もうひとつのかけらとふたつの手   作:今日坂

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第3話 あの子の軌跡

 旅の途中でイエイヌのおうちを訪れたキュルルたちは、彼女からお茶のおもてなしを受けたり、引っ張りっこやフリスビーなどで楽しく遊んだりした。しかしその最中、キュルルがうっかりトラクターに水筒を忘れてきた事に気付いた。

 

すぐさま取りに向かおうとしたが、それを聞いてイエイヌが寂しそうな顔をしているを見たサーバルとカラカルが、代わりに取ってきてくれる事となった。

 

 その間、キュルルはイエイヌとお茶の用意をしながら待つ事にした。ポットでお湯を沸かしていると、ふと額に入れられている絵が目に入り、キュルルはこれについて尋ねてみた。

 

キュルル「イエイヌさんの絵、ビーストが描かれてるね。」

 ビーストは右手をイエイヌの頭に乗せて笑っている。左腕がないのは、右向きの絵なので体の陰に隠れているためだろう。

 

イエイヌ「この色あせた帽子と一緒にずっとここにあったのですが、もう誰が何のために残していったのか全く分からないんです。」

 

キュルル「(かばんさんなら何か知ってるかもしれないな…。今度会ったら聞いてみよう。)そういえば、イエイヌさんはビーストについて何か知ってるの?」

 

イエイヌ「会った事はありませんが、探偵の2人が噂話を教えてくれました。とんでもなく強くて暴れん坊なフレンズだとか。」

 

キュルル「僕がサーバルとカラカルに教えてもらった噂と一緒だね。でも実は僕たち、旅に出たばかりの頃大きなセルリアンに追っかけられたんだけど、その時ビーストが現れて助けてくれたんだ。それでね…、僕、その子を一目見て憧れちゃってね。」

 

「カラカルには『やめときなさい、そんな危ないやつ!』って言われたんだけど、どうしてももう一度会いたいって思ってたんだ。そしたら今度は、ジャングルでみんなと遊んでいるところにいきなり現れた。そして僕の目の前までやってきて、何か言いたそうにじっと見つめたんだ。」

 

イエイヌ「ふえぇ…、怖くなかったんですか⁉︎」

 

キュルル「うん。びっくりしたけど、襲われるって気は全然しなかった。あの目は懐かしんでるような困惑してるような…そんな感じだったよ。

 それからかばんさんってヒトが現れて、紙飛行機を使ってビーストを追い払った。そして僕たちはかばんさんが住んでる研究所っておうちに招待されてね、そこでビーストについて色々教えてもらったんだ。」

 

 

かばん「私は以前ビーストに会った事があってね、それ以来強い関心を持っているんだ。

 この建物にはヒトがいた頃の資料やデータがたくさん保管されていて、それによるとここはかつてパークの治療施設だったらしいんだ。そしてその中に、アムールトラってフレンズの治療経過について事細かに記されているデータファイルがあったんだ。」

 

「アムールトラはセルリアンとの戦いで左腕を失ってしまった。それを元に戻すため、まずはヒグマって子が持っていた武器をサンドスターに戻し、それから腕の形に整形した。でもいくら形を整えてもこれは他のフレンズのサンドスターだから、当然そのままくっつけようとしたってうまくいかない。」

 

「そこでヒトは接着剤として、無害化したセルリウムを用いたんだ。これには輝きを引きつける力があるから、それを利用して腕をくっつける事ができるんだ。そしてしばらく経つと、ヒグマのサンドスターがアムールトラのものへと完全に置き換わって左腕が元通りになる。

 これは当時、大きく体が欠損したフレンズに対して日常的に行われていた治療方法だったらしい。そして役目を終えたセルリウムは、元気になったフレンズのサンドスターの力に押されてそのまま消滅するはずだったんだ。」

 

「でも左腕が元に戻った頃から、彼女は毎晩悪夢にうなされるようになった。けれども目が覚めるとすぐに忘れてしまうから、それが一体どんな夢だったのかは彼女にも分からなかった。」

 

「それから徐々にアムールトラの体は変わっていった。言葉が話せなくなって意思の疎通が難しくなり、両手は肉食獣のように肥大化し、体からは黒い輝きが吹き上がり、時には錯乱して暴れ回るようになってしまった。」

 

「ヒトはやむを得ず彼女を拘束し、原因を徹底的に調査した。ところがある日、アムールトラは鎖を引きちぎって施設から飛び出すと、そのまま行方不明になってしまったんだ。

 だがそれでもヒトは諦めなかった。懸命に彼女を捜索するとともに、残されたデータをつぶさに調べ上げた。結局結果が出るまでには相当長い時間がかかったんだけど、なんとか原因を突き止めた。」

 

「それはアムールトラの治療に使われたセルリウムだった。通常であれば消滅するはずのセルリウムが彼女の持つ強い自責の念に反応し、それを増幅させて何度も悪夢として見せていたんだ。

 それによって不安定になった彼女のサンドスターは、徐々にセルリウムへと変わっていった。そしてとうとう、ビーストと呼ばれる暴走状態になってしまったんだ。こうなるとフレンズは理性を失い、体は常に野生解放状態となる。」

 

「そのままだったらすぐ動物に戻ってしまうんだけど、ビーストは輝きを直接取り込んだり、セルリアンを破壊する事でサンドスターを補給する事ができるんだ。それを本能的に察知した彼女は、人目を避けながら活動を続け今日まで生きながらえた。」

 

キュルル「じゃあ結局、ヒトはビーストを助けられなかったんですね。」

 

かばん「残念ながらそうなるね。ヒトの記録はある時点でプッツリと切れている。なにがあったのかは分からないけれど、おそらくこの頃大きな出来事が起こってヒトはいなくなってしまった。けれどもパークとフレンズ、そしてビーストはそれからもずっと生き続けたんだ。」

 

「話を聞くに、キュルルさんとビーストは何か惹かれ合うものがあるんじゃないかって思うんだ。出会ったばっかりなのにこんな危険な事を頼むのは気が引けるんだけど…、どうかあの子を助けてやってくれないだろうか。もしかしてキュルルさんなら、何かを伝えられるかもしれない。」

 

キュルル「任せてください!僕、あの子とお友達になりたいんです!」

 

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