……別に他の誰かが書いても良いんですよ?
如月の治療が完了して、二日暇を貰った。と言うのも、桜提督は完全週休二日制をとっていて、その間の秘書艦は別の誰かがすることになっている。
休み、と言ってもこれといって僕にすることなど無い。だから正直何をすればいいのか不明で、現在は鎮守府の散歩をしている。
春だからか、ポカポカとした陽気で何とも眠気を誘う。ただ、今寝てしまえば夜に眠れなくなってしまうかもしれないので、鎮守府の景色を眺めることにする。
鎮守府があるのは山と海に挟まれた場所だ。近くには岬があって、美しい海を眺めることができる。山は山で季節によってその様は変わる。春であれば桜が舞い散り、様々な花が咲き誇る。夏になれば青々とした木々が生い茂り、目の保養になる。秋が訪れれば赤、橙、黄と色鮮やかな色彩が鎮守府を彩る。冬が来ると雪が降って一面が銀世界となる。
こんなにも季節を楽しめるのは、この鎮守府に愛着があるからだろうか。
嫌な思い出ばかりじゃない、そう思えるのは彼女たちのおかげだ。彼女たちがいるから、僕は僕でいられる。壊れないで保っていられる。
少し黄昏ていると、遠くから姦しい元気な声が聞こえてきた。
「やぁ、暁たちじゃないか。どうしたんだい?」
「あ、時雨じゃない! えーとね、今度お花見する話になったじゃない?」
暁はキラキラと目を輝かせて、僕に言う。僕はその話を思い出すために少し視線を外し、すぐに思い出してまた暁に視線を向ける。
「ああ、あったね。よし、ならお花見の時は腕によりをかけて料理を作ろう」
「え、ほんt「それは本当かい!?」」
「やった!」「嬉しいのです!」
暁の声を遮り押しのけて、響、雷、電が喜びの声を上げる。
「ちょ、ちょっと!」
う~、と少し涙目になりながら、それでも気色を表す暁。
ああしかし。もう終わりにしなければならない。
冷たい何かが這い寄ってくる。僕を深淵へ導こうと幾つもの白い手が地面から生えてくる。幻覚だとわかっていても、言い知れぬ不安と、恐怖が僕を襲う。
「ふふ。皆の好きなものを少しずつ入れようか」
それを全て無視して、僕は暁たちに笑顔を向ける。彼女たちの笑みを見れば、僕の『これ』は吹き飛ぶからだ。彼女たちを救うためならばなんだってしよう。たとえこの身が尽きようとも。
さぁ、最後の一仕事をしよう。僕がここに未練を残さないように。彼女たちの笑みが
お花見をした一週間後。僕は海上にいた。
目の前の空は暗雲が広がり、大きな雨粒が僕に叩きつけられている。これ以上ないほどの悪天候。即ち───嵐。そして───深海棲艦。
これ以上の進行は不可能。尚且つ嵐のせいか通信は繋がらない。撤退を余儀なくされる場面、がしかし。僕らは奴らのせいで撤退できないでいた。
うかつに背を見せれば即座に背中を撃たれ、轟沈させられる。だがこの視界が悪い中戦ってもまともに相手どれるとは思えない。ならばどうするか。決まっている。
「夕立。これ、預けるね」
そう言って僕は艤装の中に入っていた妖精さん───ゲームで言うなら応急修理女神を夕立に渡した。
「……え」
夕立は僕のこの行為に理解が追い付かないのか、ただ呆然とするばかりだった。
「長門さん」
「……ッ! ……なんだ」
無理やり夕立の艤装に嫌がる妖精さんを押し込み、長門さんに声をかける。長門さんはビクリと体を震わせ、僕を見た。
「僕が囮になるよ」
「ッ! 許可できん!」
僕がその一言を放った瞬間、長門さんは激情に駆られるかのように拒否した。
「でも、このままだと誰も帰れないよ? 誰かが囮になる以外にここを脱出する方法があるの?」
「そんなのわからないじゃないか! 今、私が考えて───」
「そんなの、敵は待ってくれないよ」
冷静に、冷徹に、突き放すように言う。
「この中で、もっとも機動力に優れているのは、僕と夕立だけ。機動力が優れているってことは生存時間が長くなるからね。それで、夕立よりも、僕の方が
「お前は鎮守府に必要な存在だ! お前が囮になるくらいなら私が───」
