【完結】愛するものを守るために   作:神楽 光

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 超長いです。


最終話

 衝撃だった。それは提督も、夕立と長門を除く艦娘も、同様の衝撃を受けた。

 今現在、第一艦隊が相対している敵艦が───『時雨』であるということに。

『長門! それは本当なの!?』

 提督が長門に真偽の問をする。

『ああ。恐らく、としか言いようがないが……』

 歯切れが悪いながらもしっかりと話す。その声色はほとんど確信を持っていた。

『……』

 提督は何も言わない。否、何も言えない。それは懺悔からか、はたまた喜色からか。それは本人にしかわかりえない。ただ、事実として。鎮守府でトップの実力を持ち、鎮守府を守り続けた存在は───深海棲艦に、堕ちていた。

『提督。私は、彼女を倒すべきだと思う』

『……ッ!』

『長門! 貴女何を言っているかわかってるの!?』

 長門が提督に意見を具申すると、それに長門の姉妹艦である陸奥が食って掛かった。

『わかっている。だが、これはなさなければならないことだ』

『どういうことよ!?』

『……提督。貴女はわかるだろう?』

『……』

 長門の問いかけに対して、提督は沈黙する。それは、提督にも長門と同じ考えがあった為だ。それを為したくない気持ちと、国を思うならば為さねばならぬ気持ちがある。相反する思いに挟まれて、提督は何も言えないでいた。

『……提督。貴女が背負う必要は無い。私が、全てを背負おう。恨んでくれて構わない』

『……長門……?』

『長門! ちゃんと説明して! 貴女、一人で何かをしようとしているでしょう!?』

 陸奥は長門の心の裡を正確に読み取り、それは危険だとして長門を止めようとした。

『……陸奥。わかった』

 長門は必至な顔をして縋る陸奥に諦め、説明を始めた。

『……彼女は、"時雨"は柱島鎮守府で最高の戦力だ。そんな戦力が敵の手に落ちた。それは偏に世界の危機ともいえる。前線である鎮守府の、最強ともいえる艦なのだから。だから、彼女を倒すのは私たちでなければならない』

『そ……れ、は……でも』

『それに、私は……私たちを大切に思ってくれていた彼女が、誰かを傷つける姿を……見たくない』

『……っ』

 長門を除く話を聞く艦娘全員がその言葉に息を呑んだ。

『そう、ね……』

 今、この時。柱島鎮守府に所属する全員が意見を一致させた。

『……罪を被るのは、私だけでいい』

『貴女ばかりに、いい格好はさせないわ。それに……"時雨"だったらきっと手伝うって言うでしょうし』

『……ふっ。そうだな……さぁ、全員。準備はできたか?』

 そんな長門の言葉に応えるように、第一艦隊は気運高く叫ぶ。

『夕立』

『……大丈夫っぽい……うん。私も、時雨が誰かを傷つけるところは見たくないから』

『そうか……無理はするなよ』

『それは長門もっぽい』

『ははっ。そうだな』

 長門は夕立から離れ、単縦陣の隊列となる。最後に、長門は提督に聞く。

『提督』

『……ええ』

『……では、戦艦長門。参る!』

 こうして、新たな姫級の深海棲艦───元、駆逐艦時雨との戦いは幕を開けた。

 

「はぁ……」

「司令官。 どうされたんですか?」

「え? あぁ、吹雪ちゃん」

 あくる日、とある鎮守府の提督が執務室でため息をついていた。それに気づいた秘書艦である吹雪が提督に話しかける。

「いやぁ……ポーラちゃんがね……」

 死んだ魚の目でそう言う提督。持っている書類にはどうやらポーラのことが書かれているようだ。

「あぁ……」

 吹雪も納得し、提督と同じ目になる。

 というのも、ポーラという艦娘は飲兵衛であり、酒関連でいろいろと問題を起こすのである。海上では強力で頼りになる存在ではあるが、同じ人種の飲兵衛達と連なって問題を起こすのである。

