11月8日――。
この日、京都レース場には、これまで類を見ないほどの、大勢の人々が世紀の一戦をこの目で観ようと、押し寄せていた。
賑わう人々の雑踏。
高まる鼓動と期待。
まだかまだかと、レースが始まるその瞬間を皆、心待ちにしている。
この場に訪れた人々の待ち望む未来は等しく一点。
のべ12万人以上の人々の夢と希望をのせ、無敗のクラシック三冠ウマ娘の誕生の瞬間を誰もが待ち望む。
この日の菊花賞は――まさに祭典のようであった。
人と人がすれ違うのも一苦労となるほどの人の波。
秋空の冷たさもなんのその、異様に帯びた熱気で観客席は沸き立っていた。
そんな中、キョウエイボーガンが所属する、長末トレーナーのチームの面々は、菊花賞に出走するキョウエイボーガンの姿を遠くから見届けていた。
一団の様子は、周囲の喧騒と打って変わり、口数はほぼなく、どこか張り詰めたような空気が流れていた。
「……いよいよだな」
長末トレーナーチームの古参、赤茶色の長髪のウマ娘――バニータルーブルは、誰に話しかけたわけでもなく、そっと沈黙を破る。
「そう……ですね……」
それに反応したのは長末トレーナーだった。
彼にしては珍しく、まるで心ここにあらず、あまりはっきりとしない受け答えであった。
「長末さんよお……お前さんから見てえ、ボーガンの仕上がりはどうだ? このレースいけそうかあ……?」
いけるとは、つまり優勝できるかどうかであり、前回の大敗が尾を引いていないどうかということだ。
前回の京都新聞杯での惨敗……それが何も影響が出ないはずもない。
それほど後に引きずりかねないほどの、負け方をしてしまったのだから。
それでもバニータルーブルは、あのいつもの言葉を、長末トレーナーの口から聞きたかった。聞いて安心したかった。
彼ならこういう時、必ず自信たっぷりに『ノープロブレム』と、言ってくれるはずだった。
しかし今回ばかりは、その言葉出てこなかった。
「やれるだけのことはやりました……。後はボーガンさんの力を信じるのみです……」
口が滑っても『何も心配はない』とは言えなかった。
とても言えるような代物ではなかった。
大敗を喫した京都新聞杯から、菊花賞までのこの約一ヶ月間――。
通常の何倍ものトレーニングに打ち込むキョウエイボーガンの姿には、鬼気迫るものがあった。
打倒、ミホノブルボン……。
その無謀とも思える挑戦に、キョウエイボーガンが長末トレーナーに頼み込み、特別に組まれたハードな特訓メニューが用意されていた。
まずは長丁場を走り抜く体力を作るため、高地でのマラソン。
坂に負けない強靭なトモをつくる下半身のウエイトトレーニング。
そして一番入念に行ったのが、開始直後から一気に先頭に駆け抜けるスタートダッシュの練習であった。
何度も何度も、まさに血が滲むような努力と鍛錬を積み重ねていた。
それは彼女が菊花賞出走ウマ娘事前インタビューの場で、『何があろうとも、ミホノブルボンに先頭を譲らない』、と大胆に言い放った宣言を、有言実行せしめんがためのものであった。
トレーニングの打ち込み加減は、チームメイトから見ても、オーバーワーク気味であった。
しかしそれでも、強敵との実力の差を埋めるには足りない。
足りないからこそ、今できることの最善の限りを尽くす。
チームメイトたちに何度か体調や怪我を心配したが、しかし彼女の気迫の前に、『トレーニングを控えろ』とは、強く言えることはできなかった。
立ち止まることすら許されない。キョウエイボーガンの心の往くままに、任せるのみ。
それほど菊花賞にかける彼女の想いの強さが伺えたのだ……。
「……トレーナーというのものは無力です。結局最後は、レースで走るウマ娘に、すべてを託すしかないのですから……」
口惜しそうに、長末トレーナーは唇を噛みしめる。
