Fate/fake savior   作:桜野 ヒロ

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あ、今回もキャラの紹介はなしで
次話に遊人くんのキャラ紹介やります


幽鬼の影を追え《巴》

 切翔達とは遠く離れた、歌和西高校が建ってある山にて。

 小さな教会の上にある駐輪場全体が炎で燃え盛っていた。

 更には、森すらも火の海と化していたのであった。

 

「グ、ゲンジ、ゲンジゲンジゲンジゲンジゲンジゲンジゲンジゲンジゲンジゲンジゲンジゲンジゲンジゲンジゲンジゲンジゲンジゲンジゲンジゲンジゲンジゲンジ─────ゲンジハドコダァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

 燃え盛る業火と共に響き渡る、獣めいた咆哮をするは、先刻で複数の男達を殺害した幽鬼だった。

 この山場まで彼は彷徨い、そしてなにか撃鉄が弾かれたかのように突如として暴れ始めていたのだった。

 

(───ムネノオクカラ、エタイノシレナイイカリガアフレテクル。

 ユノミカラアフレタチャノゴトク、ウラミガ、ツラミガ)

 

 幽鬼は内心では戸惑っていた。

 その怒りに対して、どうすればいいのだろうと。

 そんな中だった。幽鬼の右手首が矢状のモノに貫かれていたのだった。

 

「テガ───」

 

「悪いことする鬼さんにはお仕置ってヤツさ。

 モモタローか、好きだろう男の子はよ?」

 

 少し離れた所からの声に、幽鬼は視線を向ける。

 そこには、緑衣で身を包んだ男、”陰“のアーチャーがいたのだった。

 

「キサマ、ゲンジ、カ?」

 

 例外なく、幽鬼は訊ねる。

 はて、と首を傾げて唸る。

 

「ゲンジ……? げんじ……あぁ、”源氏“か!!」

 

 幽鬼の質問を閃いた”陰“のアーチャーは、ポンと手を叩きながら明るい笑顔で答えた。

 

「源氏だぜぇ、なんせ美味い上にハート型って洒落た形をしてんだからさ!! 

 いやぁ、還ったらカミさんと息子にも食わせてやりてぇぜ!!!!」

 

 ”陰“のアーチャーの答えに、彼の視線と魔力で繋いで遠くからその景色を見ていたユースタスは思わず頭を抱え、その場でしゃがみこんだ。

 近くにいたバエルは彼に『大丈夫か?』と思わず訊ねたのだった。

 

「グ、ググ……ゲゲ」

 

 そしてもう一人、”陰“のアーチャーの答えを聞いて反応するのは幽鬼だった。

 わなわなと、溢れ出る噴火の如きその怒りを、幽鬼は抑えることが出来るわけがなかった。

 

「あー…………」

 

 なにか悟ったのか、陰のアーチャーは気まずそうに頬を掻く。

 そして、

 

「悪ぃマスター!! オレ、モモタローにはなれねぇわ!!」

 

 ガハハと明るく笑いながら、答えるのだった。

 

「ゲンジノシンホウシャ!! 

 キサマヲイカスワケニハイカナイ、キサマラ、キサマラガニクイニクイニクイ……ニクイィィィィィィィィ!!!!!!」

 

 それと同時に放たれる、紫色の炎。

 何か魔術的なモノだろうか、ユースタスは脳裏で疑問に抱いた。

 

『アーチャー』

 

「分かってるよマスター!! 

 気を付けろ、だろう? 任せな、モモタローにはなれんが……狩人にはもってこいの相手だからよ」

 

 不敵な笑みを浮かべ、”陰“のアーチャーは手元からボウガンを出す。

 それと同時に、矢を放った。

 狙いも定めていない乱雑としか言えない射撃だったが、幽鬼はソレにどうしようもない違和感を覚え、炎で燃やすのだった。

 

 ───その矢は燃やさなければ心の臓に命中していた、それを感知した幽鬼は”陰“のアーチャーを睨んだ。

 

「キサマ、ブゲイシャカ。

 サスガダ、サスガサスガサスガ」

 

「あっれれ褒められたか? 

 すまねぇが褒めるのはべっぴんさんだけでいいさね!! 

