ネクサス アンコール   作:いかるおにおこ

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戦艦の調査

 多くのRON構成員たちは戦意喪失し、ほとんどの来園客がネクサスからの撤退を開始した――ARグラスでネットサーフィンをしたクロエはそんな情報をつかんでいた。国際同盟の軍もネクサスに向かうという。どこもかしこも、RONに制圧されたネクサスの新たな動きに注目しているようだった。

 SNSを見れば、またも短い動画がとてつもない勢いで拡散されている。見れば、空中戦艦が火をふいて墜落していくのを撮影したものだった。周りの騒音がすごくて音は聞けたものではないが、どうやら来園客は歓喜にわきたっているようだ。

 ゲートが開放されてRONの圧力も薄れたおかげで、ネクサスの出入口へと多くの来園客が移動している。中にはRONから奪ったらしい武器を持ち、逃げようとする人々を守るような動きを見せる来園客もいた。

 動画の中でも紺色のパワードスーツと鈍い白色の全身サイボーグが飛び回っているのが見えた。フィルもクリスも無事だ。頑丈だから大丈夫だなんて言っていたが、本当にそうらしい。不安なことがひとつ減って表情が緩むクロエは小さく息をついた。

「やったな」

 西の島の近くに着水して大爆発する空中戦艦を見てイフが嬉しそうにつぶやいた。だが、まだ仕事はのこっている。現代のRONとサラマンダーのつながりがあるかどうかを調べるのだ。

「でも、あのリーダーには生きていてもらわないと困るよ。まだ私たちの目的は終わってない。そうだよね、ノーム」

「きっとモノなら知っているはずよ。サラマンダーとの関わりを直接聞きに行こう。国際同盟が来たら奴はきっと連行されるでしょうから、その前に終わらせないと」

 

 

 

 西の島。激しいジェットコースターが目立つ、刺激の強いライドが多く用意された場所だ。そこの南側、ちょうど西の島とセントラルがある半島の中間の海に空中戦艦は墜落し、浮きながら思い出したように爆発を続けている。それでも完全に壊れた様子はない。

 半島と西の島をつなぐ大きな橋を駆け抜けるが、西の島から半島へ移動する人が多くてもその逆は自分たちしかいないことにクロエは気がついた。もうここは遊園地なんかじゃない。立つ者すべてを苦しめる土地なんだ。閉鎖された禍々しいこの土地の戒めがとかれて一秒でも早く抜け出したいんだ。

 ネクサスを極限状況まで追い込んだ元凶は、RONのリーダーは、あそこで浮いている戦艦にいるはずだ。西の島にもボートはあるだろう。それを使って近づけるかもしれない。仲間たちに話せばノームがそれならと答えた。

「もう少し歩いたところにボート乗り場があるわよ。ジェットスキーもあったはず」

「いいね」

「私の魔法を使えば海底を盛り上げて直通の道は作れるけど…いくら現場が混乱しているからといっても、目立つ魔法は使いにくいわね。後のことが面倒くさくなるから」

 その通りだ。もし全部がうまくいって解決しても、魔法が引き起こす超常現象を誰かが目撃すれば、これを巡ってあらゆる問題が起こるはずだ。しかも今は多くの人の目がある。混乱しているのがほとんどであるが、海に道を作るなんて魔法を見逃すわけがない。

「なら急ぐぞ。奴ら、墜落する前に脱出ポッドを結構ばらまいていたみたいだ」

「え?」

「あれが見えるか? クロエ、そこにもあそこにもある」

 イフが指さした先には大きな筒状の機械が突き立っている。側面に蓋のようなものがあるが上に開いていて、中身はもうない。三人は入れそうな大きさに見えた。

「RONの奴らはこのあたりにいる?」

「間違いなくそうだろう。だが客を攻撃している様子がない。奴ら、この混乱に乗じて逃げ出すつもりかもな。かなり頼れるはずだった空中戦艦もおじゃんだから」

「モノも既に逃げ出している?」

「かもしれない。だが戦艦には調べる価値があるはずだ。そうだな?」

 イフがノームに視線を向けると頷きの返事。それじゃあ行こうっすとルピナスが声を出し、彼女を先頭に四人は駆け足を始めた。

 