もっと彼女のためになにかしてあげられる事はなかったのだろうか、彼女をサポートできなかったのだろうか……そんな後悔の念を抱いていた。
しかして時は残酷なものだ。待つことをけして許してくれない。
無慈悲に時は刻まれていく。
いくら後悔しようとも――その時は訪れる。
もうすぐ菊花賞が始まる……。
ふと、ひとしきり賑やかな、ファンファーレがレース場いっぱいに鳴り響いた。
GⅠの専用のファンファーレが生演奏で奏でられている。
その音に合わせ、観客たちは手拍子や合いの手を重ねる。
そしてファンファーレの終わりとともに、大きな歓声が辺り一帯へと響き渡り、大地が呼応する。
これからいよいよ始まる大レース。
ひしめきあっていななくは、天下のウマ娘たち……。
ファンファーレの音を皮切りに、次々とウマ娘たちがゲートに入っていく。
そして最後のウマ娘がゲートに入る。
観客たちの歓声がぴたりと止む。
あとはゲートが開く時を待つばかり。
淀の舞台は整った――。
15時35分……運命の菊花賞が幕を開ける。
◇◆◇
『――ガコンッ』
開幕の音は突如として、鳴らされる。
ゲートが開かれると、総勢18名のウマ娘が、一斉にゲートから飛び出す。
各ウマ娘、出遅れもほとんど見受けられず、熾烈な位置取り争いが、序盤から繰り広げられる。
そこに7番、一番人気のミホノブルボンがさあ先頭に出るぞと、自慢の脚を見せつけようとした時――。
外側から目にも留まらぬスピードでミホノブルボンを追い抜き、あっという間に交わしていく小さい影があった。
12番……キョウエイボーガンだ――!
狙いすましていたこの瞬間。
何度も身体に叩き込んで掴んだこのタイミング。身体が自然と動く。
すべてこの時のために積み重ねてきたトレーニングの成果だった。
ミホノブルボンを超えるためには何が必要不可欠か……。
長末トレーナーと一緒に熟考した結果、『なんとしても序盤で先頭を取る』ということだった。
京都新聞杯のように二番手に控えていては、ミホノブルボンの思うつぼになってしまう。
ならば先頭を取るために、早い段階から仕掛ける必要がある。
スタート直後の坂越え。ここではどんなウマ娘でも脚が少し鈍るというもの。
当然それは、ミホノブルボンとて同じことだ。
唯一の勝機はそこしかなかった。
その一瞬の隙きをつくしかなかった――。
(そのまま……取る――!)
先駆け、先手必勝――。
一気に坂を駆け登ると、キョウエイボーガンは、ミホノブルボンを引き離して、見事きれいにハナに立つ。
見事にはまったこの作戦。しかし例え成功したとしてもリスクは高かった。
3000mの長距離レース……本来は温存しておくべき脚を、ここで使ってしまうからだ。
ゴールまでスタミナが持つ保証は無きに等しい。
しかし代償なしに得られるものなどはない。
先頭を取ることだけに執着して、ミホノブルボンの邪魔をしてやろうなどというつもりは毛頭ない。
すべてはこの舞台で勝つため、あのときの雪辱を晴らすために、自滅覚悟と嗤われても構わない、一世一代の大博打にかけるしかキョウエイボーガンには勝つ術はなかった。
そして賭けには勝った――。
まさに宣言した通り、京都新聞杯ではただの一度も叶わなかった先頭を、キョウエイボーガンが奪ってみせた。
後はこの状態をどこまで維持できるか……。
行けるところまで行こう、全力で足掻いてみせよう。
足を蹴って力強く踏み出し、ミホノブルボンとのリードを2バ身、3バ身と広げる。
序盤の勢いのまま、ミホノブルボンを抜き去ったキョウエイボーガンが、後続を引き離して逃げていく。
そしてそのまま一周目のスタンド前を先頭で通り過ぎようとしていた。
快調に逃げるキョウエイボーガンは、一瞬振り返って、後方のミホノブルボンの様子を確認する。
夢や幻などではない――今こうして、ミホノブルボンの前をちゃんと走っている。
前回の京都新聞杯の時と、まったく逆の立場……。
今度は譲らない――。