 そして今回もそれであった。

 ポーラがしたのは工廠に密造酒を保管していたことである。装備を改修していた明石が偶然見つけたのだそうだ。

「一週間禁酒の刑にするかなぁ……」

 飲兵衛にとってはそこそこ重めの罰を口にしながら提督は執務室から見える海を眺めた。

 元時雨である深海棲艦を撃破してから二年。新たな艦娘も多く入ってきていて、総勢300名を超えた。時代も変化し、艦娘は大切に扱われるようになってきた。元々その風潮はあったが、完全に風向きが変わったのは、横須賀鎮守府の提督が死にかけてからだった。その横須賀鎮守府の提督は艦娘に謀反を起こされたわけではなく、他鎮守府の提督の暴走により死にかけたそうだが。しかし、この事件が決定的となった。

 彼女が居ない世界の弊害は強いが、それでも何とか鎮守府を回せている。提督は一度も彼女のことを忘れたことは無いし、鎮守府では年に一回彼女に追悼の念を送っている。

 

 彼女を打ち倒し、周辺を捜索すると第一艦隊が地下へと続いている巨岩を発見。中へ入るとそこには多くの艦娘が生活していたという。所属は無く、恐らくドロップ艦たちだろうと提督らは結論付けた。そして彼女らを柱島鎮守府へ招き、話を聞いた。すると元時雨が柱島近海の深海棲艦を減らしていたことが発覚した。そして彼女らは提督らの予想通りで、ドロップ艦だった。しかし、彼女らを拾ったのが、元時雨の深海棲艦だった。

 時雨は深化していてもその心の裡はやはり時雨であったと知り、この話を聞いた全員が涙を流した。

 そうして艦娘が増え、攻略する海域も増加し、海外艦も着任数が増えていた。ただ、柱島には『時雨』が居ない。ドロップでも、建造でも、着任することは無かった。

「はぁ……さて、いつまでもこんなんでいたら時雨に怒られちゃうね」

「そうですよ、司令官。時雨ちゃんは……きっと、苦笑しながら手伝ってくれますから」

「うん……あ、そういえば今日だっけ」

 提督は何かを思い出したのか、書類の山を漁りだした。

「……? 何がですか?」

「いやぁ、ね。先週か先々週くらいに陸軍の艦娘が着任するって話をね~」

「陸軍……ですか?」

「陸軍って言っても所属は大本営だけどね……確か、()()

