあっという間過ぎて、夕暮れの帰りの電車の中。

 比較的空いている車両の座席に座る一同。

 オーサムラフインとアントレッドマーチは疲れからか、座席に座りながら、お互い寄りかかって寝息を立てていた。

 

 結局あの後もトレーニングと称して、はしゃいでしまった。

 振り返ってみれば、合宿とは名ばかりで、くたくたになるまで遊び倒しただけであった。

 復帰戦を控えた大事なこの時期……ちゃんとしたトレーニングもせず、こんな一日棒に降ってよかったのだろうか、そんな罪悪感がキョウエイボーガンに少し浮かび上がる。

「…………」

 しかし自然と嫌な気分ではなかった。

 最初は乗り気ではなかった。

 しぶしぶ付き合っていたと思う。

 けれどいつの間にか、チームの皆と一緒にはしゃぐのがとても楽しくなっていた。

「――少しは気分転換になったかい?」

 そんなキョウエイボーガンの心中を察したかのように、オーサムラフインとアントレッドマーチを挟んで横にいる、バニータルーブルに小声でそう訪ねられる。

 

 途中から気づいてはいたが、やはり合宿ではなかったのだ。

 合宿で本格的にトレーニングするなら、長末トレーナーが無責任にも放置するわけがないだろうし、しかも突発的に計画したのがよくわかるほど色々ノープランぶりを見ていれば誰でもそれぐらい気づけたであろう。

「ええ。まあ……」

 と少し言葉を濁すように、はにかんだ苦笑いを浮かべる。

「ただ、大事なレース前にこんな遊んでてよかったのかなあって……」

 それを見透かしたようにぼそりとバニータルーブルは語りだす。

「……レース前にトレーニングに打ち込むのも大事だが――まあそう根詰めるこたあねえさあ。リラックスしていつも通りやってりゃあ、案外どうとでもなるもんだぜえ?」

 そう彼女に言われ、ここ最近根詰めてトレーニングしていた自分を、気を使って今日息抜きに誘ってくれたことに気がつく。

 それに後輩たちも今日は楽しんでもらおうと色々気を使ってくれていたような気がしてきた。

「そうですね……。今日は色々ありがとうございました、ルーブル先輩」

 今朝まではこのチームメンバーとは少し距離を置いていた自分がいた。

 けど今はそんな壁を作るのがバカらしく思えてきた……そんな気持ちの現われか、自然と少し砕けたような呼称になっていた。

「まあいいってことよ……それに礼は、こいつらにも言ってやってくれ」

 と彼女は無防備な寝顔を晒している後輩二人――オーサムラフインとアントレッドマーチを方を見て、普段めったに見せないような優しい笑みを浮かべた。

 

 その後、疲れて寝ている後輩たちを起こさないようにか、二人の間には会話は特になかった。

 けれど――それだけで十分だった。

 

 前に所属していたチームは、周りもそうだったし、自分もストイックに独りでいつもトレーニングをしていた。

 独りでいると目の前にトレーニングに集中できたし、結果もデビュー戦勝利というのを残せた。やり方は間違っていなかったと思える。

 けどそれだけじゃない……。やり方や鍛錬の方法に正しさなどなく、千差万別無数に答えはあったのだ。

 今日みたく、みんなで楽しくわいわいとやるのも――独りじゃないのも、悪くない。

 色んな刺激や、影響を受けれた。みんなの思わぬ能力が見れて楽しかった。

 

 このチームに入れてよかったなと……どこかそんな満足感を得ていた。

 

 

 翌日、一日中動き回っていたせいか、普段使わないところへの筋肉痛が響き、気だるそうにしていたら五月病と間違われたり……この時期に日焼けしているのをクラスメイトに驚かれたりもしたが……それはまた別の話しである。




投稿が大変遅れました。本当に申し訳ありません。

今回のエピソードは、いわゆる・・・日常回となります。
本編ではキョウエイボーガンの日常のシーンが少なかったため、
それを補完する形です。

追伸:
テイオーとスカイの夏合宿の「ウミダー!」が好きです。

微妙な誤字などを修正(2022/7/12)
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