今度は退かない――。
無敗の二冠ウマ娘がなんだ、クラシック三冠がなんだ。
ターフの上では、そんな名誉も肩書も、もはや関係がない。
己が強さを証明するには、ただその走りによってのみ証明してみせるのみ。
もっとも強いウマ娘が勝つといわれているこの菊花賞……。
ならば、その強者になってみせる――そうキョウエイボーガンは息巻き、2バ身の差を、必死に保ち続けていた。
この怒涛のレース展開に、ミホノブルボンの勇姿を見に来ていた観客たちの間では、どよめき立っていた。
人々が思い描いていた、今日という栄光の日の
なぜ今先頭に立っているのが、ミホノブルボンではないのか――。
動揺が広がる。
だがしかし、案ずることはない。
なにせこの長丁場だ。今はあの12番が先頭だとしても、どうせ長くは持つまい……。
むしろミホノブルボンは今の位置でいい。
あのような破滅的な逃げに付き合わず、相手が自滅するのを待てばいい。
観客たちは、先頭を譲ってもなお、ミホノブルボンの強さを――三冠の夢を疑っていなかった。
確かにここで控えることが、ミホノブルボンとしては正解だったのかもしれない。
だがこの時、ミホノブルボンの中で何か異変が起きていた……。
かつてこれまで1バ身より大きくリードされたことのなかったミホノブルボン。
2バ身という、対面したことのない煩わしいこの差……。
そして付いてこれるなら付いてみろ――抜けるものなら追い抜いてみろ。
まるでそう語っているかのように、前を走る12番の後ろ姿に、ミホノブルボンの内に眠る、競走ウマ娘としての血が騒ぎ出したのだ。
目の前に現れた挑戦者を迎え撃つのが絶対王者の努め……ミホノブルボンは動き出した。
ゾクリ――。
ふいにキョウエイボーガンは、走りながら、背筋が寒くなる感覚を覚える。
それは突然、訪れた。
常に一定のリズムだった後方の駆け足が、急にピッチが短くなりだした。
迫りくるプレッシャー。
奴だ――ミホノブルボンが仕掛けてきた。
即座にそう判断する。
ここで追い抜かれるものなら、京都新聞杯の二の舞だ。
そうはなるまいと意地を見せ、ミホノブルボンに追いつかれないよう、負けじと速度を上げる。
さらなる負担が身体に押し寄せる。
まるで全身がバラバラになりそうだ……。
息がどんどん上がっていく。
キョウエイボーガンは、走っている足の感覚すらおぼろげになってくる。
辛い、苦しい……。
後どれだけ走れば終りが来るのだろうか。
もう後ろは振り返れない。振り返る余裕すらない。
少しでも揺らげば、プツリと切れてしまいそうな緊張の糸。
けれどその中にあって、キョウエイボーガンは不思議と、充実感に満たされていた。
まるで歯が立たなかった最強の敵と、今こうして対等に渡り合えている。
前回はまったく相手にもされなかったあのミホノブルボンと、このGⅠの舞台で、競り合っている。
自分は相手にとっては不足はあるだろうが、敵として認識されていることだけで、この上ない誉れであった。
魂と魂の削り合い。
一歩でも気を緩めることができない。
キョウエイボーガンは果敢に前を逃げてみせ、今までにない全力以上の力を発揮していた。
二人が火花を散らしながらハイペースで逃げ続け、先頭から最後尾まで縦長の展開のまま向こう正面を過ぎていった。
そしてスタート地点から一周し、二周目の第3コーナーに入り、二度目の上り坂を迎える。
一度は駆け抜けることができたこの坂道、今は足取りがとても重く感じた。
やはり序盤、飛ばした反動が高くついている。
そして前を往き、後ろから迫りくる気迫にも逃げ、息をつく暇もなく走り続けた結果……確実にじわじわとキョウエイボーガンのスタミナが奪われていたのだ。
それは起こるべくして起きてしまった……。
第3コーナーを上り詰め、そのまま坂を下り始めたところで、今度はキョウエイボーガンに異変が起こる。