 そうさね……銀髪の、お嬢ちゃんとかどうだい?」

 

 なにか確信を持って言霊として出す”陰“のアーチャー。

 幽鬼は、脳裏に消されたはず(…………)の女性の姿が映った。

 

「グ、ナンダ、コレハ」

 

「すまないねぇ、せめて───この一射で死んでくれや」

 

 それと同時に放たれる、魔弾。

 幽鬼は先程と同様に炎で燃やそうとする。

 しかし、それは出来なかった。魔力がちょうど枯渇しかけていたので、上手く発動しなかったからである。

 しかし、狙いは心臓よりも下の腹部。

 当たっても致命傷にはならなかった。

 

「そう、致命傷にはなりゃしないさ……今はな(……)

 

 ”陰“のアーチャーが笑みを浮かべる。

 刹那、突如として旋風が起こり、その矢の軌道が上へと描かれ直す。

 腕で塞がなければ、幽鬼は咄嗟に右手を前面へと出そうとするが───

 

「ウデガ、ウゴカナイ」

 

「たりめぇよ、ぶっちゃけ最初の一撃ちでお前さんを殺す事は出来た。

 オレの宝具は常に発動しててね、当たる確率が一パーセントの確率でも九十九パーセントにすることが出来るのさ。

 でもそれに甘えずこの状況を作り出したのは完全な隙、その一瞬(……)を狙ったからだ。

 いつでも万全を期して殺すのが、狩人のやることよ」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、”陰“のアーチャーは言葉を続けた。

 

「最後に言ってやるよ、これがオレの宝具。

 ”二射叛逆(アップル・ゲスラー)“……分かったかい、このオレの名前は。

 そうさ、オレの名はウィリアム・テル。

 愛すべき同郷に呼ばれたナイスガイよ!!」

 

 矢が奔る、奔る、奔る。

 今まさに幽鬼の心臓を射抜くべく、奔る。

 幽鬼は為す術なく、殺される運命であった。

 

「─────すいません、弓兵殿。

 この愚行をお許し下さい」

 

 その、矢がある少女に切り払われるまでは。

 銀色の髪をした少女、”陰“のバーサーカーは突如として、その場に現れて幽鬼に迫る矢を切り払ったのだった。

 

「……なんでもこうも聞かねぇやい。

 正直言うとな、止められるのは分かってたのよ。

 だってこの鬼さん見た時のアンタの顔、凄かったからなぁ。

 べっぴんさんが台無しになるってくらいに絶望しきった顔だった。

 だからよ、分かっちまったのさ。この鬼さんの真名が」

 

 少女の運命を憐れむように目を伏せ、”陰“のアーチャーは幽鬼の真の名を口にするのだった。

 

「よぅ、アンタの名前……木曾義仲(……)って言わないかい?」

 

「グ─────」

 

 思わず、幽鬼はたじろぐ。

 名を言い当てられた、それもあるが幽鬼の脳裏には存在しないはずの、目の前の少女どの記憶が流れ込んできたからだった。

 

「ナゼダ、ナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダ? 

 ナゼ、ワガナヲシッテイル? 

 ソシテ、オンナ」

 

 幽鬼は、”陰“のバーサーカーの方へ振り向き、訊ねるのだった。

 

「オマエハ、ゲンジ、カ?」

 

「え─────義仲、さま?」

 

 刹那、”陰“のバーサーカーは慟哭にも似た声音で幽鬼の名を口にする。

 

『呵々、雅のヤツめ、中々に酷いことをするでないか』

 

 炎に包まれ、他の進入を許さぬ空間の中、突如として幽鬼の主である義隆の声が響いた。

 

『おい、そこの女。貴様は巴御前であるな? 

 であれば、残念だったな。そこの男、木曾義仲は”陽“のライダーであったが我が令呪三画を用いてクラスを強引に返させてもらった。

 復讐者(アヴェンジャー)

 それが、今の木曾義仲に与えられた(クラス)だ』

 

「おいおい、一人だけ安全なところでかくれんぼかい? 

 酷いなぁ出てこいよ!! 

 一回、その面を見てみたいんだがねぇ!!」

 

 ”陰“のバーサーカーよりも早くに、”陰“のアーチャーが義隆に声を掛ける。

 明るいが、しっかりと怒りを孕んでいるその一声を前にして義隆は嗤う。

 

『呵々、怒ったかアーチャー? 

 怒れ怒れ。(わたし)は今、貴様らを侮蔑している。

 怒るがいいさ。しかし(わたし)を殺すことは出来んよ、諦めることだな』

 

「御託はいいからとっととツラ見せろよ? 

 ロミオとジュリエットはオレ、そんなに好きな話じゃねぇからよ? 

 筋書き変えさせてくれや、頼むよ」

 

「義仲様、覚えていないのですか、私です、巴です!!」

 

 ”陰“のアーチャーが食い下がる中、”陰“のバーサーカーは幽鬼へと声を掛けた。

 

(トモエ……ナント、ココチノヨイヒビキノナマエ。ワタシハ、コノオナゴノコトヲ───)

 

『騙されるな、アヴェンジャー』

 

 幽鬼が思い出しかけたその時だった。

 義隆がソレを阻害するべく、虚実を囁くのだった。

 

『貴様はその女に騙されて窮地に陥った、貴様自身の仇はすぐそこだ。

 宝具の発動を許可する。仇を存分に討て、と』

 

「よ、義仲様……!! 違います、巴、巴は───」

 

「……ソウカ、ソウ、ダッタノカ」

 

 ”陽“のアヴェンジャーが頷き───憤った。

 烈火のごとく凄まじい怒りを顕にし、自身の身体中の魔力を集中させ、ソレを唱えた。

 

