【完結】愛するものを守るために   作:神楽 光

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 初めましての方は初めまして。
 他作品を読まれている方は誠にありがとうございます。
 アイデアが湧き出てきた為に他の作品ほっぽり出してずっとこれ書いてました。
 そのお陰でタグにもある通りこの作品は既に書き終わっています。
 楽しんで読んでもらえれば幸いです。
 1日1話更新していく予定です。どうぞお楽しみください。


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 初めは分からなかった。ここがどこで、周りに居るのが誰なのか。

 自身の体を見て、悟った。自分は、艦これの世界に来たのだと。自分は───駆逐艦"時雨"なのだと。

 どういうわけか、僕は艦これの駆逐艦"時雨"に転生してしまった。

 

 生前はよく覚えている。病弱で、ほとんど誰かと遊んだことなんてなかった。僕の人生の半分以上は病室にいた。

 親はいい人だった。母の口癖は『強い体に産んでこれなくてごめんね』だった。父の口癖は『きっと治るから』だった。

 ごめんね。父さん、母さん。こんな病弱な体で生まれて。負担をかけて。親孝行できなくて。ごめんなさい。

 

 僕が病室にいた間、父さんがPCやゲーム機を持ってきてくれた。日がな一日、ずっとゲームをしていたことを覚えている。

 そのゲームの中に、艦これがあった。

 正式名称は艦隊これくしょん。略して艦これ。大戦以前の軍艦を女の子に擬人化し、プレイヤーは提督として彼女らを指揮し、深海棲艦と呼ばれる謎の異形の敵を倒していくゲーム。ジャンルとしてはシミュレーション。そんなゲームは見事に僕の心を掴んだ。

 みんな可愛かった。轟沈者がいないと言えば嘘になるし、そこまで良いと言える提督ではなかったけど。それでも僕は彼女達が大好きだった。

 

 そして、僕はその世界に来た。

 最初は狂喜乱舞した。満足に動かすことが出来なかった体が、常人以上の体になったし、女の子の体だけどそんなことが気にならないくらい現実で彼女らと触れ合うことに喜んだ。

 だけど、現実は違った。

 僕が時雨として着任した鎮守府は二次創作などでよく題材にされるブラック鎮守府だった。いや、もうブラック通り越してダークネスかもしれない。

 大艦巨砲主義、使い捨て駆逐艦、性的暴行、暴力、艦娘兵器扱い、罵詈雑言、盾艦。オンパレードだった。前世の二次創作のブラック鎮守府全てを詰め込んだみたいな。そんな感じの鎮守府だった。

 僕は傷つく彼女らを見たくなくて、その全てを背負い込んだ。

 性的暴行は僕を対象に。他の駆逐艦が沈まないように砲撃を一身に受けたり。その暴力が他の娘達に向かないよう僕が庇って。

 僕が建造されたのは初期の方だったのか、初めは数人しか鎮守府には存在していなかった。

 だけど数年も経つと多くの艦娘が建造されて、彼の、提督の気性も激しさを増していった。

 死にたかった。しんどかったし、あんな奴に処女を散らされたのも悔しい。性行為は痛いとしか、気持ち悪いとしか思えないし。彼女たちがいなければ僕の心はとっくに折れて、自殺を敢行していただろう。

 彼女たちがいたから頑張れた。耐えられた。

 だけど、彼女達の心の内は違った。

 どうやら僕が来てから、()()()()()()()()()()()()()のがおかしく感じれたらしい。そして僕の戦闘も。同部屋の夕立曰く、常軌を逸している、と。愛故に、と言うしかないけど、そんなことは彼女達にはわかりはしない。だから、変な噂が流れた。

 時雨は、深海棲艦の内通者、或いは深海棲艦そのものではないか、と。

 それから、僕には常に疑いの眼差しが向けられた。

 時には演習で集中砲火を浴びたり。

 時には実践で流れ弾に当たったり。

 時にはフレンドリーファイアで体を焼かれたり。

 それでも、僕は耐えた。だって僕の望みは、彼女らの幸福だから。

 僕を虐めることで、貶すことで、その精神を保てるのなら。

「………ねぇ、時雨」

「ん? なんだい?」

 ある時、夕立が聞いてきた。その時僕は中破状態で、夕立に包帯を巻いてもらっていた。

「………どうして時雨は、私たちを守るの。こんなになってまで、守ろうとするの」

 沈んだ声で、泣きそうな声で、夕立は言った。

「そうだねぇ……好きだから」

 極力、なんでもない風を装って言う。

「え?」

「僕はね、夕立のことが大好きだよ」

 目を合わせて、夕立の目をしっかりと捉えて。

「え、あ、ああ、わ、私も……」

 恥ずかしそうに頬を赤らめながらも、夕立は言ってくれた。可愛い。

「愛してるって言ってもいい。僕は、艦娘のみんなを愛してるんだ」

「………?」

「好きで好きで大好きで、愛してるからこそ、僕はみんなに幸せになってほしい」

「……幸せ?」

「そう。きっとこの状態は長続きしない。だから、それまで生きててもらうために、僕は君たちを守るんだ。幸せに、なって欲しいから」

「……んー。よく、わかんないっぽい」

「今はそれで良いよ。いつか、わかる日が来るから」

 頭を撫でて諭す。夕立は気持ちよさそうに目を細めた。

「さて、食堂に行ってくるよ」

「わかったっぽい! 待ってるね」

「うん」

 それから僕は食堂に行ってご飯を作って、部屋で食べた。

 