(……か――、はぁ……っ)
目の前が真っ白になる。
息が続かない。脚が回らない。
その身に訪れたものは――限界。
スタミナの限界、体力の限界、気力の限界……すべてを出した、出し尽くし終えた。
3000mという持久戦……序盤から負担をかけていたキョウエイボーガンの体力は、とうとう枯れ果てててしまった。
まだ走る気持ちは失っていない……まだ勝ちを諦めていない。
が――例え、どんなに気持ちで負けていなくとも、肉体の限界は超えられなかった。
どれほど足掻こうとも藻掻こうとも、気持ちが前を向いていようとも、身体が応えてくれない、力は入ってくれない。
無情なる現実――この時、キョウエイボーガンの脚が鈍った。
そこからは、またたく間の出来事であった。
先に第4コーナーを行くのは、7番ミホノブルボン。
そのミホノブルボンを強襲せんと後を追う先頭集団の中に、キョウエイボーガンの姿はなかった。
ずるずると失速したキョウエイボーガンは、ミホノブルボンに抜かされた後、三番手四番手に居たウマ娘たちに次々と追い抜かされ、後退していた。
あまりにもあっけない幕引き……。
一時の見せた幻影――。
雪辱はならず……栄光を掴むこと叶わず……。
(ここ……まで……か…………)
バ群の中に沈みゆく中、キョウエイボーガンは自分の完全なる敗退を悟った。
自分の菊花賞は、ゴールする前にもう終わってしまったのだと、そう気付かされた。
序盤、派手に逃げてみせて、会場を沸かせてみせた――。
結果的にはそうなってしまったのかもしれない。
けれど最初から勝負を捨てていたわけではない。
自分の中にある最大の勝機を、可能性を選び取ったまでのこと……。
それでも足らなかった。届かなかった――。
このレースに己のすべてを賭けたといっても過言ではなかった。
しかし想いだけでは、負けたくないという気持ちだけでは、どうにもならないものは必ず存在する。
そのことを嫌というほど思い知らされた。
(……悔しいなぁ……)
なぜだか視界がぼやけてくる。
どこからか水滴がとめどなく溢れていく。
いくら手の甲で拭っても、この水滴が一向に拭い取れない。
キョウエイボーガンは、走りながら汗とともに、本人でも気が付かない内に、菊の舞台で涙を流していた……。
◇◆◇
レースの決着はついた。掲示板に順位も表示され、それが真だと知ら示される。
そこに勝者を称える歓声はなく、場内は大きなどよめきに包まれていた。
ある者からは落胆の声が――。
ある者からは大きなため息が――。
ある者からは嘆きの悲鳴が――。
ある者からは大きな罵声が――。
菊花賞を制したのは、逃げるミホノブルボンをゴール手前で捉え、二番人気8番ライスシャワーだった。
ライスシャワーはレコードを叩き出し、いかんなくその実力を持ってして、ミホノブルボンを打ち破ってみせた。
そして人々がミホノブルボンに乗せた、無敗の三冠ウマ娘の夢は潰えしまったのだ。
ゴール直前までは割れんばかりの歓声が上がっていたのにも関わらず、栄誉ある勝者への祝福の声が、この場では一切上がらなかった。
観客席でキョウエイボーガンの勇姿を見届けていたバニータルーブルは、この流れている空気の異様性に内心苛ついていた。
「……ちっ、レコード出して勝ったってえいうのに、拍手一つも起きやしねえ……。このべらぼうどもめえ……」
確かにラストスパート、ミホノブルボンの脚が鈍った。そのせいでライスシャワーに差された。
キョウエイボーガンとの先頭争いでミホノブルボンが消耗させられていたのは、明白だった。
しかし、だからどうしたというのだ。
三冠に手が届くほど強力な相手に、マークがつくのは必然。
そういった障害すべてを跳ね除けた者が最終的に勝つ……レースとはそういう世界なのだ。
未だに結果を受け止めきれていない観客たちを、バニータルーブルは冷やな目線を送る。