「ワガイカリ、ワガウラミヲココニ。

 ───”呪観世音菩薩(オン・アロリキヤソワカ)“!!」

 

 幽鬼が唱える。

 刹那、世界が呪いで包まれる。

 世界の表側(テクスチャ)が張り替えられていく。

 その空は、生前を共にした”陰“のバーサーカーにとってはおぞましく、そして、忌々しい光景でもあった。

 

 消煙が昇る。

 朝日を覆うように、存在を消すかのごとく。

 其れは、木曾義仲の最期の戦場そのものの景色だった。

 

「────ア、アァ……なんで、義仲様が……この光景を……???」

 

 粟津の景色が、巴御前の脳裏に、鋭利な刃物のように切り込まれていく。

 

『当然よ、そやつは復讐者。

 ならばこそ、死んだ際の景色が心象風景として遺るのは、当然ではないか?』

 

 義隆は嗤う。

 この数奇な光景を愉しみ、獲物を見つけた獣のように下品に口角を吊り上げ、幽鬼へ命ずる。

 

『そうだ、それで良いのだアヴェンジャーよ。

 貴様は、道化となってもらわねば困る』

 

 ───義隆はもとより”陽“のアヴェンジャーのことを戦力として捉えてはいなかった。

 ただの玩具、もしくは実験道具として使役する。

 それはおそらく、この世から退散するまで。

 ”陰“のアーチャーは、それを悟ってしまっていたのだった。

 

(……許せねぇが、ここは仕方ねぇ。

 コレは奴の宝具の中……危険なのは各々承知なハズ、なればこそ令呪で撤退させてくれるはずだろうさ)

 

『───アーチャー』

 

「すまねぇが逃げるのは俺の中ではもう決まったことよ、とっとと令呪使ってくれや!!」

 

『あぁ、ミヤビにも言っておく』

 

 ユースタスの言葉はそれで終わる。

 早く、早く逃げなければと焦る”陰“のアーチャーの眼前に、炎が現れた。

 それに触れれば何が嫌な予感がすると思い、矢を炎に向かって放り投げると、炎に触れた瞬間に塵となった。

 

「あ、やべコレ……!! 

 マスターは今、ミヤビに連絡してるだろうし参ったなぁこりゃあ!!」

 

 冷や汗を滲ませながら、それでも”陰“のアーチャーは、笑みを絶やさずに炎から逃げる。

 炎は、逃げる背中を追う。車のような速さで、”陰“のアーチャーに段々と迫る。

 

(……まぁいいさ!! マスターが間に合ってくれりゃオレの勝ちよ!!)

 

 ”陰“のアーチャーが、そう笑みをより一層深く刻ませた刹那、彼の足元が突如として沼となり、彼の自由を奪った。

 

「なっ……!?」

 

 そうして、沼の前へと炎がたどり着く。

 それと同時に、姿が”陽“のアヴェンジャーへと変貌する。

 彼は剛弓を手に、矢を番える。

 

「ココマデダ、サラバ、サラバダカリウド」

 

「いいやまださ、なんせ間に合ったからな!!」

 

 ”陰“のアーチャーの堂々たる宣言に”陽“のアヴェンジャーが首を傾げた瞬間───背後から”陰“のバーサーカーが、彼の弓矢を両断した。

 それと同時に、二人が光に包まれる。

 令呪を用いた、空間移動が行われる予兆だった。

 

「───義仲様!!」

 

 ”陰“のバーサーカーが、叫ぶ。

 涙を堪え、彼女は自身のことを忘れてしまった幽鬼に───変わらぬ愛を告げた。

 

「今は、貴方は巴のことを忘れてしまっていますが必ず、必ず思い出させてみせます!! 

 それまで、復讐心に囚われて苦しいでしょうがどうか、どうか今暫く我慢を!! 

 貴方がどのような姿へと変わろうと、巴は愛しております!!」

 

「……妬けるぜ、アンタの嫁さん立派すぎるじゃねぇか」

 

 ”陰“のアーチャーがぼやく。

 そうして、二人は光へと包まれ、この世界から逃避した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────アァ、ナゼ、ワタシハカナシイ?」

 

 二人が去った後、暫く動かなかった”陽“のアヴェンジャーが呟く。

 その目には、一筋の涙が流れていたのだった。




はい、陽のアヴェンジャーの真名と陰のアーチャーの真名です。
ん、ウィリアム・テルはもういるだろって?
……すいません、これ1.5部の時に練ってた話なんでして……アーチャーの候補が浮かばなかったんで申し訳ねぇと思いながらそのままにさせて頂きました。
まぁ、異聞帯ではない正史のウィリアム・テルと割り切って貰えたら幸いです。
あ、あと最後に言いますと陽のアヴェンジャーは僕の好みを完全に詰め込んだ展開にしますのでご期待ください()

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