「長門」
冷たい声で。僕は彼女の名を呼ぶ。一瞬で場が凍り、誰も何も話せなくなった。
「主力である君が、囮になれるわけがないだろう? ……わかっているはずだ。僕が一番適任だって」
「……ッ」
ああ、そんな顔をしないでくれ。
「だから───」
「許さないっぽい」
僕が言葉を続けようとすると、夕立が遮った。
「……夕立」
「許さないっぽい」
まったく同じ言葉を繰り返す夕立。その顔は俯いているせいで見ることはできない。
「私は、時雨が残る必要はな───」
「長門。秘書艦として命じます。撤退しなさい」
「!?」
「時雨!」
ああ、こんな別れ方、したくなかったなぁ。ずっとずっと傍にいたかった。
僕は彼女たちに背を向け、深海棲艦の方向へ足を向ける。
「まっ───」
長門さん達の静止の声が聞こえてくる。夕立の泣き叫ぶ声が聞こえる。
提督。後は、よろしく頼むね───。
僕は勢いよく海を滑り出した。後ろ髪引かれる思いを抱きながら。
『……ドケ』
「行かせないよ。ここは今から君たちの墓場になるんだからね」
『ナラ、コロス!』
重巡リ級が砲撃を放つ。すぐさま別方向へ舵を切り、避ける。
撃つ。避ける。撃つ。避ける。撃つ。避ける。延々と繰り返す。
だけど、ずっと続けられるわけじゃない。当然のように弾薬は減るし、燃料も消費する。そして───敵の増援。確実に減らしていても、この視界が悪い中、相手も同じ状況だとしても。減るものは減る。そして増えるものも増える。
『……アナタ』
そして、数十時間もたった頃。遂に上位種が現れた。前世の知識を引っ張り出して、現れた『姫』を見定める。
『駆逐棲姫』。春雨がモチーフとされた深海棲艦の姫級。通称『悪雨ちゃん』。
「……ははっ。これも、運命なのかな?」
白露型姉妹の時雨と春雨。僕は運命的なものを感じた。
『アナタ。フツウノカンムスジャナイ。ソノウチニアルモノ。ワタシタチトオナジ』
「残念だけど違うよ。これは僕が溜めていったものさ」
恐らく、転生チートとでもいうのだろう。『誰かの肩代わりをする力』を僕は持っている。その心の裡にある感情を。怪我を。傷を。僕が肩代わりしていた。正しく僕に合っていた力だった。
前世から大好きだった艦娘達の傷を、肩代わりできるのだから。彼女たちが間近で傷つくのを見ないで済むのだから。
『タメテイッタ……?』
「そう。これは本来僕のものじゃないんだ」
『ソウ……ソレデモ、アナタニハソシツガアル』
駆逐棲姫は僕に向かって手を伸ばした。まるでこれからダンスにでも誘うかのように。
『アナタ……コチラガワニツカナイ?』
………。
「……残念だけど。僕は彼女らを傷つけたくないんだ。傷つくのも見たくないんだ。だから、そちらには行けないよ」
『ソウ……ソレハザンネン。アナタヲココデコロスシカナイワ』
「ははっ。やれるものならね!」
飛び出して至近距離で砲を撃つ。それは駆逐棲姫の顔面にクリティカルヒットし、彼女の体力を削る。が、勿論それだけで終わるはずがない。ゲーム風で言うなら小破以下の状態だろう。
撃ち合う。艦なのだからそれしかできないが、ただただ撃ち合う。だが、こちらの方が圧倒的に不利だ。弾薬も燃料も相手より消費しているし、今まで戦ってきた疲労もある。数の上でも不利だ。
避けきれなくて被弾する。疲労で認識が鈍って被弾する。幸運艦のなせる業か、どれもこれもがそう大したことのないダメージだ。しかし、積み重なれば、危うい。
ここで倒しておかなければ。彼女たちの誰かが沈んでしまうかもしれない。そんなことは、許されない。
疲労を無視し、ダメージを思考から排除して、ただただ撃ち、躱す。
「がッ!」
避けきれず、駆逐棲姫の放った砲弾が左腕に当たる。
痛い。苦しい。辛い。それでも、立ち上がれ。
撃つ。避ける。撃つ。当たる。
今度は左肩だ。
避けきれない。魚雷。
まだ、たたかえる。
抗え。戦え。救え。守れ。撃て。避けろ。撃ち倒せ。殺せ。殺せ。憎い。嫌だ。殺せ。殺せ。ころせ。コロセ。コロセ!
