ネクサス アンコール   作:いかるおにおこ

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戦闘機が空を飛ぶ

「なにがあったんですか」

「上のモニターを見てくれ。こいつは外の様子を見るためのカメラで、ネクサスの近くにある森の一番高い木に着けている。ネクサス全体を捉えるために着けてたんだが、少し前に戦闘機が空を飛んでいた」

「戦闘機!」

「国際同盟のエンブレムもあった。この事態はこの世界全体に広がっていて、同盟は軍事力を差し向けたってわけだ。まあ、偵察なのかもしれない。ネクサスに攻撃を仕掛けるわけではないだろ」

 赤丸の中に白丸。単純だがわかりやすいマークが国際同盟の印だ。ロンが機械を操作するとモニターの映像が巻き戻ってエンブレムがなんとか確認できる。映像の中にはドームに囲われて中が見えないネクサスの姿もあった。

「そういえばロン」

「なんだ、炎の男」

「その呼び方は好きじゃない。イフと呼んでくれ。話を戻すが、そのカメラならRONがどうやってネクサスを襲撃したか捉えたんじゃないか?」

「いい着眼点だ。実際のところRONは空から来たらしい。人員をそれなりに搭載できるポッドのようなものを落としてネクサスに侵入してきたってわけだ」

「どこから落ちたんだ?」

 はっきりとは分からない。ロンはため息をついて別のモニターを指さす。

 それの映像は、トゲのような物体が空から降ってきて地上に刺さってくる場面を捉えた監視カメラの記録だ。構図からしてトゲを投下したなにかが見えていていいはずなのに、影も形もない。

「分からないってことは、全く見えないということか」

「光学迷彩なんだろう」

「なんだそれは」

「簡単にいえば透明になるんだ。そういう迷彩を隙間なくしきつめた、空に浮かぶなにか。飛行船かもしれない」

「だったら国際同盟とやらの戦闘機はRONの空の拠点を見つけられない?」

「見つけられるさ。各種のセンサーが見逃すことはないはずなんだよな。ただ、RONはネクサスをほとんど掌握している。同盟が下手をうてば客が殺されるかもしれない。なんたってテロリスト集団だからな」

「同盟はうまくやると思うか」

「人間が管理する組織だ、間違いはいつどんな時でも起こる。いや、どの組織も同じか。過剰な期待は――」

 ロンの言葉はそこで途切れた。途切れざるを得なかった。

 

 強い衝撃が予告なく走ったのだ。

 部屋が揺れてクロエは転んでしまう。

「――やりやがった」

「なにが起きたんすか!」

 モニターに流れる映像では空中で火が連続で噴いてすぐに収まっていく。その直後に、あたりを旋回していた戦闘機が爆散していた。

 火を噴いた場所のまわりが次第に歪んで見えるようになっていく。最後には巨大な大砲が見えたのを皮切りに、黒い鉄の塊があらわれていった。船のような形をしている。

「RONの空中拠点は飛行船なんかじゃなかった。ありゃ空中戦艦だろ」

「あんなの見たことないっすよ」

「奴らの技術力を甘く見ていた。あれだけのものを用意していたなんてな。いや、どこかから盗んできたのか? でもそんなのどうでもいい、大事なのは奴らがとんでもないものを持ち出してきていたってことだけだ」

 ロンはモニターに映す監視カメラの映像を切り替えつつ。小さなテレビに映していたニュース番組の音量を上げる。

「第八大陸にあります巨大遊園地ネクサスを襲ったRONについて速報です。たったいま、国際同盟の軍用機が撃墜されました! 信じられません、空を飛ぶ戦艦です。あれはRONの戦力なのでしょうか」

 撮影用ドローンからの映像を中継しつつ、スタジオでアナウンサーが恐怖にひきつりながら話している。ちゃんとニュースになって世界中にこの事件は知られているのだとクロエはぼんやり感心した。当事者になると感覚がマヒするのかもしれない。

「どこの局もこのニュースばかりだ。だがRONは外部に向けてなんの情報も発していないんだぜ、いまのところはな」

「てことは、人質をとったとかカネを要求とかもしていないってことすか」

「ああ。となると奴らの狙いがいよいよ分からなくなってくる。逃げる側が不利すぎる鬼ごっこをやりたいだけってなると割に合わなすぎる。別の狙いがあるんだろうが見当がつかねえ」

 ロンとルピナスの会話を耳にしながら、クロエはARグラスの検索エンジンを起動させる。視界に投影された仮想キーボードと視線操作で検索を進める。

 ニュースサイトではRONのネクサス襲撃の記事が爆発的アクセス数を記録していた。それにSNSでもトレンドにあがっている。だがどれも具体的な内容に言及されていない。ロンが言ったように外部に向けての情報発信をRONはしていないからだ。