「多いですね」

「まぁ、あの時と比べたらましだと思うけど」

 提督の言うあの時とは、元時雨の深海棲艦に拾われた艦娘達のことで、柱島鎮守府にずいぶんと馴染んでいる。

「あぁ……まぁ、そうですね……それで、その方たちが今日来るんですか?」

「うん。多分ね。……あ、あった。お昼ごろか。なら歓迎パーティーの準備でも主計課に頼むかー」

「あ、私が頼んできますね」

「宜しく~。私は放送でも流すか」

 吹雪が執務室を出て、提督はマイクに電源を入れて今日の予定と新たな艦娘の着任を知らせた。

 それから数時間が経過して、昼前。

「お、そろそろかな……。吹雪ちゃん、門のところで待機しといてくれる?」

「はい! 了解しました」

 吹雪は元気よく応え、早速とばかりに走ってゆく。

「うーんと、部屋はあそこで良くて……軋轢が生まれないかどうかかな、問題は」

 提督の悩みは尽きない。それは海外艦だったり、既存艦だったり。毎日問題が起こるからである。所属艦が多いということは、それだけ問題も多く出る。

「あー……でも、時雨だったら。弱音なんか絶対はかないよね」

 そんな時にいつも提督が思い出すのは時雨のこと。時雨ならば。そんな言葉を口に出していつも難題を乗り越えてきた。

「はぁ……わかっては、いるんだけどね」

 今でも時雨に縋っている。それを提督は情けないと思っていた。

「ふぅー……よし! 切り替え切り替え」

 こんな顔で会うわけにもいかないし、と言葉を続けて提督は自身に活を入れた。

 一方吹雪の方は、あと少しで来るという艦娘らの迎えの為に門の外で立っていた。

 十数分もせずに遠目に黒塗りの車が見えてくる。吹雪はその姿を確認して、敬礼を取った。

 数分して吹雪の前に車が止まり、ドアが開く。

「こんにちは。今日より柱島鎮守府所属となる陸軍特種船、その丙型のあきつ丸であります。宜しくお願いしますであります」

「こんにちは! 私は柱島鎮守府第二遠征部隊旗艦及び橘提督現秘書官の特型駆逐艦吹雪です! 宜しくお願いします!」

「ほぉ……旗艦でありながら秘書艦でもあると……おっと、失礼しました。後他に3人いるのでありますが案内をお願いしてもよろしいでありますか?」

「はい! 大丈夫ですよ、提督からお聞きしているので」

「ではお願いするであります」

「他の方々の紹介は道中お願いしてもいいですか?」

「了解であります」

「では付いてきてください!」

 吹雪とあきつ丸が会話をしている間に、車から他の3人も降りてきていた。その内の1人───フードを深く被っているため、顔を知ることのできない恐らく艦娘だろう人物が運転手にお礼を言っていた。

 吹雪に続くようにして大本営より送られてきた艦娘らが鎮守府へと向かう。

「あ、そういえば……ようこそ! 柱島鎮守府へ!」

 大きな建物を背景に、くるりと反転して4人の艦娘達に告げた。突き抜けるような青空、歴史を感じる立派な建物。その中心に目が醒めるような美少女。それはまさに、1枚の絵のような情景だった。

 それから執務室へ向かう道中、4人は自己紹介をした。

「陸軍特種船上陸用船艇母艦、現代で言う強襲揚陸艦、その一番艦の神州丸です」

「三式潜航輸送艇潜水艦のまるゆです」

「……」

 最後の1人だけは改めて別の時間に紹介するということに吹雪は疑問を感じたが、特段気にすることも無いと思いなおし、執務室へと案内する。

「提督、お連れしました」

「どうぞ」

 吹雪が3回ノックした後、室内へと呼びかける。扉があるためにくぐもって声ではあったが、提督は入室の許可を出した。

 両開きの扉の片側を開け、全員が室内へと入る。

「ようこそ。我が柱島鎮守府へ」

 4人が入ったのを見て、提督はそう言った。

「今日より柱島鎮守府所属となる陸軍特種船、丙型のあきつ丸であります。宜しくお願いしますであります」

「同じく陸軍特種船上陸用船艇母艦、現代で言う強襲揚陸艦、その一番艦の神州丸です」

「同じく、今日より柱島鎮守府所属になります三式潜航輸送艇潜水艦のまるゆと申します! これからよろしくお願いします!」

「ああ。宜しく頼むよ。ん? もう1人は?」

 提督はそう言いながら執務机に近づき、紙を4枚取り出す。

 ピクリとフードの人物は反応し、三人に目配せする。それに対して三人とも頷き、立ち上がった。

「では先に署名させていただくであります」

 3人ともペンを借り、自身の名を書く。

「うん。これで晴れて君たちは私たちの鎮守府───柱島鎮守府の艦娘だ。これからよろしく頼む」

「こちらこそよろしくお願いするであります」

 あきつ丸と提督がガッチリと固い握手をした。

「あきつ丸、神州丸、まるゆが鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮下に入ります」

 吹雪が高らかに宣言する。

 

「さてさて……吹雪殿? この鎮守府を案内してくれませんかな?」

「え、わ、私ですか!?」

「そうであります」

「あー……えーと……提督?」

「ええ。行ってらっしゃい」

 吹雪は提督に判断を伺い、それに対して提督は大きく頷いた。何かしらあるのだろうと察したからだ。

 吹雪は三人を連れ立って執務室を出ていった。

「それで?」

「……」

 提督は執務机の椅子に座りながら問う。

 フードの人物は執務机の真ん前に立ち、そっとフードを取った。

「……え」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 提督は言葉を失い、ただ呆然とその人物を見つめる。