「ふざ、けるなぁぁぁ!!!」
意志でねじ伏せて、真正面から駆逐棲姫を狙い撃つ。が、避けられ。砲弾は明後日の方向に飛んで行った。
「はぁ……はぁ……」
立っているのも難しい。海面に横たわり、徐々に沈んでいく。
嵐はいつの間にか過ぎ去り、夕陽が僕たちを照らしていた。
『……アナタハ……イエ、ナンデモナイワ』
霞む視界で、駆逐棲姫を見る。
駄目だ……。行かせない……。あぁ……おわ、り。
天を見上げて、両手を掲げる。夜空に浸食されている空に。
煌めく星を掴むようにして───、
僕は、無意識のうちに、
ゾクリ。そんな悪寒がその場にいた全員に走った。かつてない程の脅威。
『ゼンイン! イマスグコウゲキヲ……』
放て。そう言おうとしたが、気配がないことに気づいた。あたりを見回してみる。───どこにも、仲間が居なかった。残骸すらも、無い。あの沈んでいく時雨の姿も無かった。
『ナッ……! ドコニ……!』
辺りを見回すも、不気味な暗い海が広がるだけ。
ちゃぷん……と、背後で水が揺れる音がする。即座に振り返り、5inch砲を放つ。が、弾は何かに当たることもなく遥か彼方へと飛んで行った。
『……ガッ!?』
唐突に背後から衝撃が来た。同時に、激しい
『アアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』
駆逐棲姫は初めて感じる痛みに海上でのたうち回り、耐えようとする。
幾らか痛みに慣れ、恐る恐る自身の体を見る。腹に、ぽっかりと直径13㎝ほどの穴が開いていた。
これをなした人物を見るために、気配のする方を向く。
恐怖を感じた。恐らく同じ種族だろう。それなのに怖気が止まらなかった。
怒り、憎しみ、悲哀。負の感情全てが駆逐棲姫に向けられていた。
「……あは」
嗤った。
瞬間、元時雨であろう『何か』の姿は掻き消え、再び駆逐棲姫を衝撃が襲った。
吹き飛ばされ、何度も海面に叩きつけられ、体中が拉げていく。既に、痛みは消失していた。
どこまで飛ばされたのか。次第に勢いが収まり、いつしか完全に止まった。
駆逐棲姫は残る力で仰向けになり、空を見上げた。
美しい満月が浮かび上がっていた。
『……ツキガ……月が……きれい」
手を伸ばして、されど届かず。自然と零れた涙は、海水に溶けていった。
前話少し修正しました。
修正部分は秘書艦の出撃に関してです。
ゲーム的には秘書艦ってほぼ出撃ですよね。でも哨戒とか護衛とかは無いので海域攻略以外ではほぼ出撃しないので出撃回数は少ないって感じにしました。遠征とかも第一艦隊はいけませんからね。
他者から見たら確実に狂っている風に見える主人公……。
後日談はあり? なし?(20日まで)
-
書いてほしいかな
-
どちらかと言えば?読みたいかも
-
あー、別に?あったら読むかもね
-
いらんいらん。後日談は蛇足だから
-
読まないね
-
艦これの他の作品も読んでみたい
-
どーでもいー