硝煙の香り。血の匂い。充満して、潮を含む風が吹き流す。
聞こえるのは悲鳴と砲音。絶叫と波の音。
聞きたくない。見たくない。感じたくない。
そこは───戦場だった。
僕に向かってくる砲弾に向けて、12.7cm連装砲を向ける。発砲。
弾は真っ直ぐに飛び、砲弾と接触し、爆発を起こした。
前へ進む。戦艦ル級に迫り、至近距離から何発も砲弾を当てる。
全てがクリティカルヒットし、戦艦ル級は海に落ちていった。
まだ。まだ。
雷巡が仲間を狙う。重巡が友を狙う。空母が皆を狙う。駆逐が、潜水艦が、軽巡が、僕が愛する娘達を、殺そうと狙う。
許さない。そんなことは許さない。絶対に。
『あああああああああ!!!!!』
絶叫を上げ、僕に注意を向けさせる。
雷巡の魚雷が、重巡の砲塔が、空母の攻撃機が、駆逐の砲身が、潜水艦の魚雷が、全てが僕に向けられる。
それでいい。全て、避けきり、お前らを殺す。さぁ、来い。
止まない雨は、無いのだから。いつかこの戦いも、終わる日が来るのだから。その日まで、僕は戦おう。愛する者たちの為に。例えどれだけ罵られようとも、蔑まれようとも、惨い仕打ちを受けようとも───その、愛する者たちから敬遠され、敵扱いをされようとも。
雷撃を飛んで避け、空中にいる間に機銃で攻撃機を墜とす。着地してすぐ様連装砲を発砲。狙いは放たれた砲弾。着弾。爆発。爆雷を落とし、駆逐艦に再装填した砲弾を放つ。魚雷は雷巡と重巡へ。最後に、軽巡だけが残った。
『逃げるな』
最後の魚雷を放ち、逃げ出した軽巡へ当てる。
結果、轟沈者0、大破1、中破3、小破1、無傷1。僕らは辛くも、勝利を得た。
帰投し、報告書を纏め、身綺麗にして執務室へ向かう。
暴言を吐かれ、暴力を振られ、性欲の捌け口にされる。
泣き叫びたい。全てを投げ出したい。
何度も思った。何度も考えた。でも、できない。
こんな環境に、彼女達を置いておきたくない。彼女達をこんな目に合わせたくない。
だから耐える。我慢する。どれだけ辛くとも。どれだけ苦しくとも。君たちが笑顔でいられるなら。生きていられるのなら。それだけで。
どうしてそんな目で見るんだい? あぁ、わかっている。君たちには僕が
僕が放つ砲弾は全てが致命傷を与え、僕に当たる砲弾は無く、魚雷も全て逸れていく。唯一、ほぼ無傷で生還し、尚且つ休むことなく出撃する。そりゃあ、バケモノに見える。あぁ、だから。だから僕は
涙が零れたよ。でも、それで君たちが救われるなら、甘んじて受けられた。
だから。だから。もう、
ハッと目が覚めた。気づけば涙を溢していて。僕の目は赤く腫れていた。時刻はいつも通りの時間だった。
顔を洗って、目が腫れたのを隠す為に化粧をして。そして食堂へ向かう。
やっぱり既に鳳翔さんと間宮さんがいて、僕も一品作って。日が昇った。
また、一日が始まる。でも、きっと大丈夫。だって、初めて会ったあの提督は、僕の志を理解してくれるから。大丈夫。もう、
でもまさか、女性の提督がいただなんて……思いもしなかったなぁ。
目の前に天使がいた。
朝、私の体を少し揺らして優しく起こされた。目を開けて、最初に飛び込んだ景色が───微笑む大天使シグレエルだったのだ。
本当にいい目覚めだった。私は朝に弱く、尚且つ艦娘には総員起こしがあるが艦娘以外にはそれは聞こえないのだ。それ故、誰かに起こしてもらわなければ。そしてそれをしてくれたのが時雨だったのだ。
それは兎も角今日することは何もない。私は書類仕事をしなければならないが、彼女らには休養を与えているために、何もすることが無いのだ。各々自由に過ごしてもらう。
そうしたかったのだけど……。
「僕は手伝うよ。一応、秘書艦だったからね」
時雨はいい。手伝ってくれるというのだから。その好意に甘んじる。
「何すればいいの?」
そう、これだ。今まで休むことが無かったからか、もしくは休みがあっても何も与えられることが無かったためか、「何をすればいいのか」と聞く娘が多かった。ここから改善しなければならない。そう思うしかなかった。
まぁ彼女らが聞いてくるたびに時雨が案を出してくれたのだけれど。ありがたい。まずはショッピングかなぁ……。
そんなことをしながら書類を片づけていれば既にお昼だった。
「提督。ここで食べるかい? それとも食堂で?」
時雨がそう聞いてきたので、悩んだ。
食堂で食べた方が彼女らとコミュニケーションをとって、友好を深めることができるだろう。しかし、彼女らの精神は今のことろ不安定と言わざる負えない。そんなときに私が出て行っても大丈夫だろうか? しかし、今だからこそ、と言うのも……。
「大丈夫だよ。きっと」
時雨が、私の悩みを見抜き、そう言った。やっぱりその所作には、慈愛が多分に込められている。
「……そう。貴女が言うのなら、食堂で食べましょうか」
机の上を片づけ、時雨と連れ立って食堂へ向かおうとした。しかし、私の隣に彼女はいなかった。不思議に思って、振り返る。
「……時雨? いかないの?」
「……うん? ああ、僕はいいよ」
彼女は寂しそうに、今にも泣きそうな顔でそう言った。
呆然とした。今まで彼女は他の娘らに慈愛の目を向けていたのに、それが今、嘘のように消え、悲痛に耐える顔をしている。
「ど、う、して」
どうにか動揺しながらもそう言葉にした。
「……僕は、別のところで食べるから。どうか彼女たちと仲良くしてね」
