遡ること数分前。
“陽”のセイバーは“陰”のセイバーに対して、一方的な剣戟を行っていた。
否、剣戟とも言えない。一方的な虐げを行っていたのだった。
「ぐむぅ……っ、見事!!」
苦しそうに、しかし相手の賞賛を忘れずに“陰”のセイバーが半歩跳ぶ。
好機とみた“陽”のセイバーは古びた剣の切先を“陰”のセイバーの首元へと振るう。
しかし、
「掛かりましたな“陽”のセイバー殿!!
─────くらえ、ロケットパァンチ!!」
銀色の義手が、接続部分から火を噴き、飛ぶ。
ソレは“陽”のセイバーの胸部へと直撃し、“陽”のセイバーは数メートル程飛ばされた。
「ぐっ……!? い、今のは……?」
「驚きましたか“陽”のセイバー殿、これが我が主が施して下さった概念武装なのですよ!!
しかし、素晴らしい……サーヴァントにも通ずるなど、我が主は本当に素晴らしい!!
このような卑劣者である我輩、ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲンには勿体のない───あ」
「…………愚か!!」
それは呆気なかった。
義手には視認出来ないほどに細い糸が無数に仕込まれており、自動で付くシステムだったが、それよりも早く“陽”のセイバーが“陰”のセイバーの懐まで踏み込み、片手に持っていた剣を弾き飛ばした。
「うおぉ……っ!?
いやまぁ、我輩、うすうす気付いてはおりましたがこれはさすがに速すぎませぬか!?」
「獲った─────!!」
首を断つべく、刃が走る。
ところが、
『─────▉▉、なんということだ』
忌々しい記憶が、せっかくの勇気と覚悟を踏み砕いた。
それは、最悪のタイミングだった。
「……厭……!」
苦しそうに呟き、剣をピタリと止める。
拒絶は、人を殺めることにだった。
はて、と首を傾げた“陰”のセイバーだったが直ぐに切り替え、戻ってきた義手を再度飛ばし、“陽”のセイバーへとぶつけた。
再度、少女は飛ばされ、そのついでに髭の騎士は空から落ちてくる剣を掴み取る。
少女は呆然と眺める。あぁ、自分は失敗したのかと、僅かな無念が胸中を渦巻いた。
そして─────
「何があったかは知りませぬが───“陽”のセイバーの首とったりいぃぃぃぃ!!!!」
騎士が声を張り上げ、少女の首へと剣を奔らせる。
少女は抵抗しなかった。
こうなってしまえば結果は変わらない、そう諦観したからだ。
剣が迫る、迫る、迫る。
少女は目を伏せ、二度目の死という名の剣を───
「諦めるのが早くないか?
全く、それでも英霊かお前は……!!」
呆れた口調で、髑髏の暗殺者がその手にある短剣で騎士の剣を受け弾いた。
「……アサ、シン?」
「何呆けている。キミの使命は戦うことだろう?
それを放棄してはいけない。
……放棄してしまえば、キミの援護に行けと言った切翔の覚悟が無駄になるだろうに」
ナイフを構え、騎士へと敵意を向けながらも暗殺者は少女を奮い立たす。
諦めるなと、その瞳が強く訴えていた。
「───私、元々戦うのが、殺めるのが苦手で……」
「知らないよ。厳しいかもしれないけど、戦う気がないなら聖杯戦争を拒めば良かったんだ。
それを拒まなかったキミの自業自得だ」
冷たく言い放つ“陽”のアサシン。
視線は眼前の騎士へと。
彼は“陽”のセイバーへ見向きもせず───
「ッ──────!!」
戦闘を開始させた。
両踵に力を入れ、目の前の騎士へと走る。
騎士は当然と言わんばかりに腕を突き出し、
「ロケット─────」
「させるわけないだろ……!」
放たれた黒曜の短剣を、急いで振り払った。
それで僅かな隙が生まれた“陰”のセイバーは不覚を悟ったが、遅かった。
漆黒の髑髏は影と同化し、夜空を舞う。
その膝を、騎士の顔面へと当て、鈍痛を味あわせる。
「ぐおぉ……」
よろよろと、二、三歩後退する騎士に、死を告げるべく暗殺者は再度踏み込む。
次こそ獲った。
そんな、“陽”のアサシンの確信を嘲笑うかのように眼前に槍が突出された。
「……なっ、危なっ!?」
ナイフを穂先にあてがい、器用に受け流してその槍の一撃を回避する暗殺者。
暗殺者は、斜め前方を睨むと、そこには───“陰”のセイバーと似たような甲冑の、しかし、“陰”のセイバーとは遥かに
それを確信させられるような圧倒的な
「……彼を殺させん。
数少ない騎士の同胞だ」
「……ハッ、比較対象の間違いだろう?」
ちらりと、“陽”のセイバーの姿を確認する。
一瞬、彼女から魔力が感知された直後、彼女は敵を睨み、殺意を向けた。
