ネクサス アンコール   作:いかるおにおこ

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山を駆けあがれ

 

21.

 

 スタッフ用の地下通路を抜けるまではよかった。だが、山を登っていく途中で鬼の来園客に見つかり、息をきらしながらどうにか足を動かしていく。

 鬼たちはみな武装していて、銃撃しながらクロエたちを追いかけていた。雪をかぶる木々の陰にクロエは隠れ、懐に隠していた拳銃を取り出す。弾はルピナスからもらっていた特殊弾だ。当たり所が悪くない限り、命中させた敵を殺すことはないだろう。

「そこに隠れているぞ!」

「回り込め!」

「あいつら殺して引き渡すぞ!」

 殺気を全開にした怒号が飛び交う。返事をするかのように岩陰に隠れたイフが右手を燃やしたのをクロエは認めた。二人の距離は、どちらかが飛び出せば簡単に密着できる程度には近い。

「彼らを燃やすの?」

「遠ざけるのさ」

 イフが燃えた右手を振るとどこからともなく木々が燃え上がった。自然発火現象めいた出来事に追いかけていた鬼たちが動揺の声をあげる。

「なんだ!?」

「燃えてるぞ!」

「どうやって火をつけたんだ!」

 慌てふためくさまが目に浮かぶようだった。クロエは杖を支えに立ち上がり、力を込めて杖を思い切り振った。すると後ろから突風が吹き、木々を燃やしていた炎が指向性をもって飛び広がっていく。まるで木が炎の息を吹いているかのようだ。

「やべえぞ下がれ!」

「燃やされるぞ!」

 鬼たちは道を引き返していく。その背中に脅しをかけるようにロンが狙撃銃、ルピナスが拳銃で全く狙いを外して発砲した。がおんと音がするのが、まるで恐ろしい獣の咆哮のように思えてクロエは目を細めて耳に手をあてる。

「すごいわねクロエ」

「ありがと。さあ、今のうちに走るよ」

 アニーの手をとってクロエは駆け出した。先頭を行くのはルピナス、しんがりを務めるのはロン。縦列になって山道を進んでいくが、積もっていた雪が足を邪魔して思うように進めない。

 だが泣き言をもらしている暇はない。前からルピナスが伏せてと叫び、クロエが従った直後にはあたりに細い雪の煙があがっていた。銃弾が着弾したことの証だった。

 伏せながらクロエは銃を構え、横に転がりつつトリガーをひく。あたりはしないが牽制にはなる。同じように射撃しつつルピナスも移動し、射線を切れる岩陰に身を潜めていた。

「クロエ!」

「こっちよアニー!」

 斜面で射線を切ったクロエは大きく手招きするが、アニーが動けないでいるのを認めた。雪の上で伏せたままになっている。腰が抜けたのか傷を負ったのかわからないが、とにかく移動させる必要があった。このままではアニーの体に風穴があいてしまう。

 クロエは膝立ちの姿勢になって杖で地面を叩く。何度も叩く。風がアニーを自分のところに運んでくるのを想像しながら三度叩く。するとアニーの体が次第に強く転がり始め、クロエのもとへと動いていった。

「キャーッ! これもあんたの魔法?」

「そうね、私がやった。怪我したの?」

「いえ…怖くなって動けなくなっただけ。もう大丈夫よ」

 頷き返したクロエは斜面に体を押しつけた。このまま足止めをされると挟み撃ちをされてしまうだろう。どうにか早く切り抜けないといけない。

「クロエちゃん! 合図するからそこを吹き飛ばすっすよ!」

 ルピナスが叫ぶと同時に何かを投げた。とんと間があいてから強烈な閃光と爆発音が上の方から響く。閃光手榴弾。クロエは光が爆発した場所が強烈な風が吹いて荒らすのを想像しながら杖を力強く振る。

 するとルピナスが合図した場所から極々小規模の暴風が発生した。びゃおおと窓を強く叩く、まともに立つことすら困難な強風を想像していたが、クロエが杖を振った結果はそれ以上のものだった。

 上にいる鬼たちは吹き飛び悲鳴を上げて、それから喋りだしていない。死んではいないはずだが、心臓がしめつけられるような苦しみをクロエは覚えた。

(でも決めたんでしょう。邪魔をするものをどかしてフィーに会いに行くんだって)

 身を隠していた斜面から飛び出し、拳銃と杖を構えてクロエは道を駆け上がっていく。あと少しで小人が見せたビジョンに映っていた石の門が見えてくるはずだ。周囲の警戒を忘れず、ルピナスとふたりで先頭を走っていく。

 

 

 ついに石の門の前まで到達した。ここまでに殺しは一度もしていないはずだ。ロンが狙撃銃を撃っていたが、それは威嚇や牽制、太い木の枝を落として邪魔者を攻撃するとかその程度にとどまっていた。

 イフが燃える右手をふってあたりを燃え上がらせる。炎の壁だ。これだけ分厚く、熱が激しいならば誰も近づけないだろう。だが、まだ燃えていない場所から五人駆け込んできた。

「死ねやッ!」

 彼らは武器を構えて迫ってくる。流血は避けられない――クロエが覚悟してトリガーに力をこめると、彼らの姿が見えなくなった。地面から土の塊がせりあがって大きな壁になったのだった。

 夢の中で小人は言っていた。「私たちも抵抗する」と。壁の向こうから銃声や爆発音が聞こえるが、壁が崩れる気配はない。

「助かったな。石の門ってここのことか」

「そうよ」

 イフの問いにクロエは短く鋭く返す。ここに立てば何かが起きるはずだ。石の門をくぐってクロエは杖を突きたてる。

「来たわ! さあ、これからどうするの!」

 クロエの前をルピナスが、後ろをイフが固める。アニーとロンも隣にいて周りの警戒をしてくれていた。だがなにも起こらない。何かが起きる気配がない。

「ねえ! 小人さん! 来たわよ!!」

 はいっておいで。頭の芯の部分からそんな声が聞こえた気がして、直後に地面が崩れた。

 

 

 

 突然の崩落。無くなった地面の代わりにクロエを受け止めたのは土の斜面だった。プールにあるウォータースライダーのように滑っている。

「ルピナス! イフさん!」

 叫ぶがクロエの耳に返事は聞こえなかった。

「ロンさん! アニー!」

 どれだけ叫んでみても返事はない。滑っている土の音がうるさいのか? 足を使って減速を試みてもなかなか体は止まらない。右に左に滑っていく。結構な速度が出ているはずだが、不思議なことに痛みはほとんどない。

(この変な滑り台、どこまで続くの?)

 クロエは身を守るように体を丸め、エンターテイメントに力を注いだかのような滑り台に身を任せ、目に力を込めてつむる。不意に背中から斜面の感覚が消えて浮遊感。驚きにクロエは目を開き、すぐに舌をかまないように気をつけた。

 背中に衝撃。そのままかなりの勢いで体が転がっていく。しばらく転がったクロエはすぐに立ち上がり、

 

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