「白露型二番艦、駆逐艦『時雨』。()()柱島鎮守府に着任しました」

 時雨はやんわりと微笑みながら綺麗な敬礼をして宣言した。

「し……ぐ、れ……」

 わなわなと震えながら立ち上がり、割れ物に触れるようにそっと手を伸ばす。

「ほんとうに……本当に時雨なの……?」

「そうだよ。体は別だけど、心は僕だ」

 いつしかその手は時雨の腰へと回り、抱きしめる。

「時雨……しぐれぇ……!」

「……」

 提督は力いっぱいに時雨を抱きしめ、涙を流す。

 何度も何度も名前を呼ぶ。

 時雨は頭を撫でながら、抱きしめ返す。

「ひっぐ……うう……時雨ぇ……」

「……うん」

「なんで、いなくなったのよぉ……どうしておいていくのよぉ」

「……うん」

「貴女がいなかったら……私、何にも、できないのにぃ」

「……うん」

「いなくならないでよぉ」

「……大丈夫。もう、いなくならないよ」

「うわあぁぁぁぁん!!」

 執務室に、鳴き声が木霊した。

 

 

 

 

 これにて、物語は終わる。

 時雨という艦娘となった転生者は、後にブラック鎮守府と呼ばれる場所に所属することになった。

 前世、彼がこよなく愛したゲームの登場人物らを、彼は悲しませたくない、苦しめさせたくない一心で、提督からのあらゆる責め苦を耐えた。更に不運にも、誤解した一部の艦娘により彼は仲間からの攻撃にさらされる。それでも彼は助けたい、救いたい一心で生き抜いた。それ故か、誤解は解け、提督は憲兵に捕まった。

 新たな提督が着任し、短い付き合いながらも彼は現提督が信頼に足ると考え、ある海域へと向かう。そこで嵐に見舞われ、更には"姫"級の深海棲艦とも戦うことになる。彼の命はなくなったかと思えば深海棲艦として生きながらえ、敵となっても艦娘らを守ろうと考えた。そして、その彼女らに打倒され、艦娘としての人生を終えた。

 しかして輪廻は廻り。またしても()()を果たす。記憶を持ち、新たなる()()として。

 彼女はきっと、これからも艦娘を守ろうと動くだろう。それでも、その人生───いや、艦娘生は前世よりも、前々世よりも、華やかで、キラキラと輝いたものになるだろう。何故なら───。

 

「絶対誰にも時雨は渡さないっぽい!」

「はぁ!? 時雨はあんたのじゃないでしょ!?」

「時雨。こちらに。私の膝の上に」

「加賀さん! 何勝手に時雨を膝に乗せようとしてるの!」

「この長門も参加しよう」

「だったらあたしも!」

「てやんでぇ! あたいだって時雨姉のこと……うん……」

「涼風……」

「わ、私だって!」

「なのです!」

 

 

 

 

 

 

 

 ────こんなにも、愛されているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、時雨」

「なんだい?」

「私、あなたのことが好き」

「……それは」

「もちろん、女同士でーとかは思うけど。それでも私はあなたが好き」

「……うん」

「あなたのことが頭から離れない。あなたのことしか考えられない。狂おしい程に、あなたが好き。愛してる」

「……」

「ねぇ時雨。私、返事が聞きたい」

「……僕は───」

 

 

 

 

                    ─完─




 ここまでお付き合いありがとうございました。
 最後、時雨が何と答えるのかはご想像にお任せいたします。
 後書きでダラダラ話すのも嫌なので取り敢えず言うことは───完結できてよかった。賛否両論別れるかとは思いますが、この小説に関してはこれで終わりです。

 後日談などはアンケート結果によりますね。
 最後に、他の作品もキチンと完結させますので(いつになるかはわからないけど)待ってもらえれば幸いです。
 もう一度、ありがとうございました!

 アンケート結果的に後日譚を書くことになりましたので、書き上げたら順次投稿いたします。

後日談はあり? なし?(20日まで)

  • 書いてほしいかな
  • どちらかと言えば?読みたいかも
  • あー、別に?あったら読むかもね
  • いらんいらん。後日談は蛇足だから
  • 読まないね
  • 艦これの他の作品も読んでみたい
  • どーでもいー
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