───それが魔術による暗示、日本で言うところの呪術だと悟った“陽“のアサシンは僅かに少女に同情した。
「……可哀想に、そうでもしなければ戦えないとは」
しかし、止める余裕は無かった。
“陽”のアサシンにとっては戦力が蟻のような存在でも欲しかったのだ。
それがたまたま、“陽”のセイバーという大砲並の戦力が整っただけでも“陽”のアサシンの内心では計り知れない安堵があった。
「セイバー、お前はランサーと思わしきサーヴァントと戦ってくれ。
俺は、あの髭を殺す」
「わかりました。あの、槍を持った人形を斃せばいいのですね」
少女が古びた剣を構える。
ソレに水がとぐろを巻くように纏う。
「─────やめておけ少女よ。私は、貴女のような可憐な女子を傷つける趣味はない」
「ならば、死ね。死ぬがいい“陰”のランサー。
我が願いの為の礎となれ」
「……願い、か。人を殺める恐怖心に打ち勝つにはそれに縋るしかないということか。
なぁ、闘争を恐れる少女よ。
君の願いはなんだ?」
“陰”のランサーの問いに少し沈黙した後、
「決まっている」
強く、柄を握り締めながら“陽”のセイバーは“陰”のランサーを睨んだ。
「次こそ、私はただの少女として生を受ける為だ─────!!」
そう、他の英霊ならば一笑するであろう、淡い願いを口にした。
そうして、“陽”のセイバーは“陰”のランサーに切り掛る。
“陰”のランサーはその斬撃を防ごうと槍を盾にするべく腕をあげようとするその瞬間、
とぐろを巻いていた水が槍の騎士の腕に絡み、その見た目の何十倍もある重さに“陰”のランサーは気を取られてしまった。
剣が振り下ろされる。それは古びているというのに容易く“陰”のランサーの腕を斬り、そこから血を吹き出させた。
「むっ…………!?」
「ランサー殿!! ───オットットォ!?」
味方を案じる陰のセイバーに容赦なく短剣を投擲する“陽”のアサシン。
“陰”のセイバーはバランスを崩しながらもそれを回避する。
回避された“陽”のアサシンはならばと更に深く踏み込み、“陰”のセイバーへと接近し、その喉元に直接短剣を刺そうと腕を伸ばす。
「おっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………!!」
思わず雄叫びを上げる“陰”のセイバーだったが───その義手の指先から細い光線のような魔力の塊が飛び出し、“陽”のアサシンの肩を貫く。
それは、ルプスが最後に取っておいた
隙だらけにも程がある最弱の剣士の為に用意した、奥の手の中の奥の手だった。
「チィっ……厄介だなあの腕は!!」
先にあれを潰す。
そう決意した“陽”のアサシンだったがそれは遅かった。
義手の指先から、魔力による光線が再度、何度も何度も放たれ始めた。
「むっ、う、おぉぉぉぉぉぉ!?!?
なんですぞこれは、なんですぞぉぉぉ!?」
その光線の眩しさに目を瞑りながら、“陰”のセイバーはその暴走に戸惑う。
「……不利だと言うのに、何故か君のおかげでまだまだ余裕があるように感じてしまうよ。
───いやまぁ、余裕といえば余裕、なんだがね?」
“陰”のセイバーに半ば呆れながらも微笑みを向け、“陰”のランサーは傷に視線を向ける。
それは別に、致命打ではないと理解した“陰”のランサーはすぐに槍を構え直し、“陽”のセイバーに矛先を向ける。
「その剣、面白いね。
なんか、どこかで聞いたことがある武装だよ。ジパングの、神話の中でね?」
「そうですか。お気になさらずに、おそらく間違っていますので」
“陽”のセイバーが機械的に答える。
それと同時に───“陰”のランサーが“陽”のセイバーの懐へと潜り込む。
“陽”のセイバーは再度、水による阻害をするが“陰”のランサーに二度目は通じなかった。
水は彼の筋力によって
「がっ、つぅ…………!?」
「残念だったな少女よ。君が水で阻害するならば、それを予想して力を出すまでだ。
───基本、槍は力で振るうことはないのだ、私はね?」
後ろへよろめく“陽”のセイバー。
負傷した腹部へと手を当てて、“陰”のランサーを睨むのだった───。
キャラ紹介
霧島 忠吉
年齢……45歳
誕生日……9月19日
身長……184cm
魔術属性……『火』
好きなこと……歴史書を読むこと
嫌いなこと……彪斗の尻拭い
天敵……霧島家全体
起源『戦闘』
霧島義隆の長男。起源の『戦闘』を覚醒させているため、戦闘になると類稀なる強さを発揮する。
彪斗についてはどうも思ってない。むしろ早く死んでほしいとすら思っている冷血漢である。