 

 だがそれでもクロエが知っているのと同じ情報が発信されたのは確認できた。SNSの場で見つけた。おそらくはネクサスにとらわれた客による情報発信だ。

 RONはネクサスを襲撃し、システムを乗っ取り、そして悪趣味な鬼ごっこを始めている。これを勇気ある真実の投稿と称賛する者もいれば、勇気づけようと声を寄せる者もいて、悪質なデマやデタラメのものだと断ずる者もいた。

「なにを見ているんだ」

「このメガネでネットを見ているの…ちょっと変わった機械なんだ。イフさんはこういうのを知ってる?」

 後ろから声をかけられたクロエは、イフが首を横に振ったのを見た。

「見えている視界に着けている人しか見えない映像が映るのよ。それを触ったり動かしたりして操作するの」

「難しそうだ」

「最初だけね。それでネットを見てた。世界中の人がネクサスのことで大騒ぎしている」

「テロリストに襲撃された遊園地だからな」

「うん」

 クロエは視線をルピナスとロンに戻す。二人はまだ熱心に話を続けていた。

「それで頼んでいたことなんすけど、見つかったっすか」

「ああ。情報通りの格好をした三人組は確認した。男の子が一人と、スーツ姿の女が二人だな。だが追跡は困難だ」

「どうしてっすか」

「赤髪のスーツの女が監視カメラを壊しているからだ。でもこれは理にかなっている行動だ。いまはRONがネクサスの管理システムを掌握している。だから監視カメラを壊すことは奴らの目を潰すことと同じことになる」

「でも疑問は残るっすよ。どうしてそんなことをしないといけないんすか。だっていまのところは、鬼に追われているのは私たちなんすよ」

「わからんがRONに見られたくない事情でもあるんだろ。それかあんたたちを手助けしようとしているのかもしれない。この人たちはあんたたちの連れだって教えてくれただろ。奴らの目を少しでも潰せたら有利に動けるって考えて壊した、とかさ」

「なるほど…そうだ、監視カメラが壊されたなら、最後に壊されたカメラの方にいるはずっすよね。最後に壊されたカメラはどこのあたりにあるっすか?」

「北だ。東の島の北側。分かるか?」

 モニターに表示されたネクサスの全体図を指さすロン。ルピナスは頷き、クロエは彼女の後ろに立って指さされた場所を見つめた。

「そこには貸しボートの店があるんだ。もしかするとボートに用事があるのかもしれないな」

「ボート? ボートで脱出するつもりなのかな。でもネクサスは防衛機構が作動させられているから脱出できないんだよね。あのドームのせいで出られない」

「お嬢さんの言うとおりだ。だから俺はあのボートで移動をしたいんだと考えている。ネクサスのどこかへ向かうつもりだ」

「どこか…」

「たぶん北の島だ。住み込みのスタッフの住宅街。用事がそこにあってもなくても、安全に行けるのはそこしかないだろ」

「他の場所に行くのは危険ってこと?」

「ああ。西の島に行こうにもRONが占拠しているセントラルの近くを通らないといけない。そしたら捕まってしまうかもしれないだろ」

 確かにそうだ。いまは鬼ごっこだなんだと来園客を支配しているが、自分たちの意にそぐわない者がいれば殺すくらいわけないのかもしれない。ボートで移動するフィルたちが銃撃されるのを想像してしまって、クロエは頭を振ってかき消した。

「早く行かないとダメだよね。ルピナス、イフさん、そろそろ出よう」

「出ようたってどこに行くつもりだ? 貸しボートの店か? 東の島にはあんたらを追ってる鬼がうじゃうじゃいるんだぜ。まだ出る時期じゃない」

「でもロンさん。あの人たちは私の大切な人なんです。こうなったらもう二度と会えないかもしれないから、だから、こんなことになっても追いかけたいんです」

「命がいくつあっても足りないぞ」

「それは――」

 クロエは言葉を結べなかった。結ぶ言葉が見当たらなかったのではない。モニターに映る空中戦艦に動きがあったのを認めたから続きを言えなかったのだ。

「――あれ見て」

「見てってなんだよ…戦艦の大砲がネクサスに向いている?」

 ロンが呟いたのとほとんど同時にモニターに映る大砲が火を噴いた。妙な間があってさっきよりも激しい揺れがクロエたちを襲う。

 棚から落ちた箱がクロエの頭に直撃して、ふらりと後ずさり。受け身も取れずに仰向けに倒れた。

 

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