オリ主男です
かつてディオの仲間になろうとした男が、承太郎の代わりに手を汚す殺し屋となった話

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第1話

乾いたパンを口に入れる。喉に入るとそれがワインに詰まったコルクの栓のように息ができなくなる。水で流すこともできずに、胃に落ちるまで何度も胸を叩き、ようやく苦しさから解放されたら次はサラミとチーズを口に入れる。

 

スミスアンドウェッソンのm29を、女の体を撫でるように手入れする。銃は女と同じだ。丁寧に扱えば言う通りに動いてくれる。扱い方さえ間違えなければ自分を殺すことはない。

 

「次はこいつを始末してほしい」

 

手渡してきた写真を手に取って見る。薄緑の肌を隠すように黒いローブを羽織った男が映っていた。

 

「残党だ、速やかに対処してほしい」

 

いつもの仕事だ。今月は多いが、月に一度はこうしてやって来て「始末してくれ」とだけ頼んでくる。金さえ払えば、どんな仕事も引き受けるんだろう。そう言って来たその日からずっと、俺は代わりに手を汚している。

 

自分で言うのも妙だが、俺はろくでもない人生を送って来たわけで、誰かの代わりに人を殺すなんてことは今更なんの躊躇もない。

 

『〜…“なるようになるさ 先のことなど”…“分からない 分からない”…』

 

ケセラセラを口ずさみながら殺せと言われたローブの男が麻薬の取引場へ向かったところを見計らって、閃光弾を投げ入れる。目を眩ませて逃げ惑う密売人に置いていかれたのか、ローブの男は眩しさに痛みを感じるように地面に埋もれていた。

 

「“パパに聞きました 私は天国に行けるの”」

 

ケセラセラの歌詞を変えて地面に這うウジのような男に語りかける。

 

「“なるようになるさ 死んでみないことにはわからない”」

 

m29が唸り声をあげて男の脳漿を吹き飛ばす。

黒鋼の銃身は跳ね返った血を吸うようだった。

撃たれた勢いで被っていたローブが外れてようやく身体が全て見えた。緑がかった肌はディオの残党の証。肉の芽を植え付けられた連中の末路だ。

その進行には差があるようで、これはまだ進行途中。最悪の場合は何度殺しても死なない化物になる。

 

男の腐ったような腕を引っ張って引き上げようとすると、腕がぶちぶちと嫌な音を立てて離れて行く。しょうがないので肩に担ぎ上げて、来た道を戻ることにした。

 

 

うんと数十年前に、ディオという男はありとあらゆる害を生んで死んでいった。その害は自らの子孫であったり、熱心な彼への信奉者であったりするわけで、かくいう自分もその害の一人である。金の成る甘い話に乗せられたのが運の尽きだ。それきり自分は半分人をやめてしまった。

おかげさまで日光に当たると俺の体は粉になってしまうようになったが、逆に日光以外のもので死ぬことは無くなった。ディオの根城で女の死体の山に埋もれながら、なんとか目を覚ました俺は、命からがら逃げ出した。

それ以来俺は仕事をひたすらこなした。いわゆるそれは汚れ仕事で、俺は飢えで死ぬこともなくなったのに、人として生きていた頃の習慣が俺をそうさせているのか、惨めに砂を噛みながら金を稼いできた。

 

それでようやく、自分だけの平穏、天国を手に入れたところだった。

 

「必ず殺す、殺し屋らしいな」

 

帽子を目深に被った男が俺を見てそう言う。

俺がそうであるかそうでないか、そんなことを聞くよりも前に、男は手帳を取り出して何かを読み上げ始めた。

 

「ディオの残党の中でお前は唯一逃げ出した。…日記には『ろくでもない人間だった男で試した。今まで散々人を殺したお前には身に合った価値だろう』と書いてある。

そしてその殺し屋は『失敗に終わった、だから捨て置いた』『…忘れた頃、見てみたら奴は逃げていた』…お前のことだな」

 

突然来て訳の分からないことを言い出すやつ、とは思わなかった。ディオという名前を聞いて、逃げ出しただの、失敗しただの、そんな言葉に思いあたる節がある。

 

「残党の処理を頼みたい」

 

男が頼んだのは単純な依頼だった。もっと本人の本音を噛み砕いて言えば、代わりに手を汚してほしいとのこと。断る理由もないので承諾した。

 

男は初めの方こそ、俺が素直に従うことに違和感を感じてはいなかったらしいが、ある時これは一つの気の迷いからする質問だと置いて、何故ディオの残党を殺すことに協力してくれるのかと聞いて来た。

 

俺は答えた。気味が悪いからだと。

たった一人、あの得体の知れない男に言葉一つささやかれただけで男の手先のように動く連中が、不気味でならなかった。

時には神のように救いを与えたり、友達になろうと持ちかけたり、人の心の隙間をウジが湧くように埋めるあの男に、どうしてあそこまで心を溶かしていたのか。

中にはさほどなびいていないやつも居はしたが、大半の連中は、果ては婆さんまで悪の救世主とまで呼んで崇めていた。

 

何かに縋って、何かに盲目的になることは弱さだと思っていた。どんな結末を迎えるかは自分次第で、そこに神の力とかそんな第三者の要素は混じってこない。なるようになると流れに身を任せることができないのは弱いやつだろうと思っていた。

それはディオにも言えることだと思った。

自分が必ず勝つという妄信。どこからそんな自信があったのか分からないが、まあ、ああまで確信的に勝利を信じるのはある意味強さでもあるのだろう。

 

俺は呼ばれた連中の中で、ディオの中で何の価値にもならなかったようで、暇つぶしに使われた。

腕を千切って別の動物と繋げるとか、首をもいだ後に自分の体に繋げてみせろだとか、そういう素敵な趣味に散々使われたわけで、ディオの仲間だか熱狂者だか知らないが、面々が徐々に減って来た頃、俺は逃げ出した。

相当やってくれたおかげで下手なことじゃ死なない身になったし、日中は外に出れないことを除けば、病気にも事故にも死なない自由な身になった。

 

以来手当たり次第に仕事をしたが、それ以上に何倍も人を殺した。それはディオの元手先の連中。まだ残ってたのかと思わなくもないが、奴らは俺の体に残っているディオの僅かな血を嗅ぎ当ててどうにか我が物としたかったらしい。

 

気持ち悪いだろ、と俺は言うが、男は何も答えなかった。

 

だからそれをその都度殺していたら、いろいろ枝葉がついて買い被られているだけだと付け足す。

 

男にはディオの件で恨みを買ったものが寄ってきて、俺のもとにはディオを崇拝するものが寄ってくる。男はそう人を殺せはしないが、俺なら殺せる。だから代わりに手を汚せという頼みをしに来たのだと彼は言った。

 

「嫌な役をさせているな」

 

後悔の一言を男はつぶやく。

嫌なんて一度も思ったことがない。天国に行けると醜く縋るディオの残り物たちに引導を渡してやるのは嫌なことじゃない。

縋るしかない弱いものたちを、俺はもはや救ってやってるのかもとまで思う。

 

そして彼は、この先自分に降りかかる厄介なものを俺に振り払わせるつもりだと言った。それも構わない。先のことは誰にも分からない。

殺せと言われれば代わりに殺すさ、何も気にするなよと答えてやった。

 

なるようになるさ、と彼の背中を叩いた。

いつか自分へと積もる因縁や恨みに疲れて放り投げたくなったら、その時は俺が殺してやるとそんな意味を込めて。

 


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