ケイネス先生の聖杯戦争   作:イマザワ

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第二十九局面

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公――」

 

 異様な祭礼が、始まっていた。

 

 床で蠢く水銀は、〈消去〉の中に〈退去〉の陣が四つ刻まれた、サーヴァント召喚駆式を思わせる構造を形作っている。

 

 だが、外周部分が異なる。そこにあったのは〈召喚〉の陣ではなく、何かもっと別の紋様だ。

 

「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 ひとつの大きな魔法円を三等分する位置に、小さな魔法円が三つ刻まれている。

 

 それら三つの中には、三つの影。

 

 ひとつには間桐雁夜が立っている。

 

 ひとつにはランスロットが片膝をついて蹲っている。

 

 ひとつには両手足と舌を切断された間桐臓硯が転がっている。

 

 魔法陣の中央では、一連の祭祀を務めるケイネスが朗々と詠唱を続けていた。

 

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 雁夜とランスロットは無言。しわぶきひとつ立てずに、儀式の進行を見守っている。

 

 いっぽう臓硯は、言葉にならぬ呻きを上げながら芋虫めいた身をよじり、なんとか魔法円から這い出ようと足掻いている。が、古代の神秘を宿す長大な紅槍によって床に縫い留められ、その場を動くことができない。

 

「――告げる」

 

 ケイネスの詠唱を引き継いで、雁夜が口を開いた。

 

「汝の身は我が大師マキリ・ゾォルケンに、我が命運は汝の剣に。聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら、我に従え! ならばこの命運、汝が狂乱に預けよう!」

 

 雁夜の手の甲にある令呪が、ぼんやりとした光を帯びる。

 

 雁夜、臓硯、ランスロットを結ぶ正三角形が魔力を励起させ、祭祀たるケイネスの精妙な出力調整のもと、契約の根本を書き換える。

 

「誓いを此処に! 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、新たなる契約を容れよ、天秤の守り手よ―――!」

 

 正三角形が激烈な光を発し、応接間を白く染め上げた。

 

 ――月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)は、本来の用途は「演算機械」である。

 

 戦闘に活用できなくもないが、それはおまけのようなもの。ロード・エルメロイの入神の流体制御によって、水銀元素のひとつひとつが演算子として奔放に振る舞い、量子的なもつれや重ね合わせの状態から高度な計算を瞬時に成すことができる。

 

 本来、この変則契約術式は征服王イスカンダルを召喚したときのために用意していたものだ。契約のパスを分割して、令呪の行使と魔力の供給をそれぞれ別の人物に担わせる裏技。

 

 無闇に行動力のある生徒によって、本来の目論見は破綻したが、よもやこんなところで役に立つとは。

 

 光が収まった時、儀式の参加者は四人とも以前と変わらぬ位置に佇んでいた。

 

 しかし、雁夜の相貌には明らかに血の気が戻り始めている。

 

 ランスロットの現界を維持するための重い魔力消費が、そっくりそのまま臓硯へと押し付けられたためだ。

 

「……成功、か」

 

「お、おぉ……」

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