そう言って時雨はその場を去った。私は、追いかけることができなかった。
昼食を終え、仕事を再開する。時雨は私が戻ってくる前に既に執務室にいた。一体どこにいたのだろうか。
聞こうにも、聞けない。そんな雰囲気を感じる。
そういえば、長門から話を聞いていなかった。彼女は、この鎮守府の闇そのものだと。
今は、聞くのが少し怖い。どうして、彼女は闇を抱えているのか。その原因は何なのか。
仕事が一段落し、後は明日に回して終わりにしようとした。時雨を部屋に帰らせ、窓から入る夕陽を眺めていると、執務室の扉をノックする音が聞こえた。
どうぞ、と言って入室を促す。入ってきたのは昨日の面々だった。
「提督、すまない。昨日の話の続きをしに来た」
「ッ………!」
入室してきた長門の言葉に息を詰まらせる。丁度そのことを考えていた。驚き、しかし一度深呼吸をしてもう一度長門を見る。覚悟を持って、聞く。
「……聞かせて頂戴」
入室してきた四人をソファに座らせ、私自身も執務机の椅子に深く腰かけ、長門の言葉を待つ。
「……時雨は、ここへの着任が早かったグループに分けられる。つまり、古参の部類だ。それも、最古参と言える、な」
私が着任する以前の話は聞いただけなのだが、長門はそう言って話し始めた。長門が言うには、時雨は初期艦の次の次くらいに着任したらしかった。着任当初は海域攻略や近海哨戒などで忙しく、ほぼ毎日出撃していた。そして、前提督の悪行は
大破状態でなければ入渠はさせてもらえず、一日に休みなく何度も出撃し、休暇など存在しなかった。前提督に報告をしに行くたびに暴力を振られ、暴言を吐かれ、夜伽を強制させられる。彼女は泣き言一つ言わなかった。
だが、ある時こんな噂が流れた。時雨は、深海棲艦ないしはその手先ではないか、という噂が。
「そんな筈!」
思わず、私は叫ぶ。長門は冷静に言った。
「わかっている。彼女がそんなことをするはずがない。最古参でもある彼女が私たちを裏切る理由などない。……だが、彼女よりも後に着任した艦娘はそんなことは知らないのだ。時雨の、彼女の戦闘を間近で見た者がそう思っても仕方のないことなのだ」
長門は沈痛な表情で、言葉を絞り出していた。
時雨は、その噂のせいで一度───いや、何度も。
それは例えば、戦艦の三式弾による焼夷攻撃であったり。潜水艦、駆逐艦、雷巡の魚雷であったり。空母の爆撃や銃撃であったり。軽巡、重巡の砲撃であったり。ほとんど全ての攻撃が時雨を襲った。彼女は何度もボロボロになった。それでも、それでも時雨は何も言わなかった。弁明も、反撃も、反論さえもしなかった。
その噂はすぐさま消えた。彼女がこの鎮守府を支えている要であるという情報が広まったためだった。
だが、噂のせいであったにせよ彼女に傷を負わせた負い目があるからか、艦娘たちは時雨とまともに話すことができなかった。彼女はその思いを汲んで、時に艦娘たちに親身になったり、時に全く関わらなかったり。つまり、艦娘たちの望む行動をしていた。一部の艦娘はそれが分かっていた為に、余計拗れてしまったところもある。ほとんどはその一部の艦娘の自己嫌悪だったりするが。
「今話せるのは、ここまでだ」
長門は苦虫を嚙み潰した顔で嘆息する。私も同様に苦い顔をして、黙ってしまった。
「……長門。ありがとう。あまり話したくないことのはずなのに」
「……いや、いい。私が知る限りのことを話しただけだ。次は、高雄からの話だろうが……」
そう言って長門は隣に座る高雄に目配せをする。
「……私はまだ、貴女のことが信用できません」
目を伏せ、高雄はそう言った。
「……恐らく、他の面々もそうだろう。だから、今回はここまでだ」
「……わかったわ。あなた達に信頼されるよう努力するわ」
話が終わると長門を含めた四人は連れ立って退出した。執務室に残ったのは私だけだった。
窓に目を向けると、既に日は沈み、夜空には多くの星々が煌めいていた。
本来であれば、街の光で見ることは叶わないだろう。しかし、深海棲艦の影響で、鎮守府の周囲に街の光は存在しなかった。
「……先は、長いなぁ……」
私の小さなため息ともつかない言葉は、誰に聞かれることも無く、執務室の闇に溶けて消えた。
後日談はあり? なし?(20日まで)
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書いてほしいかな
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どちらかと言えば?読みたいかも
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あー、別に?あったら読むかもね
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いらんいらん。後日談は蛇足だから
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読まないね
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艦これの他の作品も読んでみたい
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どーでもいー