 僕の朝は早い。総員起こしが鳴るよりも遥か前に起床する。

 着替える前に食堂へと向かい、間宮さんと鳳翔さんとともに朝ご飯を作る。もちろん提督には黙って行っていることだ。彼は管理が杜撰だから容易にこのようなことができる。ただ、あまりに消費が激しいとバレるからできる限り少なくしているけど。また、本来は燃料や弾薬、鋼材を食べさせるという鬼畜仕様だったけど、何とか食料供給を行わせることに了承させた。……犠牲は払ったけどね。

 それから各部屋に持っていく。食堂で食べると彼が来た時にバレる可能性が少なからずある。そもそも彼はここまで来ることはあまりないけど。

 朝食を食べ終わった後は出撃の準備。装備を綺麗にしたり、夕立を起こしてご飯を食べさせたり、今日の予定を伝えたり。その後はお昼休憩まで出撃の繰り返しだ。どれだけ疲れていても、それが命令だから従うしかない。僕が他の子たちの肩代わりをしているせいとも言えるけど。

 昼休憩が終われば再び出撃の繰り返し。偶に演習をするときもあるけど、今日は出撃だけだった。22時まで戦った後、報告書を書いて提出。怒鳴られて明日の用意をして、また提督室に向かう。そしてその欲望のはけ口になる。これが僕の日常だ。

 明日もそうなる。寝る前にそう考え、なかなか寝付けないこの体を少し恨みながら意識は暗闇に落ちていく。これが僕の日常だ。

 

 朝。ざわざわとした騒音で起きた。いつもよりも少し早い時間。

 窓の外を見ると、黒い護送車が複数止まっていた。なんだ? と思う間もなく鎮守府から白い制服を着た男が二人の憲兵らしき人物に挟まれて車へと向かっていた。そして車へと着いたとたんに後部座席に押し込まれた。

「あれは……提督?」

 他の憲兵も車へと乗り、護送車はどこかへと行ってしまった。

 何があったのかまったくもってわからなかったが、いつも通りのルーティンを熟すために、僕は食堂へと向かった。

 食堂へ着くと、既に間宮さんと鳳翔さんは支度をしていた。

「おはようございます。間宮さん、鳳翔さん。あれ、こんなに作るんですか?」

 彼女らの前にはあったはあったが使う機会のなかった大きな皿があり、その上には山盛りのチャーハンがある。

「あら、時雨ちゃん。おはよう」

「おはよう。時雨ちゃん。そうなの。みんながいっぱい食べれるように、ね」

 鳳翔さんはフライパンを動かしながら、間宮さんは具材を切りながら挨拶を返してくれた。

 さっきの光景と何か関係があるのだろうか。そんな風に考えたけど、僕にできることはたかが知れている。だから僕も一品作ることにした。

「じゃあ僕はお味噌汁作りますね」

「いいのよ? 休んでいても」

 鳳翔さんが僕を心配げに見つめて言ってくる。その心配がとても嬉しい。

「大丈夫ですよ。僕がやりたくてやってるので」

 そう答えながら味噌汁の準備をしていく。

 それから十数分かけて大量の味噌汁を作り、各部屋へと運んでいった。

「あ、時雨ちゃん……」

 カートを押しながら食堂へ戻る最中に、廊下を歩いていた吹雪と出会った。

「吹雪、おはよう。今日はいっぱいご飯食べれるって」

 僕はそう言って吹雪の脇を通ろうとして、肩を掴まれた。驚いて足を止め、彼女の顔を見る。

「そ、その……」

 何かを言いたい、だけど言葉が出てこない。そんな風な表情をして、吹雪は俯いた。

「……大丈夫だよ、吹雪」

 安心させるように、未だ僕の肩を掴む吹雪の手を優しく包み込む。

「焦らなくていいよ。待ってるから。言いたいこと、ちゃんと言って」

 極力、優しい声音で言い聞かせる。

「……時雨ちゃん。その、司令官が変わったの。次の司令官がどんな人なのかわからないけど……その、時雨ちゃんに負担をかけるようなことには、ならないから」

 吹雪は今にも泣きそうな顔で僕に訴える。吹雪はこの鎮守府の最古参。つまり前提督の初期艦だ。そして、彼からの被害をいの一番に受けた少女でもある。だからこそ、僕のこともよく見ていたのだろう。彼女とは長い付き合いなのだ。それくらいは、わかるのかもしれない。

「そっか。ありがとう吹雪。このカートを返しに行ったら提督に会いに行ってみるよ。部屋にご飯を届けているから是非食べてね」

 彼女の頭をひとなでして、言う。

「……うん。ありがとう、時雨ちゃん」

 それから僕は吹雪と別れてカートを返し、執務室へと向かった。

 起き抜けに見たのは、恐らく連行されている最中だったのだろう。そして、鎮守府と言うものは艦娘を指揮する者が居なければ立ち行かなくなる。ほとんど前線と言ってもいいこの場所で、そんなことをさせるわけにはいかないだろう。つまり、連行すると同時に着任も済ませる筈だ。そして、着任の挨拶の場所は一つしかない。それが───執務室だ。

後日談はあり? なし?(20日まで)

  • 書いてほしいかな
  • どちらかと言えば?読みたいかも
  • あー、別に?あったら読むかもね
  • いらんいらん。後日談は蛇足だから
  • 読まないね
  • 艦これの他の作品も読んでみたい
  • どーでもいー
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