 そこで戦闘服のポケットに入れているスマイスが振動している。見ればフィルからの連絡だった。走る足をすこし休め、仲間たちにことわりをいれてから応答する。

「フィー?」

〈こっちはほとんど片付いた。半島とセントラルにいるRONは戦意喪失していて、武器をとったお客さんに縛られている。立場はもう逆転したよ〉

「やったわね!」

〈うん。ドームを開けてくれたからお客さんも逃げてくれている。ここに残っているのはRONへの反抗心が強い人ばかりだ。ここは彼らに任せて僕と義兄さんは移動する。クロの手助けをしにいくよ〉

「ありがとう。アニーたちは?」

〈東の島に向かうようにお願いした。ケガして逃げ遅れたお客さんがいるかもしれないからね。アコニットとカメリアには、きちんとアニーとロンさんを守るように言ってあるから、多分大丈夫だ〉

 意外だった。アニーならもう逃げだしても誰にも文句は言われないはずだ。なのに東の島に行ってプランBにつきあっているという。大好きな人の頼みを断れないだけかもしれない。

「そうなんだ…私たちはこれから戦艦の調査をしにいくわ」

〈西の島だね〉

「うん。ボート乗り場で乗り物を用意して向かうから」

〈了解だよ。いまからそっちを追うから。また後でね〉

 向こうから連絡が切れる。スマイスをしまってクロエは拳銃と杖を構え、ルピナスに頷いてみせた。

「フィル様はなんていってたんすか?」

「セントラルの仕事は片付いたから、こっちに来てくれるって」

「了解っすよ。やっぱりサイボーグとパワードスーツかあ。この仕事が終わったら、体のどこかをサイバネ手術するっすかねえ」

「義兄さんが怒るよ。五体満足の喜びを捨てるなって」

 そうっすよねえ、とルピナスがぼやきにちかい呟きを残して狙撃銃を構える。

「イフさんの言ってた脱出ポッド、中身は何だったんすかね」

「中身だって?」

「RONの構成員だとは思うんすよ。それが下っ端か、そこそこのリーダーか、はたまたモノって大将か、それがわかってない」

「ああ…そうだな」

「急ぐ必要があるっすね。さ、ボート乗り場へ向かうっすよ」

 

 

 

 これっすよ! 誰もいないボート乗り場で船のカギをふたつ手にしたルピナスが桟橋にやってくる。

「やったわね」

「あのボートで戦艦に向かうっすよ」

 ルピナスが指さしたのは白いボートだ。六人くらいは余裕をもって乗り込めるだろう。

 

 足早に運転席に到着したルピナスがボートのエンジンを始動させ、全員が乗船していることを確認し、勢いよくボートが前進する。

「おい! 安全運転で頼むぞ!」

「わかってますっすよ!」

 手すりにつかまるイフ。同じように姿勢の安定をとりながら、クロエはあたりの様子を見まわした。ネクサスを囲って客を閉じ込めていたドームはすでに海に姿を消している。ここから見ても園内にいる客の数はとても少なくなった。

「本当にみんな逃げられたみたいね」

「ああ。RONのもくろみは潰えたわけだ」

「奴らもこうなるとは思わなかったんじゃないかな。でも…」

「でも?」

「モノってリーダーは、こうなることを本当に考えてなかったのかな」

 どういうことだ? イフに見つめられてクロエは頷いてみせる。

「あいつの狙いがよくわからないの。誤解してほしくないんだけど、私だったら…ネクサスを掌握したあとで、お客さん全員の命を盾にカネを要求するんだと思う。もっといいやり方はあるのかもしれないけど」

「奴がやったことは俺たちを子にした鬼ごっこくらいだ。命がけの悪趣味なやつだが」

「うん。だけどそんなことをするためだけにネクサスを掌握するなんてする? それならもっと手軽なやり方はあるかもしれない。ネクサスよりももっと楽に襲える場所とか選べばよかったのに」

「確かにここをやるよりは諸々のコストは軽くなる」

「モノには他の狙いがあって、それが本命なのかもしれない」

「クロエ。君の推測は間違いではないかもしれない。始めのうちはRONの末端はここで好き勝手暴れていたようだが、モノに真の目的があるのだとしたら…最後まで油断はできないぞ」

 低く真面目な声で語りかける。まったくそのとおりだ。イフが視線を海に浮かぶ戦艦に向けたのにならって、クロエは両手を強く握りしめた。

 

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