「おい長末……いつまでショック受けていやがるんでえ」
他の観客たちとは内容の異なる事で意気消沈している長末トレーナーを、肩肘を作ってつんつんと突く。
レースが終わった後、スタンドの手すりにもたれかかり、長末トレーナーはうなだれていた。
「はい……。すみません…………」
顔を伏せながら、気のない返事を返してくる。
彼にとって、見守ることがこれほど苦痛だと思ったことはなかった。
先頭から一転、最後尾までずるずる失速し、16着でゴールしたキョウエイボーガンを、途中から見ていられなかった。
もっとうまい作戦があったのではなかったのか……。
もっとトレーニングメニューを、対策を凝らすことができなかったのか……。
そんな後悔の念に、さいなまれている長末トレーナーの姿に、バニータルーブルの怒りの沸点が下がった。
「しっかりしろ、長末! ボーガンは懸命に走ってみせたぞお、胸を張れえ!!」
そう檄を飛ばし、情けなくなっているその背中を思いっきり引っ叩く。
パチーンと爽快な音が響き渡る。
うなだれていた長末トレーナーは、「あいた!」と、衝撃で飛び跳ね起きる。
「……っ――! な、何をされるんですか、ルーブルさん……」
相変わらず力の加減というものを知らない容赦のない平手に、背中を擦りながら非難を訴えかける。
「トレーナーなら、大舞台で奮闘した自分の担当のウマ娘を、誇りに思いなあ……」
今度は優しく肩をぽんと叩く。
そこで長末トレーナーは我に返り、トレーナーである自分がこんな情けない姿をウマ娘たちに見せていけないと、背筋を伸ばして、態勢を改めた。
栄光は勝者一人にしか送られない。
しかしだからといって他の敗者には何も称賛されないというわけではない。
今はただ全力でターフを駆け抜けたウマ娘たちの勇姿を讃えよう。
「……お前らもいい加減、泣きやんだらどうでえ……」
「だ、だってッスよぉ……」
「ボーガンちゃんが~……」
やれやれと隣を見ると、後輩二人――オーサムラフインとアントレッドマーチが二人してぼろぼろ泣いていた。
固唾を呑んで果敢に前をゆくキョウエイボーガンの走りを見守っていた二人であったが、第4コーナーあたりで次々へと追い抜かれていく姿を見て、堪えられなくなり、ついには泣き出してしまっていた。
「たあく、しょうがねえなあ……」
ポケットからハンカチを二つ取り出すと、二人に手渡す。
二人はそれを受け取ると、すぐさま涙を拭いたり、鼻を噛んだりで、ベトベトにして汚す。
同じく大きな舞台で大敗を味わったことのあるバニータルーブルは、キョウエイボーガンの今の気持ちが痛いほどわかる。
そういえばターフを去る時、キョウエイボーガンは頭上を見上げなら歩いていたような気がする。
――負けて悔しいわけがない。
その気持ちをバネにして走れるやつこそが、真に強くなれる。
もう一人の後輩がこれからどう成長していくのか、バニータルーブルは密かに楽しみだった。
「ほれお前ら、ボーガンを迎えに行くぜえ……」
とはいうものの……まだお互い顔を突き合わせるには早いのかもしれない。
今は少し、互いの流れる雫が乾いてからにしよう。
気を落としているチームの後輩と大の大人一人に活を入れながら、バニータルーブルたちは、激闘を終えたキョウエイボーガンを迎えに、地下バ道へゆっくりと向かうことにした。
未だ波紋が渦巻く京都レース場……。
記念すべき祭典は一転、悪夢へと変貌した。
人は誰かに何かに自分の夢を重ねる――重ねすぎる。
そこには膨大な塊、エネルギーが込められる。
夢破れ、反動大きく、行き場の失ったエネルギーは怒りとなり……やがて悪意となる。
そしてこの膨れ上がった悪意の矛先は、必ずどこかへと向けられてしまう……。
世間を騒がす大きな荒波になる……そう嵐の予感を感じずにはいられなかった。
reonhaitoさん、誤字脱字報告ありがとうございます!(2022/8/12)