爆発音が絶え間なく響く戦場。あたりを炎に包まれながら、杖を支えに立ち上がる。彼女はそこで自分が全身に傷を負い流血していることと、握っている杖の先が枝葉の萌えるようであることを知る。
同時に彼女は自分の体が思うように動かせないことに気づいた。傷の痛みのせいではなく、主導権を持っていないせいだった。
まるで誰かが遊んでいるビデオゲームを遊んでいるのを見るような、それでいてところどころ自分の知覚を意識するところがある奇妙な気分がして、ようやく自分が夢を見ていることに気づいた。体は眠りについているが心はこんな悪夢を見ているのだ。
円形の大きな塔の屋上、そこで彼女と燃える男は対峙している。燃える男は片手に火をまとう剣を持ち、ゆらりとこちらに歩んで距離を詰めていく。
彼女は杖を構え体の内側になにかが巡るのを感じ取った。それの使い方も理解した。手順を意識するまでもなく、彼女は体を巡るものを杖に注ぎ込んでいく。
杖が緑色に光っていく。いける、と彼女は確信した。近づいてくる燃える男に彼女は杖を振るう。すると暴風が現れ石畳からは巨大な茨が割って現れ、燃える男を襲っていく。だが男は暴風に怯むことなく進み、炎に包まれた左手で迫る茨を燃やしてしまった。
「どうした、そんなものだったか」
「あんただってボロボロのくせに。立ってるのがやっとなんでしょ」
彼女が発した言葉は、しかし彼女の意思によるものではない。体を動かす主導権が行ったり来たりしている。そういう悪夢なのだ。
また杖が光って今度は燃える男が打ち上がった。地面から強固な土の柱がアッパーカットをかますように盛り上がって現れたのだ。
これは魔法の杖なのか? それを操る自分は魔法使いになったというのか? 彼女は戸惑いながら、しかしこれは夢だからと納得した。不安と恐れと高揚が心臓を握りつぶすような悪夢だからだ。
(夢じゃない。覚えておいて)
「え?」
自分の内側に響く声と、燃える男が急加速してこちらに飛んできたことを驚いた彼女は剣で刺し貫かれた。
鋭くも鈍い痛み、だが痛みもすぐにひいていく。治療を施したわけではない。五感が失われつつある。彼女は急速に死に向かっているのだ。痛いほどに熱く燃えているはずの敵がこれだけ近くにいるのに熱を感じない。むしろ冷たくなってきた。
彼女は自分の死が逃れられないと悟り。最後に杖で力なく敵を叩く。とん、と音がして、だがそれだけだった。彼女が主導権を握った行動ではなかった。
「さらばだ。これで我々が勝った。お前たちの『絆の強さ』など、所詮そんなものだった」
「そうかもね……ウンディーネがそちらにつかなければ、あんたを倒せていたかも」
「だが彼女はこちらを選んだ。強いものが生き弱いものが滅ぶ、そんな世界を彼女は望んでいたってことだろ、残念だったな」
「いや、これでいいのよ」
「ほう?」
「バッドエンドなんかで終わらせる気なんてない。何の準備もしていないと本気で思ってるの? みんなでハッピーエンドを見るわよ、あんたも一緒に」